共創事例インタビュー


宮崎県で近海かつお一本釣り漁船「第五清龍丸」を操業する、浅野水産。データサイエンス・ベンチャービルダーであるFACTORIUM(ファクトリアム)。その両者が、eiiconでの出会いを果たし、共創プロジェクトを立ち上げている。――漁師の勘と経験に依存してしまっている水産業。高齢化の影響もあり、その未来は決して明るいとは言えない状況だ。そうした大きな課題に対してアプローチするために、この共創プロジェクトはどのようなビジョンを描いているのか。両者の出会いからプロジェクトの展望まで、浅野水産 経営企画マネージャー 浅野氏とFACTORIUM代表・久米村氏に話を伺った。

■有限会社浅野水産 経営企画マネージャー 浅野龍昇氏
中央大学在学中から国会議員の書生(秘書)を経験。新社会人としては漁業の基本を学ぶため水産団体の職員に。その後、再び政治の門を叩き、2018年まで宮崎県宮崎市の市長政務秘書を務める。同年の臨時国会において70年ぶりとなる漁業法の大改正が行われ、そのインパクトの大きさから家業である有限会社浅野水産への入社を決断。2019年1月、同社の経営企画マネージャーに就任。

■株式会社FACTORIUM 代表取締役 兼 株式会社DATAFLUCT CEO 兼 株式会社reporu CEO 兼 JAXA 新規事業促進部 J-SPARCプロデューサー 久米村隼人氏
新卒でベネッセコーポレーションに入社後、CRMやダイレクトマーケティングに従事。その後、マクロミル・リクルートマーケティングパートナーズ・弁護士ドットコム・日本経済新聞社にて、広告・婚活・メンタルヘルス・HR-TECH・データビジネスなどの領域で15以上の新規事業を創出。2018年独立と同時にデータサイエンス・ベンチャービルダー FACTORIUMを創業。2019年、データアズアサービスのDATAFLUCTを設立。2019年、自律分散チームのためのOKRレポーティングツールreporuを買収。現在、宇宙・製薬・ヘルスケア・不動産・素材・エンターテイメント・水産業・建設業・小売・情報サービスなど幅広い業態で10以上のデジタル事業開発プロジェクトを推進。大阪府立大学大学院工学研究科修了(数理工学専攻)、早稲田大学大学院商学研究科(夜間主MBA)修了

■漁業・水産業が抱える課題とは

――まず最初に、浅野水産さん、FACTORIUMさん、それぞれの事業概要についてお聞かせください。

浅野水産・浅野氏 : 浅野水産は、宮崎県で近海かつお一本釣り漁船「第五清龍丸」を操業し、黒潮に乗って赤道付近から日本近海に回遊するかつおを、一本釣り漁法で一匹一匹釣り上げています。「近海かつお一本釣り漁業」において宮崎県は20年以上連続で漁獲量全国1位を記録しており、当社も昨年は100トン以上の漁船クラスで県内1位、全国で8位という実績をあげています。

FACTORIUM・久米村氏 : FACTORIUMは、データサイエンスで連続的に新規事業を生み出すベンチャービルダーです。クライアント企業のデジタル事業開発を支援しながら、自らもスタートアップを立ち上げ続けており、よく「デジタル商社」と言われます。基本的に既存事業ではなく、新規事業かAIやデジタルトランスフォーメーションなどの新しいことを取り組むことに特化しています。

▲浅野水産の「第五清龍丸」は、総トン数119トン、全長は約40メートルで、船員23名が乗船している。

――ありがとうございます。それでは次に、浅野水産さんとFACTORIUMさんが共創プロジェクトに着手された理由についてお伺いしたいと思います。まずは日本の水産業に大きな課題を感じているという浅野さんからいかがでしょうか。

浅野水産・浅野氏 : 日本の農林水産業は諸外国に比べて発展途上だと言われながら久しいですが、その中でも漁業、水産業は特に遅れていると感じています。――その主たる要因として私が考えるのは、「漁業者は普段海の上にいる」ということです。

――確かにそうですね。漁業者は仕事場が「海」。必然的に陸上で過ごす時間は短くなってしまいます。

浅野水産・浅野氏 : そうなんです。普段海の上にいるから、漁業者が新たなアイデアや技術に出会う機会も少なければ、逆に外の業界に課題やニーズも伝わらない。ひと昔前までは漁業協同組合(以下、漁協)がその役割を担っていたのかもしれませんが漁業が段々と衰退していく中で、漁協の職員数も削減され、日々の業務をこなすので精一杯。理事、役員も漁師として現役を引退したご高齢な方が大半なのです。
私は前職の政治家秘書をしていた際、漁業関係出身という経歴というのは珍しかったので、業種を問わず漁業に関する質問を受けたり、実態をお話する機会が多くありました。お話をさせていただくと、みなさん一様に漁業の実態について驚かれます。ただ同時に「こうしてみたらどうか」とか「こういう方法があるのではないか」といった意見を聞かせていただくことも多かったのです。
しかし、みなさんアイデアだけで具現化するノウハウはお持ちではない。私自身も同様であり、さらに家業へ帰ることが決まって、何だかモヤッとしたものだけがどんどん積み重なっていたんです。そんな時、たまたまテレビをつけて放送されていたのが「田村淳のBUSINESS BASIC」(BSテレ東)でした。

――「田村淳のBUSINESS BASIC」は、2018年12月にeiicon代表である中村亜由子も出演させていただき、オープンイノベーションについてお話ししました。

浅野水産・浅野氏 :はい、まさにeiicon代表の中村さんの出演されていた回を観たんです。収録会場のオーディエンス席にはeiiconさんが集められたというベンチャー企業の方々が座っている。それを見たときに、経済学部の出身なので頭の中にシュンペーターの「新結合」という言葉が浮かびました。――そこから、eiiconというプラットフォームがあるのなら、オープンイノベーションなどと難しく考えずに、実際にノウハウを持ったこのベンチャー企業さんたちととにかく繋がってみたらどうか。ベンチャービジネスがまだほとんど進出してきていない漁業という業界の人間がオープンイノベーターとして現れれば、秘書時代同様、興味を持ってもらえるのではなかろうか、という考えに至りました。

――なるほど。

浅野水産・浅野氏 : そこからは即実行で、家業に帰任してすぐにeiiconさんに登録しました。そこから約3ヶ月、興味を示して下さったベンチャー企業さんたちとお話をさせていただき、まず今回FACTORIUMさんと契約を締結させていただいた次第です。

■「熱意」が両者を結ぶキッカケに

――なぜ、さまざまな企業の中からFACTORIUMさんと手を組むことになったのでしょうか?

浅野水産・浅野氏 : 率直に言えば、ファーストインプレッションの差です。eiiconさんに登録してから、お陰様でこれまでに10数社のお問い合わせをいただきました。その大半はディスカッションの中で課題を探っていこうといった感じや、自社の技術を紹介されて応用をこちらで考えて欲しいというスタンスだったのです。そんな中でFACTORIUMさんだけは、漁業でどういう機材やデータが使われているのかを事前にリサーチされていて、二通目のメールからはかなり的を絞った質問内容をこちらに投げかけてこられたので、漁業と共創したいという熱意が感じられました。

さらにポジティブな判断材料となったのが、久米村さんがJAXA(宇宙航空研究開発機構)で職員をされているという点です。国の水産政策で漁業における衛星データ活用の拡大が謳われており、この共創プロジェクトを進めていく上でも要になる部分だと考えています。その上で、ご本人はもちろん、周囲にも衛星データに関する知見を有した方がたくさんいらっしゃる。――それは私たちにとって願ってもない条件だと考えました。

――FACTORIUMさんはいかがでしょうか?

FACTORIUM・久米村氏 : 浅野水産さんにお声がけをしたのは、課題感とビジョンと思いや熱意が明確だったからです。私自身、水産業についてはほとんど無知ですが、浅野水産さんの存在を知って、漁業がどんなものであるのか、どんな課題があるのかを勉強したところ、私たちが価値提供できる余地が大きいと思いました。 これまでベテラン漁師の勘と経験で漁業を行っていきたと思いますが、それが、数年後には、船を降りてしまうという課題があるかと思います。これは、第一次産業全体で起きている課題だと認識しています。さらに調べると、現実的には衛星からの海洋の情報を得たり、船上でのさまざまなセンサーから情報を得て、漁業の意思決定をしているということがわかりました。そのプロセス自体をAI化することは、理にかなっていると思いましたので、やってみたいと思い、浅野水産さんに声をおかけしました。 また、共創していくうえで、最も大切なのは、一緒に仕事をする人だと思いますが、浅野水産の浅野様については、テクノロジーを理解されようというスタンスと、この業界をよくしていきたいという問題意識が共感できましたので、「心から手伝いたい」と思いました。

▲近海かつお一本釣り漁業

■航海日誌を解析し、漁師の勘と経験をAI化する

――浅野水産様と出会われてから、具体的に、どのような共創プロジェクトを進められているのか。

浅野水産・浅野氏 : 当社が抱える課題の一つとして、漁労長(航海計画や魚探・操業の責任者)の引退の年齢が迫ってきているということがあります。この漁労長の技術力に年間の漁獲量と漁獲高は依存し、経営をも大きく左右します。

冒頭にもお話ししたように当社は昨年度実績で、漁獲高は全国で8位、宮崎県内では100トン以上の漁船クラスで1位という実績を収めました。それでも、燃油の高騰などが原因で経営は決して楽ではりません。つまり、漁労長が代替わりし、現在ほどの漁獲高が見込め無くなれば、途端に経営が苦しくなるというリスクがあります。しかし、年齢は待ってくれない。ですので、いかにその技術を継承するのかということが大きな課題となります。――そこで考えたのが「漁師の勘」という意思決定プロセスの解析とAI化です。

――なるほど。

浅野水産・浅野氏 : 「勘」という言葉を使うと不確実性が高そうに見えますが、この「漁師の勘」には科学的根拠があると長年言われてきました。実際に意思決定を行う際は、衛星から得られる気象配置図、水温分布、潮流や海面高といったデータや船に積んでいる計器類から得られるデータ、他船の位置情報などを並べ総合的に判断しています。当社の「第五清龍丸」に搭載している計器類も、船内見学に来られた一般の方が「軍艦かと思った」と冗談を言われるぐらい、本格的なものが揃っています。それらのデータ並べて検討して、最終的に経験に基づいて行う判断が、いわゆる「漁師の勘」であり、それに科学的根拠があると言われる所以です。

そこで注目したのが、航海日誌です。この航海日誌には座標と共にその結果(釣果)が全て記録されています。つまり、その座標と確定したその時の潮流、水温などのデータを組み合わせていけば、意思決定のプロセスとその結果として釣果があったのかなかったのか、その原因はなんだったのか、立証できるのではないかという仮説にたどり着きました。また、その規則性が解明できれば、AI化することも可能ではないかと。そして、それは既存の技術で可能であると。その仮説が立ってからは、FACTORIUMさんとはどのようなステップでそれを実現するのかというフェーズに入りました。

FACTORIUM・久米村氏 :  今、浅野さんが仰られたようにベテラン漁師の勘を構造化しデータ分析を行うことにより、漁師の意思決定を補助するモデルを構築するというプロジェクト目標を設定しました。AIに関するプロジェクトは、どのプロジェクトもデータセットがそろっていないことが多いため、まずは、データをそろえに行く提案をしたのです。

とても地味なのですが、紙の操業日誌や水揚げ量の情報(紙やPDF)をクラウドソーシングにより、データベース化することからはじめています。今後は、データを集めて、分析して、サービス設計を行っていきますが、操業の現場を理解しなければ、AIプロダクトは作れないので、漁船を見学して、カメラをどこにつけるべきかを検討していく予定です。来年の漁には初期のMVPが動くようなスケジュール感で進めたいと思っています。

浅野水産・浅野氏 : この共創プロジェクトにおいて現在の私の役割といえば、漁業者の当たり前をFACTORIUMさんに翻訳すること。専門用語も多く、漁業者にとっての当たり前が普通の民間企業にとって当たり前ではないことも多々ありますし、現場に問い合わせねばわからないような話になると、入港を待たなければならなかったりと、FACTORIUMさんはさぞかし苦労されていることだろうなと思います。

計画では8月下旬に、今回の解析結果をFACTORIUMさんから受け取ることになっております。その際は、このプロジェクトには宮崎県水産試験場さんからデータ提供などのご協力を頂いたり、宮崎大学の産学連携コーディネーターさんにも相談に乗って頂いたりしているので、FACTORIUMさんに宮崎県へお越しいただき、そういった方々や漁協などの関係者をお招きして成果報告会を開催する予定です。この報告会を経て、ステークホルダーなどの反応を見たうえで、次のステップに進むことになると思います。

――浅野水産さんは宮崎県の企業で、FACTORIUMさんは東京を拠点にしています。今回の共創プロジェクトにおいて、距離の差を感じることはありましたか?

FACTORIUM・久米村氏 :  オンラインと対面の両方を通じて、月に数回のミーティングを行っていますが、浅野様は、普段、宮崎県におられて、月1回程度、東京に来られるときに、進捗などや課題などをお伝えして、徐々に作り上げていっております。意外と距離は課題ではないと感じました。

――それでは最後に、この共創プロジェクトを、今後どのように進めていくのでしょうか?

FACTORIUM・久米村氏 :  正直なところ、水産業界にどのような課題があり、どこを目指すべきなのか、私自身がクリアに描けていない状態です。現時点では、水産業界そのものの業界動向がわからない、漁師にとってデジタルがどのように活用できるかわからない、どのように価値創出(AIによる操業成功率アップ)につなげ、ビジネス展開していくかまだ見えないという状況です。

まずは、私たちは業界の動向や海外の先進事例を把握ながら、現場を理解して、本当に必要なモノを特定していく予定です。エンドユーザーである、漁師や漁船の現場を理解すればするほど、解決策がクリアになっていきますので、そこは問題ないと思っています。

次のステップとして、実際にサービスを開発して、操業の経営成績を上げていくような仕組みを実証できたらと思っています。最終ステップとしては、水産業全体への展開です。浅野水産様だけの課題ではないはずなので、水産業全体をよくしていくための、ソフトウェアサービスの設計まで実現していきたいと持っています。

今後は、タイミングがくれば、自らベンチャー立ち上げもありかと思います。FACTORIUMは社会的な課題を解決するベンチャービルディングの会社ですので、本当にスケールできるプロダクトができたならば、浅野水産様とともに、日本を代表する水産テックベンチャーを立ち上げ、業界全体に貢献できたらと思っています。

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