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【オープンイノベーター列伝/伊藤羊一】アイコンとなる人物を作れ。まずは商売抜きに、信頼関係の構築を。<後編>

グロービス経営大学院で客員教授を務めるほか、アクセラレーター、インキュベーションプログラムでメンターやアドバイザーを手がけ、ベンチャー企業の育成などを通じ、オープンイノベーションの醸成を支援している伊藤羊一氏(49歳)。前回は、ベンチャーとの出会いのきっかけや、つながりを作るためのノウハウを伺った。インタビューの後編では、実際にオープンイノベーションを生み出すための、ベンチャーとの信頼関係の構築方法やスタンス・マインドを話してもらった。

 

■最初はやみくもに会っただけ。商売抜きの感覚がネットワークを広げる。


伊藤氏は自らがアイコンとなり、ベンチャーのコミュニティに入っていた。どのように信頼関係を構築していったのか。「最初は本当にただ会うだけなんです。最終的には目的はあるんですが、まずは商売抜きに友達になるような感覚で会っていました。そのほうがつながりは生まれやすいです」

困っているから助けてほしい、と言われときは、会社や自身が持つリソースをどんどん提供したとのこと。「助けてほしいと言っているほうも、こちらの商売にならないことを知っていて、それでも助けを求めているんです。応えないわけにはいかないでしょう。ゼロ回答はしないスタンスなんで」と伊藤氏。

これに加え、ベンチャーと会う際のマインドについても解説する。「同じ目線で話すことも大事です。ベンチャーと大企業だと、どうしても大企業の立場が上と勘違いしがちですが、ベンチャー側に寄り添うことが非常に重要です。ベンチャーにとって、大企業とコラボできるかどうかで今後が決まることもあります。そういった気持を理解し、彼らの立場で考え、動くんです。それと、アクセラレーターやCVCなど形だけ用意するのではなく、例えばベンチャーのオフィスに行くときはスーツじゃなくてTシャツとジーンズにするとか、差し入れを持っていって、それも栄養ドリンクを持っていくとか、ちょっとした工夫で『俺たちのことをわかってくれている』と思ってくれたりもします」。そうして強固なつながりを作っていったのだそうだ。

 

■年齢のギャップを埋めるため、意識して好奇心をメンテナンスする。


「年齢のギャップを埋めることも重要です。ベンチャーは若い人が多いし、一方の大企業はある程度年齢がいった人がオープンイノベーションを担当する場合が多いと思います。若者の感覚というものはどう逆立ちしても理解できないかもしれません。でも、ゲームや映画、音楽、ファッションなど、若者の間で流行しているものを取り入れていることで、わかってくることもあります。私自身、意識して若者の感覚を身につけようと、流行のゲームをしたり、映画を見たりしています。話題にすると親しみを感じてくれることもありますし。何にでも興味を持って実際に手にとって見ることは大事ではないでしょうか。年を取ると好奇心がなくなってきますので、意識してメンテナンスしていますよ」。聞けば、ゲームのやり過ぎで指の皮がめくれているとか。

伊藤氏の元には今でも多くのベンチャーが集まってくる。話をしにくるだけという人も多いそうだ。「私は話を聞く『壁打ち』の相手になっているだけです。答えは自分の中にあることがほとんどなので、勝手に話して勝手に答えを見つけて、それで安心して帰っていくことが多いです。でも、これこそメンターやコーチの役割なんだと改めて思いますね」



伊藤氏はベンチャーに対し尊敬の念を持ち、ベンチャーとの出会いが自分の学びにもなっていると話す。こういった気持ちが根底にあるからこそ、ベンチャーとのネットワークが構築できるのではないか。オープンイノベーションも結局のところは、人と人とが行う泥臭い営みの一つだ。対等の立場を保ち、互いに敬い合って初めて成し遂げられることなのかもしれない。伊藤氏の話を聞きながら、そう感じた。

 




【取材後記】


現在も積極的にベンチャーや若い起業家との出会いを重ねている伊藤氏の取材を通し、以下のノウハウが得られた。今後、先端技術や独自サービスを持っているベンチャーと手を組み、イノベーションを起こしたいと考えている経営者や事業責任者、企業のリーダーたちにぜひ参考にしてもらいたい。

 

<オープンイノベーションを起こすために、ベンチャーと関係性を構築し、信頼を深めるためのノウハウ>

■「組織」よりも「個」で動き、ベンチャー企業にとってのアイコン・スポークスマンのような存在を目指す。

■各種イベント・プログラムなどに積極的に参加し、分け隔てなくベンチャーと出会う。

■出会ったベンチャーとは、商売を抜きにして関係性を構築し、信頼を得る。

■意識的に好奇心をメンテナンスし、ベンチャーで働く若者と同じ目線を持つ。

 

(構成:眞田幸剛、取材・文:中谷藤士、撮影:鈴木久美香)