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日本郵便初のインバウンド事業に挑めーー女性社員2名が巨大組織の中で0から1を生み出せた理由とは?

日本郵便初のインバウンド事業に挑めーー女性社員2名が巨大組織の中で0から1を生み出せた理由とは?

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日本政府観光局が発表したデータによると、2018 年の訪日外客数は実に約3120 万人(前年比8.7%増)にのぼり、統計を取り始めた1964年以降、最多を記録したという。その一方、日本国内は少子高齢化に歯止めが効かない。

長期的に見れば、日本企業が内需を頼りに経営を執り行うのはリスクが大きいと言えるはず。そこで注目されるのが、外需を取り入れる新規事業だ。しかし、組織が肥大化した所謂「大企業」では、社内のしがらみや意思決定の遅さなどで、新規事業の芽が出にくい。

そうした中、1871年に郵便事業をスタートさせ、19万超の社員を抱える大企業=日本郵便株式会社が、同社初のインバウンド事業に取り組んでいる。――それが、6月25日に発表された訪日外国人向けの新たな旅行サービスだ。同サービスは、グループ会社で旅行業登録のある日本郵政スタッフ株式会社が、訪日外国人旅行者に対し、日光や東北、北海道といった東日本の魅力的な観光地を巡るルートを提案し、セルフガイド(添乗員同行なし)という形態の旅行サービスを提供するというもの。

ユーザーである訪日外国人旅行者にはモデルルートの旅程表やポケットWi-Fi、ガイドブックなどを提供するほか、モデルルート上の郵便局に立ち寄ることで現地の観光案内や道案内、最寄りの警察・病院を紹介する。もちろん郵便局がもともと提供している風景印の押印、ゆうパックの配送、ゆうちょ銀行のATM利用といった、さまざまなサービスを受けられるなど、日本郵便のリソースを存分に活かした新規事業となっている。

この日本郵便初となるインバウンド事業は、経験豊富なベテラン社員から生み出されたものではない。実は、わずか2名の女性社員のアイデアから生まれているのだ。

今回は事業の起案から事業化・リリースまでのすべてに関わった村松氏と椎根氏のお二人に、同事業を起案した思いや背景、事業化までの取り組み、日本郵便という巨大組織の中で新しい事業を生み出せた理由、さらには今後の事業展望などについて詳しく伺った。

■写真左 : 日本郵便株式会社 事業開発推進室 主任 村松志緒氏

郵政民営化後の第一期生として新卒入社。郵便事業株式会社のオペレーション部門で郵便・物流の基本業務を経験。その後は支社業務などを経て、郵便・物流分野の営業部門へ異動。戦略部門などを経験した後、営業パーソンに対する人材育成を担当していたときに椎根氏と出会い、二人で新規事業の起案をスタート。社内副業制度を活用しながら訪日外国人向け旅行サービスの事業化を推進し、同サービスの事業化決定後の2019年4月に事業開発推進室に着任。現在は同推進室にて椎根氏とともに同施策の展開に取り組んでいる。

■写真右 : 日本郵便株式会社 事業開発推進室 主任 椎根有香氏

日本郵便株式会社の第一期生として新卒入社。郵便局での研修を経て、入社2年目に郵便・物流分野の営業部門に配属。営業パーソンに対する人材育成などを担当していたときに村松氏と出会い、二人で新規事業の起案をスタート。2018年4月に事業開発推進室に着任。同推進室でオープンイノベーションプログラムなどに携わりつつ、村松氏とともに社内副業制度を活用しながら訪日外国人向け旅行サービスの事業化を推進。現在は同推進室にて村松氏とともに新規事業の展開に取り組んでいる。

■何らかの形で外需を取り込んでいく必要がある

日本全国、19万人を超える社員が在籍している日本郵便。まさに日本を代表するような巨大な企業体の中で、なぜ社員2名で新規事業を立ち上げるまでに至ったのか。そこには、2名の現状の自社事業に対する危機感に加え、会社からのバックアップもあった――それでは、新規事業を立ち上げた当人である村松氏・椎根氏の声に耳を傾けていこう。

−−まずは、今回お二人が新たな事業を立ち上げることになった背景から教えていただけますか。

村松氏 : 数年前、私と椎根は郵便・物流営業部で法人営業担当社員の育成を担当していました。お客さまの業界や経営環境を分析し、フレームワークなども活用しながら、「自分たちが提供できるソリューションを考えていきましょう」という研修を行っていたのですが、こうした分析手法やフレームワークを人に伝えるだけではなく、自社のために使うことで「何か新しいことができないだろうか」と二人で話し合い始めたことがきっかけですね。

椎根氏 : 営業担当者に伝えているにも関わらず、自分たちは実際のお客さまに提案したことがない…という状況でもあったので「説得力がないよね」と感じていました。まずは自社の分析から始めて「どんなことができるか。どんな可能性があるか」ということを考え始めました。

村松氏 : ちょうどその年、本業業務を持ちながら新たな事業にチャレンジできる「社内副業制度」という新制度ができました。2017年の12月に社内副業制度に応募し、起案チームとして認められたことで本格的に事業化の検討を進めていくことができるようになりました。

−−今回リリースされた訪日外国人に向けた旅行に関するサービスですが、このようなサービスを起案された理由について教えてください。

椎根氏 : 今後、内需が減っていくことを考えると、何らかのかたちで外需を取り込んでいかなければならないですし、それに関連するプラットフォームを持つことができればと考えていました。当社は物流会社ですので、越境ECなども考えてはみたのですが、そもそもの前提として日本郵便と顧客としての外国人の方の接点が殆どないという状況のため、まずは外国人の方に日本郵便を使ってもらう手段として、インバウンドの旅行者を対象にしたサービスを考え始めました。

村松氏 : すでに日本には多くの越境ECプラットフォームがあります。そうした環境の中に日本郵便が新たなプラットフォーマーとして参入したとして、競合に対して強みにできる部分を考えると、全国に郵便局があるという利点を活かして地方の産品を紹介できるというポジションがあると思いました。

とは言え、現状では外国人の方が、わざわざ日本の地方の産品を買う動機がなく、外国人の方が日本の地方に行き、体験し、消費して、「これはいいな」と思ってもらうことで、ようやく帰国してからも買う理由ができるのではないかと考えます。そのためには外国人の方に日本に来ていただくことや、外国人と地方の接点を作ることから始めなければならないと考え、旅行サービスを起案することになりました。

−−2017年に社内副業制度に申し込まれてから、どのようにして現在の事業が形になっていったのでしょうか。

村松氏 : そのときには現在のサービスである「セルフガイド旅」の草案ができていたのですが、需要については未知数だったので、関係役員によって構成されている「事業化会議」に需要調査のための調査費の付与を付議しました。そこでOKをいただいた後は、訪日外国人向け旅行の有識者の方と基本となるルートを作成し、2018年の6月にはルートとサービスを定義した上でのオンライン調査を行いました。

そのオンライン調査によって需要が見込めることがわかった後、現地でサービスを提供する郵便局へのサービス説明やヒアリング調査を行い、さらには東北大学の留学生の方々に実際のルートを巡ってもらい、郵便局側の対応なども含めた実証実験を行いました。

−−調査・実験によって、どのような成果が得られたのでしょうか。

村松氏 : 留学生から、私たちが作成した基本ルートについては「魅力的だった」という回答が得られました。また、郵便局側の対応・サポートについても、英語の対応はたどたどしいものの、さまざまなツールを使うことで十分にコミュニケーションが取れることがわかりましたし、何よりも郵便局のホスピタリティの高さ、質の高いサービスを評価いただけたので、サービス化できるという確信を持つことができました。

2018年の年末に経営層に対して実証実験の結果をお伝えし、テスト販売検討の許可を得ることもできました。その後は事業開発推進室へ異動し、同室の検討事業として、今年6月のサービスインまでにモデルルートを確定し、旅行会社やPR会社、各郵便局との調整を進めてきました。

▲新規事業のサービス紹介サイト。日本の情報を発信している人気Youtuberの動画を見ながらサービス内容を確認することができる。

https://www.post.japanpost.jp/service/selfguided_tour_en.html

■「それ、本当に売れるの?」

村松氏・椎根氏、お二人の話を聞いていると最初の起案からリリースに至るまで、良い意味でサービスの内容がまったくブレていないと感じる。しかし、大企業の新規事業というと経営陣も含め、多くのステークホルダーの意見が入ることによって事業内容がさまざまな方向にピボットすることが多いというイメージも強い。それはなぜか。

−−お話を伺っていると、起案から事業化までが割とスムーズだったように思います。

村松氏 : インバウンド向けサービスという新たな分野に取り組んだということが大きいかもしれません。もちろん、私たち自身も知識があったわけではないので、需要調査やサービスの魅力についての調査、さらにはテスト販売なども含め、あらゆる場面で社内外の有識者の方々の協力を得ながら、段階的に経営層の判断を求めていったプロセスが功を奏したのかもしれません。

−−ただ、経営層からは厳しい指摘もあったのでは?

村松氏 : ときには「本当に売れるの?」と突っ込まれることもありました。ですが、その度に調査や実験結果を提示して丁寧な説明を心がけました。また、最終的には「新規事業なので何が当たるかわからない」と考えていただける懐の深い経営層の方々の判断によって、ここまで来ることができたという思いはあります。

−−経営層はもちろんですが、現場の郵便局の方々からも理解・協力を得る必要がありますよね。その点で苦労されたことなどはありますか?

椎根氏 : 地方の郵便局には調査段階から何度も足を運び、局員の皆さんと密にコミュニケーションを取っていたのですが、本当に協力的な方ばかりですし、事業化にあたっても常にサポートいただけていると感じています。地方の郵便局の方々は、自分たちの住んでいる地域の良さを発信していきたいという思いを持っていますし、地域の人口が減っていくことに対する危機感も持っています。

そのため、外国人の方々を受け入れていく新しいサービスについても前向きな姿勢で耳を傾けてくれる方が多く、郵便局との調整で苦労したということはほとんどありませんでした。

村松氏 : 外国語対応ということに関しては、私たちも郵便局側も心配していた部分なのですが、そうしたハードルを超えて協力してくださる方々がたくさんいらっしゃったので、本当にスムーズに進めることができたと思います。各郵便局に英語対応ができる人材を配置しているわけではないのですが、翻訳ツールなどを使いながらでもコミュニケーションを取っていただくことを大事にし、「まずは笑顔で挨拶をしましょう」というマインドの部分から変えていただけるような研修を行いました。

椎根氏 : 私たちも郵便局を観光案内所にしようとは思っていません。ハイクオリティな英語対応を売りにするわけではなく、あくまでもローカルでしか知り得ない情報を地元の方から直接お伝えすることを重視しています。

■日本のインフラ、未来に貢献するために、新たなことへのチャレンジが必要

−−社内副業制度で新規事業に取り組まれていた当時は既存事業の仕事もされていたと思います。そのあたりのバランスの取り方で大変だったことはありますか? 

村松氏 : 事業推進室に異動する前は、先ほどお話した育成のチームにいました。周囲が人材育成を担当している方々ばかりだったので、大局的に物事を考えてくださる方が多く、「大変かもしれないけど、新しいことに挑戦することはすごく大事なことだから」ということで、皆さんに応援してもらえる環境があったからこそ、新規事業に力を注ぐことができたのだと思います。

椎根氏 : 以前に社内で新しいサービスを立ち上げた経験のある上司からサポートいただけたことも大きかったと思います。社内調整や会議での付議の方法など、さまざまな局面で全面的にアドバイスいただけたので、本当にありがたかったです。

−−経営陣や郵便局の方々、既存事業部門の方々など、多くの方のご協力があったということですが、それでも貴社のような大企業の中で新規事業を立ち上げるまでには多くの困難があったと思います。お二人が今回の新規事業にかける強い思い、その根底にあるものを教えていただけますか?

村松氏 : もちろん会社にとって外需獲得の第一歩になればいいと思っています。ただ、もう少し深いところで言うと…私は子供がいるのですが、できれば未来の子供たちに、よりよい経済状況の日本を引き継いでいきたいという思いもあります。

現状では、日本が世界をリードできるような産業は少なくなっていますが、インバウンドは唯一成長している分野であり、将来的には自動車産業と並ぶほどの産業になる可能性もあると考えています。だからこそ、このタイミングでインバウンドに挑戦していく意味は非常に大きいと思っています。

椎根氏 : 当社のように全国各地に郵便局というリアル店舗を構え、充実した物流網を備え、全国一律のサービスを提供している会社は他にありません。そうした当社独自の強み・リソースを活かした事業に関わりたいという思いは常に持っていました。また、私は東日本大震災の時にはまだ学生で仙台に住んでいましたが、瓦礫の中を真っ赤な郵便バイクが走る姿をテレビで見て、日本郵便は日本を支えるインフラ企業の側面もあると強く感じました。そういったインフラを維持していくためにも、新たなことにチャレンジしていくことが重要ではないかと思っています。

二人がアイデアベースで考えていたことが現実になった喜び

−−6月25日にサービスがリリースされましたが、現在の状況について教えてください。(※本取材は7月上旬に実施)

村松氏 : 私たちが想定していた以上に多くのお客さまからお問い合わせをいただいています。お客さま対応は日本郵政スタッフで行い、実際の旅行サービスの提供を進めることになっています。

−−YouTubeの動画で集客し、貴社のサービス紹介サイトや販売を担当する日本郵政スタッフ社の問い合わせサイトに遷移するという仕組みですね。

村松氏 : 今回展開しているセルフガイド旅は、欧米豪という英語圏の外国人をターゲットとしているのですが、サービスを設計している途中で、欧米豪の方々は日本人と違って旅行代理店などを使わずオンラインのサービスを使って旅行手配をしていることがわかりました。

椎根氏 : 最初は現地の旅行代理店と組んで販売するというチャネルも考えていたのですが、留学生へのヒアリングや需要調査の結果、「欧米豪の旅行者はリアル店舗での旅行手配を行わないらしい」ということが分かり、デジタルマーケティングによる集客及びオンラインでの販売に方向転換しました。

−−今後のサービスの展望、将来像などについて考えていることはありますか?

椎根氏 : 現在は東日本にしかルートがないので、ゆくゆくは全国各地にルートを作っていきたいです。さらに最終的には、当初の構想にあった越境ECプラットフォームにまでつなげていくことで、世界中の人たちが日本のさまざまな地域の産品を購入できるような仕組を作っていきたいと考えています。

−−最後になりますが、今回の新規事業の立ち上げを通じてお二人が学んだこと、新たに得られた気づきなどがありましたら教えてください。

椎根氏 : 私たち二人がアイデアベースで考えていたことが、現実のものになったという喜びは本当に大きいですし、今後も新規事業に限らず「何かを作り上げる、完成させる」という喜びを味わっていきたいなと感じました。また、社内調整などで苦労したことも確かですが、一社員にすぎない私たちのアイデアが形になるまで時間と資金を存分に投資してくれた日本郵便と言う会社は、改めて良い会社だなと(笑)。

日本郵便には多くの社員がいますし、全国一律のサービスを提供できる郵便局と物流網があるなど、他社にはない大きな可能性を秘めています。今後もこうした自社のリソースを最大限に活用して、広く社会に貢献できる会社、社会になくてはならないと思われるような会社であり続けたいですし、私自身もそうした会社のために少しでも力になっていければと思います。

村松氏 : 日本郵便は大きな組織なので、多くの部門・部署があり、それぞれの人がそれぞれの仕事の中で動いています。新しい事業を進める際には調整が難しくなることもありますし、上手く折り合いがつかないこともあります。まずは丁寧に言葉を尽くすことが大前提となりますが、何よりも自分たち自身が、この事業をやるべきだと思ったら、強い気持ちでやり抜くことが重要だと感じました。

新規事業は、起案者が挫けてしまっても誰かが後を引き継いでくれるわけではないので、実直に行動することで応援してくれる仲間を作り、その方々の力を借りながら実現に向けて自立的に行動することが大事なのだと思いました。

 

ベンチャーやスタートアップを中心にインバウンド事業に参入する企業が増えているが、日本郵便のような大企業が参入するインパクトは非常に大きい。日本郵便が有する郵便局・物流網といったリソースは日本全国に張り巡らされているため、今後、事業が順調に拡大していけば、日本を訪れる多くの外国人旅行者にとって圧倒的に使い勝手のよいサービスとなり得る可能性を秘めている。

また、今回のインタビューには、大企業内で新規事業立ち上げに関わる多くの担当者が参考にできる、さまざまなノウハウが詰まっていたのではないだろうか。自社の分析から始まり、外部有識者との協業、地道な調査と実証実験、現場との密なコミュニケーション…さらには一緒に業務をしている仲間からの応援・協力を得ることが何よりも重要であると言えそうだ。そして、それらのすべての原動力となるものが、二人の事業に対する熱い想いであることは間違いないだろう。 

日本のインバウンドビジネスを大きく変える可能性を秘めている日本郵便の新規事業に、今後も注目していきたい。

(編集:眞田幸剛、取材・文:佐藤直己、撮影:古林洋平)

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  • 齊藤秀平

    齊藤秀平

    • Discover Ltd.
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  • Ayuko Nakamura

    Ayuko Nakamura

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    1871年に郵便事業をスタートさせ、19万超の社員を抱える大企業=日本郵便株式会社。
    今年2019年6月25日に訪日外国人向けの新たな旅行サービスをリリースしたことをご存知でしょうか?
    旅行業登録のある日本郵政スタッフが訪日外国人旅行者に日光や東北、北海道といった東日本の魅力的な観光地を巡るルートを提案し、セルフガイド(添乗員同行なし)という形態の旅行サービスを提供するというもの。取材しました!