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今のスマートシティ構想には「エンターテイメント性」や「優しさ」が足りない――効率化の追求だけではないスマートシティのあり方とは?

今のスマートシティ構想には「エンターテイメント性」や「優しさ」が足りない――効率化の追求だけではないスマートシティのあり方とは?

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「スマートシティ」という言葉が、今世界中で脚光を浴びている。一方で、スマートシティには明確な定義がなく、捉え方も国や人によって様々だ。AI、ビッグデータ、IoTで効率化する、低炭素社会を目指す、あるいは災害に強い街をつくるなど――。今、日本におけるスマートシティの課題とは一体何なのか?スマートシティ化が実現された未来の日本とは?また、日本のスマートシティ化を阻む壁とは何か? 本記事では、スマートシティをテーマとしたトークセッションの一部をお伝えする。

なお、本セッションに登壇したのは、KDDI株式会社にてオープンイノベーションに取り組む中馬 和彦氏、JR東日本スタートアップ株式会社にて数々のベンチャー支援を行う阿久津 智紀氏、およびeiicon代表/ファウンダーの中村 亜由子の3名だ。実はこの3人、昨年12月に放映された「田村淳のBUSINESS BASIC」という番組で、スマートシティをテーマに共演している。今回のセッションでは、テレビでは語れなかった部分についても、持論を展開していただいた。

※このトークセッションは、オープンイノベーションプラットフォームeiiconが主催したイベント「Japan Open Innovation Fes 2019(JOIF2019)」にて実施されたものです。

本トークセッションのポイント

●今のスマートシティ構想には、エンターテイメント性や人への優しさが足りない

●スマートシティ化を阻む壁は、保守的な考え方から生まれるリスクサイド偏向思考

●新興国のスマートシティ化と、先進国のスマートシティ化は構造が異なるので、海外に迎合する必要はない

●「それなりに便利な日本」に安住してしまうと、スマートシティ化は進まない

●スマートシティ化した未来の日本は、「究極の分散」が実現する

<SPEAKERS>

写真左→右

■KDDI株式会社 ライフデザイン事業企画本部 ビジネスインキュベーション推進部長 KDDI∞Labo長 中馬 和彦氏

■eiicon 代表/ファウンダー 中村亜由子<モデレーター>

■JR東日本スタートアップ株式会社 営業推進部 マネージャー 阿久津 智紀氏

■日本のスマートシティ化を阻む“現実の壁”

eiicon・中村 : スマートシティが日本で注目された背景は「災害」です。災害大国日本では、様々な取り組みが進められていますが、果たして本当に進んでいると言えるのか?そういうところにも切り込んでいきたいと思います。まずは、テレビ(田村淳のBUSINESS BASIC)では話せなかったスマートシティの”現実の壁”について、お二人にお伺いしたいです。

KDDI・中馬氏 : テレビの中でも話しましたが、ひとつの課題はスマートシティ構想に「エンターテイメント性」がないことだと思います。スマートシティと聞くと、AIやビッグデータを活用して効率化を追求するイメージですよね。でもそこに夢がないのが課題です。効率化だけの先に、私たちの平和はないので。やはり、ファンなものだったりエンターテインメント、あるいは何かしらの優しさが必要です。面白くないことは誰もやらないですから。逆に面白ければ人は自然と集まってきます。

ということで、何かワクワクすることをやろうという話になり、「空中に浮かぶサイネージを街中に展開する」という企画を立てたんです。とある自治体さんを訪問し、たまたま庁舎を移転するプロジェクトがあったのでその庁舎に設置しようとし、その自治体の首長さんからも「ぜひ、やりましょう」というお返事をいただきました。

その後どうなったか――実は、当初予定した庁舎には置かれなかったんですね。なぜかというと、実際に置く段階になると、色んな人が出てきて反対するんです。結果としては、当初予定していた場所ではないところに設置することになりました。「空中に浮かぶサイネージを庁舎に置く」、ただこれだけじゃないですか。これを実現できないということが、今の日本を象徴していると感じています。

eiicon・中村 : 空中に浮かぶサイネージといっても、クリアケースに包まれていて危なくないものですからね。それを置くことすらパワーがかかると。

KDDI・中馬氏 : 日本の大企業も同じです。新規事業を進める時に、必ず同じ問題に直面します。「おもしろいね」という話と、「でも、万が一何かあったらどうする?」というジレンマの中で、最終的には既存の保守的な方に軍配が上がる。これこそ、日本でイノベーションが30年間止まっている最大の要因です。

JR東日本・阿久津氏: まさに、僕も同じことを感じますね。JRは交通インフラを持っているので、首都圏に集中するだけがスマートシティじゃないと考え、新幹線の需要予測を活用して、空いている時に格安で地方に行ける仕組みを検討したらどうかという提案をしたんです。法律的にも規制があるし、既存の仕組みからすると極めて難しい。

eiicon・中村 : スマートシティ化していくうえでも、まずは社内の壁が大きいということですね。社内の壁とは別の角度でも深掘りしたいです。日本は以前からスマートシティを目指しているわりに、進んでいないという感覚を持っています。たとえば、中国の深センなどは、いつのまにか30年前とまったく違う街ができあがっています。日本のスマートシティ化を阻む壁は、一体何なのでしょうか。

■「日本ってそれなりに便利」に安住している

KDDI・中馬氏 : 日本ってそれなりに便利だからでしょうね。スマートシティのコンセプトは、基本的にはスマートグリッドの技術で電力を効率化することと、MaaSと呼ばれているような都市交通の変革です。つまり効率化なのですが、すでに効率化されているので、どんなに頑張ったところで、あと2~3割ぐらいしかアップサイドがない。手間がかかる割には、成長の余地が少ないということで、エンジンがかかりづらいのだと思います。

一方で中国はというと、場所によりますが、まったくの更地からつくるので、調整の必要もないですし、思いっきり飛躍することができます。つまり、「インフラが整っていない新興国におけるスマートシティ化」と、「古くなってきたインフラを効率化するためにリストラクチャーしなければいけない先進国のスマートシティ化」とでは、構造が違います。

JR東日本・阿久津氏 : 先日まさに、そのことを海外で経験しました。「スウェーデンやノルウェーはMaaSがすごい」とよく言われます。でも、行ってみると全然大したことはないんです。もちろんWEBでチケットは買えるんですが、WEBカメラにQRコードをかざすと、向こうで担当者がドアを手動で開けるという流れで。決してシステムがすべて連結しているわけではないんですよね。

また、少し前にインドに行ったのですが、「インドはスマートフォン上で医療が受けられる」と言われていますね。でも、背景にあるのは病院の少なさです。近くに病院がないから、スマートフォンを介しての遠隔治療が普及したということなんです。日本だと、Suicaをかざすだけで乗れるし、近所に病院もある。一定の利便性を保っていると思います。それを海外と迎合して、合わせていくのは少し違うと思いますね。

eiicon・中村 : 日本は思っているほど遅れてはいない、と。

KDDI・中馬氏 : 「日本は遅れていない」と言い切ってしまうことには反対です。そう言っているから遅れてしまったのだと思います。「自分たちは世界で一番便利で安全な社会に生きている、だからこのままでいい」 でも、気がつくと真ん中ぐらいになっていたというのが現状です。やはり、常に新しいものを求めて、変え続けないといけないんです。「それなりに便利だから、変えていくのは大変」という構造を理解した上で、チャレンジを続けなければならないと思います。

eiicon・中村 : なるほど。国が違うとやり方も違うし、クオリティの基準も違う。海外に迎合するのではなく、日本は日本なりの方法で、やはり変わっていかねばならないということですね。

■2030年、2050年——スマートシティ化した未来の日本とは?

eiicon・中村 : では、次の質問です。2030年、2050年の日本の街は、どのように変わっているとお考えですか。

JR東日本・阿久津氏 : 僕は「究極の分散」が実現していくといいなと思っています。現状、首都圏に機能や人口が集中しすぎていて、「住みにくさ」を感じている人は多いですよね。逆に、地方にいる人たちの方が豊かな生活を送っているようにも思えます。僕は転勤が多く、5年ほど青森に赴任していました。青森の方が物価も安いし、食べものもおいしいし、断然暮らしやすかったですね。

これだけネットワークも情報も分散化している今、「地方にいても、都市と変わらない生活を送れる」というのが、究極のスマートシティだと思います。これは、とあるベンチャーさんの話なんですが、代表が新潟県長岡市のご出身で。彼は本社を首都圏に置きつつ、長岡市に支店を置いて、そこで人材を採用しながら、税金もおさめていらっしゃる。これって、すごく思想的に正しいなと思います。ですから、次はJR東日本で分散につながるような実証実験をやりたいです。

eiicon・中村 : 分散が進んでいくうえで、JR東日本さんとしてはどう関わっていこうと?

JR東日本・阿久津氏 : ひとつは、需要予測の活用でダイナミックプライシングを導入し、人の移動をもっと便利にすること。もうひとつは、今進めている貨客混載です。地方の特産品を新幹線で首都圏に運んで、地方に利益を還元するという仕組みを構築したい。

たとえば、佐渡の南蛮エビって鮮度が命なので、現状、新潟市あたりまでしか流通していません。でも、新幹線で運べば輸送時間を短縮できるので、鮮度を保持したまま首都圏に届けることができます。つまり、佐渡の人たちからすると、販路が増やせます。そうすると、所得も増えると思うんです。こういったJRの交通インフラを活用した、分散への貢献を検討しています。

KDDI・中馬氏 : もともと、住んでいる場所からどこかへ行くために道ができたわけですよね。楽市楽座や門前町に人が集まって、そこに都市が形成され、都市の成長とともに道もどんどん大きくなった。道が鉄道になって、効率化を追求する中で、今の都市交通が生まれました。でも、いつからかそこに縛られるようになって、ますます集中化が進んでいます。それが、逆に住みにくさにつながっているのが現状です。本来、ニーズがあったからそうなったはずが、どこかから逆転して、街が主となり、人が従になっている――そんな構造なのではないでしょうか。

ですから、本来的には「住みたいところに人が分散して住んでいる」という状況が理想。そうだとすると、都市交通は、新宿や渋谷といった大都市から放射線状に伸びている構造自体が、すでに古いのかもしれませんね。

また、リアルの世界がどんどんネットワークに繋がっていきますから、街も繋がりますし、人も繋がる。そうなってくると、必ずしも物理的制約に縛られる必要はなくなるはずです。もしかしたら大都市や集中的な都市構造というのは、今後必要なくなるのかもしれません。ですから、インターネットのテクノロジーを、いかにリアルに現実的な話に持ってこれるかというのが、僕が考えるスマートシティだと思います。どう思いますか?

eiicon・中村 : そうですね。たとえば、佐渡に住んで、そこでネットワークに繋りつつ、仕事をしながら、豊かな生活を送る、という未来を想像しながら聞いていました。

KDDI・中馬氏 : 今まで勉強して東京のいい大学に入って、大都市に行くことが素晴らしいという感覚がありました。でも、それが今、「なんとなく違うよね」となっていて、このモデルは限界だということに気づき始めている。もう少し人間らしい、多様な、自分がよければいいという方向に回帰しつつあると思います。SNSがそれを加速しているのだと思いますが、その傾向に社会をどこまで適合していけるか、ということではないでしょうか。

JR東日本・阿久津氏 : これも、とあるベンチャーさんと話していて思ったことなんですが、飲食店って365日営業していて休みが少ないイメージがあるじゃないですか。でも実際、話を聞くと、「週2日だけ働ければいい」「週2日だけ出店できればいい」という料理人が増えているそうで、働き方が変わっているんだなと感じました。そういう人たちにフィットしたサービスを提供していくことが、僕らの役目なのだと思います。そういうニーズに対し、まさにKDDIさんの力とか、インターネットの力でマッチングをしていくことが、スマートシティなんじゃないかなとも思いますね。

eiicon・中村 : デジタルとインターネットの爆発的な進化で、新しい働き方やニーズに対応できるようなスキームが、徐々にできあがっているということですかね。どこでも好きなところに住めて、働けるような。

KDDI・中馬氏 : 今、インドで家を買うという文化が消えつつあります。不動産会社と契約すると、どこにでも住めるというサブスクリプションモデルに移行しています。究極的には、すべてをシェアリングする世の中になっていくと思うので、そうなると不動産の価値も変わりますよね。

eiicon・中村 : KDDIさんは、シェアフロント型コンパクトホテル事業も始めていらっしゃいますね。

KDDI・中馬氏 : ホテルと言っても新たに建てるわけではありません。空いているところを2カ月程度でリノベーションして、すぐにオープンするという方法です。これまでだと、駅からホテルを目指して荷物を引いていったわけですが、今はGoogle検索があるので、どこかのビルの一室にホテルがあっても、不便ではありません。テクノロジーの進化によって、立地の概念だったり、サービスの概念そのものが大きく変わり始めているんです。宿泊という概念も、完全にサービスになっていくと思います。この流れは、おそらくもう止められません。

JR東日本・阿久津氏 : シェアリングのマッチングに関しては、JRでもニーズを感じています。JRでは、ecbo cloakさんに出資をしています。店頭の空いているスペースを旅行者の荷物置き場として使うという事業を展開するベンチャーです。時間をかけて新しいコインロッカーをつくるという発想ではなく、遊休資産をシェアするという発想なので、今ものすごいスピードで増えています。ちなみに、来週からLIMEXという環境に優しい素材を使った傘のシェアリング事業にも、アイカサさんと一緒にチャレンジしていく予定です。

■大失敗は大成功の兆し、ポジティブにとらえることが大事

eiicon・中村 : では最後の質問です。ラストは大失敗談で終えたいと思うのですが、「こういうことはやるべきじゃないよ」といったアドバイスを、お二人から一言ずついただきたいです。

KDDI・中馬氏 : 新規事業をずっとやってきたんで、むしろ失敗経験しかないですね(笑)。新しいことをやると、だいたい失敗するんですよ。何かに阻害されるから失敗するんですけど、大失敗ということは、めちゃくちゃ阻害されたということですよね。それは、鉱脈ありってことではないでしょうか。誰も阻害しない新規事業ってニッチなんです。だから大きなビジネスにはならない。

大きい仕事をしようと思ったら、大きな失敗がまず大前提です。つまり、大きい抵抗があるようなところに切り込んでいかないと、やっぱり大きい成功はないということです。だから、大失敗は大成功の兆しであるというふうに僕はポジティブに捉えています。

eiicon・中村 : チャレンジしてみて、大きな抵抗にあったら「よしよし」という感じですかね。

KDDI・中馬氏 : でもね、日本の社会そのものが、実は失敗に対して寛容だと僕は思っています。失敗で飛ばされた人はほとんど聞いたことがないです。むしろナイスチャレンジ賞っていう謎の賞があったりしますから(笑)。基本的にはチャレンジした人を尊ぶ文化なんです。でも、なぜか皆さん誰もチャレンジしない。だから、本当はチャレンジしたもん勝ちなんですよ。

JR東日本・阿久津氏 : 僕も大失敗を大失敗と感じたことがなくて。これが正しいと思ってやってみたら、こうなったんだから、それを報告すればいいだけだと思っています。中馬さんがおっしゃる通り、僕の周りにも失敗が原因で左遷されたり、減給された人はいないです。おそらく皆さん、失敗を恐れるというより、提案して何か反論されるのが嫌なだけなんだと思います。心の中にはアイデアを持っているんですけど、それを言いに行くか言いに行かないか。その差でしかないように思いますね。

※eiiconが2019年6月4日〜5日に開催した「Japan Open Innovation Fes 2019(JOIF2019)」では、各界最前線で活躍している多くのイノベーターを招聘。11のセッションを含む様々なコンテンツを盛り込んだ日本におけるオープンイノベーションの祭典として、2日間で述べ1060名が来場、経営層・役員・部長陣が参加の主を占め、多くの企業の意思決定層が集まりました。JOIF2019の開催レポートは順次、以下に掲載していきますので、ぜひご覧ください。

(編集:眞田幸剛、文:林和歌子、撮影:齊木恵太)

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    KDDI・中馬氏 : でもね、日本の社会そのものが、実は失敗に対して寛容だと僕は思っています。失敗で飛ばされた人はほとんど聞いたことがないです。むしろナイスチャレンジ賞っていう謎の賞があったりしますから(笑)。基本的にはチャレンジした人を尊ぶ文化なんです。でも、なぜか皆さん誰もチャレンジしない。だから、本当はチャレンジしたもん勝ちなんですよ。
    
    JR東日本・阿久津氏 : 僕も大失敗を大失敗と感じたことがなくて。これが正しいと思ってやってみたら、こうなったんだから、それを報告すればいいだけだと思っています。中馬さんがおっしゃる通り、僕の周りにも失敗が原因で左遷されたり、減給された人はいないです。おそらく皆さん、失敗を恐れるというより、提案して何か反論されるのが嫌なだけなんだと思います。心の中にはアイデアを持っているんですけど、それを言いに行くか言いに行かないか。その差でしかないように思いますね。
    

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