日本のビジネスシーンを見れば、オープンイノベーションという手法は年々浸透してきている。その一方で、日本社会を広く見渡せば少子高齢化の影響が顕著に表れ始めており、人口減少は待ったなしの状態だ。――今後10年20年30年先で、「未来の日本」は、どんな変化を遂げているのだろうか。そうした時代を見据えて、さらに企業間連携を加速させるために重要なこととは何なのか。

eiicon代表である中村がモデレーターとなり、連続起業家として新しいビジネスに着手しつつ、エンジェル投資家としても活躍する株式会社CAMPFIRE家入一真氏、東証一部上場東大発ベンチャーであるユーグレナのCOOでもあり、研究開発特化型ベンチャーキャピタルファンドであるリアルテックファンド代表の永田暁彦氏をお招きし、「未来×オープンイノベーション」をテーマにさまざまな視点で語っていただいた。

※このトークセッションは、オープンイノベーションプラットフォームeiiconが主催したイベント「Japan Open Innovation Fes 2019(JOIF2019)」にて実施されたものです。


<本トークセッションのポイント>

両氏が感じる、従来型のビジネスの常識から“解脱”することの重要性。

人口減少は、けしてネガティブな要素ではない。むしろチャンスになる。

大企業の担当者は、「大企業の鎧」を脱ぎ、スタートアップの隣に座るべき。

組織の時代から個の時代への変化はすでに始まっている。

非代替性を持ったスタートアップは、選ばれる側ではなく、選ぶ側の発想を持ち始めている。


<SPEAKERS>

写真左→右

株式会社ユーグレナ 取締役副社長 COO、リアルテックファンド 代表 永田暁彦氏

■eiicon 代表/ファウンダー 中村亜由子<モデレーター>

株式会社CAMPFIRE 代表取締役CEO 家入一真氏


人口減少が社会にもたらす、「ひずみ」と「可能性」

eiicon・中村 : 今日お二方とどうしても話したかったのは、日本の「未来」の話です。現在は企業が社外と連携して、共創して、新しい価値を生み出していくことがに少しずつ浸透していますが、これから2030年、40年、50年と進んでいった時に日本の未来、それから世界の未来がどういう風に変わっていくのか? お二人がどのように考えているのかをぜひ伺いたいと思っています。いかがですか?

CAMPFIRE・家入氏 : 話がずれたらすみません、軌道修正してくださいね。僕は今すごい出家したいんですよ。

eiicon・中村 : 出家ですか??

CAMPFIRE・家入氏 : 浄土真宗なので「得度」という言い方をしますが、出家を試みていまして。というのも、起業家のメンタルヘルスって置いてけぼりにされてきた問題なんじゃないかと思っているんですね。で、ここ数年、「心の課題」について個人的に勉強したりとか、起業家のためのメンタルヘルスケアプログラムを、オンラインカウンセリングを手掛けるcotree(コトリ―)さんという会社と一緒につくっているんです。

起業家のうつのリスクって一般の方の7倍くらいあるとされているんですが、「それって自己責任だよね」「起業家って強くなきゃだめだよね」みたいな、ある意味マッチョな起業家像みたいなものがありますよね。それでグイグイ来たものの、どうもみんな疲れ始めているんじゃないかと。

で、この心の課題に向き合っていたら、今はだんだん「宗教的な何か」みたいなものの方に関心が向かうようになって。なので、今日のテーマ「未来」については、テクノロジー系の話は永田さんに任せて、僕は宗教の話だけできればなと(笑)。

ユーグレナ・永田氏 : 今、出家という話がありましたけど、家入さんも僕もかなり若い頃に上場した経験があって、そこである意味“解脱”をしている人たちですよね。

CAMPFIRE・家入氏 : おぉ、なるほど。

ユーグレナ・永田氏 : 資本主義とかマーケティング主義みたいなものから一度解脱している。僕の場合、「大企業が、会社のお金10億円をさらに20億円になぜしたいのか分からない」という根本的な問いを持っていまして。収益を上げること、株価を上げることは正しいことなんですけど、自分はそこだけに捉われなくなった。こういう解脱の先に日本の未来とか真のオープンイノベーションといった要素があると思っているんですよね。

CAMPFIRE・家入氏 : たしかに。よく言われることですけど、2040年、2050年って人口が地球規模で頭打ちになりますよね。この流れ自体が、「人口減少社会」とかってネガティブに語られることも多いじゃないですか。もちろん、これまで世の中が経済成長と人口増加を前提としたシステムで回ってきたので、様々な課題は出てくると思います。ただ、そもそも「人が減っていく」ということ自体はネガティブなんだっけ?という。

ユーグレナ・永田氏 : ネガティブに捉える場合、労働力を源泉とした成長モデルが大前提なんですよ。でも、ロボティクスもAIもすべてはその労働力を満たすために存在していますし、研究開発特化型ベンチャーキャピタルファンドであるリアルテックファンドという組織も、2050年をターゲットに「アートとサイエンス以外の労働行為を、人類がしなくなること」を目指しているんですね。

重労働・肉体労働・危険労働または単純労働というものから人間が解放されて、例えば農業をやるにしても「好奇心からやる」「やりたくてやる」っていう世界を実現するために結構頑張っているんです。

「こういう生活であるべき」「人間らしさとは」みたいな常識から解脱した思考になると、投資すべき領域も全然変わってきますし、僕たちからすると人口減少ってチャンスでしかない。限られたパイをみんなでどう分けるかとなった時に、分け方の分母が減っていくわけですから、すごく面白いことだって思っています。


大企業との連携も、最終的には「個のコミュニケーション」

eiicon・中村 : 人口減少の流れは進んでいくものの、テクノロジーの発展や進化によって便利にはなっていきますよね。マズローの自己実現理論のピラミッドでいうと、世の中的には生理的欲求や安全欲求がクリアになって、社会的欲求が強くなっていくのかなと思うんですが、その点はいかがですか。

CAMPFIRE・家入氏 : マズローの欲求については、最近僕は新しい仮説を持っていて。あれって大きな歴史の流れを考えると、常に社会の成熟と共に欲求レベルが上がってきたわけですよね。で、ピラミッドの一番上の「自己実現欲求」に辿り着くと、「個の時代」みたいな話が出てくるわけですが、結局そこは社会全体では実現できずにもう一度また下に戻り、もう1周回っていくのをぐるぐる繰り返しているんじゃないかと。

ようは社会が成熟しても最低限の睡眠欲とか食欲、性欲みたいな点で生きづらさを抱える人とか、満たせない人たちが絶対出てくるはずなんですよ。今の日本もピラミッドのてっぺんまで来てしまっていると思うんですが、社会が二極化して分断していくと、そうした課題は必ず出てくるし、そこに対してイノベーションが起きるんだと思っていて。

ユーグレナ・永田氏 : マズローの定義って人間を「人間」という全体感で捉えているんですよね。先ほど家入さんもおっしゃっていましたが、もっと社会が個に分断されていくと、「人間とはこういうものだ」と定義したものから、「あなたはこういう人だ」に視点が変わっていって、欲求の定義がまったく変わると思うんです。

日本の未来についても、「日本として」とか「大企業とは」といった議論が薄くなっていって、より個の世界になっていく。というか、すでに僕は「個の世界」だと完全に思っているので。だから、事前の打ち合わせでもオープンイノベーションの話をするなら、「裸になろう」って話をしていたんですけど。

eiicon・中村 : ここで裸になるのは止めてください(笑)。

ユーグレナ・永田氏 : いやもうね、スーツ着てテーブルの反対側にいる限り、オープンイノベーションって起きないんですよ。

CAMPFIRE・家入氏 : おお、それは本当にそうですよね。

eiicon・中村 : スーツを脱いで、普通の服を着て、隣に行くのが大事だと。

ユーグレナ・永田氏 : オープンイノベーションの“オープン”は「心のオープン」なんですよ。例えばこのトークセッションも、壇上と下に分かれた時点でオープンイノベーションは無理になる。ですから、「大企業の鎧」は脱がないといけない。家入さんのことも“CAMPFIREの家入さん”ではなく、家入さん個人を捉えているじゃないですか。例えば、上場しようとしている会社の人から「どこの証券会社がオススメですか?」と相談された場合も、「いい担当者がいる会社」って絶対言うんです。

僕は、最後は個のコミュニケーションにしかならないと思っていて、そのときに相手が「大企業の鎧を着ているな」となると、自分とは違うゲームをしていると感じてしまいますから。そこがオープンイノベーション村、ベンチャー村の面白いところだと思うんですね。

CAMPFIRE・家入氏 : 日本という国単位で考えても、人口減少が進んで世界における存在感が今後落ちていったとしても、だったら存在意義が無くなるのかって言ったらそんなことは無いわけですよね。単独でジャパン・アズ・ナンバーワンを目指すのではなく、色々な国・地域と連携しながら進んでいく国になれば、未来は明るいかもしれない。それは大企業も同じで、存在感が縮小化していくとすれば、各社が鎧みたいなものをまとっていることや「大きいことはいいことだ」みたいな発想は、むしろ足かせになるんじゃないかと思いますよね。


大企業が選ぶ時代から、ベンチャーが「選ぶ側」に

eiicon・中村 : ありがとうございます。次の質問として「オープンイノベーション=企業間連携が日本の未来にどう影響してくるか」という問いを用意していたのですが、人口減少が進んで国力が落ちたとしても、それを憂える必要はない、ということなのでしょうか?

ユーグレナ・永田氏 : 難しいのは「日本ってさ」とか「うちの会社ってさ」って語る人は、意外とマクロ感がない場合があるんですね。以前、自社の社員に「ユーグレナ社のいいところはどこですか?」というヒアリングを行ったんですが、ほとんどの社員が「上司が何でも話を聞いてくれることです」など、自分の部門の話をしていて、「人って半径50cmのことを全体と捉えて生きているんだな」と。これは「会社の幸せの総数を個人で分解するのか」「個人の幸せの積み重ねが会社なのか」という議論にも繋がるところだと思うんです。

だから僕は大企業の人は全員、個人の幸せを追求しまくればいいんじゃないかなって思うんです。それは何かを懐に入れるとかじゃなく(笑)、好奇心の赴くままに好きな仕事をやってしまえばいい。そうすると世の中からも「いいね」がつきやすい時代ですし、オープンイノベーション担当者であれば、取り組みに対して会社の中での意味合いや評価も生まれてくる。

CAMPFIRE・家入氏 : 本当にその通りですね。いや、なんか、ほんとその通りです。例えばモノづくりひとつをとっても、コストや均質化の話に向かうのではなく、個人の開発担当者の想いとか物語みたいなものが含まれるような方向にシフトしていくと、もっともっと楽しくなりますよね。

eiicon・中村 : 担当者の想いが見えるかどうかというのは、オープンイノベーションでも大事ですよね。

CAMPFIRE・家入氏 : エンジェル投資家として僕が投資しているスタートアップって、大体が会社としてはまだ数名の組織が多くて。そういう子たちから「大企業さんのオープンイノベーションプログラムに受かって、こういうことやろうってなっているんです」って、すごい嬉しそうに報告をもらうことがあるんですが、結局3カ月後とか半年後とかに動きが全然止まってしまう。結構消耗しちゃって終わってしまっているケースがすごくあって。

これは一方的にどっちが悪いっていう話ではなくて、大企業には大企業の論理もあると思うんです。ただ、話が進むうちに相手の顔が見えなくなってしまうと、スタートアップの子たちからすると「二度とやりたくない」というような大きな失敗体験になってしまう。こうした問題って何か仕組みで解決できるものなんでしょうか。

ユーグレナ・永田氏 : そこで言うと、ベンチャーの価値って「社会における非代替性を持っていること」なわけで、トップベンチャーの発想は「大企業に選ばれる側」ではなく、むしろベンチャーが「組む相手を選ぶ」側なんです。

例えば、僕らのバイオジェット燃料製造実証プラントのプロジェクトもそうですが、出資者を探す時に「日本にはエネルギー大手が何社ある。でも、世界で考えたらもっとたくさんあるよね」と。こうした発想を持っていれば、大企業のオープンイノベーション担当者から「社内事情があって……」という話が出てきた場合に、「じゃあ次の候補に当たります」という風になりますし、大企業にしてみればいいプロジェクトを取り逃すリスクにもなると思いますね。

CAMPFIRE・家入氏 : 一方で、トップといきなり話した方がスムーズに進むこともありますよね。CAMPFIREに出資していただいた企業様も、担当者の方々も熱いですし、トップの方も明確な課題感を持っていることが多いんです。そうした危機感や課題について語り合えると、「こういう点でご一緒できそうですね」と出資や業務提携の話が進むわけです。

ユーグレナ・永田氏 : リアルテックファンドもトップダウンで出資が決まるケースが大半です。ただ、トップの意識は全員高くても、担当者レベルでは100人中100人にミッションやフィロソフィーが充填できているかというと、そうではない可能性もある。だからこそオープンイノベーション担当の部署の人は100%同じ精神性になって、その人がある種代表みたいな意識を持つことはすごく大切だなと思いますね。


※eiiconが2019年6月4日〜5日に開催した「Japan Open Innovation Fes 2019(JOIF2019)」では、各界最前線で活躍している多くのイノベーターを招聘。11のセッションを含む様々なコンテンツを盛り込んだ日本におけるオープンイノベーションの祭典として、2日間で述べ1060名が来場、経営層・役員・部長陣が参加の主を占め、多くの企業の意思決定層が集まりました。JOIF2019の開催レポートは順次、以下に掲載していきますので、ぜひご覧ください。

(編集:眞田幸剛、文:太田将吾、撮影:齊木恵太)