SUNDRED株式会社と一般社団法人Japan Innovation Network(以下、JIN)が共同運営する「新産業共創スタジオ(Industry-up Studio)」では、共創により100個の新産業を生み出すことを目標としている。「新産業共創スタジオ」は「企業」ではなく「産業・エコシステム」の共創にフォーカスする点が特長的だ。従来の共創あるいはオープンイノベーションの考え方では、まず個々の企業が起点となり、共創相手を見つけてから事業を生み出すという流れが定番だが、この順序が逆になる。

さらに「新産業共創スタジオ」では、成長領域における産業のエコシステム構築と、中核となる事業体の成長加速プロセスを実装。必要な企業、人材、アセット、賃金などのリソースを集約して新産業の共創に取り組んでいく。2019年7月の始動以降、SUNDREDが主体となっていくつかの取り組みを行い、新産業共創プロセスの有効性が確認できたため、今回、外部から新産業のアイデアを募集するプログラムをスタートすることとなった。

8月28日には「Industry-Up Meetup」と題し、企業の役職者やオープンイノベーション推進者をはじめ、スタートアップ、中小企業、アクセラレータ、投資家を対象としたミートアップイベントを東京ミッドタウン日比谷内のBASE Q ホールにて開催。その模様をレポートする。


イノベーション経営の時代で求められる新しい目的と共通言語

イベントの冒頭に、開会挨拶としてJINの代表理事である紺野 登氏が登壇。かつての産業はモノが中心だったが、インターネットが生まれてからは、コトとモノが融合するようになり、エコシステムや関係性、「場」が大きな役割を担うと紺野氏は指摘。「オープンイノベーション2.0においては、大きな目的を追求し、多様な関係性を結びながらユーザーを中心にエコシステムをつくることが求められる。今回の新産業共創スタジオはこうした考え方に基づいている」と語った。

オープンイノベーションが盛況の現在、さまざまなところで「場」がつくられている。しかし、ただ集まるだけでは機能しない、と紺野氏は言う。「新しい産業はイノベーションの目的の探索から始まる。目的を持たずにオープンイノベーションを行おうとする企業は多いが、目的のないイノベーションはない。目的と関係性、これを支えるイノベーション経営時代の新しい共通言語を、新産業共創スタジオでは具体的に展開することを考えている」

続いて、「新産業創出のOS:イノベーション経営(ISO56002)と求められるスタジオ・モデル」と題し、JINの専務理事である西口 尚宏氏が登壇。新しい「イノベーションマネジメントシステム」の発想を紹介した。経営の焦点は効率性の追求から創造性の追求に変化している。これまで創造的な仕事は特定の人物による個人業とされてきたが、これからはマネジメントとして行っていく時代であり、その際に必要となるのが国際規格『ISO56002』だと西口氏は言う。

「イノベーションはスマホのアプリをイメージするとわかりやすい。アプリとは、ある目的を持った活動を言う。デザイン思考やアイディエーションはスマホのアプリに相当するが、OSが古かったり使えなかったりすると機能しない。アプリをどうひねり出そうかに注力しがちだが、OSとアプリの両方が必要だ」と西口氏は語る。

ISO56002は世界約60カ国、UNDPや世界銀行など巨大な国際機関によってつくられたOSだ。イノベーションマネジメントシステムの新しい共通言語であり、システマチックにイノベーションを起こすための基となる。これまで日本代表としてISO策定に関わってきた西口氏は、「今回、この新しい共通言語を使いながらスタジオを運営しようとしている。イノベーションマネジメントシステムは今後、産業界の共創の共通言語になるだろう。共通言語を持つ会社同士で共創を行うのと、持たない会社同士や持たない会社が混ざった場合では、成功確率が高いのは前者のほうだからだ」と、意義を強調した。


産業化=プラットフォームとアプリケーションが相互作用するエコシステム

次に、「新産業共創スタジオ “日本流”、“新産業版”のエコシステムを生み出す」と題し、SUNDRED株式会社 代表取締役 / パートナーの留目 真伸氏がプレゼンテーションを行い、新産業共創スタジオ設立の背景、その取り組みや、今回の募集の詳細について語った。
留目氏は、日本のイノベーションをうまくいかせるためには、以下の3つの問いに答える必要があると指摘した。

●なぜ新規事業がスケールしないのか?

なぜスタートアップとの協業がうまくいかないのか?

なぜ日本では新産業が生まれづらいのか?

SUNDREDは、この3つの問いを解決するために始められた。そのルーツは留目氏のこれまでのキャリアの中にある。

レノボジャパンの社長時代、シェアが高止まりして伸びなくなってきたパソコン事業の代わりにタブレット事業などの新規事業に着手することになった留目氏。「1つ1つ小さいプチ成功はあったが、大きな産業になるようなものは創り出せなかった」と振り返る。その理由は、目的の曖昧さにあったと言う。パソコンの売り上げが伸びないから新しいことを探そう、という発想で新規事業を行っていた。

当時、副業として自分で会社を作ってスタートアップへの投資やコンサルティングも行っていたが、これも、日本の環境だと難しいと感じていた。アメリカのように、経験値や人間関係、アセットが必要な分野のリソースが、新規事業やスタートアップにダイナミックに集約されていくことがほとんどないからだ。結局、スタートアップもスキマ産業狙いとなってしまい、スケールしない。

社会人になって25年、その間日本は成長していないと留目氏は気付く。最前線でやってきて個人としてもそれなりのキャリアを築いてきたつもりだが、振り返ってみると想像以上に日本の成長に貢献できていない。その想いが新産業共創スタジオをスタートさせた。「新産業創出を自分事として捉えて、課題を解決していきたい」と留目氏は語る。

留目氏が新産業共創スタジオで提案するのが、これまで触れてきた新しい目的、新しい関係性、新しい共通言語だ。「パソコンが売れないから」ではなく、「どんな世界を作りたいのか」「そのためにどんなビジネスが必要なのか」で考えていく。また、IoT時代は全てがデータでつながるので、1つのモノをつくって売るという単純なビジネスモデルではなく、多様なビジネスモデルが現実になってくるし、これをレバレッジしないと新しい産業はつくれない。多様なプレーヤーとの新しい関係性、つまりエコシステムが求められる。そしてそのためには新しい共通言語が必要だ。リリースされたISO56002のようなイノベーションマネジメントシステムを理解して取り組み、それに則した人事や労務、知財に関するひな型も構築していく。

 新産業共創スタジオのステップでは、まず何かしらのアイデアを見つけ、それを拡張しながら、Society5.0やIndustry4.0の要素を踏まえつつ、新しい目的を考えていく。次にどのようなステークホルダーがいれば新しい目的や、エコシステムのデザインが実現できるのかを考えつつ、ステークホルダーを巻き込んでエコシステムのプロトタイプを進めていく。エコシステムのデザインを具体的に産業化として前に進めていくためには、テコになるポイントが必要で、このフォーカスするポイント(トリガー事業)を定義していくことが重要だ。そしてステークホルダーとともにトリガー事業を適切な形で支援し、成長させていく。

SUNDREDの重視する「産業化」について、詳しく説明しておこう。プラットフォーム型の事業とアプリケーション型の事業が、相互に作用しながら自発的に大きくなるエコシステムを、SUNDREDでは産業と呼んでいる。プラットフォームはあるが、キラーアプリケーションがないなら、アプリケーションづくりに移行する。キラーアプリケーションになりそうな良い事業があるが、プラットフォーム化されていないならこれを進める。このように整理することで、トリガー事業を見極めていく。

産業化には、プレーヤーだけではなくインタープレナーという新しいカテゴリの人種も必要となる。インタープレナーは個人でもいいし、会社に所属してもいい。ただし、所属する企業あるいは組織の既存の目的のためだけに動くのではなく、意志をもって、つくりたい未来を考えて、その目的を優先しながら動ける人でなければいけない。

インタープレナーを増やし、産業化のきっかけにしていくことが、今回の募集のもう1つの趣旨だ。留目氏はインタープレナーとなる人物について、「社会起点で、実現すべき未来を優先して行動する意思を持つ。枠を超えて多様なメンバーと目的を優先しつつ、自分の役割さえもフレキシブルに変えながら、成果を上げていく。そのために、自分が知らないことに興味を持って学習できる」という要素を挙げている。

※関連記事:「think 2030」 vol.5 | SUNDRED株式会社 留目真伸氏 “アメリカ型でも中国型でもない、日本型のイノベーションを創る”


同じメンバーといつも一緒にいてもイノベーションは起こらない

続いて「『3つの問い』に答えるために必要なこと」と題したパネルディスカッションが行われ、3つの問いに答えるために必要な方策、またインタープレナーという働き方について、活発な議論があった。SUNDRED・留目氏がモデレーターとなり、パネリストは中小企業庁 創業・新事業促進課長 林 揚哲氏、筑波大学 国際産学連携本部 准教授 尾崎 典明氏、Coral Capital 創業パートナー 澤山 陽平氏、eiicon company代表/founder 中村 亜由子氏の4名。

まず留目氏から、日本における産業活性化における課題を問われると、中小企業庁 創業・新事業促進課長である林氏は、「いかに新しいモノ・ヒト・チームをつくっていくかが今の政府にとっての大きな課題だ」と述べた。また、大学発ベンチャー、新事業の創出を支援する尾崎氏は、自身の仕事がまさにインタープレナーであると述べ、「インタープレナーはもちろん、翻訳者やプロデューサーが大学でも会社でも圧倒的に少ない。お互いの立場や文化を理解できていないケースが見られるので、その点を解釈してあげる人を確保することが重要だ」と指摘した。

課題を解決するためにまず何から始めるべきかという問いに対しては、林氏が「どこの組織でもある、新しいことに対するネガティブな反応を変えていかなければいけない。新しいことに取り組む若い人、変な人に対し、上司やマネジメントの理解をどう広めるかが日本では問われている」と述べた。

eiicon company代表として多くの大企業社員と接してきた中村氏は、「自分でやりたいことをやるときに、『ほうれんそう(報告・連絡・相談)』を外すと意外とうまくいくケースを見る」と、社員の在り方について言及した。

中小企業庁の林氏に対し、留目氏が中小企業の産業化における役割を問うと、「中小企業は限られた人数の中でイノベーションを起こさないといけないため、外からどうリソースを確保するかが大切だ。中小企業はもちろん大企業も、同じメンバーといつも一緒にいてもイノベーションは起こらないので、自分が所属するチームがこのままでいいのかを振り返って考えなければいけない」と、多様性の大切さについて話した。

会場からは、「企業が社内にオープンな協創の場を設けることが増えているが、場としての期待には応えられていない。活性化された場にするには何に気を付けなければいけないのか」という質問が挙がった。

パネリストからは、「自分がどれだけ動くかにある。傍観者や批判者がいても、自分のパッションでどれだけ人を巻き込めるかが一番重要なポイントだ」「場を使うのは人なので、祭り効果が必要だ。お祭りをやって、踊っていれば、楽しそうだからみんな集まってきて、場が生まれる。祭りを興す人がいれば、助燃材になれる人、火をつけることはできる人も現れてくるものだ」といった意見が聞かれた。

中村氏は「場」をオープンイノベーションの残念な産物だと指摘する。「場を機能させるためには、常にコンテンツを出し続けないといけないのに、とりあえず場ばかりあるところが多い。何のための場なのかを考え、最初にコンテンツをつくって発信しなければいけない」と述べた。


インダストリーアップ・スタジオ・プログラム(ISP)の詳細と参画方法

最後に、SUNDRED株式会社 取締役 / パートナーの住友 滋氏より、新産業共創への参画方法について案内があった。
仮説に基づき、新産業共創の施策プログラムを小さく迅速に始めよう、という考え方がインダストリーアップ・スタジオ・プログラム(ISP)である。「ISPの狙いは実現すべき未来に向けた新産業を共創するために仕組みづくりを行うことであり、その実現のために欠かせない存在がインタープレナーだ」と住友氏は解説。インタープレナーはスタジオプログラムとは別に育成の仕組みを整えていく。

ISPは、以下の3つの共創活動から成る。

①社会起点の新産業テーマづくりの仕組み化

ISP自体を共創して仕組化していくとともに、とりくむべき新産業のテーマ出しを行っていく活動だ。この活動のパートナーをスタジオパートナーと呼ぶ。

②個々の新産業を共創するためのエコシステムづくりの仕組み化

トリガーとなる事業のデザインや組織化という共通目的に向けたエコシステムの共創が、新産業のバーチャルコーポレーションになるという仮説に基づく。この活動のパートナーをエコシステムパートナーと呼ぶ。

③新産業共創のトリガー事業の仕組み化

トリガー事業となりうるシード事業の発掘、シード事業をトリガー事業にするための補完事業の企画と結合を仕組み化するという仮説に基づく。この活動のパートナーをトリガーパートナーと呼ぶ。

10月1日より、これら3つの共創活動に参画するパートナー企業の募集を開始し、半年後をめどに新産業のトリガー事業を7個共創することを目指す。

陸上養殖6次化や医療のデジタル化など、新産業のトリガーとなるユニークな事業の加速支援を次々成功させてきたSUNDRED。今回のパートナー募集で、新産業創出のアクセルがますます強まりそうだ。


編集後記

SUNDREDの新産業共創スタジオは、これまでのオープンイノベーションとは真逆の取り組みで、大きな可能性を秘めている。新しい産業を生み、日本を活性化したいという留目氏の熱意も並々ならぬものがある。

折しも国際規格のISO56002が完成、これを活用すれば、遅れがちだった日本のイノベーションも、世界と同じスタートラインで勝負することができる。新しい目的、新しい関係性、新しい共通言語による新しいイノベーション時代の幕開けに、ぜひとも参画していただきたい。

(編集:眞田幸剛、文:菅葉奈、撮影:保美和子)