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給湯機器メーカーのノーリツが既存ビジネスモデルの転換に挑むオープンイノベーション戦略。

給湯機器メーカーのノーリツが既存ビジネスモデルの転換に挑むオープンイノベーション戦略。

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1951年に設立され、給湯機器のリーディングカンパニーとしてそのブランドが広く知られている株式会社ノーリツ(以下、ノーリツ)。同社では、新たな市場・分野で「共創で社会をわかす」ことに挑戦するため、『NORITZ NEXT HEAT』という取り組みをスタートさせた。非住宅分野にフォーカスしながら、幅広い業界のパートナー企業を募っている。

ノーリツは、国内の給湯機器市場において約40パーセントのシェアを誇り、住宅用のみならず、宿泊施設、介護施設、浴場施設などの非住宅分野においても積極的な市場開拓をおこなってきた。この8月からは、施設園芸用環境制御機器大手の株式会社誠和との共創により開発された低温CO2施用機『真呼吸』を発売、農業機器分野へも進出をはじめている。

同社が新事業開発のためにオープンイノベーションという手法を取り入れた狙いや、共創テーマ、求めるパートナー像などについて、『NORITZ NEXT HEAT』を牽引する社内横断チーム(上写真)から、小原浩樹氏と清水敬介氏の2名にお話をうかがった。

▲株式会社ノーリツ 温水事業部 温水事業企画室室長 小原浩樹氏

1987年入社。入社後10年間は技術開発部門に所属し、ガス給湯器の研究開発を担当。11年目に商品企画部に異動。以後は、経営企画、営業企画、物流企画など一貫して企画畑で活躍。現在は、温水機器全体の事業企画や商品企画を担当している。


▲株式会社ノーリツ国内事業本部 営業本部 営業企画部 営業企画グループ 副参事 清水敬介氏

2003年入社。以後15年間、栃木、兵庫などの営業所を転属しながら、現場での顧客対応一筋に歩む。2018年から営業企画部に配属。現場経験が長く、マーケット目線から企画を考えることを得意としている。

パートナー企業と共に、「非住宅分野」を開拓したい

――ノーリツさんは創業から60年以上の長い歴史を歩み、給湯機器市場では大きなシェアを誇っています。そこで、今回なぜオープンイノベーションの手法を用いた新規事業開発に取り組もうと意思決定されたのでしょうか?まずはその背景について教えてください。

小原氏 : 弊社の国内での事業展開は、住宅向け製品市場が中心でした。しかし、この市場は中長期的に見ると、人口減少やオール電化住宅の普及などにより、今後も継続的な市場の成長は見込めません。

一方、非住宅分野は、これまで弊社で展開できていなかった業種・業態への展開も含めて、まだまだ成長余地が大きいと見ています。そこで、2020年をゴールとした非住宅分野拡大への取り組みを、2015年から社内プロジェクトで推進してきました。しかし、今のところ当初目標に今一歩届いていないという状況です。

そういった背景があり、自社中心での取り組みだけでは、どうしても限界があると考えたのです。これまでも一部では採り入れてきたオープンイノベーションの取り組みをさらに拡大させ、外部パートナー企業の力をお借りしながら新分野拡大を進めていくため、今回より広く募集を実施することにしました。

――これまでにも、オープンイノベーションに一部取り組んで来られたということですが、どのようなケースがあったのでしょうか。

小原氏 : 大阪産業創造館という、大阪市経済戦略局の外郭団体が運営している中小・ベンチャー企業支援拠点があります。以前、私が経営企画室にいたころに、ここでのマッチングで、森林の間伐材を使って新しいビジネスをやろうという動きがありました。

当時、私の感覚では給湯機器メーカーであるノーリツと森林組合とのマッチングなど、想像もつかないものでした。しかし、外部のさまざまな人のいろいろな視点が入ることで、思いもよらなかった可能性が生まれました。その後も、ビジネスマッチングサイト経由によるスタートアップとの出会いなどで、外部の力をお借りすることの重要性を痛感しました。

――施設園芸機器大手の株式会社誠和さんとコラボレーションして、8月から新製品も発売されました。この共創は、どのような経緯で生まれたのですか。

小原氏 : 誠和さんとのお付き合いは本当に偶然で、展示会でお会いしたときに名刺交換をしたところからはじまりました。私は、農業分野は、いわゆる六次産業的な展開を含めて、弊社の技術でかかわれるところがあるだろうと以前から考えてはいたのです。しかし、技術的にはともかく市場的には”飛び地”になっており、なかなか入り込む余地がありませんでした。

そこに偶然に誠和さんと関係ができ、しかも先方のご担当部長が非常に先進的な考え方をなさる方だったので、とんとん拍子にコラボレーションが進みました。

――誠和さんとの共創は、御社にとって非住宅分野における本格的なオープンイノベーションとなる初めての事例だったとお聞きしています。社内の反応はいかがでしたか?

小原氏 : 経営層レベルからは、非常に高い評価を受けています。スピード感がある開発ができましたし、本格販売前のモニター販売の段階でも、施主様からの反応が非常に良かったので。本格販売は8月からなので、結果が出るのは少し先ですが非常に期待を持たれています。また、別の商材に取り組む話もすでに出ています。

清水氏 : 現場レベルでも、新しいことに取り組まなければという感覚はあります。国内の住宅機器市場が今後先細りとなることは、現場の肌感覚でも感じているため、営業担当者の間にも、たとえば海外市場にチャレンジしたいというマインドは非常に強くあります。

▲株式会社誠和との共創によって誕生した新製品「真呼吸」のイメージ図。農業界初となる"低温炭酸ガス局所施用システム"であり、年間を通じた収穫量アップに貢献する。

  

モノ売りからコト売りへ、ビジネスモデルの転換

――それでは次に、『NORITZ NEXT HEAT』の具体的なテーマ内容についておうかがいします。まず、今回共創によって実現したい内容として、「①各施設のニーズにあわせた多様なサービスモデルの創出」、「②ステークホルダーと連携した新たな市場の創出」、「③ノーリツの強みを活かした新たな用途開発」の3テーマが挙げられていますが、それぞれについて、くわしく教えてください。

小原氏 : 「①各施設のニーズにあわせた多様なサービスモデルの創出」については、すでに言い古されたことかもしれませんが、私たちのようなメーカーにおいても「モノ売りからコト売り」へのビジネスモデル転換の要請が強まっている点が背景にあります。給湯機器業界においても、特定業種の現場をよく知っていて、保守サービスで高い収益を上げている競合企業もあります。私たちも、モノの売り切りではないビジネスを拡げていきたいと考えており、そのアイデアを共に形作っていければということが今回の目的のひとつです。

――なるほど。

小原氏 : 「②ステークホルダーと連携した新たな市場の創出」についてですが、オープンイノベーションのエコシステムの中で、必ずしも私たちがメインプレイヤーになる必要はないと考えています。そのような関係性も含めて、私たちがチャネルを持っていない非住宅領域において、お互いの製品やサービスを活かした、相互送客による新たなエコシステムの創出を期待しています。

清水氏 : 「③ノーリツの強みを活かした新たな用途開発」に関しては、私たちの強みとして、熱交換技術や燃焼技術、液体の流体制御やろ過の技術などがあります。これらの技術を給湯機器ではない、新しい分野で活用していただける可能性があるのではないかということです。先に話した誠和さんとの取り組みが良い例でしょう。誠和さんと組ませていただいたことで、それまでまったく接点の無かった施設園芸分野で新しい市場を作ることができました。そこでのポイントは、私たちがサプライヤーとして黒子に徹していることです。

最近では、機器の利用状況データをクラウドにアップすることも開始し、そのような遠隔監視、データ分析技術についても転用可能な用途があるかも知れません。

将来的にはAI分析による機器データの提供も

――パートナー企業にとっての共創メリットとなるような強みやアセットにはどのようなものがあるでしょうか。

小原氏 : まず、給湯機器業界での高いシェアがあります。それに伴い、国内営業拠点はおよそ70箇所あり、そのリソースを活用いただくことが可能です。また、サービスネットワークの充実も強みと言えるでしょう。メンテナンスなどのサービスには365日24時間対応しています。またコンタクトセンターも同様に365日24時間対応です。共創パートナーの方にもこれらのリソースを使っていただけます。

――非住宅分野でのシェアでいうと、どういった業種・業態に強いのでしょうか?

小原氏 : まず、高齢者施設(介護老人保健施設、特別養護老人ホーム)があります。それからビジネスホテルなどの宿泊施設です。これらの施設においては、大手チェーンの本部へのチャネルを持っているため、全国的に展開しています。

清水氏 : 一般住宅用の場合は、給湯機器なら給湯機器だけを売ればいいという側面が強いのですが、非住宅分野・業務用の場合は、個別性が高くて、他社製品の配管や周辺部材も含めて、それぞれ異なる全体のシステムとして成り立っています。

そこで、自社製品の知識だけではだめで、他社製品との組み合わせかたなども含めて、提案ができないといけません。たとえば、「この施設レイアウトでシャワーを何基設置するなら、配管はこう通して、据え付け部材はこれを使って、給湯機器はこれを何台にする」という具合です。

私たちは他社製品であっても、こういう製品がこれくらい必要になる、というところまでわかります。施主さんはそこまでわからないし、配管メーカーは給湯機器のことまでわからない。となると、全体がわかって提案できるのはノーリツだけということになるケースが多いのです。その総合的な提案力が市場ではよく知られていますし、強みとなっています。

――お客様のところに、深く食い込んでソリューション提案をしているという点は、同様に深く食い込みたいパートナー企業にとってもメリットとなりそうです。

小原氏 : 今まで、それはあくまで給湯機器周りの施設面についてだけのことでした。たとえば老健施設で働いているヘルパーさんが、どんなことに困っているかといったことは、私たちにはわからなかったわけです。

その点で、先ほども少し触れた、クラウドによる機器の利用状況データ管理や、もうすぐ稼働がはじまるAI分析のシステムを活用できるのではないかと見込んでいます。

清水氏 : これまでも、弊社で過去に蓄積している機器データから、定期保全などの予防保全活動をおこなっています。これがAIで利用状況を分析できると、より動的に、お客様の個々の利用状況に基づいた故障予測が可能になります。すると、給湯機器の保守にかかわるお客様の手間やコストが下がるメリットにつながります。

これは一例ですが、せっかく遠隔監視やAI分析ができるようになるので、それを用いて、よりお客様が便利になるサービスをパートナー企業の方と一緒にご提案できればと思います。

――クラウド管理やAIシステムなども自社で開発なさっているのですか。

小原氏 : いえ、そういったシステム開発は、専門のベンチャー企業さんにお願いしています。社内開発も検討しましたが、やはり外部の専門的な知見を持つ企業、しかも大手のSIではなくベンチャーさんと提携した方が圧倒的に速いですから、ここでも、ひとつのオープンイノベーション的な動きをしています。

――御社のような大企業のメーカーでは、一般的にいって研究開発は自前主義になることが多いと思いますが、研究開発部門では提携はスムーズに受け入れられていますか。

小原氏 : 昨年、研究開発部門のトップである本部長が、若い人間に代わりました。新本部長が、オープンイノベーションによる共同開発や、産学連携など、それまでにはなかった新しい取り組みを積極的に進めており、いわばトップダウンで部門のマインドを変えてきています。先進的な他社に比べれば、それでも不十分なのかもしれませんが、いろいろな団体にも加盟して、共創に関する情報交換も実施しており、以前と比べれば相当変わってきたことは間違いありません。

――最後に、どんなパートナー企業に応募してもらいたいかを含め、メッセージをお願いします。

小原氏 : ノーリツでは「新しい幸せを、わかすこと。」を企業ビジョンとして据えています。そこに共感していただきながら、人口減少社会でも成長分野となり得る非住宅分野において、お客様に新しい価値をご提供し、Win-Winの関係を築けるパートナーさんに出会えればと思います。

清水氏 : 私は主に保守サービス業務を担当しています。保守サービスというのはあまり明るい、楽しいイメージがないのですが、設備の先にいるお客様を見ていただければ、いろいろな可能性が広がると思います。たとえば、高齢者施設であればヘルパーさんや高齢者の方、ホテルであれば宿泊者の方などを対象にしたサービスが考えられます。そういったところまで視野を拡げていただいて、私たちだけではできない仕事を一緒にやっていけることを楽しみにしています。

取材後記

給湯機器分野におけるさまざまな技術はもちろん、全国での365日24時間対応のコンタクトセンターやメンテナンスサービスといったアセットは一朝一夕に築けるものではない。それを築けたからこそ得られた顧客からの信頼が、ノーリツの給湯機器市場における高い国内シェアという数字としてあらわれている。オープンイノベーションにおける共創のメリットにはさまざまなものがあるだろうが、顧客からの信頼を共有できることは、パートナー企業にとってもっとも価値のあるアセットかもしれない。――こうした魅力的なアセットを用いながら、どのような共創が生まれてくるのか。今後の展開に期待したい。

▼『NORITZ NEXT HEAT』の詳細は以下をご覧ください。

(編集:眞田幸剛、取材・文:椎原よしき、撮影:西村法正)

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