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仙台市×藤崎×楽天イーグルス――仙台が巨大な実験場となる、官民連携のアクセラレータープログラムが始動!

仙台市×藤崎×楽天イーグルス――仙台が巨大な実験場となる、官民連携のアクセラレータープログラムが始動!

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「X-TECHイノベーション都市・仙台」を掲げ、先端技術とさまざまな産業の掛け合わせ(X-TECH)により、東北エリアの経済活性化に取り組む仙台市。同市は、新規事業の創出やそれをリードする人材の育成・交流により、イノベーションが継続的に生まれるエコシステムの構築を目指している。

取り組みの一環として2018年から、『SENDAI X-TECH Innovation Project』と題したプロジェクトもスタート。その第一弾として2019年の2月には、楽天イーグルスを事業共創パートナーに迎えた「仙台市×楽天イーグルス エンターテックアイデアソン」を開催。スポーツ観戦をさらに楽しむためのコンテンツ創出に挑戦した。

そして今回、続く取り組みとして、アクセラレータープログラムSENDAI X-TECH Acceleratorを始動。楽天イーグルスに加え、東北を代表する老舗百貨店・藤崎が事業共創パートナーとして参画し、“都市をアップデートするWAO!体験を創るをテーマに新規事業の創出に挑む。

eiiconでは今回、行政の立場から本プログラムをリードする仙台市経済局・荒木田氏、佐藤氏、および事業共創パートナーとして参画する藤崎の千葉氏、楽天野球団の江副氏の4名にお集まりいただき、取り組みの背景やプログラムにかける想い、描くビジョンについてお話を聞いた。

<写真左→右>

■仙台市経済局産業政策部 産業振興課 成長産業係 主任 佐藤伸洋氏

2010年に入庁。財政局資産税課にて税業務を担当後、2012年よりJETROにて対日投資業務を経験。市役所帰任後は、経済局産業政策部にて企業誘致などを担当。2017年より現職。

■仙台市経済局産業政策部 産業振興課 成長産業係 係長 荒木田理氏

2010年に入庁。入庁後はインバウンドを担当し、震災後の観光客誘致などを担う。その後、水道局などを経て、東北連携推進室にて、東北六魂祭(現、東北絆祭り)の運営などを担当。2018年より現職。

■株式会社藤崎 経営企画部 未来創造ラボ 千葉伸也氏

2005年、株式会社藤崎に入社。販売・バイヤーを経験後、三越伊勢丹へ出向し、都内店舗中心に婦人服の企画・制作などを手がける。藤崎に戻ってからは、店舗の新規開店やリニューアル、本館のMD計画などを担当。2018年より現職。

■株式会社楽天野球団 経営企画室 室長 江副翠氏

2002年に新卒で外資系大手証券会社に入社。その後、スポーツを通して地域を盛り上げることを実現するため、2009年に楽天野球団へ入社。現在はマーケティング本部にてスマートスタジアム化に取り組む。

先端技術×既存事業のクロステックで、都市の進化を目指す

――まず、仙台市がアクセラレータープログラムを実施する背景について、仙台市の特徴や魅力なども含めてお伺いしたいです。

仙台市・荒木田氏 : もともと仙台市は、卸、小売、飲食、宿泊、サービス業などの中小企業が多い産業構造を持つ都市です。そんな中で、近年は東京から進出するIT企業が増えてきました。

理由のひとつは人材の獲得のしやすさです。全国的に人材獲得競争が熾烈化する中、仙台市は比較的、優秀な若手を獲得しやすい環境にあります。また、子育てや介護のタイミングで首都圏から地元東北に帰りたいという方たちが集まる都市でもあります。働く場所を問わないIT企業が増えている風潮の中で、人材の獲得のしやすさ、さらには環境の良さが評価されて、東京から進出する企業が増えているのです。

仙台市・佐藤氏 : 少し違う観点になりますが、最近、医療分野でイノベーション創出を目指すグローバル企業に、日本初となる研究開発拠点を仙台に開設いただきました。選んでいただいた理由は、東北が世界に先駆けて高齢化が進む地域だからです。課題先進エリアとして、東北でさまざまな実証実験を行いノウハウを蓄積できれば、それを日本全体、あるいは世界全体に展開できる――そういった考えからの進出でした。

また、仙台には東北大学がありますが、東北大学は全国的に見ても産学連携に積極的な大学です。「東北大学オープンイノベーション戦略機構」というオープンイノベーション専門の組織も設け、大企業との連携を進めています。そういった大学があることも、仙台の魅力のひとつとなっています。

――IT企業や最先端企業から、今、仙台が選ばれていると。そんな状況下、どういう狙いでアクセラレータープログラムを実施する運びとなったのでしょうか。

仙台市・荒木田氏 : 本プログラムでは、主に仙台に進出していただいているIT企業などにも参加いただき、仙台発の新しいサービスやプロダクトを生み出すことを目指しています。今回は、事業共創パートナーとして、楽天イーグルスさんと藤崎さんに参画いただけることになりました。スタジアムや百貨店での実証実験を通して新しい事業を創出し、それを東北の中に限らず日本全国、あるいは世界に展開することを狙っています。

――なるほど。次に千葉さんにお伺いします。まず、老舗百貨店である藤崎の特徴についてお聞きしたいです。

藤崎・千葉氏 : 藤崎は、文政2年(1819年)に誕生し、ここ仙台において200年もの歴史を持つ百貨店です。呉服屋から始まり、街のニーズに合わせて形態を変えてきました。最初は対面での販売でしたが、歴史の歩みとともに西洋式を取り入れ、お客様とお店を見てまわれるようなスタイルに変えたり、世界に先駆けて、日本初のダブルエスカレーターを百貨店に取り入れたりもしてきました。現在は、仙台に本店を構え、東北一円に17店舗の小型店を展開しています。百貨店の業界団体にも所属し、団体の幹事店も務めていますね。

――昨年、藤崎さんでは「未来創造ラボ」という新組織が発足し、千葉さんもそのメンバーとなっています。未来創造ラボでは主にどのようなことに取り組まれているのでしょうか。

藤崎・千葉氏 : 大きく分けて3つのことに注力しています。1つ目は、「新しい体験価値の提案」です。お買い物の利便性でオンラインに勝るものはありませんが、ECで解決できないものが「体験価値」だと、私たちは捉えています。その体験の場を、リアル店舗の強みとテクノロジーを活用して再構築していくことが大きな目標です。藤崎をご利用いただくお客様に対して、新しい体験価値を提案するコンテンツを広げていきたいのです。

2つ目が、「地域価値の創造」です。百貨店の中で完結するのではなく、今まで以上にネットワークを広げ、街が一体となって価値を生み出す取り組みを強化したいと考えています。3つ目が、「生産性向上」で、こちらについては、裏側の業務にRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を導入し、マンパワーに頼りすぎない仕組みづくりを進めています。今回のプログラムにおいても、この3つの観点から、新しいことにチャレンジできるようなサービスやプロダクトに期待しています。

――ありがとうございます。それでは江副さんにお伺いしますが、楽天イーグルスの特徴や強化されている取り組みなどがあれば、教えてください。

楽天・江副氏 : 楽天イーグルスは、常に新しいことを取り入れようという気風のある球団です。たとえば、トラックマンを使用したデータ分析や、VR技術を用いたトレーニングシステムを、日本の球界に先駆けて導入しました。チケット価格にダイナミックプライシングを全面導入したり、完全キャッシュレスに踏み切ったのも、楽天イーグルスが国内で初めてです。

そんな私たちが最も重視していることは、お客様にワクワクする観戦体験を提供すること。これを実現するために、さまざまなテクノロジーを活用して、新たなチャレンジを続けています。

今回のプログラムでは、ワクワクする観戦体験という大筋は変わらないのですが、少しテーマを絞り、便利で快適なスタジアムを体感していただけるようなサービスを創出したいと考えています。たとえば、店舗販売や手荷物チェックを無人化したり、混雑状況を可視化したり、観戦中の見どころシーンを見逃さずに楽しめるようなものですね。「ヒューマンレス」をひとつのキーワードとしているので、そういったソリューションをお持ちの企業に出会いたいです。

仙台をどうアップデートする?――3者によるディスカッション

――今回のアクセラレータープログラムは、“都市をアップデートするWAO!体験を創る”がテーマとなっています。そこで次に「仙台をどのような体験ができる都市にアップデートしていきたいか?」について、ディスカッションしたいと思います。現状の課題も踏まえながら、実現したいことについて、それぞれ思うところをお聞かせください。

藤崎・千葉氏 : 百貨店業界が抱える現状の課題からお話すると、10年以上前は売上が10兆円規模でした。しかし、今は6兆円にまで減少しています。そんな厳しい状況下、地域の百貨店がどう生き残っていくか考えたときに、ひとつは独自性のある提案。ここでしか買えないもの、ここでしか得られない体験が重要だと思っています。

また、仙台は東北の玄関口という位置づけです。その中で、百貨店という商業施設は、文化や生活の玄関口にすべきだと私は思っています。でも、仙台と東北の観光地は、距離がかなりあるんですよね。ですから、たとえばテレビ会議システムなどを活用して、仙台の百貨店と東北各地に散在する観光地・生産地をつないでいくような仕組みがあるとおもしろいでしょうね。

仙台市・荒木田氏 : 千葉さんがお話されたことに関連して、インバウンドでお越しになるお客様は、仙台だけで完結することはまずありえません。皆さん、東北をひとつのエリアと捉えてお越しになります。そう考えた時に、仙台は「情報のゲートウェイ機能」としての役割も果たすべきだと考えています。たとえば、仙台に来たら、「東北でどんな体験ができるのか」「どんなおいしいものが食べられるのか」が分かるような機能があれば便利ですよね。

ですから、藤崎百貨店のような仙台の中心にある商業施設で、観光客と観光地が接点を持ち、実際に「行ってみよう」という実体験に発展させられるような仕組みを構築できると、新しい体験になると思います。

藤崎・千葉氏 : たしかに、仙台が観光客に対して「体験のプラットフォーム」のような役割を担えるといいですね。

楽天・江副氏 : 仙台を訪れる観光客に対してもそうですが、仙台や東北に住む人たちに対しても価値を提供していきたいですよね。仙台・東北に住む皆さんが、他のエリアに行って戻ってきた時に、「仙台って進んでいるよね」と、地元を誇れるようなサービスを生み出していけるといいな、と思っています。

楽天イーグルスの想いはまさにそこにあって、他のスタジアムへと観戦に行ったイーグルスファンが、「イーグルスのスタジアムが一番ワクワクするよね?」と思っていただけるようなスタジアムづくりを目指しています。地域の人たちの誇りになるような取り組みを、地域全体に広げていきたいです。

また、テクノロジーはどちらかというと若い方にメリットがあるものだと思われがちですが、高齢化が進む東北だからこそ、ご高齢の方たちがテクノロジーの中で活き活きしていらっしゃる姿を見られるような、そんなサービスを生み出していけるといいですね。

藤崎・千葉氏 : 江副さんの意見に私も賛成で、ご高齢者向けのサービスはぜひともつくっていきたいです。たとえば、ご高齢者を対象に、従来とはまったく異なるお買い物のサポート体験をつくることができれば、明確な差別化になります。実際、百貨店では世の中の流れと同様に高齢化が進んでいます。今、来ていただいているお客様に対して、体験価値を変えていくようなサービスは、ぜひとも生み出していきたいです。

一方で、楽天イーグルスさんの顧客層である、アフターファイブを充実させたり、ウェルビーイングに関心があるような若い層も、百貨店に取り込んでいきたいと考えています。どういった形で連携できるかは分かりませんが、楽天イーグルスと藤崎の相互誘客を図れるような仕組みをつくれると、街全体の活性化にもつなげられるのではないでしょうか。

仙台市・佐藤氏 : 楽天イーグルスさんと藤崎さんが連携して実施していくような取り組みがあってもいいですし、街全体を巻き込みながら進めていく取り組みがあってもいいですね。アクセラレータープログラムといえば、大企業とスタートアップの共創で進めていくケースが大半ですが、今回のプログラムでは、点と点だけではなく、都市として面で強さを発揮できるような取り組みも推進していきたいです。

実験場の提供から規制緩和まで、得られるメリットは多彩

――仙台に来る人、住む人、両者の体験価値を上げていくというイメージですね。プログラム参加者に対して、提供できるリソースやアセットについてお聞きしたいです。

楽天・江副氏 : 楽天イーグルスのホームスタジアムである楽天生命パーク宮城で、さまざまな実証実験を行っていただくことが可能です。楽天生命パーク宮城は、日本に12カ所しかないプロ野球の本拠地のひとつ。年間の動員数は180万人を超えます。そういった場の提供に加え、シーズン中は制限があるものの、シーズンオフであれば、選手やチームを巻き込んだ取り組みを行える可能性もあります。

今、スポーツビジネスが熱気を帯びていますが、ぜひ楽天イーグルスの持つプラットフォームやコミュニティにも注目していただき、一緒にスポーツ領域で新たなサービスを生み出していければと思います。

藤崎・千葉氏 : 当社も百貨店の中にある様々な場所を提供することができます。自社で運営するスペースや建物の周囲、屋上などを実証実験の場としてご活用ください。仙台本店以外にも、東北一円に17店舗を運営しているので、そういった店舗でも展開が可能です。

藤崎百貨店は年間の来客数が約700万人です。人の集まる百貨店で、「体験価値」を高められるようなサービス、プロダクトをお持ちの方に、ぜひこの機会を活用していただきたいです。

また、当社は百貨店の大部分が参加する協会に所属しており、全国の百貨店とネットワークを保有し交流しています。お話を聞いていると、どの百貨店も同じような悩みを抱え、等しく困っています。ですから、当社で実証実験をしていただき、うまくいけば他の百貨店へと横展開・水平展開していける可能性も十分にあります。

――仙台市としては、どういった支援ができるのでしょうか。

仙台市・佐藤氏 : 仙台市は国家戦略特区(※)に指定されています。事業を推進するにあたって、必要な規制緩和があれば、制度を活用して実施していくことができます。例えば、道路法の特例による公共空間の利活用や電波法の規制緩和によるドローンの利活用等に取り組んでいますし、AI・IoT・自動運転・ドローン等の近未来技術を活用した実証実験を促進するため、必要な手続きに関する支援等を一括して行うワンストップセンターも設置予定ですので、積極的にご提案ください。

仙台市・荒木田氏 : それ以外では、地元の経済関係者などさまざまな方とつないでいくことが可能です。仙台はいい意味でコンパクトシティ。事業者さんと自治体の距離感が近い点が特徴のひとつです。ですから、ひとつの取り組みに対し、複数のプレイヤーを巻き込んで相乗効果を生み出しやすいと言えます。そんな点にも期待していただきたいです。

――最後に、改めて本プログラムにかける想いについてお聞かせください。

仙台市・荒木田氏 : 仙台市としては、さまざまな事業領域にITや先端技術を掛け合わせることで、新しいプロダクトやサービスを生み出していきたいと考えています。そうすることで、既存事業の抱えている課題を解決すると同時に、ITを軸とした経済成長を実現する新規事業を創出したい。両軸で実りのあるプログラムにしていきたいと考えているので、たくさんのエントリーをお待ちしています。

※国家戦略特区…“世界で一番ビジネスをしやすい環境”を作ることを目的に、地域や分野を限定することで、大胆な規制・制度の緩和や税制面の優遇を行う規制改革制度。

取材後記

「国家戦略特区」は、現在全国に10カ所。そのひとつが仙台市だ。国家戦略特区では、岩盤規制を緩和することができる点が大きな特徴で、たとえばドローンや自動走行バスの実証実験も、この範疇で実施されていることが多い。

本アクセラレータープログラムは、そんないわば“特権”を持つ仙台市が主催し、東北で圧倒的な知名度を誇る藤崎百貨店と、12球団のひとつである楽天イーグルスが参画する。百貨店やスタジアム、さらには仙台市全体を舞台に、都市をアップデートするようなサービスやプロダクトをお持ちの方は、ぜひエントリーをお勧めしたい。

▼アクセラレータープログラムの詳細はこちら

(取材・編集:眞田幸剛、文:林和歌子、撮影:齊木恵太)

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