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【TAP Report】新たな空間インフラを提供するエリオが最優秀賞を獲得!――東急と「未来の鉄道」を生み出す共創ピッチ開催

【TAP Report】新たな空間インフラを提供するエリオが最優秀賞を獲得!――東急と「未来の鉄道」を生み出す共創ピッチ開催

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東急株式会社が2015年からスタートさせた事業共創プログラムである、「東急アクセラレートプログラム(TAP)」。鉄道、バス、百貨店、スーパー、ホテル、フィットネスなど、多種多様な事業を展開する東急グループとパートナー企業による数々のオープンイノベーション事例を創出しており、国内のアクセラレータープログラムの中でも高い評価を得ている。

そして今回、TAP初となるスピンオフ企画が10月28日に実施された。その舞台は、アジア最大規模のオープンイノベーションの祭典「イノベーションリーダーズサミット (ILS)」(東京・虎ノ門ヒルズ)。

「ILSチャレンジ with 東急アクセラレートプログラム -RAILWAYS VERSION-」と題した本企画では、分社化によって東急電鉄株式会社に継承された鉄道事業をフィーチャーした共創提案を募集(※)。鉄道事業のソフト面だけにとどまらずハード面に至るまで、外部パートナーとの共創によって事業を強化させていきたい考えだ。

「ILSチャレンジ with 東急アクセラレートプログラム」では、応募企業75社のうちスタートアップ5社が採択され、ILS初日の28日に国内外の5社によるピッチコンテストが行われた。

虎ノ門ヒルズ内に設けられたピッチ会場には、大手企業の新規事業担当者やオープンイノベーション担当者、ベンチャーキャピタルのキーパーソン、メディア関係者など多くのオーディエンスが集まり、5社のピッチに熱い視線が注がれた。ここではピッチを行った採択企業5社のプレゼンテーション内容を紹介する。

※関連記事 : 【TAP Key Person's Interviews】♯09 1日約300万人が利用する巨大フィールドでMaaSの未来を共創する | 東急株式会社 鉄道事業本部

「人へ、街へ、未来へ」を実現すべく、多くの企業との協業が不可欠

スタートアップのピッチに先立ち、東急電鉄株式会社 常務執行役員 鉄道事業本部 副事業本部長 福田誠一氏が開会の挨拶を行った。

福田氏は今年9月に分社化した東急電鉄の新たなスローガンである「人へ、街へ、未来へ」を実現すべく、スピード感を持って安心・安全かつ快適なサービスを提供していきたいと語った。また、そうしたサービスを実現するためにはチャレンジが必要であり、多くの企業、スタートアップとの協業が不可欠となることを強調。今回のイベントを新たな事業共創のきっかけにしたいと語り、ピッチを控えたスタートアップ各社にエールを送った。

続いてTAPを運営する東急株式会社 フューチャー・デザイン・ラボ イノベーション推進担当 主事 福井崇博氏からプログラムの開催概要が説明された。

通年応募制の実施、上場企業も共創対象とするなど、他のアクセラレートプログラムにないTAP独自の特徴をアピールした上で、TAP初のスピンオフ企画となる「ILSチャレンジ with 東急アクセラレートプログラム -RAILWAYS VERSION-」に関しては鉄道事業に特化して募集を行っていること、今回のプログラムの最優秀企業には後日開催されるTAPのデモデイにも登壇する権利が与えられることが説明された。

スタートアップピッチ/採択企業5社によるプレゼンテーション

●「白線認識で走る電気バスの共同開発」(株式会社アポロジャパン)

登壇者:代表取締役CEO 岸上郁子氏

株式会社アポロジャパンは、現在のAI画像解析の主流となっている深層学習・ディープラーニングに比べ、確率分布を取り込むことにより非常に少ないデータ量で正確な処理を行えるAI技術「スーパーディープラーニング(SDL)」の特許を有する先進的なテックベンチャーだ。

今回、同社は道路上の白線を認識して自動走行する電気バス事業の共創を東急に提案。同社はすでに中国でSDLを活用した乗用車による自動運転の実証実験を行っており、ピッチでは実際の実証実験の動画を活用してSDLの有用性を披露した。

また、今回の共創では白線認識を主とした画像認識を行うことで、夜間や雨といった見通しが悪い状況でも認識性の高い技術を提供したいと説明。白線認識の電気バス運行を実現させることで、昨今話題となっている高齢者の免許返納問題や過疎地域の交通手段確保に寄与できるほか、電気駆動によるエコフレンドリーなモビリティでもあるため、将来は日本の基幹産業になり得る可能性もあるとアピールした。

すでにバス会社として高い信頼性のある東急と協業することにより、実証実験後、スピーディーに事業化できることにも言及し、ピッチを締め括った。

●「空中表示装置を利用した空間情報インフラの実現」(株式会社エリオ)

登壇者:代表取締役 木村秀尉氏

世界初のスクリーンレスディスプレイの事業化を図ることで空間に情報を表示し、安心・安全な社会の実現に向けた新しい空間インフラを提供するというビジョンを掲げている株式会社エリオ。

同社はレーザープラズマを使用して空気以外には何もない空間に発光点を生成することで、実像の3次元を描画する空間情報表示システムの国際特許を取得しており、スクリーンなどの媒体なしで緊急時の巨大標識や交通信号等の表示インフラを提供できるという(Aerial 3Dディスプレイ)。

さらに同社は空中デジタルサイネージだけではなく、空中にQRコードのような3Dコードを描画することでスマホなどのモバイルデバイスにデータを配信する技術、識別コードシステムの国際特許も取得している。

同社はこの2つの技術・特許を活用することで、(1)駅構内のデジタルサイネージ、(2)空中識別コードによる駅情報の提供、(3)線路上に表示する交通標識の利用という3つのソリューションを東急に提案。事業共創の実現により、実験機の製作と実証実験を推進していきたいと東急関係者に強くアピールした。

●「安価なセンサーで線路の異常検出を実現する保守メンテナンス最適化ソリューション」(Mnubo)

登壇者:Director,PreSales Engineering Japan Representative 富永昌宣氏

2012年、カナダ・モントリオールで創業したMnubo社は、IoTセンサーから集められたデータの解析技術に特化した企業であり、IoTアナリティクスのスペシャリストとして米国最大手の通信コングロマリットであるAT&Tといった大企業も含め、世界10カ国以上のさまざまな企業にソリューションを提供している。

今回、同社が東急に対して提案したのは、線路の保守メンテナンスソリューションだ。現状、線路の保守・点検作業は専用車両を活用するか作業員の目視に頼るしかないため、多大なコストと工数がかかっている。

そうした課題に対して同社のソリューションでは、日々線路上を走る通常の旅客車両に比較的安価なセンサーを取り付けることでデータを蓄積し、機械学習・ディープラーニングを行うことで線路の異常をリアルタイムで検出することができるという。とくに新しい設備が必要になることもないため、これまで線路の保守にかかっていたコストや人的工数を大幅に削減できるとアピールした。

また、膨大なデータに対する意味づけ作業(アノテーション)に関しても、同社独自のディープラーニング手法を活用することで極めてスムーズに進めることが可能であると説明した。

●「ドローンとスキャナー技術を活用した鉄道インフラの非接触検査ソリューション」(WaveScan Technologies Pte. Ltd.)

登壇者:Founder & CEO Dr. Kush Agarwal氏


WaveScan社のDr. Kush Agarwal氏は、トンネルなどの鉄道インフラ設備の効率的なメンテナンスソリューションを提案した。

同氏は、熟練労働者の技術と勘に頼るしかなく、安全面でも問題の多いインフラ保守の現状におけるさまざまな課題を指摘。そうしたインフラの保守における一連の非効率は、同社のマイクロ波センサーとミリ波センサーを搭載したドローンと無人地上車両、高度なML/AIアルゴリズムを組み合わせたソリューションで解決できると説明した。

同社のマイクロ波センサーを活用することで目視では確認できないコンクリート内部に発生している欠陥を検知できるほか、ミリ波センサーではタイルの剥離、金属の腐食、パイプの内部腐食も検知することができる。さらにこれらのセンサーから得られたデータを独自のML/AIアルゴリズムで分析することにより、インフラ設備の効率的な予知保全が可能になるという。もちろん、ドローンや無人地上車両を活用しているので作業員の安全も担保される。

同氏はこうした予知保全のエコシステムを広めていくことで、「回復力のあるインフラを擁する持続可能かつスマートで住みやすい都市の構築を実現したい」と今後のビジョンを表明した。

●「車両内混雑状況を可視化/駅構内ロッカーの空き状況の可視化&直前予約」(株式会社バカン)

登壇者:社長室 畠山怜之氏

IoTとAIを活用し、レストランやカフェ、会議室などありとあらゆる混雑状況をデジタルサイネージやスマホに表示するリアルタイム空席情報サービス「VACAN」など、株式会社バカンのサービスは、大手百貨店や商業施設、オフィスで多くの導入実績を誇っている。

そんな同社が東急に提案した共創テーマは、東急の車両や駅、商業施設などにおける混雑状況の可視化だ。車両や駅に設置したカメラや赤外線・重量・電波を測定するセンサー、PASMOの入場情報など、多面的なアプローチで混雑情報を収集し、同社の空席情報統合プラットフォーム「 vCore 」で解析した上で、デジタルサイネージやスマホ、あるいは車両内のデジタル広告と連動させる形で利用者への情報発信を行うことができると説明した。実現すれば利用者の利便性向上はもとより、東急にとってもCS向上や定時運行、駅係員配備数の最適化に利用できることが大きなメリットとなる。

畠山氏は、多領域での情報収集力、データ解析力に加え、AI、IoT、データ解析のプロ集団を抱えていることにより、ハード面からソリューションを構築・提供できる自社の強みを活かして共創を進めることで、「笑顔あふれる優しい沿線環境を作っていきたい」と訴えた。

受賞結果〜最優秀賞は「株式会社エリオ」に!

採択企業5社のピッチ終了後、ネットワーキングセッションが設けられ、各スタートアップ登壇者と参加者による交流が図られる中、審査員による審査協議が行われた。

その結果、最優秀賞に選ばれたのは「空中表示装置を利用した空間情報インフラの実現」を提案した株式会社エリオとなった。ピッチを担当した同社代表取締役の木村氏は笑顔で受賞の喜びと今後の決意を語った。また、審査員とプレゼンターを務めた東急電鉄株式会社 副社長執行役員 鉄道事業本部 事業本部長の城石文明氏は「5社いずれも甲乙付け難い内容だったので、審査員の議論もかなり白熱した」と審査を振り返り、5社の検討を讃えた。

東急電鉄株式会社・富田氏によるプログラム総括

審査員も務めた東急電鉄株式会社 常務執行役員 鉄道事業本部 副事業本部長の富田秀樹氏は、「75社から厳選された5社だけあって、いずれの提案も非常に興味深い内容だった」と各スタートアップの提案内容のレベルの高さを評価した。

また、同氏は「お客さまのご要望は多様化し続けており、サービスにもスピード感が求められるようになった。そうしたニーズに応え続けるためにも、今回ピッチに立っていただいたような特別な技術を持った企業の方々と一緒になって多様な取り組みを進めていきたいし、今後も多くの方々から幅広いご提案をいただくことでお客さまに喜んでもらえるサービスを追求していきたい」と今後のビジョンを語り、総括を締め括った。

取材後記

東急アクセラレートプログラム(TAP)は、鉄道、不動産、ホテル、百貨店など、東急グループ各社が持つ多様なアセットとリアルな顧客接点を活用した事業共創プログラムだが、今回のスピンオフ企画に限っては鉄道事業に特化した提案内容に絞って募集が行われた。それだけに高度な技術、貴重な特許、オリジナリティあふれるサービスを有する採択企業5社の提案内容は、いずれも実現性が高く、東急電鉄の鉄道事業にダイレクトな形でイノベーションをもたらす可能性を秘めていると感じられた。

他業界に比べてIT化、デジタル化が遅れていると言われる鉄道業界だからこそ、導入・実現化による社会的インパクトは想像以上に大きいはずだ。今回のプログラムで最優秀賞を受賞した株式会社エリオと東急電鉄の共創はもちろん、今回惜しくも入賞を逃した4社の動向についても、引き続き注目していきたい。

(編集:眞田幸剛、取材・文:佐藤直己、撮影:加藤武俊)

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