ITとエレクトロニクスの最先端技術を競う祭典「CEATEC 2019」が、今年も10月に千葉市の幕張メッセで開催された。広い会場には、所狭しと真新しいプロダクトが並べられ、来場者の関心を集めた。その一角に、海外から来日したスタートアップが集まって出展するエリアがあった。これを仕掛けたのは、日本貿易振興機構(JETRO/ジェトロ)――。 

JETROは、外国企業の対日投資の誘致、日本製品・農林水産物などの輸出支援、中堅・中小企業などの海外展開支援等を担う経済産業省所管の独立行政法人だ。海外75カ所以上にネットワークを広げ、日本のビジネスを世界につなげる役割を担っている。

今回、JETROは初の取り組みとして、CEATECに海外スタートアップの出展ブース「JETRO Global Connection」を設置。アジアやヨーロッパ、南米など15カ国・地域から34社 のスタートアップを招聘し、日本企業とミートアップ(商談会)を行える場を提供した。

 eiiconでは、JETROで本プロジェクトをリードする吉田悠吾氏に注目し、CEATEC会場にてインタビューを実施。2019年4月に新設され、「JETRO内のスタートアップ」ともいえる“イノベーション促進課”を率いる吉田氏が今、海外スタートアップと日本企業のビジネスマッチングを強化する狙いや具体的な取り組みの内容、見据える未来について話を聞いた。

日本貿易振興機構(JETRO)/ Japan External Trade Organization

イノベーション・知的財産部 イノベーション促進課 課長 吉田悠吾氏

2001年、三井物産株式会社に入社。半導体やエレクトロニクス事業などに携わる。2005年に退職後、JETROへ入構。2007年より上海に赴任し、日本製品の売り込みや現地での国内産業の支援などを担当。2014年の帰国後は、企業誘致などを手がける。2019年4月、日本企業と海外企業のビジネスマッチングを図る目的で、JETRO内に「イノベーション促進課」を発足。以後、同組織を牽引している。


JETROが仕掛ける、日本×海外のオープンイノベーション

――まず、吉田さんのご経歴からお伺いしたいと思います。JETRO入構以前は、商社に勤務されていたとお聞きしていますが。

吉田氏: そうですね。私は新卒で商社に入り、主に半導体やエレクトロニクス事業を手がけてきました。中国語が得意だったので、中国や台湾での事業を担当していたんです。JETROに入構してからは、日本のエンターテインメントコンテンツの輸出支援などに従事した後、上海に赴任。上海では約7年間、日本製品の売り込みやサービス産業の中国進出支援などに取り組みました。基本的にはアウトバウンドでしたね。

2014年に帰国してからは、中華圏だけでなく欧米も含めた外国企業の日本誘致に取り組んだほか、内閣官房に出向して日本の農林水産物や食品などを海外へと輸出するプロジェクトを担当しました。その後、今年の4月に新しく「イノベーション促進課」を立ち上げ、現在は主に海外企業とのオープンイノベーション(海外スタートアップ等と日本企業のマッチアップなど)、インバウンドに注力しています。

――なぜ今、JETROは海外スタートアップの誘致やオープンイノベーションに力を入れるのでしょうか。

吉田氏: 日本は今、人口減少や高齢化、災害など数多くの課題を抱えています。少子化が進み、高度人材の数に限りがある中で、これらの課題を日本のリソースだけでは解決しきれないというのが現実です。ですから、海外の優れたビジネスシーズや技術、あるいは人材を日本に取り入れることが重要だと考えました。

そうすることで、日本発のイノベーション事例を創出し、日本企業の競争力向上や日本社会の課題解決へとつなげていくことが狙いです。周知の通り、企業の時価総額ランキングやイノベーティブカントリーのランキングなどを見ても、日本はもう”NO.1”ではありません。海外の力も活用しながら、一緒に発展していくことが、今の時代に求められることだと思います。

――なるほど。では、吉田さんはJETROにおいて具体的にどのような活動をされているのですか。

吉田氏: JETROは経済産業省が所管する公的機関です。なので、あくまで公平な立場に立って、海外企業や最先端技術に関する情報を提供したり、日本企業と海外企業が接点を持てる場を提供したりしています。

具体的な取り組みをいくつかご紹介すると、ひとつは日本で開催されるイベントへの海外スタートアップの招致です。今回、CEATECに海外スタートアップの出展ブース「JETRO Global Connection」を設けたことも、この取り組みの一環となります。CEATECへは、日本側のニーズが高い「モビリティ」「ヘルステック」「スマートホーム」をテーマに、各分野において有望なスタートアップを、世界中から集めました。

――どのようなスタートアップが出展しているのですか。

吉田氏: たとえば、内戦により負傷した身体の不自由な方が多いことから、ヘルステックで優れた技術を有す企業が育っているコロンビアより、今回2社のスタートアップを招致しました。そのうちの1社は、3Dプリンターで義手を開発しているベンチャーです。手を失った人でも、同社の義手を装着すると、モノを掴んで運ぶことや、文字を書くことができるようになる、先進的なプロダクトを開発しています。

また、ロシア発のパワードスーツ型リハビリマシン(下写真)を開発する企業も招致しました。足を自由に動かせない方でも、そのパワードスーツを装着すると、野球の始球式で球を投げられるレベルにまで動かせるようになるという、優れた技術を保有しています。

「EXOATLET」 ロシア発のルクセンブルクのスタートアップで韓国などにも進出している。

――日本企業とのビジネスマッチングにはつながっているのでしょうか。

吉田氏: 平均しても各社50件程度の商談ができていると聞いています。中には、「いいお話につながりそうだ」という声もあがっていますね。JETROでは、CEATEC以外にも、カナダ大使館と共催で、カナダのAIスタートアップを日本に招致してイベントを開催したり、深圳のスタートアップを日本に呼んでイベントを開催したり、日本国内でいくつかのイベントを開催してきました。いずれもマッチングにつながっています。

――日本だけではなく、海外でもイベントを開催されているそうですね。

吉田氏: オープンイノベーションに積極的な日本企業を、海外のエコシステムに派遣するオープンイノベーション・ミッションを実施しています。派遣先では、日本企業の担当が英語でリバースピッチ(大企業がベンチャーに対して呼びかけるピッチ)を行います。自社の抱える課題をぶつけてもらうのです。その後、現地の企業とミートアップ(商談会)を行うという流れです。

この取り組みは好評で、日本企業は視察旅行に来るばかりで具体的なビジネスになかなか繋がらないとよく言われていたエストニアでも、「こんなに真面目に商談ができたのは初めてだ」と言ってもらえました。フィンランドで開催した同様のイベントも、立ち見が出るほどの大盛況でしたね。

また、海外の優秀な人材の獲得を目的に、インドでジョブフェアも開催しました。優秀なエンジニアを輩出するインド工科大学ハイデラバード校と連携して、「JAPAN DAY」と題した日本企業の説明会をインド・ハイデラバードで開催。日本からはメーカーやIT企業などが参加し、中には1社で140人もの応募者を集めた企業もありました。

イベント以外では、バーチャルな場で接点を持てる仕組みの構築も検討しています。オンラインでつながることができれば、JETROの海外事務所がないエリアにもネットワークを広げることができるでしょうし、物理的に現地に行けないときでも海外スタートアップの接点を作ることができるようになるかもしれません。

このように私たちは、海外に構築したJETROのネットワークを活用しながら、海外のスタートアップと日本企業の出会いの場を提供し、協業・共創のきっかけを提供する活動を行なっています。


海外のスタートアップは、今、日本に注目している。

――海外事情に詳しい吉田さんに、ぜひお聞きしたいのですが、今、海外は日本をどう見ているのでしょうか。

吉田氏: 予想以上に、海外の政府やアクセラレーターは日本に注目しています。注目している理由の一つは、アメリカと中国の上位2つの経済大国もBrexitで混乱が予想される欧州も、やや不安定な状況にあるからです。世界的に不確定要素が強まっているからこそ、安定した日本に注目が集まっているのだと思います。

また、日本にはまだまだ世界的な大企業が多く、グローバルに事業を展開する企業も少なくありません。日本の大企業は豊富な資金も持っています。最近ではアクセラレータープログラムを実施したり、CVCを立ち上げる企業も増えたり、スタートアップと協業する動きが活発化しています。ここ数年で、日本企業のマインドが変化し、「小さなプロジェクトでもいいから、やってみよう」という気運が高まってきました。そういった新しいトレンドが、海外のスタートアップから日本が注目される、二つ目の理由となっていますね。

――その他に、日本が注目されている理由はありますか?

吉田氏: それ以外の理由で言えば2つあります。まずは、日本は少子高齢化などの問題において課題先進国なので、社会実証する場としては最適だと思われています。日本で成功すると、それがアジアなどでは大きなブランドとなり、資金調達や他国に展開をする際に有利に働くと見るスタートアップも多いようです。

そして最後にもう1点、日本人の英語力が向上してきたことも、海外企業が日本に進出しやすくなった要因のひとつでしょう。実際、CEATECの各出展ブースには、各社専属の通訳担当は配置していません。それでも、コミュニケーションに困っているという様子は見られませんね。


海外企業と連携するには、目的を明確にすべき

――日本企業が海外のスタートアップと連携していくために、注意すべきポイントがあれば教えてください。

吉田氏: 「連携する」目的をしっかりさせることが重要だと思います。近年、尖ったテーマを持つ企業と、そうではない企業の二極化が進んでいるように感じますが、海外のスタートアップと連携したいのなら、ふわっとしたニーズや相手から提案を求めるばかりではダメ。何のために連携や協業をやるか、目的を明確にする必要があります。

また、そもそも英語のサイトがない企業もあります。国内のみを対象としているからだと思いますが、世界はつながっており、市場としてもパートナー探しの観点からしても海外にも目を向けるべきです。海外と日本で課題が共通するものもたくさんあります。

たとえば、ドローンや自動運転などは、海外で豊富な実績があるものであれば、すぐに日本にも導入できます。国内だけにしか目を向けないことで、そういった機会を逃してしまうことは惜しいことだと思いますね。

――改めて、本取り組みを通して、目指していることは?

吉田氏: JETROは海外の政府や政府機関、スタートアップエコシステムの主要プレイヤーと連携を始めています。JETROのネットワークを皆さんにもご活用いただき、日本企業と海外のスタートアップをつなげていくことが、私たちの役割です。「海外企業と組むことは、ハードルが高い」と思われがちですが、JETROが介在することで、そのハードルを下げていきます。そして、日本企業と海外企業をつなぐことで、両者にケミストリー(化学反応)を起こしていきたいです。

また、私たちのチームには、IT企業出身者、メキシコ留学経験者、ボストン在住経験のあるメンバー、インドやアルゼンチンから帰国したメンバーなど、海外経験が豊富な若いメンバーが集まっています。それぞれの強みを活かしながら、新しいことにチャレンジを続けて、今以上に活動を広げていきたいですね。

▲吉田氏が率いる「イノベーション促進課」ではお揃いのTシャツを作成。デザインもメンバーのひとりが担当するなど、同課は”スタートアップのような動き”を実践している。

――最後に、これから世界は、どう変わっていくとお考えですか。

吉田氏: ひとつ確実に言えることは、国家間のギャップが減っていく、ということです。そうすると、エネルギーや資源の取り合いになります。人口も減少する日本のプレゼンスは残念ながら下がってしまうかもしれないですし、日本製品が世界トップレベルのクオリティと呼ばれなくなる時代が来るかもしれません。日本が後進国になってしまうことさえも、十分ありえます。そういう危機感をもつ必要が、これからの世代にはあるのではないでしょうか。

日本にとって、今がシフトチェンジの正念場。ですから、私たちも日本企業の競争力を高める取り組みを強化し、シフトチェンジを支援していきたいですね。


取材後記

世界中にネットワークを張り巡らし、日本企業の海外進出を支援してきたJETRO。公的な機関という立ち位置から、海外政府とのパイプも太い。そんなJETROにおいて「イノベーション促進課」を牽引する吉田氏が、オープンイノベーションに積極的な日本企業と、海外のスタートアップをつなげる取り組みを強化している。世界各国から有望なスタートアップが沸き立つ今、国内だけを見ていては遅れをとる可能性も大きい。これを機に、世界へと視野を広げてみてはどうだろうか。

(編集:眞田 幸剛、取材・文:林和歌子、撮影:齊木恵太)