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デジタルヘルス最前線――ITスタートアップとの共創でヘルスケア市場を変革する

デジタルヘルス最前線――ITスタートアップとの共創でヘルスケア市場を変革する

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GAFAが虎視眈々とその覇権を狙うデジタルヘルス業界。Googleがヘルスケアに力点を置いたスマートウォッチメーカー・Fitbitを巨額で買収の合意を得たことは記憶に新しい。欧米ではデジタルヘルスベンチャーの躍進により、業界に地殻変動が起こっている。では、国内の事情はどうか――。

eiiconでは、製薬大手の中でもデジタル業界にいち早く目をつけ、ITベンチャーなどとのオープンイノベーションに取り組んできたバイエル薬品のイベントに潜入。日本におけるデジタルヘルスの最前線を取材した。

本イベント「G4A Tokyo Dealmaker 2019 Signing Day」は、バイエル薬品が2016年から取り組むオープンイノベーションプログラム「G4A Tokyo」の第6回目のプログラムとして開催された。本年度のプログラム採択企業のほか、バイエル薬品の社員など約50名が一堂に会し、プログラムの開催趣旨、共創事例、パネルディスカッションなどに耳を傾けた。

本記事では、イベントの中で共有されたバイエル薬品とITベンチャーの共創事例に焦点を当てて紹介する。バイエル薬品がどんな企業と組み、何を生み出そうとしているのか――その中身から、日本のデジタルヘルス最前線を紐解く。

※関連記事:デジタル技術を求めるオープンイノベーションプログラム ― “ヘルスケア・創薬の未来を変える”

製薬ノウハウ×デジタルの力で新たなソリューションを

冒頭、バイエル薬品 オープンイノベーションセンター センター長の高橋俊一氏から、バイエル薬品が進めるオープンイノベーションについて説明が行われた。

バイエル薬品は2016年に「G4A Tokyo」と題したオープンイノベーションプログラムを開始。昨年度からは、バイエル薬品との共同開発を前提とした課題提示型のプログラム「G4A Tokyo Dealmaker」をスタートし、ITやデジタル技術に強いベンチャーなどと組んで、自社が抱える課題の解決や新たな事業の創出に取り組んできた。これまでプログラムを通じて複数の企業と協業を開始している。

高橋氏は、「この取り組みを進める中で、バイエルが最も大事にしていることは、パートナー企業とのCo-Creation(コ・クリエーション)」だと話す。「パートナー企業の持つ様々な技術と、バイエルの持つ製薬ノウハウを組み合わせることで、一緒になって最終的なカスタマーである患者様に、よりよいソリューション、新しいソリューションを提供していきたい」と、熱意を込めて語った。

第6回目となる今回のプログラムは、4月より募集を開始し、現時点(2019年10月28日)ですでに6社のパートナー企業とのLOI(基本合意書)の締結が完了しており、締結に向けた最終調整の協議を進めている企業もまだ複数あるという。これまでバイエル薬品が接点を持ってこなかった企業との新たな出会いもあり、「G4A Tokyo Dealmaker」が新しいものを生み出すパワフルなツール、プラットフォームになりつつあることが説明された。高橋氏は「本プロジェクトを、バイエルのデジタル・トランスフォーメーション(DX)の中核と位置づけ、さらに進化させていきたい」と述べ、今後もプログラムを継続していく意向を明らかにした。

高橋氏による説明が終わった後は、本プログラムを通じて協業を開始した2社の代表が登壇。自社の持つプロダクトの特徴のほか、バイエル薬品との協業内容や今後の展望について語った。以下で、その中身について紹介する。

共創事例/治験参加者向けアプリを共同開発

最初に登壇したのは、株式会社Buzzreach(バズリーチ) CEOの猪川崇輝氏だ。Buzzreachは、治験(※1)の被験者募集に携わってきたメンバーが集まり、2年前に創業したスタートアップだ。新薬開発において欠かせない臨床試験の治験参加者と、治験を実施したい製薬企業・医療機関をつなぐソリューションを展開している。

※1: 治験:新薬の有効性・安全性を検討するために、治療を兼ねて実施される臨床試験。新薬が法的な承認を得るために欠かすことのできないプロセス。

同社の核となるサービスは、治験情報発信プラットフォームである「puzz(パズ)」「smt(SearchMyTrial エスエムティ)」だ。「puzz」は、製薬会社向けのシステムで、製薬会社が実施する治験情報を一般向けに公開することができる。一方、「smt」は治験情報を集めたマッチングメディアだ。「smt」上に、製薬会社は治験情報を掲載することができ、治験参加者を募ることができる。治験への参加を希望する患者は、自分に合った治験情報を検索し、予約までを完結することができるという。

▲Buzzreach・猪川崇輝氏

Buzzreachは、昨年度の「G4A Tokyo Dealmaker 2018」で採択され、バイエル薬品とともに治験参加者向けのアプリ「Study Concierge(スタディ・コンシェルジュ)」の開発に取り組んできた。背景にある課題は、両社が共通して抱く「治験参加者のリテンション(モチベーション維持)」だという。治験参加者が途中離脱することで、有効なデータが集められず、治験そのものが中止、あるいは期間延長になることが課題となってきた。

この課題に取り組むために、両社で共同開発したアプリが「Study Concierge」だ。具体的な機能としては、「服薬管理機能」により、治験参加者の薬の飲み忘れや飲みすぎを防ぐ。また、「来院カレンダー」「検査結果の管理機能」といった管理機能も搭載した。さらに、個人は特定しない形で、製薬会社からアンケートを送れる機能も盛り込んだ。これにより、患者の声を製薬に反映できる仕組みを取り入れる。治験参加者のモチベーションを維持するために、リワード機能も導入し、途中離脱の削減につなげていくという。

猪川氏は、バイエル薬品と一緒に取り組むメリットについて次の2点を挙げる。一つは、「バイエルチームの治験を自社サービスの開発に活かせる」ことだ。また、「具体的なプロジェクトでPoCできる可能性が大きい」ことにも言及。これらは、製薬会社と組むことで得られる大きな醍醐味だという。さらに、開発したアプリはバイエル薬品としても望むツールであることから、バイエル薬品担当者の本気度も高く、スムーズに開発が進んだことを明らかにした。

最後に、「バイエルだけではなく、全製薬企業、さらには、その先にいる患者様のためになるサービスを開発していくことこそが、私たち企業の役目だ」(猪川氏)と、本事業にかける想いを語り、プレゼンを締めくくった。

 

共創事例/MRI画像診断にベンチャーのAI技術を活用

 続いて登壇したのは、京都を拠点に活動するAIベンチャー 株式会社ハカルス CEOの藤原健真氏だ。ハカルスは本年度のプログラムで採択された企業で、これから協業を開始する。藤原氏のプレゼンに先立って、課題提示者であるバイエル薬品 ラジオロジー部門 三川雅人氏から、課題提示の背景と採択理由について語られた。

▲バイエル薬品・三川雅人氏

バイエル薬品では、医薬品だけではなくMRI(※2)などの画像診断に用いる造影剤(病変を判別しやすくする薬剤)やその造影剤用自動注入装置などを販売している。造影剤による画像診断技術は進化しているが、画像から病変を見抜く“読影”には専門性が求められる。そのため、読影を担当する放射線科医から「その読影のサポートツールがあれば良い」との声が上がっているという。

そこで、今回のプログラムでは、放射線科医の負担を軽減するサポートツールを一緒に開発できるパートナーを募集した。三川氏からは、「驚くような提案をたくさんもらった。中でもハカルスの提案が非常にユニークだった」と採択の理由が述べられた。

※2: MRI(磁気共鳴画像装置):巨大な磁石でできた筒の中で、電磁波を当てて体内の断面図を撮影する装置。


三川氏から引き継ぎ、ハカルス 藤原氏より同社の持つ独自のAI技術について説明が行われた。同社はAIの構築手段として、一般的なディープラーニングではなく、「スパースモデリング」を採用している。スパースモデリングの大きな特徴は、「少量の教師データでAIを構築できること」だ。藤原氏によると「ディープラーニングと比較して100分の1、場合によっては1000分の1のデータ量で、同等以上の精度が出せる」という。最近では、ブラックホールの撮影にもスパースモデリングが活用され注目を集めた。

また、スパースモデリングのもうひとつの大きな特徴として、「高い解釈性と透明性」が挙げられるという。ディープラーニングでは、どのように判断され答えが導き出されたのかが分からない“ブラックボックス問題”が課題とされてきた。この課題に対し、スパースモデリングでは、人間が解釈できる形で、どう判断したのかを可視化できる。これらの特徴は医療分野での画像解析と相性が良く、同社はすでに国内外の医療機関や製薬会社、大学と協業を進めているという。

▲ハカルス 藤原氏

今後の協業内容としては、バイエルが保有する画像データを用いて、MRI画像診断の読影をAIでサポートするツールを共同開発する。これにより、放射線科医の読影にかかる負担を軽減していく狙いだ。ハカルスは、バイエル薬品が神戸医療産業都市内に開設したインキュベーションラボ「CoLaborator Kobe」の利用を10月より開始した。今後は、より近い距離で協業を進めていくという。

AIベンチャーやIT企業とも連携を強化

「G4A Tokyo Dealmaker 2019」では、ハカルスの他、以下の企業が現時点(2019年10月28日)において協業に向けた基本合意書を締結した。下記以外にも締結に向けて準備中の企業が複数社あるという。採択企業の中には、これまで製薬・医療業界と接点がなかった企業も含まれ、バイエル薬品が異業種と手を組んでいこうとする姿勢がうかがえた。

<今期、バイエルと協業を開始する企業> (以下、五十音順)

■株式会社CACクロア

ITを活用した、CRO(医薬品開発業務受託機関)の業務支援サービスを提供

■シミックヘルスケア株式会社

臨床試験の被験者募集や治療継続のための患者サポートプログラムなどを提供

 ■株式会社スズケン

医薬品の卸売事業の他、新たな医薬品の研究・開発・製造、医薬品メーカー支援などの事業を展開

■株式会社ディビイ

データ活用ノウハウをベースに、企業がデータを有効活用するための様々な製品・サービスを提供

 株式会社Pros Cons

AIの導入コンサルティングから実際の運用までをワンストップで提供

イベントの後半には、新生キャピタルパートナーズ株式会社に所属し、主にライフサイエンス分野で投資を行うベンチャー・キャピタリスト 栗原哲也氏による講演が行われた。栗原氏からは、デジタルヘルスベンチャーが沸き立つアメリカでは、次々に新たなプロダクトが生まれ、資金調達額も年々増加。ベンチャー投資全体のうちデジタルヘルスベンチャーの占める割合が10%近くにも達していることが説明された。

また、「デジタルヘルスにおけるオープンイノベーションへの期待」をテーマにパネルディスカッションも催され、VC・栗原氏とハカルス・藤原氏、バイエル薬品で研究開発本部長を務める梶川氏、3者がそれぞれの立場から意見を述べた。参加者からは質問が飛び交い、各々がデジタルヘルスの未来に思いを馳せる中、イベントは幕を閉じた。

取材後記

GAFAがこぞって参入を目論むデジタルヘルス業界。アメリカでは、製薬・医療の世界にデジタルの力が流れ込み、今、大きなパラダイムシフトが起こりつつあるという。この流れは間違いなく日本にも来るだろう。バイエル薬品はデジタル技術を保有するベンチャーとともに、日本のデジタルヘルス業界を牽引している企業の代表格だ。バイエル薬品と組むことで、大きなシナジーを得られることは間違いない。本年度の募集は締め切っているが、来年度も継続する予定だという。デジタルヘルス業界で頭角を現したい企業は、バイエル薬品との共創を検討してみてはどうだろうか。

(編集:眞田幸剛、取材・文:林和歌子、撮影:加藤武俊)

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