40年に渡りビジネスアプリケーションの世界を牽引してきたSAPは、日本のオープンイノベーションをさらに加速させるーー。

ドイツに本社を置くヨーロッパ最大級のソフトウェア会社であるSAPは、優れたスタートアップを支援するプログラム「SAP.iO Foundry」を進めてきた。これまでにサンフランシスコ、ニューヨーク、パリ、ベルリン、テルアビブ、ミュンヘンでプログラムを展開し、50社以上の業界を代表するスタートアップを支援してきた実績がある。

そして2019年、SAPジャパン主導による「SAP.iO Foundry Tokyo」が始動した。これは、世界7拠点目の展開となる。プログラムの中身は実に充実している内容だ。2019年2月に大手町ビル内にオープンした日本最大級のビジネスイノベーションスペース「Inspired.Lab(インスパイアードラボ)」内で展開しており、2019年7月から12週間にわたってメンターによる事業戦略の構築支援、SAPテクノロジーや産業界のデータとの連携、メンターによる共同営業の推進が提供される。

メンターはSAP社外のメンバー50名以上で構成され、外部メンターは、起業家やベンチャーキャピタリスト、大企業のオープンイノベーション実践者などを起用。機械学習やIoTなどの先端技術を活用した先進的な開発環境などのテクノロジーやデータへのアクセスが提供されるほか、SAPが持つお客様への共同アプローチの機会が用意されている。今回、4社のスタートアップが参加したDemo Dayが開催され、プログラムの成果や今後の展開について発表された。


3ヶ月で96回のメンタリング、2件のPoCの決定。4社それぞれのプログラム成果を発表。

エンタープライズ/B2Bビジネスを有するアーリーステージのスタートアップが対象となる今回のプログラムにおいて、参加したスタートアップは4社。以下に各社のピッチを紹介する。


●株式会社ZENKIGEN https://zenkigen.co.jp/

▲株式会社ZENKIGEN 代表取締役 CEO 野澤氏

テクノロジーを通じて人と企業が全機現できる社会の創出に貢献するというビジョンを掲げる株式会社ZENKIGEN。『全機現』という言葉は、「人の持つ能力の全てを発揮する」という禅の言葉である。

同社は、AIを活用した人事面接ソリューションを展開。場所・時間・距離の負を取り除いたWEB面接サービスを提供しており、今後面接の効率の最大化ではなく、面接の質向上に取り組む。面接官の態度・言動を理由に選考辞退する候補者は少なくない。不適切な採用コミュニケーションは、候補者の辞退だけでなく、企業の評判悪化にもつながると野澤氏は言う。

同社サービスでは、面接官をAIがサポートし、候補者にとっても最適な面接体験を提供する。2019年10月よりサービスリリースし、2020年3月までに1000件の面接サポートを実施していく。AIによって採用工数の削減だけではなく、より人の可能性を引き出す人事の本分を支援して行きたいと話す野澤氏。この世界初のコミュニケーションサポートAIでSAPの顧客に対してもこれまでにない体験を提供し、世界に挑戦して行きたいと締めくくった。


●Fuzed https://www.fuzed.link/

▲Fuzed 代表取締役 CEO 小野氏

その人にとって最適なコンテンツを届けるために、一人一人のことをしっかり理解することをビジョンとして掲げている同社。拡大しているオンラインマーケティングにおいて、エンドユーザーが求めているコンテンツをいかに届けるかは非常に重要。

その中でFuzedが提供しようとしているサービスは、SNSのトラフィックの最適化。その人がどのようにコンテンツと接しているのか、接し方からその人を理解するテクノロジーを開発している。マスパーソナライゼーションにシフトしてきている昨今に合わせたサービス提供だ。

同社開発のテクノロジーの一例として挙げたのは、顧客からテストをしたいコンテンツを数十もらい、それをランダムにユーザーに見せることで、ユーザーがどの程度コンテンツとインタラクトをして、どのような組み合わせでコンテンツを見ているのかを判断する。そうすることで、ユーザーのセグメントを理解し、コンテンツの見せ方を最適化するのだと言う。

今回のプログラムで、メンタリングとして安定的な成果(課題に対する仮説検証・エンタープライズ向け価格の決定等)を得ただけではなく、PoC実行に向け大手飲料メーカー1社とディスカッションを進めている。今後も顧客の長期契約に向け、SAPジャパンのCXチームとの連携を深めていきたいと話した。


●株式会社estie  https://www.estie.co.jp/

▲株式会社estie 田中氏

東京という世界最大級のB2Bの不動産Tech領域において、データアグリゲーションとデータソリューションを提供しているestie。登壇した田中氏をはじめ、同社代表の平井氏も元大手不動産に勤務していた経験から、オフィス移転や投資などの不動産の情報を収集することは非常に難しいと言う。情報収集は仲介会社に足繁く通い、得た情報は個人で管理していることが多い。

そこで同社は、オリジナルの機械学習モデルを統合した事業用不動産分析ツールestie pro(エスティ プロ)を展開。「1分で、データドリブンな意思決定を。」をコンセプトに展開しているサービスで、不動産の網羅的データベースとそれを解析するAIエンジンによって、最適なデータ運用プロセスを構築する。

今回のプログラムで、計5社の不動産に関わりのあるリーディングカンパニーに訪問を実施し、estie proの導入にとどまらず、同社が保有する物件情報を可視化する技術や、機械学習による分析する技術を活用した新たなサービスを模索することができた。現在も5社と継続議論を進めており、今後PoCにも進んでいくと言う。

最後に田中氏は、将来的には我々が保有している不動産のデータの管理や運用・解析の技術を用いて不動産業界のデータマネジメントをアップデートして行きたいと締めくくった。


●株式会社INNOVIA https://www.innovia.jp/

▲株式会社INNOVIA 代表取締役  山川氏

株式会社INNOVIAは、製造業にフォーカスした人材スキル管理システム「SKILL NOTE」の提供を行っている。SKILL NOTEは特に現場における非常に細かいスキルや教育の履歴を管理するサービス。数千数万もある細かなスキルを一元管理することで、計画的な人材育成やマネジメントが実現できる。

今回のプログラムでSAPジャパンの2つのサービスと連携を行なった。一つは人材開発ソリューションSuccessFactorsとの連携。もう一つは製造モジュールとの連携である。

また実際の顧客との連携においてはSAPから11社ノミネートされ、現時点で6社の訪問が実現。最終的に2社の企業にSKILL NOTEのPoCを実行する承認を受けている。2社中1社は自動車部品メーカーであり、SuccessFactorsのタレントマネジメントシステムに現場のスキルの管理を補完するように連携。もう1社は重工業メーカーであることからSAPが提供している製造モジュールとの連携を実施。生産スケジュールの立案や作業指図の決定を行う際に、どの作業員がどのようなスキルを保有しているのか可視化されていることから、最適な人材配置を行うことが可能になる。

山川氏は、「今後もSAPジャパンの2つのサービスと同社の持つSKILL NOTEの汎用的なシステム連携を行い、新たな価値提供を行って行きたい」、さらには「日本国内においてモデル化し、将来的にはグローバルにも展開し、ものづくり産業の底上げを狙いたい」と話した。


各社に問う、SAP.iO Foundry Tokyoの上手い活用の仕方とは?

 各社それぞれのピッチからプログラムの成果と今後の展望を発表した後、「実際にプログラムに参加してみてどのような変化があったのか」について、パネルディスカッション形式でさらに深堀った。パネリストは参加企業4社。モデレーターはeiicon company代表/founder 中村 亜由子が務め、5つの問いを投げかけた。

【写真左→右】 eiicon company代表/founder 中村亜由子、ZENKIGEN・野澤氏、Fuzed・小野氏、estie・田中氏、INNOVIA・山川氏

冒頭eiicon company 代表の中村は、B2Bのサービスでここまで粒の揃ったスタートアップがプログラムに参加し、既に進出している企業も含めグローバル展開を狙う企業もあり、今日話を聞くことを非常に楽しみにしていたと述べ、質問に入った。


Q1. このプログラムで何か変化したことはあるのか?

この問いに対し、INNOVIA 山川氏は「参加する前からグローバルで戦い、NO.1の会社になると言い張ってましたが、この3ヶ月でその言葉に魂が入った感じに思えます。期間中に、具体的なグローバル企業への訪問や、メンターの方とのディスカションなどを通し、グローバルでも通用するということと、共創することで社会を変えていけると確信持てたことが非常に良い機会だったと思っています。開発、営業も一丸となって進めていてスピードが上がった感覚があります。」と述べた。

それを踏まえてeiicon中村は、「スタートアップ経営はある意味、孤独な場面が多い。自分が信じる道を自身で仮説検証を行っていかなければならないが、SAP.iO Foundry Tokyoでは多くのメンタリングからのフィードバックと何よりSAPと繋がる、ユーザーとなりうる企業に対しても生の声を聞くことができる伴走型プログラムだ。」と解説。「この特徴を上手く活かせることができれば強いビジネスとなる可能性が非常に高い。」と話した。


Q2.SAP.iO Foundry Tokyoで最も価値があったものは?

続いての質問にはZENKIGEN 野澤氏が答えた。「世界を代表するエンタープライズ企業が40年間でこのように成長したのか、そのノウハウを惜しみなく出してくれました。例えば、価値あるものを価値ある値段で売られるようなノウハウや、顧客との関係性構築のノウハウなど、グローバルに通用する戦術を教わりました。」


Q3. プログラムを経て、SAPサービスとどのように連携できたか?

Fuzed小野氏は、「私たちのビジネスはコンシューマー向けでもあるので連携が難しく、プログラム当初は、どう連携していくのか模索しながら走っていました。そこで、SAPのグループ会社も含めた形で、私たちのサービスが大きくなり、かつフィットするサービス連携は何だろうとゼロベースで考えることができました。そのおかけで、PoCのステップに踏み出せる企業とも出会いましたし、突っ込んだ話がお互いにできたからこそ見えてきたビジネスだったと思います。」と話した。


Q4. 今回のプログラムで改善すべき点はあったか?

estie 田中氏は、正直あっという間でした。と答えた。続けて、「私たちのプロダクトの性質上もあるのですが、顧客は不動産や金融業を営む会社になりますので、承認を得る、プロジェクトを進むのもかなり時間を有します。3ヶ月ではなかなか実行まで移すことは困難でした。」と、ビジネスが進みにくい日本の大企業”あるある”をプログラム期間中に実感したと述べた。

 

最後に、今後SAPに期待することは?を聞いた。

「今回貴重な機会をもらい、まだまだ連携できる技術やサービスがある。この3ヶ月で終わりではなく継続的に取り組みを続けていきたいなと思っている。」と話すのは、ZENKIGEN 野澤氏。

最後にINNOVIA 山川氏からは、「会社を作る時から、グローバルにいくぞと決意していましたが、この3ヶ月で一気に理想から現実に近づきました。これからSAPさんと一緒に新しい価値を提供できる切符をもらえたと思っていますので、中長期的な価値提供ができるプロダクトととして磨いていきたい。」と締めくくった。


Demo Dayの最後にSAPジャパン 代表取締役社長 福田譲氏が今後の「SAP.iO Foundry Tokyo」の取り組みについて展望を語った。

▲SAPジャパン 代表取締役社長 福田譲氏

SAPは今、iPhoneを目指していると話す福田氏。「iPhone内にある様々な便利で快適なアプロケーションがあるからこそ、魅力度が増してユーザーに求められる。その求められるエコシステムを利用してさらなるコンテンツの会社が乗っかってくる。――このサイクルは今、エンタープライズの領域にはない。そこを私たちが担っていきたい。世界中の大半がSAPの何らかのソフトウェアを利用しているという強みを活かし、まだまだアナログなエンタープライズ領域をスタートアップのみなさんと一緒にデジタル化していきたい」と強く語った。  

 

取材後記

デジタル変革は企業経営の最重要課題。オープンイノベーションは企業の生き残りにかける戦略の一つであり、各社がアクセラレータープログラムを実践しているが、その性質上自社の根幹となるサービス・事業に紐付けることが難しい場合が多い。しかし、「SAP.iO Foundry Tokyo」は各社の成果でも述べられた通り、主軸サービスとの連携を積極的に実践している。本気のビジネス変革を起こそうと動いていると直で感じた。 

第二期のプログラムは11月からすでに募集を開始https://sap.io/foundries/apply/#programs。2020年6月にDemo Dayを予定している。さらに進化していくであろうSAP.iO Foundry Tokyo。今後も注目していきたい。

(編集:眞田 幸剛、取材・文・撮影:保美和子)