「社会のあらゆる問題を解決する」をミッションに掲げ、Webマーケティング分野とメディア分野でインターネット事業を展開するテクノロジーカンパニー、株式会社ベーシック。同社は2019年12月に、SaaSを開発するスタートアップを対象とした、アクセラレータープログラム「B-SKET(ビスケット)」第3期のデモデイをNagatacho GRIDにて開催した。

同プログラムは、世界で累計7万シェアされたスライド 「Startup Science」、Amazonランキング経営管理部門で81週連続1位、台湾版を含め累計9万部を突破したベストセラー書籍「起業の科学(日経BP社)」シリーズの著者である田所雅之氏が総監修を務め、徹底したハンズオンならびにメンタリングを行ってきた。さらに、総勢30名以上の専門家によるメンタリングも実施し、スタートアップの事業価値向上を支援してきたという。

デモデイでは、採択企業4社(anect/ジオクリエイツ/アメリス/エアブライダル)が2019年9月〜12月の3ヶ月半にわたるアクセラレーター期間を経て開発したサービスの成果を発表。さらには、IPO経験やIPO支援の経験を持つ有識者が集まり、「IPOを目指すスタートアップに必要なもの」をテーマにしたパネルディスカッションも開催された。本記事では「B-SKET」デモデイ当日の模様を紹介していく。


膝詰めの加速支援を受けながら練習に練習を重ねてきた

デモデイ開催にあたり、プログラムの総監修を務めた株式会社ベーシック チーフストラテジーオフィサー 田所雅之氏が登壇。「B-SKETでは、スタートアップの事業価値を最大化することを目的にしている。私はもちろん、メンターたちもこれまで膝を突き合わせて加速支援をしてきたし、4社ともデモデイ当日まで練習を重ねてきた」と、これまでの歩みを振り返った。

▲株式会社ベーシック チーフストラテジーオフィサー 田所雅之氏

日本と米国シリコンバレーで合計5社を起業してきたシリアルアントレプレナー。米国シリコンバレーのベンチャーキャピタルのベンチャーパートナーを務めた。国内外のスタートアップ数社の戦略アドバイザーやボードメンバーを歴任する。世界で累計7万シェアされたスライド 「Startup Science」、発売後Amazonランキング経営管理部門で81週連続1位になったベストセラー書籍「起業の科学(日経BP)」の著者。


パネルディスカッション~IPOに必要なもの

続いて、「IPOを目指すスタートアップに必要なもの」と題してパネルディスカッションが行われた。パネラーとして登壇したのは、スマホ向けゲームを展開する株式会社KLab 取締役会長 真田哲弥氏、組織運営のコンサルティングを手掛ける株式会社識学 代表取締役社長 安藤広大氏、株式会社さくらインターネット 代表取締役社長 田中邦裕氏、転職エージェントでスタートアップ支援も行う株式会社morich 代表取締役社長 森本千賀子氏の4名で、モデレーターはGlobis Capital Partner 野本遼平氏が務めた。

「これでIPOしよう、という判断基準になるものは?」という野本氏の問いに対し、「波に乗れたとき」と語るのは真田氏。「iPhoneが出たときにゲームを売り始めたらソーシャルゲームブームが起こり、爆発的に伸びた。サーフィンと同じで、テイクオフするのは波に乗れた瞬間しかない。早くても遅くてもいけない」。2009年にiPhoneが発売され、2010年にKLabはIPOを実施した。

「事業が拡大すれば人員拡大も視野に入るが、人数が一気に増えると組織にひずみが起きやすくなる」と語る野本氏に真田氏は大きく頷く。「1年に採る社員が全体の20%を超えると危険水域になる。以前の会社で受託開発をしていたとき、売り上げ拡大のために社員数を増やしたら質が下がってしまったことがある」と真田氏は言う。一方で森本氏は、「成長ステージでは仕組み化を進め、標準化された仕事を社員がこなせるようになったら一気に採用するというタイミングも必要なのではないか。組織論を下に落としていけるHRのプロフェッショナルがいれば、ぶれずに成長ステージを進められるはずだ」と提案する。

識学はVCからの資金調達をしていない。この理由を野本氏に問われると、「大事なのは信頼性を獲得することだった。そのために最短で上場したかったので、VCではなく投資家を選んだ。良い戦略だったと考えている」と安藤氏は答えた。

初期にエクイティを調達したのはさくらインターネットだ。苦い経験があるという。「VCから上場しろ、上場するならCFOを雇えといろいろ言われた。その結果、方向性が違うということで、資金調達後半年でいったん社長を辞めることになった」と田中氏は語る。「たしかに、上場にはCxO設置などの仕組みづくりが求められる」と野本氏が受けると、「上場にはCxOはいらない。専門性を求めて人材を雇うのはいいが、CFOだ、CTOだというのが先に来るといけない。形式化しないことが大事だ」と田中氏は強調した。

最後に、「上場は手段だと言われるが、目的にしてもいいくらい達成感があるもの。”上場あがり”はまずいが、上場後も事業を進めるつもりならとても良いものなのでぜひチャレンジしてほしい」、「上場すると会社全体のまとまりが出てくる反面、一気に喪失感が生まれてしまうので、気を引き締めつつ進めていただきたい」といったメッセージが語られ、パネルディスカッションは幕を閉じた。



SaaS領域の採択スタートアップ4社によるピッチ

パネルディスカッション後は、スタートアップ4社(anect/ジオクリエイツ/アメリス/エアブライダル)によるサービスの成果を発表するピッチが開催された。


●anect株式会社 https://anect.jp/ 

プレゼンテーションしたサービスは「Appabrik(アパブリック)」。企業と顧客をつなぐためにモバイルアプリは役立つ存在だが、ユーザーがインストールしても、その後92%がやめてしまうという現実がある。Appabrikはこれを50%まで下げるのが目標だ。

離脱者が高いのは、事業会社がアプリ開発会社にすべてを任せてしまい、開発会社は売り上げのため、やみくもに機能を追加するなどしてユーザー体験を損なってしまうことが原因だ。事業会社と開発会社の利益相反が起きている。

これをAppabrikが、2つのコア技術で解決する。まずは、従来の勘と経験、もしくは片側だけの利益追求に頼るやり方ではなく、リサーチを基に、科学的に要件定義する。そして、機能を一から開発するのではなく、モジュール単位で組み合わせることで開発効率を高める。この技術を使うことで、UXを最優先したデモアプリを1週間程度で提案できるようになり、顧客との共創関係を築ける。

質疑応答で業界を特化した理由を問われると、「食品スーパーは折り込みチラシの販促費が大きいのに成果が下がっており、アプリに対するニーズがあるため相性がいい。家具・小売りを挙げたのは、実店舗から脱却するタイミングが来ると考え、次の金脈を狙っている」と答えた。

課金についての質問には、「サブスクリプション型で、長く続けていただくことがキャッシュポイントになる。数字も大事だが納得感が一番大事で、ただ数字を伸ばすのではなく、業界ごとの適正な数字を科学的にアプローチするところに価値がある。要件定義だけではなく、その先も科学で解決できる」と述べた。


●株式会社ジオクリエイツ https://geocreates.net/ 

プレゼンテーションしたサービスは「ToPolog(トポログ)」。店舗の建設では、空間体験価値のインサイトを事業者と設計者の間で共有できないところに課題があったが、これをVRで解決する。これまでのように、勘と経験で設計者が事業主にコミュニケーションする必要はなくなる。

例えばVRを使って領域を抽出し、来場者に見られるところ、見られないところはどこかというインサイトを共有できる。天井の色から受ける来場者のイメージも、脳波でリラックス度を比較して見せることができる。設計プロセスにアジャイルに、早期に割り込ませることで、設計プロセスを短縮できるのだ。

注視の目線、脳波などのデータは、既に1万人分のデータベースをAIに学習させている。まずは建築市場からスタートし、オフラインマーケティングに広げ、AIを活用することでオンラインマーケティングにも市場を拡大していく。

質疑応答では、PMF(プロダクトマーケットフィット)について質問があった。これに対する回答は、「設計事務所から月次で100万円を払ってもいいという引き合いが既にある。マーケティングに使いたい方に配りながらデータを貯め、引き継ぐことで相関させていく。建築市場ではコンペで7割の勝率がある」。

また、日本と海外で、このような事業を展開する企業はあるのかと問われると、「生体データを利用した事業はない。市場が立ち上がっていくところに出ていくことを狙っている」と答えた。

これまで経験と勘に頼っていた設計者にとって、VRで見せるというのは違和感があるのでは?という問いには、「経験と勘がよりクリエイティブだ」と断ったうえで、「このツールで何かを是正しようとは思っていない。ただ、今まで計れるツールがなかったというだけだ。ToPologがこれを提供する」と答えた。


●アメリス株式会社 https://www.amelys.co.jp/ 

プレゼンテーションしたサービスは「業務エントランス」。ターゲットはフランチャイズ展開している企業だ。フランチャイズはどの店でもプロセスの均一さと教育の浸透が求められるが、多くがスケール化できないという課題を抱えている。俗に「店舗数100の壁」と言われるが、店舗数が30を超えると業務が複雑化し、組織が階層化して売上も安定しなくなり、100まで行き着けずに終わってしまう。これはマニュアルや新人研修を整備したから解決するというものではなく、プロセスが必要だ。

業務エントランスはフランチャイズ業務をパッケージ化し、優れたプロセスとノウハウを全ての店舗に均一に共有、浸透させ、店舗展開にかかる問題を解決する。業務、教育、時間のムリ、ムダ、ムラを一気に解決できるのだ。業務エントランスを使えば、トップ営業マンのノウハウを共有したり、現場からコメントを集約して営業にフィードバックしたり、利用状況をモニタリングしたりして販管費を削減し、店舗のスケール化に寄与してくれる。入口だけのサービスにならないように、コンサルチームによるサポートも用意した。

「圧倒的に垢抜けた」「良くなった」と会場から次々に評価を受けた業務エントランス。「ターゲットが明確になったことでわかりやすくなった」という。

「フランチャイズのシステムはお店によって多種多様だが、1つのパッケージにするのは難しく、オーダーメイドでやっていくと開発プロセスも含めて収益性が低いのでは」という問いには、「営業計画策定業務、新規店舗展開業務、加盟店支援業務などのプロセスは業種にかかわらず似ているのでここはプロセス化し、統一化できないマニュアルは店舗の既存マニュアルを活用し、統制と自由のメリハリをつけていく」と回答。「すると共通化できない2~3割のカスタマイズ作業はどうマネタイズするのか」との質問には、「パートナーのコンサルに任せ、当社ではパッケージに集中することで解決する」と戦略を述べた。


●エアブライダル株式会社 https://airbridal.co.jp/ 

プレゼンテーションしたサービスは「エアブライダル」と「ゼロイチ婚」。結婚式を自分で簡単につくれる日本初ウェディングプラットフォームとなる。

不透明で高額な見積もりで強引に契約させられてストレスを抱える新郎新婦、広告費の上昇や競争激化による利益圧迫で儲からないベンダー。式場は挙式するカップル減少に苦しんでいる。今の結婚式は誰も幸せにしない。これは、式場が全てのサービスを提供して大きな利益を取る構造に問題があるとエアブライダルは指摘する。

米国では既にスタンダードなセルフウェディング。日本でも式場で式を挙げず、小規模なウェディングパーティーを選ぶカップルが増えており、セルフウェディングの土壌はできているとみて、国内アーリーアダプター向けのサービスを仕掛ける。ベンダーと新郎新婦の両方への価値提供が特長で、1つは「セルフウェディングプラットフォームβ版」だ。ベンダー向けに月額課金型の集客管理サービスを提供して広告費を削減、営業利益を上げる。もう1つは「ゼロイチ婚」で、フリーウェディングプランナーによる新郎新婦向けのコンサルジュサービスにより、結婚式費用を下げていく。

質疑応答で、結婚式費用の削減効果を問われると、「式場に頼むと300万程度だが、これを50~120万まで圧縮できる」と答えた。

会場から「国内アーリーアダプターは、「こだわり派」と「カジュアル(安くしたい)派」の2パターンが考えられるが、どちらがターゲットか」という質問が。これに対し、「両方」と答える。「ゼロイチ婚はフリーのウェディングプランナーにアクセスできるのでこだわれるし、プランナーからアドバイスを受けてカジュアルを追求することもできる。ただ、安さより適正価格へのニーズを満たしたい」と述べた。


各賞の発表&クロージング

スタートアップ4社のプレゼンテーション終了後に投票が行われ、「MVT(Most Valuable Team)賞」・「Basic賞」・「B-SKET賞」という3つの賞が発表された。その結果は以下の通りだ。


■「MVT賞」 株式会社ジオクリエイツ「ToPolog」

■「Basic賞」 anect株式会社「Appabrik」

■「B-SKET賞」 アメリス株式会社「業務エントランス」

そしてデモデイのクロージングとして、田所氏が登壇。「プログラム期間中、つい厳しく指導してしまうときもあったかもしれないが、自分自身も起業を経験しており、その大変さを骨身にしみてわかっているからこそだ。起業とは、空を飛びながらパラシュートを作っていくのと同じこと。顧客に価値をどう提供していくのかを常に考え、自分の事業の軸にしてほしい。プログラムでは、この点を毎回問いかけてきた。それが皆さんの頭に刷り込まれて、エバンジェリストとなっていくことを願っている。プログラムで学んだことと、手に入れたネットワークを使って、ぜひ契約を増やしていっていただきたい」と参加企業4社を激励した。


取材後記

問題解決型の事業を増やすことを目的にするB-SKET。今回のピッチでは4社いずれの商品もその精神が生きており、ターゲットの切実な思いを掬い上げている。また、B-SKETは、田所氏やメンターたちの厳しくも愛ある指導により、自社で温めていた商品をブラッシュアップさせて、「使える」ものに磨き上げられるところに大きな魅力がある。審査員の「ターゲットが明確になったことでわかりやすくなった」という言葉が印象的だった。4社のこれからに大いに注目したい。

(編集:眞田幸剛、文:菅葉奈、撮影:古林洋平)