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パ・リーグ×アカデミア 1万キロの距離を超えた異色コラボが実現した理由とは

3月5日、パ・リーグ発のハッカソンである「パッカソン2017」が開催され、盛況のちに幕を閉じた。そこで提供されたのが、アプリ「パ・リーグウォーク」のAPI。こちらはなんとハーバード公衆衛生大学院社会・行動科学学科の学科長でもあるイチロー・カワチ教授のラボである「SHL(ソサエティアンドヘルスラボ)」とのコラボレーションによるものだ。この異色ともいえる共創について、SHLの研究員である鎌田真光さん、林英恵さんと、PLM(パシフィックリーグマーケティング)の荒井さん、平山さんにお話を伺った。


■日本から、健康分野でイノベーションを起こす

――まずは、パ・リーグウォークについて聞かせてください。

荒井:パ・リーグウォークは最初に自分の好きな球団を選んでもらい、歩いた歩数によって球団を応援できる、ゲーミフィケーションの要素を入れたスマートフォンの歩数計アプリです。これまでの野球って、ビールを飲んだり唐揚を食べながらヤジを飛ばすという、どこか不健康なイメージがあって。でも実は野球観戦って健康的なんですよね。家から駅まで歩いて、駅から球場まで歩いて、球場の中も歩く。歩数を稼いで楽しんでもらって、気づいたら健康にも良かった。そんな健康的な野球観戦にイメージを変えたいというのが背景にあります。実施にあたっては、SHLさんに検証、サポートをいただいています。

鎌田:私達SHLは、「一人でも多くの人が、体も心も健康に生きられる社会をつくる」ことをミッションとして掲げており、その一つの方法として「どうやって世界から運動不足をなくすか」というのを研究しています。解決にあたっては、いろんな分野や産業の方々とコラボレーションをしながら、社会をひとつずつ変えていかなければいけないと考えています。

――SHLとPLMの出会いのきっかけって何でしょうか?

鎌田:私達の所属するハーバード大学はアメリカのボストンにあり、ボストンにはメジャーリーグ球団のレッドソックスがあります。そこでアジア事業戦略担当として働いておられる吉村幹生さんに、ちょうど視察に来られていたPLMさんをご紹介いただきました。お話をする中で、我々のミッションと、PLMのみなさんが考えておられることがうまくマッチしていることがわかり、ぜひ一緒にやりましょうということになりました。

林:私たちは今までどちらかというと、政府と組んだり、自治体と組むパターンが多かったんです。でも、昨今の保健医療の課題はどんどん複雑になっており、公的機関だけで解決できるものだけではなくなってきています。これからは、こういった公的機関に加え、企業とも組んでミッションを形にしていきたい、という想いがありました。私達が目指しているのは、日本だけなくグローバルな健康問題の課題解決ですが、高齢化など、これから世界が直面する課題を多く抱える、いわゆる課題先進国である日本から、健康の分野でイノベーションを起こすことは、意義のあることだと感じます。

鎌田:健康って、すぐに結果が見えるものではなく、長いスパンで取り組まなければいけない課題なんです。1年間など短い期間の単発的な取り組みが多い中、このプロジェクトはPLMさんの方から「5年間は取り組みます」と言っていただきました。これは、しっかり成果を検証して社会に発信していきたい研究者としては、とてもありがたかったです。

平山:5年って、野球のシーズンでいうと5回しかないってことですから、我々の感覚ではけして長くないんですよね。パ・リーグウォークは、1年目が終わって、これから2年目。野球でいえば1塁に来たみたいな感じ。ちゃんとホームに戻ってこれるように、2年目を紡いでいく、そのためにはスピード感が大事だと考えています。

鎌田:PLMさんは、決定が早いですね。返信も早いですし。

林:決定が早いので、信頼感がありますね。返信がなくて混乱するというようなことが全くありません。

――スピーディーな決定にあたり、判断の基準等はあるのでしょうか。

平山:判断基準としては、六球団の利益に資するものかどうか、パ・リーグのミッションやブランディング戦略に浸透していけるものかどうかがあります。

荒井:PLMが少人数でやっているからこその強みでもあると思います。もちろん十分に検討した上で、メリットがあればその場でGOサインが出ますし、メリットがなければやめようという判断も早いです。決断力の早さは我々の強みです。

平山:そのスピリットの根底あるものとして、セ・リーグと比較して、パ・リーグは民放の放映がありませんでしたから、どうやってファンを形成するのか、どうやって六球団の利益に資する動きが出来るのかを常に考える必要があります。ですので、ITを駆使して、スピード感を持って動くというのが、我々のブランディング戦略のひとつになっています。

――ボストンと日本、かなり距離が離れていると思うのですが、コミュニケーションで難しさを感じるようなところはありましたか?

鎌田:適宜Skypeなども使っていますが、そういった事はありませんでしたね。

林:信頼感があるので、任せておけば大丈夫という気持ちがあり、距離は感じませんでした。もちろん会えたら嬉しいですけど、会えないからものが進まないというのは全くありません。

鎌田:むしろ普段はSkypeでベースをきちんと作ることが出来ているからこそ、お会いした時に、より深い話ができている、というメリットを感じます。


■大切なのは、互いへのリスペクト

――その信頼感は、どのようなプロセスを経て醸成されたのでしょうか?

林:チームでは最初から誰一人、「あの人から返信来ないけど、どうなってるの?」という人がいないんです.催促をしなくても、それぞれが仕事をきちんとして、プロジェクトが出来上がっていく。それはみんなで健康という大きなビジョンを共有しているから、というのが大きいのかなと思っています。

平山:我々PLMは利益を追求する集団であり、SHLさんは学術的な価値を追求する、ベクトルは大きく違います。だからこそ、リスペクトの気持ちをすごく大切にしています。Skypeなどでやりとりする中で、自分が知らないことだから、相手を理解しようという心の働きがありました。同じようにSHLさんも考えてくれていたらすごくハッピーで、それがきちんと出来ていたんですね。

林:学術のエビデンスを出すのって、とても厳しいんですね。作法があって。手間がかかるし、時間もかかる。「これはこのタイミングではまだ世の中に出せません」とか。そういう、ビジネスとは異なる価値やスピード感の世界を、リスペクトし、理解してくれたというのも大きいです。

鎌田:僕達も、パートナーとしてやらせていただくなかで、プロ野球の世界ってこういうものなんだ、というのを日々勉強させていただいています。文化を尊重したい、リスペクトしたいという気持ちがなければ無理だと思いますね。

平山:ですので、ホームページの注釈なども、これで問題ないですか? こういう出し方で大丈夫ですか?というのは、学術的な観点での確認はSHLさんにきちんと取るようにしていています。

鎌田:ですので、大変お手数をおかけしますが、この記事も事前に確認させていただるとありがたいです(笑)

――もちろんです(笑) 最後にメッセージをお願いします。

荒井:パ・リーグウォークは2年目に入り、近々さらに野球観戦を楽しめるようリニューアルする予定です。ぜひ楽しみにしてください。

林:SHLでは、このPLMさんとの取り組みをモデルケースとして、一緒に世界を健康にしていくという、ビジョンを共有できる企業と協業したいと思っています。ご連絡をお待ちしています。