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資金調達もSDGsも「逆算型」で考える MiL杉岡氏がベビーフードで目指す課題解決

資金調達もSDGsも「逆算型」で考える MiL杉岡氏がベビーフードで目指す課題解決

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「食」はSDGsがかかげる目標の中でも大きなファクターとなっています。誰一人取り残すことなく全人類に食料が行き届けることはもちろん、食にまつわる社会課題は数多くあります。

SDGsを共創によって推進する企業にインタビューする企画「Co-SDGs」、今回は「自分らしい人生を食から実現する」というミッションをかかげるMiL(ミル)に話を聞きました。

MiLはヘルスケア×フードテックを軸に、ベビーフードのサブスクサービス「Mi+ミタス」などを展開しています。MiLも食を通じてSDGsに貢献することをビジネスのエッセンスとしながら成長を続けているスタートアップです。

MiLの特徴のひとつに、大胆なコラボレーションがあります。1月に発表したプレスリリースでは、オイシックス・ラ・大地株式会社が運営するFuture Food Fundに加えて、プロサッカー選手の長友佑都氏や、日本体育大学准教授で自身もボディビル選手として活躍するバズーカ岡田氏から累計約1.8億円の資金調達をしたことで話題も呼んでいます。

さらに2月14日から、NPO法人フローレンスとの共創によるひとり親の家庭を支援するクラウドファンディングを開始しています。

ビジネスの軸にSDGsを据えながら、自由な発想でインパクトのある共創を実現するMiLは、いったいどのようなバックグラウンドを持ち、どのような戦略を描いているのでしょうか。MiLの創業者でCEOの杉岡侑也氏が、SDGsと共創の重要性について語ってくれました。

株式会社MiL 代表取締役社長CEO 杉岡侑也

大学受験失敗、フリーターを経験し2016年に大学生のキャリア支援を行う株式会社Beyond Cafeを創業。2018年に非大卒者のキャリア支援を行う株式会社ZERO TALENTを創業。数々の創業経験を経て2018年に株式会社MiLを創業し現職。

和食に吹く追い風を契機にブランド構築

──MiLは創業当初、和食レストランから事業をスタートさせていますね。

MiLは2018年1月に私と妻とシェフの三人で創業して、同年6月に西麻布に和食レストラン「倭 西麻布」をオープンしました。外食産業は巨大市場ですが、中でも東京というマーケットは不動産も高いですし、人件費も高い。ですが、高級レストランの単価は安く、売上は上がりにくい。更には競合も多く、トップラインがあがらないために、いわゆるレッドオーシャンです。

「倭 西麻布」で人気の野菜を使ったメニュー

それでも私達が東京にレストランをオープンした理由はふたつあって、ひとつは和食がユネスコの文化遺産になって、世界標準の文化として認められたことです。もうひとつは2020年の東京オリンピック開催です。オリンピックにあわせて、世界中からビーガン、ベジタリアン、グルテンフリー、ハラルといった、食に禁忌を持った人が大量に日本にやってきます。東京にはそれらに対応するレストランが少ないのが現状です。このふたつの要素が追い風となっているため、東京×レストランには、未来における大きな資産になると考えたんです。

特に、和食はビーガンやグルテンフリーなどのスタイルと非常に相性が良いんです。さらに言うと和食はヘルスケアとも結びつけやすい。そういった追い風を契機に、日本の外食産業は盛り上がっていくだろうし、勝機があると予測したんです。

──ヘルスケアというキーワードが出ました。MiLの企業ミッションにも「ヘルスケア問題の解決」が掲げられていますね。

はい。私達は人々のヘルスケアをどう実現するか、というミッション達成を目指しています。ヘルスケアと生活習慣は切っても切り離せないですよね。具体的には「運動」「睡眠」「食事」です。その中で私達が挑戦している領域は食事です。

ただ、食は大きなマーケットですからベンチャーが参入するには確かな基盤を持ってレバレッジをかけないと大企業に一撃でやられてしまう。そこで私達はレストランを展開してブランドと信頼を作っていこうと戦略を立てました。そうして「倭 西麻布」が生まれたんです。

ベビーフードに「能動的に生活習慣を変える」ポテンシャルを感じた

──そして、築き上げたブランドと信頼をベースにベビーフード事業に参入したんですね。なぜベビーフード領域を選んだのでしょう?

MiLが世の中を変えるようなインパクトを出すために何をするべきか、まったく想像できずに悩んでいる時期がありました。そんなときに保育士や介護士として働いている妻を見ていて新しい気づきを得たんです。

妻の仕事先にはパパやママ、そして子供がいます。妻が支援していた家庭はハンディキャップを持った子供がいる家庭で、家族が抱えている悩みはいろいろあるのですが、特に困っていたのが太りやすくて偏食であることです。パパやママはどうすれば子供に良い食習慣を与えてあげられるか、という課題に本当に真摯に取り組んでいました。

それまで私は「人はそう簡単に変わらない」と考えていましたが、妻の仕事先のパパママは自分たちの生活習慣を能動的に変えていく努力をしていたんです。私はこのエネルギーに感動しました。

ベビーフードの定期便サービス「Mi+ミタス」

人って、自分だけの生活習慣をコントロールすることは苦手で、例えばパーソナルトレーナーに数十万かけないとダイエットに成功できなかったりしますよね。でも、子供のためならば人は能動的に変われる、そのパワーやエネルギーって感動的でなんて美しいんだろうと心を打たれました。

この経験から、「子供×食」の領域にしぼって、ちゃんと正義を持ったブランドを作ることができればヘルスケアやサスティナブルが実現できるかもしれないと、方向性が明確になりました。ベビーフードでやっていくという方針を固めたのが、2019年初頭くらいです。そうして完成したプロダクトがベビーフードの定期便サービス「Mi+ミタス」です。

「食習慣の乱れ」「肉食化」「フードロス」への取り組み

──MiLのコーポレートサイトにはSDGsの取り組みが明記されていますね。具体的にどんな課題に取り組んでいるのでしょう。

コーポレートサイトにはSDGsについて「食習慣の乱れによる不健康」「世界的な肉食化」「フードロス」の課題解決に取り組むことを記載しています。

MiLのホームページでもSDGsの取り組みが明記されている

ひとつめの「食習慣の乱れによる不健康」については、シンプルに現代人の食生活は乱れているなと思います。子供の領域にフォーカスをあてると、小児肥満が40年前に比べるとすごい数に増えているんです。また、日本の子供の7人に1人が貧困だと言われています。これだけ豊かになったと言われているのに。

この現状は生活習慣にダイレクトに影響を与えますから、当然何かしらの死に近くなる疾病につながる可能性が出てきます。

こういった異常な食習慣を正常に戻すために「Mi+ミタス」を開発しました。食事を作る負担を減らすことでパパママが自分の時間を作れるようになりますし、小児科医や栄養管理士がロジカルに決めた栄養素を摂取できます。

子どもたちの最初の食事は、大人になったときの食習慣にダイレクトに影響がでるといわれています。良い食生活を彼らに残すことは、お金を残すことよりも大事だと思っています。

次に「世界的な肉食化」についてです。肉食化はものすごくすすんで日本人にとっても身近な問題となっています。日本食の文化はもともと野菜と魚が多いので、ハンバーグやすき焼きなどは非日常的な食事でした。今では身近になっていますよね。

では肉食化が進むとどうなるか、例えば牛肉1kgを生産するために穀物が25kgが消費されます。大量の穀物が消費されることで穀物の売価が上がり、庶民的な食材のはずの穀物が買えない人たちが出てきて貧困が助長される原因になります。

もうひとつ、家畜による温室効果ガスの増加があります。あまり知られていませんが、世界全体で排出されている温室効果ガスのうち、家畜飼育由来のものは18%を占めています。交通機関が排出する温室効果ガスは11.6%ですから、家畜飼育のほうが環境により大きい影響を与えていることがわかります。

お肉を食べることが悪いわけじゃなくて、バランスの良い食事を実現するためには、今ほど大量のお肉を食べる必要はない、という話です。ミタスは牛肉も鶏肉も取り扱っていますが、ヒット商品は野菜出汁が使われたものです。野菜の美味しさ、素材の味がいいねと子供を持った親が感じてくれています。本当にバランスの良い食事を提供することが結果的に、肉食化の課題解決につながると思っています。食産業は規模が大きいので、社会への影響も正しく理解しながら経営すべきだと考えています。

そして、「フードロス」の問題。フードロスの大きな要因のひとつが、「まだ使えるけど使わずに捨てる」というものなんです。それらを加工して商品にできれば、生産の現場で発生するゴミも減ります。まさに、さきほどお話した野菜出汁などはお店や工場で出た野菜のヘタとか皮、芯を原料に作っています。野菜出汁はミタスで利用するだけでなく、レストランにしゃぶしゃぶの出汁としても卸したりしていますよ。

長友佑都さんを仲間に引き込む「逆算型」のマネジメント

──MiLのファウンダーやメンバーの皆さんは様々なバックグラウンドをお持ちで、専門領域もバラバラです。チームビルディングにどんな影響がありますか?

個々が持つスキルとスキルの掛け合わせは意識してチームを作っています。まず、私と一緒に創業したメンバーが保育士とシェフですから、この時点でスキルはバラバラです。

あとは、MiLでは採用を「逆算型」で行っています。3年後、または5年後にMiLの事業がどのようなイノベーションを起こして、誰とどこでどんな仕事をしているのかをイメージして、それに必要な能力・ケイパビリティを逆算します。この点については創業初期から意識していますね。今でも、メンバーのキャラかぶりはほとんど無いと言っていいと思います。

──共創についても逆算型なのでしょうか?資金調達のプレスリリースにプロサッカー選手の長友佑都さんや、日体大准教授のバズーカ岡田さんの顔ぶれを見て驚きました。

あのプレスリリース、すごいですよね(笑)。オープンイノベーションについても、採用と考え方は一緒で逆算型です。

話題を呼んだ1.8億円の資金調達のプレスリリース

目標が決まってしまえば達成のために必要なものも決まってきます。必要なものが社内にあればいいんですけど、我々のような小さな組織だとそうもいかない。それを解決するために採用するのか、株を放出して仲間になってもらうか、業務提携するのか、いずれも手段のひとつだと捉えています。

──逆算型思考についてもう少し詳しく聞かせてください。オープンイノベーションを推進する上で、どう逆算型思考を取り入れるべきでしょうか。

オープンイノベーションが縁遠い会社は逆算型の思考でプロジェクトを組めていないんだと思います。我々は「社内にこんなアセットがあるからそれを使って何かしよう」という考え方はしなくて、そもそも「この課題を解決したいよね」というコンセンサスからすべてのディスカッションが始まります。ですから、社内でできるか、できないかは関係なくプロジェクトは組成されるんです。プロジェクトを成功させるために必要なヒト・モノ・カネ・情報をどう集めるかが勝負です。逆算型はアンカリングも少ないですし、ひとつひとつの選択肢に優劣をつけずに「できることを全部やってみよう」となるので、プロジェクトのスピードが上がります。

良くない例で言うと、新しい商品を作ろうって言ったときに「誰々さんが生産したショウガを使いたい」「じゃあジンジャーエールだ」って話が出てきたりします。「ショウガがあるからショウガを使わざるを得ない」という状況になってしまっているので、これだとイノベーションは起こりにくいです。あくまでも「どんな課題を解決したいか」をベースに考えるのが大前提にすることが大事だと思っています。

2020年は貧困問題を一歩前進させたい

──今後、どのような企業や個人と共創していきたいですか?

製造の分野では攻めの共創をしていきたいです。具体的には、工場のケイパビリティだったり、珍しい食品の生産者だったり、加工の技術が高いところとはどんどん組んでいきたいと思っています。

小売事業はウェブを中心に展開しているので、ECを強化していきたいです。ですから、重要なのは「ブランディング」「マーケティング」「プロモーション」となります。ブランディングに関しては、双方にメリットがあるならば組みたいですし、マーケティングについても、シンプルにターゲットが同じ事業者であれば組んでいきたいです。今年の1月からベビーシッターのマッチングサービス「キッズライン」とコラボレーションしたのも、マーケティングの視点でターゲットが一致したからです。

ベビーシッターのマッチングサービス「キッズライン」とのコラボ企画

関連ページ:MAGAZIN【キャンペーン】Mi+ミタス × キッズラインが初のコラボ!

プロモーションで言うと、広告代理店との関係はもちろん、他の企業がやっているプロモーションにMiLも加わっていくなど、色々な方法がありそうだなとポジティブにとらえています。

──SDGsを推進するための共創についても積極的に取り組んでいかれますか?

はい。企業やプロジェクトによって貢献したいSDGsの目標はそれぞれ違いますが、全く違う目標に見えていても、ブレイクダウンしていくと似たような目標を追いかけていることってあると思うんです。

逆に、パッと見では同じ目標を追いかけているように見えても、本質的には目指すところが違う場合もあります。そこの見極めが必要ではありますが、目標が近ければぜひ他の企業と手を組んでSDGsに貢献したいです。

──今後のMiLの事業の展開や展望を教えてください。

2月14日からミタスと、クラウドファンディングサイト「READYFOR」、そしてNPO法人フローレンスの三社共同で子育て世代の貧困を支援するプロジェクトを開始。商品を買わなくてもミタスの商品を届けられる仕組みを作りました。

関連ページ:頑張るひとり親家庭を救う、ベビーフード寄付プロジェクト - クラウドファンディング READYFOR (レディーフォー)

私達はメーカーですから、消費者の基準をクリアして買ってもらう必要があります。消費者にとっては商品の値段が100円でも1000円でもコストはコストですよね。ですから、コストの観点から僕らの商品を買えない人は必ず現れます。この問題ってもはやビジネスでは解決できない。でも僕らはヘルスケアを当たり前にしようとして始まっているわけですから、放っておくわけにはいきません。そのために、ミタスの商品を買えない人にも寄付として商品が届く仕組みを組成したんです。

日本の子供の7人に1人は貧困と言われ、その多くはひとり親です。ひとり親の家庭を社会全体が応援して子育てをするべきだと、寄付を通じて表現したいんです。社会全体が子育てに参画し、子育てをしていない人々も子育てに対してポジティブに応援したと思ってもらえる2020年を作りたい。貧困問題を一歩前進させる取り組みにしてみせたいですね。

【編集後記】逆算に必要なのは確固たる課題意識

MiLの杉岡さんからは何度も「逆算」という言葉が出てきました。ビジネスにおいて逆算が重要だとよく言われますが、まさにそれを実践されている方だなという印象を受けました。

杉岡さんのお話の中で特に興味深かったのは「ショウガがあるからジンジャーエールを作ろう、ではオープンイノベーションは起きない」というお話でした。確かに、美味しいジンジャーエールが出来上がったとしても、課題を解決できないのであればそれはただの美味しいジンジャーエールでしかありません。要するに、組織全体でしっかり「課題意識」を共有できていなければ、そもそも逆算もしようが無いということです。

MiLが次々とインパクトのある施策を打ち出せるのも、練り込んだ課題意識が基礎にあるからだと伝わるインタビューでした。

(eiicon編集部)

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