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他産業との共創で進化する日本スポーツ市場<後編>――スポーツビジネス変革へ繋がる4つのビジネスプラン!

他産業との共創で進化する日本スポーツ市場<後編>――スポーツビジネス変革へ繋がる4つのビジネスプラン!

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2020東京オリンピック開催を控え、国内外から注目が集まる日本スポーツ界。スポーツ庁は他産業との共創により新たな価値やサービスを創出するため、2018年より『Sports Open Innovation Platform(SOIP)』の構築を進めてきた。

2月18日にはSOIPの一環として、「Sports Open Innovation Networking#4(SOIN#4)」を開催。豪華ゲストによるトークセッションを紹介した<前編>記事に続き、今回の<後編>では『SPORTS BUSINESS BUILD』 のDemodayの模様をレポートする。

「最優秀賞」「PwC賞」に輝いたビジネスプランとは?

スポーツ庁は日本ハンドボール協会とコラボレーションし、スポーツとあらゆる産業との共創による新たなサービス・価値の創出とスポーツの成長産業化を目指すべく、『SPORTS BUSINESS BUILD』というプログラムを始動。現在、同協会が抱えている課題をテーマに、広く提案を募った。具体的には「競技者のエンゲージメント向上」「観客のエンターテイメント体験の変革」「スポーツ×エンターテイメントの力を生かした教育プログラム」の3つのテーマだ。

50件を超える応募の中から選考等が行われ、2019年11月22日(金)・23日(土)の2日間で、新たなビジネスアイデアを共に作り上げていくプログラムを開催。採択された4チームが、日本ハンドボール協会とのインキュベーション期間を経て、白熱したプレゼンを行った。――まずは、以下メンバーによって議論された審査結果からお伝えする。

<審査員>

■プラスクラス・スポーツ・インキュベーション株式会社 代表取締役インキュベーター 平地大樹氏

■公益財団法人日本ハンドボール協会 会長 湧永寛仁氏

■Scrum Ventures Director of Business Development 高垣論子氏

■PwCコンサルティング合同会社 常務執行役 パートナー 野口功一氏

▲写真中央が、日本ハンドボール協会 会長 湧永寛仁氏。2017年10月より日本ハンドボール協会会長に就任し、新たな発想でハンドボールの価値向上を牽引している。

表彰されたのは、4チームのうちの2チームとなった。「最優秀賞」に輝いたのは、【パナソニック×東商アソシエート×大日本印刷】による協同プロジェクトチームだ。同チームは、プロジェクションマッピングを使ったシュートゲームでハンドボールの競技人口増を狙うという、各社の強みを活かしたプランを発表した。

そして、「PwC賞」に輝いたのは、【寿美家和久×軒先】チーム。同チームは、試合当日のアクセスと食事の課題を解決し、観客の満足度向上を目指すというプランを提案し、評価を得た。

次に、2チームが発表したプランの詳細を紹介していく。

【パナソニック×東商アソシエート×大日本印刷】 プロジェクションマッピングを使ったシュートゲームで競技人口増を狙う

「最優秀賞」を受賞したのは、パナソニックと大日本印刷、東商アソシエートの3社の協同プロジェクト。プロジェクションマッピングを活用し、いつでもどこでもハンドボールのシュートを体験できるゲームを開発した。ハンドボールのゴールが表示されたスクリーンにボールを投げると、センサーが感知してゴールに入ればポイントが加算される。

3社が解決しようとしたハンドボールの課題は、「競技の認知度と興味関心のギャップ」だ。ハンドボールは認知度が高く、多くの人が名前を聞けばイメージが湧く。しかし、実際にやってみたいと思う人は少なく、興味関心は近代五種よりも少ないというデータさえある。もっと多くの人に気軽にハンドボールに触れられる機会を作るため、3社はゲーム性が高くどこでも気軽にプレーできるプロダクトを開発した。

プロダクトづくりにおいて、3社はそれぞれの強みを活かしたという。最もイメージしやすいのはパナソニック。ハードウェアからソフトウェアまで、長年蓄積されてきたテクノロジーを活かして開発を進めた。東商アソシエートは30年前からクライミングウォールを取り扱っており、日本でのボルダリング人気を支えてきた。マイナースポーツを、いかにエンターテイメント化するかのノウハウを持っている。大日本印刷はマーケティング事業の経験を活かし、コンテンツ開発やユーザーインターフェースなどを担当した。

短期的には、商業施設やイベントスペースへのレンタルでマネタイズを予定している。狭い場所にも設置できるため、どこでもハンドボールが楽しめる。将来的にはスポーツライセンスを取得し、教育やヘルスケアの領域にも展開する構想もある。既にプロ選手からの協力を得て、フォーム診断などのコンテンツ作りも始めている。スマホなどで投球フォームを撮影すれば、プロの投球フォームとの違いを可視化してくれるようなサービスも検討していると話した。

【寿美家和久×軒先】 試合当日のアクセスと食事の課題を解決し、観客の満足度向上を目指す

「PwC賞」を受賞したのは、軒先と寿美家和久の共同プロジェクト。軒先はスペースシェアリング事業を行う企業で、駐車場オーナーと駐車場を探している人のマッチングサービスを展開。現在は全国で300箇所以上、16,000台以上の駐車場を提供している。既にスポーツ業界で10以上のリーグと提携し、試合当日の駐車場不足の課題を解決してきた実績を持つ。

寿美家和久は全国の料亭400店舗をネットワーク化し、日本の伝統料理を様々な形で提供する事業を展開。質の高い料理を提供するだけでなく、自社で運営しているデジタル雑誌「Ryotei Style」では日本の文化を発信し、月間視聴者数は800万人を超える。加えて、和食の新しい楽しみ方も追求しており、2018年にはカップで食べる和食弁当を開発し、スポーツ会場で食べられる和食のスタイルを考案した。

今回、2社が解決する日本ハンドボール協会の課題とは、試合当日の食事と駐車場の不足。軒先はハンドボール協会の名前を借りて、会場近くに駐車場を持つオーナーに交渉し、駐車場を提供する。当日の駐車場探しのストレスから開放された観客は、試合の応援に集中して満足度を高められるはずだ。

寿美家和久は試合会場での食事の課題を解決する。アスリートのニーズに合った弁当の開発に加え、ご当地の食材を使った弁当をキッチンカーで販売し地域のPR活動も行う。両社の収益の一部は協会にも還元され、競技団体の新しい収益源にもなると語った。既に様々なスポーツの大会での提供が決まっており、今後はハンドボール以外の競技でもサービスの提供を検討している。

異なるサービスを提供する両社だが、軒先のサイトから駐車場も弁当も予約できるシステムを作りシナジーを狙う。アクセスが改善され食事も充実すれば、応援に来た観客の満足度は大きく向上されるだろう。

▲イベント会場では、寿美家和久が手がける弁当の見本なども紹介された。

――なお、今回惜しくも受賞を逃した他2チーム(サムライセキュリティ/スポーニア)が提案した共創プランは以下の通りだ。

 

【サムライセキュリティ】 チームと家族の絆を強くする画像共有サービス

アスリートの応援サービスを展開しているサムライセキュリティは、既存事業としてデジタルの寄せ書きでアスリートを応援する「エスポルタ」というサービスを展開している。寄せ書きと一緒に活動資金も送れるため、ファンからの応援が活動資金にもなる。今回プログラムで提案するサービスは、このエスポルタが下地となって考案された。

提案したのは学生がハンドボールの思い出を共有し、家族やチームとの絆を作るサービス。試合中や練習中の写真を、チームやその家族で共有し、写真にメッセージを書いて贈り合うことができるアプリだ。アプリ上で簡単にリアルのアルバムも作れて、思い出を形にして共有できる。

このサービスによって解決したい課題は、「肖像権の管理」だ。現在はインターネットが普及した影響で、一度ネットにアップされた写真は拡散され、どこでどのように使われるか管理するのは難しい。場合によっては望ましくない使われ方をされて、トラブルに発展することも珍しくない。また、今やアスリートの写真は新しい収益アイテムとなるため、適切な管理が求められている。

サムライセキュリティの画像共有サービスには、上記の課題を解決するために、肖像権を適切に管理し、場合によっては収益化する仕組みが組み込まれている。会員制のサービスのため、第三者に画像が渡る危険はない。また、肖像権における煩雑な契約も全てシステム内で締結、管理することが可能だ。肖像権の管理がスムーズに行えるようになれば、簡単にアルバムを作って販売することもでき、チームや競技団体の新しい活動資金の捻出にも繋がると語った。

【スポーニア】 アスリートのメディア化でスポーツの新しいビジネスモデルを構築

「次世代スポーツ経済圏を作る」をテーマに、スポーツの新しいビジネスモデルを構築しているスポーニア。従来のスポーツビジネスは、マスメディアを中心に大企業からのスポンサードや放映権で収益を得るモデルが一般的だった。つまり、マスメディアに依存したビジネスモデルだったと言っても過言ではない。しかし、インターネットの普及により、マスメディアの影響度は衰退していき、お金の流れにも変化が起き始めている。

そんな時代背景の中で、スポーニアが行っているのはアスリートのメディア化だ。YouTubeでアスリートの動画コンテンツを配信し、ファンを集め、企業に直接スポンサーになってもらう仕組みを作っている。具体的には、メジャーになっていないミドル層のアスリートのYouTubeチャンネルを開設し、動画の企画、撮影、編集を行ない、アスリートの広告価値を高めるサポートを行う。

それと並行して展開しているのが、動画編集のオンラインサロン。今後、サポートするアスリートが増えていけば、スポーニアのメンバーだけでは動画編集が追いつかない。そのため、動画編集を学びたい指導者やトレーナーが、動画制作スキルを磨けるオンラインサロンを無料で開設。トレーナーとアスリートをマッチングすることで、大量の動画編集にも対応できる仕組みを作っている。

また、アスリートの広告価値を可視化するためのツールも開発。サポートしているアスリートがSNSでどれだけフォロワー数を集め、エンゲージを細かく可視化することで、企業からのスポンサーが得られやすくなる。広告価値が高まることを数値で示せれば、スポンサー料のアップも期待できるだろう。アスリート自身がコンテンツになり、直接企業からスポンサーされる世界観を構築している。

今回、スポーニアがハンドボール協会に提案したのは「ビーチハンドボール競技の認知度拡大」だ。東南アジアを中心に注目度が高まっており、オリンピックの正式種目の候補にも残っている。しかし、日本ではまだ認知度が低く、大会を開催しても集客とスポンサー獲得に苦戦している現状だ。

スポーニアは集客とスポンサー獲得のためにSNSを使ったプロモーションを行う提案をした。ビーチハンドボールはロケーションや衣装など、SNSで注目される要素を多く含んでおり、動画コンテンツとの相性がいい。エンターテイメント性の高い動画を企画し、競技のファン獲得に繋げる予定だ。冬の間は競技が行われず本格的なプロモーションは行えていないが、競技シーズンに向けて本格的なSNS運用を行っていくと語った。

オープンイノベーションによって、スポーツ産業を盛り上げていく

イベントの最後には、4社の中から選出された企業への授賞式が行われた。「PwC賞」を受賞した軒先と寿美家和久の共同プロジェクトについて、審査員からは次のようなコメントが述べられた

「今回プレゼンした4社の中で、一番スポーツから遠いところで新しいビジネスを創出し、かつ競技団体にも利益が還元される仕組みであることが選出のポイントとなりました。一見スポーツからかけ離れたビジネスにも見えますが、次の時代のスポーツビジネスを象徴しているようにも感じます。両者が世界で羽ばたけるように応援しています。」

そして、栄えある「最優秀賞」に輝いたパナソニック×東商アソシエート×大日本印刷の共同プロジェクトの選出理由に関して、審査員から次のようにコメントが贈られた。

「ハンドボールの競技人口を増やすという意味で、最もインパクトのあるプロダクトだと思いました。今後、よりゲーム性を追求して、ハンドボールをやってみたいと思う人は増やしてほしいと思います。」

最後はスポーツ庁 総括官、斎藤福栄氏の閉会の言葉によってイベントは締めくくられた。

「SPORTS BUSINESS BUILDではスポーツ団体をプラットフォームにした様々なビジネスの提案があり、これからのスポーツ産業に大きな可能性を感じた方も多いことでしょう。スポーツ庁として本カンファレンスを継続していくだけでなく、新たにコンテストの開催も企画しております。スポーツを通したオープンイノベーションを促進するために、様々な施策を用意しているので、ぜひ一緒にスポーツ産業を盛り上げていきましょう。」

取材後記

今回の4チームのプレゼンにより、スポーツ産業に多くのビジネスチャンスが眠っていることが明らかにされた。今後、大小様々な企業が多様なアイデアをもってスポーツビジネスに参入すれば、日本のスポーツシーンがより盛り上がっていくことは容易に想像できるだろう。2020年がその契機になると感じられるイベントとなった。

(編集:眞田幸剛、取材・文:鈴木光平、撮影:古林洋平)

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