今やイノベーションの舞台はシリコンバレーや深センといった、特定の国や地域に限られない。――2019年7月、国際知的所有権機関(WIPO)が発表した「グローバルイノベーション指数2019」では、スイス、スウェーデン、オランダ、イギリスといった国々が上位に並ぶ。

※参考リンク:Global Innovation Index 2019

その一方で、日本は前年から2つ順位を落とし、15位という結果に。イノベーションを創出するフィールドは、海外が先行しているといっても過言ではないだろう。

2月20日、「大企業によるグローバル・オープンイノベーションの動き方2020」と題するイベントが開催された。主催したのは、グローバルでスタートアップ170社以上に投資する一方、大手企業向けに国内/グローバルにおけるイノベーション伴走支援を手がける株式会社サムライイキュベートだ。

同イベントにはNTTデータ・残間光太郎氏ダイキン工業・三谷太郎氏丸紅・上杉理夫氏Ideapoke Japan・太田隆裕氏と、グローバル・オープンイノベーションに豊富な実績を持つメンバーが登壇し、これまでの取り組みを紹介したほか、後半には登壇者全員によるパネルディスカッションも行われた。

そこでは今彼らが抱える課題、そしてその先に見据えるイノベーションへの期待が語られた。グローバル・オープンイノベーションの最前線で戦う、彼らの目には一体どのような景色が映っているのか。注目のイベントをレポートする。


世界各地でオープンイノベーションが実現――登壇者による事例紹介

まずイベントは、登壇者各氏のこれまでの取り組みの紹介からスタートした。

NTTデータ・残間氏は、同社が主催する「グローバルオープンイノベーションコンテスト」について紹介した。世界16都市で事業アイデアの選考会を行うこのコンテストを通じて、日本市場に興味を持つ海外企業の熱を実感したという。

▲株式会社NTTデータ オープンイノベーション事業創発室長 残間光太郎氏

続いて、ダイキン・三谷氏は2019年12月にナイロビで開催した、アフリカ全土のスタートアップを対象にしたアイデアソン「AirTech BootCamp Afirica」の事例を紹介。160社の現地企業から応募があり、うち選考を通過した9社とのアイデアソンを実施。今後も継続する方針とのこと。

▲ダイキン工業株式会社 テクノロジー・イノベーションセンター 副センター長 兼 CVC室長 三谷太郎氏

丸紅・上杉氏は、同グループの中期経営戦略である「グローバル・クロスバリュー・プラットフォーム」について語った。現在、既存の価値を掛け合わせてイノベーションを生むためのプラットフォームを構築するべく、組織再編や人材育成に注力しているという。

▲丸紅株式会社 次世代事業開発本部 デジタル・イノベーション室 室長 上杉理夫氏

最後に登壇したのはIdeapoke Japan・太田氏。同氏は前職のローム株式会社時代に、インテルやドイツの有名車メーカーといった名だたるグローバル企業とのオープンイノベーションを手がけた経験を持つ。そうした実績を踏まえて、市場の成熟度に合わせてオープンイノベーション戦略を立てる重要性について語った。

▲Ideapoke Japan 株式会社 代表取締役社長 太田隆裕氏

さらに各氏の登壇後、サムライインキュベートの成瀬氏が「グローバル・オープンイノベーションの動き方」と題する講演を行なった。成瀬氏は世界のイノベーションのテーマが、情報技術そのものから、IoTのようなモノを介した情報技術に移りつつあることを紹介し、「製造業が強い日本にとっては、今がグローバル・オープンイノベーションのチャンス」だと訴えた。

▲株式会社サムライインキュベート 執行役員 Enterprise Group 成瀬功一氏

サムライインキュベート 成瀬氏が考える日本流のイノベーションとは。(サムライインキュベート ブログ記事はこちら↓)


海外でオープンイノベーションに取り組む理由

続いて、サムライインキュベート成瀬氏がホスト役となり、登壇者各氏がグローバル・オープンイノベーションの中で得た経験や課題について語るパネルディスカッションが行われた。


●セッションテーマ1:世界の中でそのエリアで取り組もうと考えた背景

世界各地でグローバル・オープンイノベーションに取り組む登壇者各氏。その活動は一体どのような動機に裏付けられているのか。

まずセッションの口火を切ったのはNTTデータの残間氏。残間氏は同社がグローバル環境でオープンイノベーションに取り組む理由を「『ミッシングピース』と『課題』を探す旅」だと語る。

残間氏によれば「ミッシングピース」とは、社内の既存事業をグロースさせる上で必要となる技術やビジネスモデルのことだ。グループ拠点を有しない国や地域でもオープンイノベーションコンテストを主催し、既存事業を革新するピースを積極的に探しているという。

一方で、ドメスティックな環境では得られない「課題」に出会えるのも、世界中にネットワークを巡らせる理由だという。残間氏は南米・チリのシェアリングエコノミーサービスを例に説明する。

「世界には銀行口座を持てない人が17億人以上いると言われていて、その人々はECなどをなかなか利用できない。そこでチリには一般の人が収納代行をするサービスがあって、WEBで買い物した代金を、ちょうどUberのように、近所にいる人が受け取りに来てくれるわけです。こうした課題と、それに対するソリューションには、日本にいるだけではなかなか出会えません」


続いて発言したのはダイキンの三谷氏。三谷氏はアフリカをオープンイノベーションの舞台とする理由について「ゼロからビジネスモデルを立ちあげたかった」と話す。その背景には、大企業ならではのジレンマもあったという。

「例えばサブスクだとか、何らかの新しいサービスをスタートしようとすると、既存事業とカニバる部分が出てきて社内から反発にあったり、スピード感に欠けてしまうことがあります。その点、弊社はアフリカにそれほど事業を持っていないので、新しい取り組みに挑戦しやすいという経緯がありました」

また現在アフリカは様々なスタートアップが台頭し、モバイルの普及が急激に進みつつあるため、新たなビジネスモデルを創出する環境としても条件を揃えている、と三谷氏は付け加えた。


●セッションテーマ2:上記取り組みの意思決定における、本社内での説得方法とは

登壇者からグローバル・オープンイノベーションの可能性が語られる一方で、その実行にあたって避けられない「社内の説得」についても話題は及んだ。

丸紅の上杉氏は、社内の説得を目的にするのではなく、「事業成長を実現できる体制」を構築することが、結果として意思決定者を動かすと説く。その理由について以下のように分析した。

事業を買収するときは、現在見込まれる成長も含めて買っているわけであり、買うことの蓋然性を見せるためには、期待を超える成長ができることを示す必要がある。つまり、『事業を育てられるかどうか』が、意思決定者への説得の最も重要な材料になります

現在、丸紅グループは中期経営戦略で「SPP」(Strategy、Prime、Platform)という事業方針を掲げている。上杉氏はこの「SPP」に倣い、戦略的で主体的、かつ自社のアセットを土台にして新たな価値を生み出すというマインドによって、「事業成長を実現できる体制」が築かれるとした。

他方、Ideapoke Japanの太田氏は「社内の説得方法?無いですね…笑」と会場の笑いを誘った後、前職での経験を踏まえて、以下のように続けた。

「上司への説得が必要ということは、まだ市場や顧客が明確になっていないフェーズだからですよね。市場を作るのには時間もかかるし、リスクもある。それに賛同する上司はなかなかいません。なので、私が実際にやっていたのは『自分の責任の範囲で挑戦する』という作戦です。たとえば自分の決裁権が1000万円、直下の部下の決裁権が300万円だとしたら、300万円でやりきる。そしてもし仮に失敗しても、上司には責任をかぶせない。これに尽きると思いますね」

太田氏は重ねて、「社内の承認経路」「事業推進の方針」「予算の配分」を切り分け、それぞれを戦略的に実行していくことがグローバル・オープンイノベーションをスムーズに進めるコツだと話した。


グローバル環境だからこそ出会える「課題」と「気づき」

●セッションテーマ3:実際に現地スタートアップ連携で得られた経験と課題

では、登壇者各氏はこれまでどのような課題に出会い、それをどのように乗り越えてきたのだろうか。――NTTデータ残間氏は、世界規模のビジネスを効率よく運営するためには「組織体制の整理」が必要だと語る。

NTTデータではこれまで、各国の拠点が自律的に協業先を選定していたため、同一の企業に重複してアプローチしてしまい、交渉が遅滞することがあったという。そうした機会損失を解消するために定められたのが「OpCo(オプコ)」だ。オプコとはOperation Companyの略称で、協業先との交渉の優先権を明確にする制度のことだという。その機能について、残間氏は以下のように説明する。

「オプコにはリード・オプコとサブ・オプコがあります。まず協業先に対して最も熱量の高い拠点をリード・オプコに、次点の拠点をサブ・オプコに指定します。リード・オプコはグループ全体の窓口になって協業を進めますが、もし失敗したらその位置をサブ・オプコと入れ替わってもらいます。このように各拠点をコントロールする仕組みを作ることで、組織的にビジネスを回すことが可能になります」

続いてダイキン三谷氏は、海外拠点と国内拠点の温度差を埋めることに苦心したという。その両者の関係を野球のピッチャーとキャッチャーにたとえて話す。

「我々のようなオープンイノベーターは、いわばピッチャーのように国内に向けて協業案を投げていくわけですよね。しかし、キャッチャーである本社や国内研究所のニーズも考慮しないと、投げた球を受けてもらえない」

こうした課題を解決するためには、初期段階から国内拠点のキーマンを巻き込み、あらかじめ協業案が受け入れられやすい下地を作る必要があると三谷氏は言う。そのことについて「そもそもピッチャーとキャッチャーは敵対する関係ではなく、同じチームの選手です。それと同様に海外拠点と国内拠点は同じチームなのだという意識を醸成するべきです」と説明した。

丸紅上杉氏は「スタートアップと連携することを目的にしてしまうこと」が、オープンイノベーションの失敗の原因だと言い切る。そう思うに至った、自らの失敗談を以下のように語った。

私が所属しているのは『デジタル・イノベーション室』なので、相談される場合もデジタルを使わなくてはいけないと思い込んでしまう場合もあります。ただ実際にPoCを行ってみると、デジタルを使う必要がなかったという案件もありました。デジタルを使うことが目的ではなく、課題の抽出や仮説の検証を通じてソリューションを考える重要性を認識したことがあります

「スタートアップとの連携」ではなく、徹底して「事業開発」を目的にするべきと訴える上杉氏。「スタートアップとの連携」はあくまでも事業を作り上げるための、一つのピースとして位置付けるべきだと強調した。

この上杉氏の意見に大きく頷いたのはIdeapoke Japan太田氏。続けて、経営幹部を含めた組織全体が「事業開発」について理解する必要性を説いた。

「なぜ儲けるのか・なにをして儲けるのか・どのように儲けるのか。これらが事業開発の起点であって、オープンイノベーションも手段の一つでしかないということを、経営者の方が明確に理解するべきだと思います」と太田氏は提言する。


グローバル・オープンイノベーションに踏み出すために――質疑応答

最後に、会場からの質疑応答も行われた中から2問だけご紹介したい。

まず上がったのはNTTデータ残間氏に対する「どうすれば経営幹部にイノベーションの価値を理解してもらえるか?」という質問。これについて残間氏は「現実味のある要素と、突飛な要素を組み合わせてポートフォリオを作成する」と回答した。

残間氏によれば「現実味のある要素」とは売上げに直結するデータなどを指し、「突飛な要素」とはSDGsに代表される事業の社会的意義などを指すという。この二つをバランスよく配置して説明することで、イノベーションの価値が立体的に伝わりやすくなると説明した。

もう1つの質問は、Ideapoke Japan太田氏に対する「市場が存在しないフェーズから、新規事業を立ち上げるにはどうしたらよいか?」というもの。太田氏は「これは難しいですね」と首をひねったが、「市場が全く存在していないフェーズからは難しいですが、市場が構想されはじめたフェーズであれば、比較的新規事業は立ち上げやすいです。その構想している人のもとに飛び込んで仲良くなればいいのです」と続けた。

太田氏はこれまで新たな市場を構想している人物と接触を図り、その悩みに応えることで信頼を勝ち取り、インテルやドイツの有名車メーカーといった企業とのグローバル・オープンイノベーションを実現させてきた。しかし、その接触を図る方法は一定ではなく、その時々によって異なったという。太田氏は「相手のニーズを見定めながら、あの手この手できっかけを探ることですね」と締めくくった。


取材後記

今回印象的だったのは、サムライインキュベート成瀬氏が講演のなかで口にした「日本の役割」について。

成瀬氏はいう。「車というテクノロジーは産業革命の時代に海外で発明されましたが、その車を世界に実装したのは20世紀の日本の産業界です。これと同様に、情報技術がIoTというかたちで世界に実装されつつある今、日本の産業界が果たす役割は大きいのではないかと考えています」

たしかに現在の日本は、イノベーションという側面では諸外国に遅れをとりつつある反面、いまだに世界3位の市場規模を誇るポテンシャルがあるとも言える。

そうしたポテンシャルを最大限活用し、新たな価値を創出するためにも、未知のテクノロジーやアイデアとの出会いは欠かすことができない。今、グローバル・オープンイノベーションが求められている。そう確信した。

サムライインキュベートが提供するグローバルオープンイノベーションの取り組みはこちら↓

(編集:眞田幸剛、取材・文:島袋龍太、撮影:加藤武俊)