農業・漁業・林業・畜産といった、いわゆる一次産業の分野は歴史も長く、業務効率は着実に進化してきました。ところが、昨今のIoT、AI、ドローン、音声・画像認識、ビッグデータといった先端技術の台頭によって一次産業はこれまでになく大きく進歩を遂げようとしています。

各分野で共創によって新たな価値を生み出すプロジェクトを紹介するシリーズ「未来を切り拓くOIプロジェクト」、今回は一次産業で注目を集めるオープンイノベーションプロジェクトを8つピックアップしました。


 【浅野水産×FACTORIUM】漁師の勘と経験をAI化するプロジェクト

宮崎県で近海かつお一本釣り漁船「第五清龍丸」を操業する浅野水産とデータサイエンス・ベンチャービルダーであるFACTORIUM(ファクトリアム)は、これまで「漁師の勘」に頼ってきた意思決定プロセスの解析とAI化を目指す共創プロジェクトを立ち上げています。

浅野水産が目下抱えている課題として、漁労長(航海計画や魚探・操業の責任者)の引退が間近に迫っていることを契機に、引退後も漁獲量を落とさないための施策として、データサイエンスを得意とするFACTORIUMとの共創をeiiconを通じて実現しています。

「漁師の勘」を再現するために、衛星から得られる気象配置図、水温分布、潮流や海面高といったデータや、船に積んでいる計器類から得られるデータ、他船の位置情報などを並べ総合的に判断するモデルを構築し、実践するフェーズまで至っています。

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 【ガイアックス×こゆ財団】農業の超短期求人マッチングサービス「シェアグリ」

ガイアックスが運営する「スタートアップスタジオ」に所属し、同社の出資先でもあるシェアグリは、宮崎県新富町の地域商社こゆ財団と提携し、農業における超短期求人のマッチングサービスを展開しています。

農業は閑散期と繁忙期の業務量のギャップが大きく、全体的に農業就業人口も減少傾向であるため、繁忙期における人手不足が課題となっています。その課題を解決するため、こゆ財団が新富町の農家のフロントとなり、マッチングサービス「シェアグリ」を導入しました。

こゆ財団はこの取り組み以外にも「新富町役場が作ったベンチャー企業」として1粒1000円の「新富ライチ」など、農作物のブランディングにも貢献しています。

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 【KDDI総合研究所×ゲイト】尾鷲市の漁場で「スマートブイ」を使ったデータ活用

ゲイトとKDDI総合研究所は2019年7月に三重県の尾鷲市で「スマートブイ」を使った水温データ測定やカメラブイによる水中撮影等の実験を開始しました。

KDDI総合研究所は、センサーや通信機能を搭載したスマートブイを用いて、センサーデータや気象データから漁獲量の予測を実現し、これまで漁師の勘や経験に頼っていた漁業の効率化を目指したスマート漁業の研究に取り組んでいます。

都内で居酒屋を展開するゲイトは生産地を活性化したいとの思いから、自ら漁業に取り組んでいて、自社加工、自社物流と組み合わせた垂直統合の新しい流通モデルを構築しています。

今後、同実証実験を通して漁獲量予測による漁業の効率化を図るとともに、スマートブイに搭載された加速度センサーを利用した波高推定実験など、漁業作業の安全性向上に寄与する検討・検証なども進めていく予定ということです。

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 【ダイエー×デザミス×NTT】牛の行動モニタリングシステム「U-motion®」

ダイエーグループの鹿児島サンライズファームはデザミスとNTTテクノクロスと連携し、2019年6月から牛の行動モニタリングシステム「U-motion®(ユーモーション)」を本格導入しています。

畜産向けのIoT事業およびコンサルティング事業を展開しているデザミスが開発した「U-motion®」は、専用の個体センサーを装着した牛の「採食」「飲水」「起立」「横臥」「動態」「反芻」などの行動データを24時間連続して収集してクラウド上に蓄積することができます。このデータをNTTテクノクロスと共同開発した独自のアルゴリズムで解析することで、牛の健康状態を判断できるサービスです。

鹿児島サンライズファームは実証実験のフィールドを提供し、直営農場の「高牧フィードロット」で肥育している約400頭の牛すべてに「U-motion®」を実験的に取り付け、事故や病気の未然防止や管理業務の効率化に活用してきました。

今後、3社は畜産生産者減少に伴う仔牛価格の高騰や、国際間の貿易政策による輸出環境の変化といった課題の解決に取り組んでいきます。

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 【日本郵政×東レ×東京農業大学】日本郵政の新規事業、高糖度トマト「さやまる」

日本郵便は2018年10月、物販商品開発のためにトマト栽培の実証実験をスタートさせています。長野の自社遊休地を活用し、フルーツトマト「さやまる」として商品化が実現しました。

「ふるさと小包」という物販事業のプライベートブランドの第一弾として始まった「さやまるプロジェクト」は、東レ建設と東京農業大学と連携する立て付けになっています。

まず、栽培ノウハウを得るために東京農業大学の企業からの持ち込みで研究を受託する制度を活用。さらに、東レ建設が持つ“トレファーム”という農業施設と提携し気温や湿度といったデータをリアルタイムで追跡できるシステムを導入しています。

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 【富士通×inaho】富士通アクセラで最優秀賞獲得の農業業界初RaaS

富士通が主催する「FUJITSU ACCELERATOR」の第7期で最優秀賞を獲得したのが農業ベンチャーのinahoです。inahoは農業業界初のRaaSモデル(Robot as a Serviceの略)として、ロボットを利用時間や台数に応じて課金するサービスモデルを提供しています。

このソリューションを通じて、アスパラガス、きゅうり、ピーマン、ナス、トマト等の「人が目視で判別し収穫作業が必要な野菜(選択収穫野菜)」をセンサーや画像処理で判別し、ロボットが自動収穫することが可能になります。

アクセラプログラムで最優秀賞を獲得したことで、富士通の持つ顧客基盤、UJITSU Cloud Service for OSSの無償利用といったリソースを活用することができます。

自動野菜収穫ロボットは2019年12月にリリースされ、国内初のRaaSモデルとして稼働し始めています。

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 【三菱ケミカル×Hmcomm×宮崎大学】異音検知技術による「豚の音声検知システム」

音声特化型AIベンチャーHmcomm、三菱ケミカルホールディングス、そして宮崎大学は、2019年9月、共同で豚の音声を収集し健康状態や母豚の発情兆候、哺乳回数を検知するシステムの開発を開始しています。

畜産業は家畜の罹患・殺処分や、出荷の遅れによる損失が増加している課題を抱えていて、畜産物の安定供給のためには疾病を早期に検知することが重要です。熟練者であれば豚の咳やくしゃみといった音から罹患を察知できるため、この「熟練の勘」をシステムで再現するプロジェクトです。

今回の共同研究では、「宮崎大学 住吉フィールド」と「南さつま農業協同組合加世田農場」で飼育する母豚や肥育豚を用いました。Hmcommのディープラーニングによる異音検知プラットフォーム「FAST-D」(Flexible Anomaly Sound Training and Detection)を活用しAIに学習させ、音声検知システムを構築することにより、少人数での効率的な畜産業務の実施につなげていくことが当面の狙いです。

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 【林野庁×BEC×SPERO】再造林放棄問題を解決するアクセラ「SFA」

一般社団法人ビジネス・エンジニアリング・センター(BEC)とアクセラレータプログラムを提供するSperoは共同で、アクセラレーションプログラム” Sustainable Forest Action(以下、SFA)”を実施しています。

このプログラムは林野庁事業「令和元年度持続可能な森林づくりイノベーション創出事業」の一環として実施され、再造林放棄問題を林業人材と異分野人材のオープンイノベーションで解決することが目的です。

2019年12月にはデモデイが開催され、最優秀賞チーム「森がたり」は環境教育に興味があるユーザーに対して、バーチャル学習、現場での伐採・造林の体験、伐採した材を加工した家具をユーザーに届けるなどのコンテンツを提供するサービスを提案しました。

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 【編集後記】劇的な少人数化、効率化で高収益を実現

一次産業は生活には無くてはならない産業ですが、産業の担い手が減少傾向にあります。何も手を打たなければ「需要は高いまま」なのに「生産性は下がる」事態に陥ってしまうわけです。つまり、「少人数で効率を高める」という極めてシンプルなお題のイノベーションが求められている分野と言えます。

一次産業と聞くと儲からないイメージを持たれがちでしたが、オープンイノベーションによって少人数で効率化が実現すれば、これまでとは反対に「高収益と言えば一次産業」と言われるようになる可能性は大いにあります。

(eiicon編集部)