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【イベントレポート】IBM BlueHub DemoDay/第3期採択スタートアップ5社によるプレゼンテーション

■IBM Watsonが加速させるイノベーション

日本アイ・ビー・エム(以下、IBM)によるインキュベーションプログラム「IBM BlueHub」において、第3期採択スタートアップのDemoDayが3月15日に開催された。会場には120名を超える事業会社やベンチャーキャピタルのキーパーソン、メディアなど多くの来場者で埋め尽くされた。

「IBM BlueHub」がこれまで支援してきたスタートアップは全部で15社。そのうち半数以上がインキュベーション終了後、資金調達につながっている。第3期目となる今回、採択されたスタートアップ5社はインバウンド、ファッション、メディカル、ヘルスケア、VRなど事業領域は様々。共通しているのは、今回のテーマであるIBMが持つコグニティブ・コンピューティング・システム”IBM Watson”の技術を活用しているということ。DemoDayでは、各社の取り組みやWatsonをどのように取り入れているのか、「IBM BlueHub」による支援の結果を交えてプレゼンテーションを行った。その一部を紹介する。


■株式会社ビースポーク(BESPOKE)

http://www.be-spoke.io/

登壇者:代表取締役 綱川明美氏

外国人観光客向けのチャットガイド「Bebot」を展開する株式会社ビースポーク。インバウンド増加により経済が潤う一方で、コミュニケーション問題で観光資源を活かしきれていない現状に着目し、いわば“多言語スキルを有するコンシェルジュ”の役割を担うチャットボット「Bebot」を生み出した。「Bebot」に質問やリクエストを書き込むだけで、観光スポットはもちろん、チェックアウト時刻やアメニティの補充などホテルに関する質問やリクエストにも対応しリアルタイムで答えてくれる。綱川氏は、「Bebot」の自然言語処理もスクラッチで自分たちで開発していると、自社の技術力の高さもアピールした。現在は英語、フランス語、スペイン語、イタリア語、ポルトガル語、アラビア語に対応。2020年のオリンピックに向けてさらなる多言語対応を進めたいと意欲を見せた。


■株式会社STANDING OVATION

http://www.s-ovation.jp/

登壇者:代表取締役CEO 荻田芳宏氏


「明日何を着ていこう」という、女性にとって永遠の課題に取り組む株式会社STANDING OVATIONが提案するのは、クローゼットの共有だ。スマートフォンアプリ「XZ(クローゼット)」に所有しているファッションアイテムを登録することで、クローゼットの中身を可視化。着まわしについてユーザー同士でアドバイスし合えるなど、日常に溶け込んだサービスを展開している。これまではアイテム登録の際に行うカテゴリやカラーの選択が登録の大きなハードルとなっていたが、Watsonの画像解析によって瞬時に判断されるようになり、ユーザビリティが大幅に向上した。荻田氏によるとクローゼットに眠る“タンスマーケット”は約3兆円にものぼるとのことで、「XZ」に蓄積されるデータの価値の高さにも言及した。今後は大手リユース、セレクトショップなどと連携し、幅広いサービスを行っていく予定の「XZ」。その注目度の高さは、すでに有名ファッション誌のサイトに導入が決定していることからも伺える。


■アンター株式会社(Antaa)

https://antaa.jp/

登壇者:代表取締役 中山俊氏


「最優秀賞」と「SoftBank賞」のW受賞を果たしたアンター株式会社。現役の整形外科医であるファウンダー中山氏が提案するのは、医療者が学ぶべきナレッジのシェアサービスだ。これまでは、治療方針や医薬品に関する疑問が生じた場合まずはインターネット検索で解決を図っていたが、その解決率は50%程度にとどまっていたそうだ。しかし「Antaa」では、現時点ですでに解決率98%を実現している。さらにWatsonを導入したことで、質問に対して瞬間的に回答することが可能となり利便性が飛躍的に向上した。ただし、全ての質問にWatsonが答えられるわけではないという。医療は患者の職業、地域、住環境、家庭環境などを考慮する必要があるため、医療者の経験から培った情報が不可欠だからだ。そのため現在、「Antaa」の取り組みに賛同している医師たちが医学情報を提供している。中山氏は最後に、「Antaa」の名前の由来を紹介しながらこう締めくくった。「アンターとは、フィンランド語でgiveと言う意味です。患者様を助けるのが医療ですが、医療者に知識がなければ何もしてあげられない。必要な情報を瞬時に医療者に提供し、そしてたまったナレッジは医療者だけではなく患者様や家族、社会に広めていきたいと考えています」。


■株式会社ミーニュー(me:new)

https://menew.jp/

登壇者:代表取締役 三宅伸之氏


「主婦業のなかで最も負担が大きいのは、献立を考えることだった」。この調査結果をもとに、料理にまつわるストレスを極限までゼロにすることを目指したのが株式会社ミーニューだ。スマートフォンアプリ「me:new」は、ユーザーの好みや栄養を考えた献立を自動で作成。買い物リストやレシピの選定、栄養分析まで行えるため、ユーザーは献立に悩むことなく家族の長期的な健康を踏まえた上で毎日の料理を行えるようになる。これにWatsonを取り入れたことで、ユーザーの性格や天気の変化、気分の変化を予測することが可能となった。今後さらにWatsonの精度を上げいき、“私よりも私を知っている「me:new」”を目指したいとのこと。また、来年から有料会員の収益化を本格的に開始すると明言。すでにヘルスケア向け有料サービスにてオムロンコネクトとの連携がスタートしている。そして同日、フードテックIoT端末の新サービスもローンチ。三宅氏は、これまでありそうでなかった料理サービスとして、これからの新しいスタンダードにしていきたいと意気込みを語った。


■ナーブ株式会社(NURVE)

http://www.nurve.jp/

登壇者:代表取締役 多田英起氏/プロダクトマネージャー 寺本雅裕氏

“リアルな購入体験”の実現を目指す株式会社ナーブ。リアルとバーチャルをつなぐプラットフォーム「NUR*VE(ナーブ)」を展開している。すでに実用化しているのが賃貸不動産の「VR内見」だ。店頭や自宅にいながらにして複数の物件を内見できるため、気になる物件を厳選することなく全てを内見することが可能になった。また、Watsonを組み合わせることで事業者側の業務効率化を図ることにも成功。手間のかかる間取り図面の作成は、Watsonが自動で行ってくれる。さらに、自宅でVR内見を行う際の接客スタッフとして、Watsonが物件の説明やユーザーからの質問に回答してくれるという。4月にはVR空間に家具を配置できる新サービスもリリース予定。こうした不動産業界という、テクノロジーが参入しにくい業界に切り込んだことも特筆すべき点だ。とは言え、「NUR*VE」のサービスは不動産業界にとどまらない。旅行業界、中古車販売業など、応用できる領域は幅広い。多田氏は、「今までの“あたりまえ”をVRとAIが変える」と力強く宣言した。


■講評/経済同友会 終身幹事 日本アイ・ビー・エム株式会社 相談役 北城恪太郎氏

これまで数々のベンチャー企業のサポートに注力してきた北城氏は、各社のプレゼンテーションを高く評価。事業活動を持続させるためにも早期の資金確保が重要であると説いた。その中で、経済産業省の主導により創設された資金調達支援「エンジェル税制」を紹介。加えて、信用度が低いベンチャー企業においては、元大手企業の経営陣などを社外取締役に据えることで信用度の補完を狙えることにも言及。コーポレートガバナンスの面だけではなく、事業のバックアップという面からも社外取締役の必要性の高さについて持論を展開した。


■受賞結果概要

審査は、「新規性」「成長性」「テクノロジーの活用度」「共感度」の4項目からなされた。会場の来場者による投票によって<最優秀賞>が決定。そのほかパートナー賞として<PR TIMES賞><SoftBank賞>が選出された。受賞ポイントの解説とともに、受賞企業をあらためて紹介する。


<最優秀賞>

■アンター株式会社「Antaa」


解説:日本アイ・ビー・エム株式会社 大山健司氏

「ファウンダー中山氏の事業にかける熱い想いが、会場のみなさんに伝わった結果に他ならないでしょう。5社のなかで唯一“ゼロイチ”で事業を起こされていることも、選出ポイントの一つだと思います」


<PR TIMES賞>

■株式会社STANDING OVATION「XZ」


解説:株式会社PR TIMES 江口学氏

「タンスの中の可能性の高さに魅力を感じました。我々が営業支援していけることも多いと思い、選出させていただきました。これからどのように成長していくのか楽しみです」


<SoftBank賞>

■アンター株式会社「Antaa」

■ナーブ株式会社「NUR*VE」


解説:ソフトバンク株式会社 立田雅人氏

「登壇いただいた5社すべて、当社が掲げる“情報革命を通じて人類を幸せにする”というビジョンを体現していると感じました。そのなかで早期にメイクマネーできると感じた2社を選出させていただきました」


■取材後記

 「仕事がなくなるかもしれない」という声も耳にする、近年なにかと話題のAI。特にIBM Watsonにおいては、米国の人気クイズ番組でチャンピオンに勝ったことでも注目を集めている。今回のピッチにもあったように、もはやAIがあらゆるジャンルのイノベーションを加速させることに疑いの余地はない。労働人口の減少という大きな課題を抱えるわが国においては殊更、今後ますます経済発展に欠かすことのできないテクノロジーに位置づけられていくだろう。近未来の社会には、AIそしてオープンイノベーションという可能性の広がりにより新たな市場が生まれ、これまでにはなかった雇用がいくつも誕生しているに違いない。

(構成:眞田幸剛、取材・文:佐々木智晴、撮影:加藤武俊)