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地方都市「仙台」を舞台にした官民連携型アクセラ、オンラインDemoday開催!<後編>――「地方百貨店」の体験をアップデートする共創プランとは?

地方都市「仙台」を舞台にした官民連携型アクセラ、オンラインDemoday開催!<後編>――「地方百貨店」の体験をアップデートする共創プランとは?

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「X-TECHイノベーション都市・仙台」を標榜する仙台市では、テクノロジーで仙台・東北エリアをアップデートすることを目指し、2018年より『SENDAI X-TECH Innovation Project』を推進している。その一環として、今年度は「株式会社楽天野球団」と「株式会社藤崎」をパートナー企業に迎え、アクセラレータープログラム『SENDAI X-TECH Accelerator』を開始した。

本プログラムのテーマは、“都市をアップデートするWAO!体験を創る”ことだ。2019年の11月にエントリーを締め切り、1月にピッチコンテストを開催。その中から選ばれた複数社が、仙台市およびパートナー企業とともに、アイデアの社会実装に向けて数ヶ月にわたるインキュベーションに臨んだ。

その成果を発表するデモデイ(成果発表会)が、2020年3月24日に完全オンラインで実施。本記事では、「株式会社楽天野球団」との共創プランを紹介した<前編>に続く<後編>として、東北を代表する老舗百貨店「株式会社藤崎」との共創プランについてレポートする。地方都市の「ハレ」の舞台として、大きな役割を担ってきた百貨店が、テクノロジーを取り込むことで、どんな体験を生みだすのか――。地方百貨店の持つ新たな可能性に迫る。

百貨店の体験をアップデートする、2つの共創プラン

1月に開催された審査会(※)を経て、実装に向けたインキュベーションへと進み、最終的にデモデイに参加したのは、「株式会社ヒナタデザイン」と「株式会社ミューシグナル」の2社だ。両社が株式会社藤崎、および仙台市をまじえて、練り上げてきた共創プランの中身について以下で紹介する。

※関連記事:テクノロジーの活用で、仙台の老舗百貨店はどう変わる?――『SENDAI X-TECH Accelerator』 審査会レポート 【藤崎編】

 

【1】 リアル店舗×ARテクノロジーで、新感覚の体験価値を提供 (株式会社ヒナタデザイン)

最初に紹介するのは、株式会社ヒナタデザインの共創プランだ。プランの発表に先立ち、株式会社藤崎の山田氏が、本テーマに関わる百貨店の課題について説明を行った。山田氏によると、百貨店ではランドセル販売会を3世代が来店するひとつの商機と捉えているが、プラスアルファの提案ができていない。ランドセル販売会を通じて、藤崎が次世代顧客として位置付ける団塊ジュニア世代にいかにファンになっていただくかが課題であったと話す。

また本年度、仙台市が運営する八木山動物公園のネーミングライツを取得したことから、動物園との相互誘客を図るコンテンツづくりに挑戦したいとの考えがあったと説明した。一方、仙台市役所の佐藤伸洋氏は、藤崎百貨店の顧客体験を高めることで、百貨店に集まる人の流れを創出すること。さらに、それを百貨店から街全体へと広げていく狙いがあったと話した。

上記のような百貨店の課題と仙台市の期待をもとに、株式会社ヒナタデザインが提案し、進めている共創プランはこうだ。

同社は、実在風景にバーチャル情報を重ねて表示するAR(拡張現実)に強みを持つ企業だ。このテクノロジーを活用し、ランドセル販売会でのバーチャル試着体験会を企画する。具体的には、ランドセル販売会に来店されたお客様に対し、ランドセルと相性のよい入学式の服や両親向けのスーツを提案し、AR試着してもらう。AR試着画像をプレゼントするなどして、プラスアルファの提案につなげるという。

また、もうひとつの提案として八木山動物公園との連動施策である百貨店内でのバーチャル動物園企画を進めている。百貨店館内各所に配置された特定のマーカーを見つけ撮影すると、スマートフォンのディスプレイ上に実物大の動物を表示できるというものだ。ラリー形式にすることで、館内の回遊性も高める。すべての動物をゲットできた人には、抽選で景品をプレゼントするなどして、イベントを盛り上げていく考えだ。

「将来的には、このイベントの実施規模を広げ、地域共創イベントとして、街を巻き込んでイベント化していきたい」と、同社の大谷氏は意気込みを語り、百貨店から街へと広がる共創プランの発表を終えた。

【2】 「音」のテクノロジーで、新しい買い物体験を創出 (株式会社Musignal)

続いて紹介するのは株式会社Musignal(ミューシグナル)の共創プランだ。株式会社藤崎・山田氏の説明によると、近年「目的買い」が増えているという。百貨店としては、目的買いだけではなく、プラスアルファの気づきを感じていただき、需要を喚起できるような空間、あるいは情報収集やウィンドウショッピングを楽しめるような空間にしたいとの思いがあった。そこで、「音」による売り場のサウンドデザインに注目したという。

一方、仙台市の佐藤氏は、Musignalが仙台市発祥の企業であることに触れ、地元企業×地元企業によるコラボレーションで、周辺地域の発展につなげていきたいとの考えを述べた。

このような百貨店の課題と仙台市の期待を背景として、音のテックカンパニーである株式会社Musignalが進行中の共創プランは以下だ。

株式会社Musignalは、「Sizzle Panel(シズルパネル)」という高音質スピーカーを主力プロダクトに持つ企業だ。このSizzle Panelを活用して、百貨店の売り場のサウンドデザインを試みるという。百貨店側と打ち合わせを重ねた結果、今回は「藤崎レインフェスタ」「Summer Festaガーデン」「藤崎xバーチャル動物園」の3つのプランを具体化した。

「藤崎レインフェスタ」では、レイングッズを販売する特設売り場を、宮城県内で収音した雨の音でデザインする。天井には傘を配し、せせらぎ音とともに雨の日を「音」で演出するのだ。また、屋上ビアガーデンである「Summer Festaガーデン」では、夏を感じさせる蝉の鳴き声や波の音、花火大会の音でサウンドデザインするという。

さらに、「藤崎×バーチャル動物園」は八木山動物公園とのコラボレーション企画だ。前出の株式会社ヒナタデザインともコラボレーションしながら、Sizzle Panelから発せられる動物の鳴き声や足音をヒントに、動物を探すという企画を構想している。子どもやファミリー層をターゲットに、「音」のテクノロジーも盛り込みながら、驚きと楽しい空間を生み出し、百貨店の集客および売上アップにつなげるという。同時に、百貨店から動物園への人の流れもつくり、相互誘客を狙っていく考えを示した。

藤崎担当者に聞く、デモデイを終えての感想と今後の展望

デモデイ終了後、株式会社藤崎にて本プロジェクトを担当する皆さんにお集まりいただき、『SENDAI X-TECH Accelerator』プログラムの感想や今後の展望について話を聞いた。

▲株式会社藤崎 経営企画部 未来創造ラボ 千葉伸也氏(左)、根本雄二氏(右) ※1月に実施された審査会の模様より

――最終的に、上記2社を選んだ理由は?

藤崎・千葉氏: お客様にリアル店舗を活用した「WAO!体験」を提供できるかどうかを判断軸に、最終的にこの2社を選ばせていただきました。Musignalさんだと、百貨店施設内の音が単調だという課題認識がありましたから、百貨店内のモノ・コトに音を掛け合わせて、お客様の五感に働きかける新しいお買い物体験をコンテンツとして創出できると考えました。

また、ヒナタデザインさんについては、ARを活用すれば、どんなものでも手軽に試着ができます。お客様の滞在できる時間は限られています。また、施設内の物販スペースにも限りがありますので、どうしてもご紹介しきれない商品もあります。そのなかでこのツールを活用できれば、お客様のお買い物体験をアップデートできる可能性があると考え、選ばせていただきました。

――両社ともに、八木山動物公園とのコラボレーション企画が含まれていましたが、本プログラム開始当初から予定されていたのでしょうか。

藤崎・千葉氏: 当初はあくまで百貨店館内を活用した「WAO!体験」を想定しており、動物園とのコラボレーションは予定していませんでした。今回の取り組みのターゲットや具体的な内容をディスカッションする中で、「藤崎と地元動物園の取り組みを有効活用できるのではないか?」というアイデアが生まれたんです。

百貨店内だけではなく、他の集客施設との導線をつくったほうが、共創パートナーさんの企画も実験の幅が広がりますし、地域としても相乗効果が生まれるはずです。そう考えて動物園ともコラボレーションすることを決めました。

――約2カ月のインキュベーション期間中、どのような点にこだわって進めてこられたのでしょうか。

藤崎・千葉氏: 最初は話が盛り上がり、「こんなことやってみたいね」と、どんどん話が膨らんでいきました。百貨店はそもそも、モノやコトが集まるプラットフォームですので、どんなソリューションも対応できます。しかし、「やりたい」「お客様に支持されそう」だけで進めるのではなく、「今回の成果をどう可視化するか」「今後、どれだけ広げられる可能性があるか」も意識しながら、話を詰めていきました。

創業200年を迎えた藤崎にとって初めてのオープンイノベーションでしたから、どのようにインキュベーションを進めるか正直手探りではありましたが、双方向でのノウハウの蓄積に繋がるよう、2社さんとは何度も打ち合わせをしてプランを具体化しましたね。

――今後、この共創を通じて、どのようなことを実現していきたいですか。

藤崎・千葉氏: 今回、初めてオープンイノベーションでの共創を経験しました。次のステップとしては、小さくてもやってみることです。もう少し先にある中期目標としては、藤崎百貨店を色んな共創の場として活用していくこと。クロステクノロジーもいいですし、クロスローカルデザインやブランディングでもいいと思います。

藤崎と共創したいという企業さんに、実験やテストマーケティングの場として、この館を活用していただき、共創を通じて私たちもここでしか得られない独自コンテンツを発信し、結果として共に収益を得ていく。そんな風に「地方百貨店2.0」を歩んでいければと思います。

――共創の場として地方百貨店を活用する試みは、おそらく全国初。これからが楽しみです。

藤崎・根本氏: 今の百貨店は、業界の全国ネットワークはあるものの、業界を越えてのネットワークはなく閉鎖的です。しかし、今回のプログラムを通して、私たちは行政を担う仙台市さんや地域の企業さんなどとつながりを持てました。この取り組みから、色んなところにイノベーションの種があることに気づくことができました。

ですから、社内にイノベーションを持ち込みながら、こうした意識を社内にも風土として根づかせることが、これからの私たちの役割だと思っています。

藤崎・山田氏: 藤崎としては、他社との共創が、今後ビジネスを拡大していくうえで重要だと捉えています。今回はプログラムを通して、藤崎の持つ経営資源と自社では保有していなかったデジタルコンテンツを組合せて、新しい価値の共創を目指しています。今後も引き続き、こうした取り組みを強化していきたいです。

目的は、リアル店舗とデジタルコンテンツのシームレスな融合による新しい価値の創出です。百貨店館内で実験を始めますが、館内に限らず空港や駅、スポーツ施設へと広げ、人口交流を活発化させる取り組みに発展させたいです。

――最後に仙台市役所の佐藤さんにもお伺いします。仙台市としては、百貨店を巻き込みながら、どのような街づくりをしていきたいですか。

仙台市・佐藤氏: 藤崎さんは地元商店街の中心にある百貨店です。ここから新しい動きが生まれて、コラボレーションによって社会に実装される。さらに、駅や空港、市役所といった他の施設にも広がる。今回の取り組みをモデルケースに、仙台市全体に波及していくような流れを創出していきたいと思います。

取材後記

地方都市の中心で、「ハレ」の日の舞台として賑わってきた百貨店。ECの台頭や高齢化により悲観的に語られることが増えたが、新たなテクノロジーを取り込み進化しようとする動きも生まれている。

共創の舞台となる藤崎百貨店が、これからどのように変化していくのか――。テクノロジーを取り込みながら、街の賑わいにも貢献していく「未来の百貨店」は、まだ私たちの想像の中にしか存在しないが、今回のプログラムを追う中で、その一端を垣間見た気がした。

(編集:眞田幸剛、取材・文:林和歌子)

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