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【インタビュー/500 Startups Japan・澤山氏】投資が成功する可能性は5%?オープンイノベーションを目指すに当たり、今知るべきこと、取るべき戦略とは。

60カ国1800社以上のスタートアップへ投資する、世界で最もアクティブなシード投資ファンドである「500 Startups」。その日本拠点として立ちあがった500 Startups Japanのマネージングパートナー・澤山氏は、投資銀行、証券会社、VCとキャリアを積みながら、多くの大手企業やスタートアップ企業と接してきた。オープンイノベーションは世界的な流れだが、澤山氏は「大手とスタートアップのコラボレーションはやはり簡単なことではない」と話す。継続して行うとなれば、さらに難しさも増すだろう。そのような中、オープンイノベーションを一過性のものとせず、事業活動の一つとするためには何を知り、どのような心構えが求められるのか。お話を伺った。

▲500 Startups Japanマネージングパートナー 澤山陽平氏

東京大学大学院工学系研究科修了。JPモルガンを経て野村證券に入社。2015年12月から現職。プログラミングを趣味としており、個人として TechCrunch Tokyo Hackathon に参加し、2014 年は TOP5入賞、2015年はIBM賞を受賞したほか、大学時代の友人と「VR ミニ四駆」というガジェットを制作し Maker Faire Tokyo 2015 に出展するなど幅広い活動を展開している。


■「プログラムの組める投資家」という、少々珍しい存在。

――澤山さんはJPモルガンという外資系投資銀行で働きながら、エンジニアとしてもご活躍されていましたよね。

はい。大学で技術を学んでおり、もともとはゴリゴリのエンジニアだったんです。卒業後も技術の仕事をするつもりでしたが、在学中にゴールドマン・サックスのテクノロジー部門のインターンを経験したのがきっかけで、金融ビジネスが面白いと感じるようになりました。投資銀行の世界をもっと深く知りたくなって、他にも色々と受けてみた結果、JPモルガンの投資銀行部門に入ることにしたのです。

――JP モルガンではどのような仕事に携わっていたのですか。

主にM&Aを手がけていました。大企業に対し、企業買収の提案を行っていたのです。テクノロジーセクターを担当してはいましたが、当時関わっていたのは何千億円といった大型のクロスボーダーM&Aが中心でした。ハードワークでしたがエキサイティングな毎日ではありましたね。

――その後、野村證券に移られていますね。

ヘッドハンターからスタートアップ企業をリサーチする仕事を紹介されました。技術も金融もわかる、ということで、適任だったのです。野村證券に入社後は、年間で約200社のスタートアップと会っていました。スタートアップの情報はなかなか出てこないので、足で稼ぐのが基本です。東京や首都圏はもちろん、地方にもよく足を運んでいましたよ。出会いの場としてイベントも積極的に活用し、例えばMorning Pitchも立ち上げメンバーの1人として関わっています。

――その後、現在の500 Startups Japanのマネージングパートナーに就任されました。きっかけは何だったのでしょう。

正直なところ、投資家になるというつもりはありませんでした。どちらかというと、自分自身で起業しようと考えており、実際にアイデアも具体的な形にしていたほどです。それなのに500 Startups Japanを立ち上げることにしたのは、もう一人のパートナーであるジェームズが非常に仲のいい友人であり、さらにお互いのスキルが非常に相補的だったからです。

ジェームズはJPモルガンでの後輩でもありますが、彼がSTORYS.JPを起業してから、そしてDeNAの投資部門に移ってからも深い付き合いがありました。日本語のわかるアメリカ人のジェームズと、英語のわかる日本人の私で、良いコンビになるのではないかと思い、普段は悩むほうなのですが、声をかけられた時は即決しましたね。このコンビであれば、500 Startupsのノウハウやネットワークを日本の起業家に届け、スタートアップ企業を取り巻く日本国内のビジネス環境をもっと良くできるのではないか、という思いも、もちろんありました。

――澤山さんにとって、やはりスタートアップは魅力的ですか。

自分で起業準備していたほどですので。新しいものが生み出されるのを見るのは、とても面白いですよ。一方で、日本はスタートアップが育ちやすいとは言えず、価値を判断できる人がいなかったり、ネットワークが弱かったり、グローバルな展開がしにくかったりなどの課題があります。そういった点を改善したいと考えています。


■投資したスタートアップが、時価総額100億円を超える規模になる確率は5%に過ぎない。


――澤山さんは多くの大企業とスタートアップを結びつけています。大企業がスタートアップと共創する際に、知っておくべきことしてどんなことが挙げられますか。

まず知っていただきたいのが、スタートアップの将来は予想しきれないということです。投資は不確実なものなので、その不確実性をコントロールするしかありません。つまり、投資をするなら、より多くのベンチャーに対し行うのです。

500 Startupsはこれまで約1800社に投資を行ってきました。経験も知見もあるVCが一件一件精緻に調査を行い、それでも時価総額100億円を超える企業に育つのはその中のわずか5%です。1社に投資してうまくいくなどということはないと思ってもらっていいでしょう。確実に成功するためには、単純計算では少なくとも20社への投資を行わなければなりません。中には、年間100社以上のスタートアップと実証実験を行っている企業もあります。確実な成功をつかむためには、そのくらいのことは必要だということです。

――なるほど。

しかも、結果の出るのが5年先ということが当たり前の世界です。成果を急ぎ過ぎるのは得策ではありません。そのことを理解して、オープンイノベーションを行わなくてはならないでしょう。それと、どのステージのスタートアップと連携するかも重要なポイントです。買収を考えた場合、シードの段階では安く買えますがリスクは非常に高くなります。プロダクトができ顧客もついている段階だと、買収額は高くなりますが、リスクは中程度で済みます。こういったことを総合的に考慮しながら、パートナー企業を探すことが大切ですね。

――選ばれやすいスタートアップは、何か特徴のようなものはありますか。

一概には言えないところがあります。あくまで私たちの視点で言えば、グローバルあるいは超ローカルなスタートアップに興味を持ちます。超ローカルというのは、日本なら日本でしかできないビジネスという意味です。慣習や文化、その他のものがあまりにも日本的すぎて、海外からの参入が図りにくい。そのようなビジネスにも、グローバルと同じくらい可能性を感じるのです。


■大手も「選ばれる立場」にある。

――大手とベンチャーと連携を行う際、どのような注意点が挙げられますか。

そうですね。大手側は確かに連携先を慎重に選ばなくてならないのですが、同時に選ばれる側でもあるのです。

――と言いますと?

ご存知のように、今、多くの日本企業がオープンイノベーションの成功を目指しています。優秀なスタートアップを見つけ出し、手を組もうと必死になっていますね。世界的なトレンドになっているとも言えるでしょう。結果として、大手側の数が過剰になっているのです。これまでのように、受け身の姿勢で待っていても、良いスタートアップは来てくれません。選ばれることを意識して、自ら動いていかねばならないのです。

――スタートアップの受け入れ態勢が整っているなど、良い企業であることをアピールしなければならない、ということでしょうか。

はい。今はアクセラレータプログラムが盛んに行われる時代です。単に「大手がアクセラレータプログラムをやる」という告知だけでは、なかなかスタートアップが選んでくれなくなったのです。

――大手側が選ばれるためには、何が必要になるでしょう。

共に何を成し遂げたいかを明示し、そのために何が提供でき、何を求めているかを伝えることだと思います。スタートアップにはスピード感や人材、独自の技術があり、一方、大手には顧客基盤と資金があります。スタートアップにとって一番の資源は起業家・経営者になりますから、その人にとって何が提供できるかを考えてみるのもいいでしょう。


■編集後記

これまでの経験談を交えて、オープンイノベーションを実行する上での心構えやスタンスを語ってくれた500 Startups Japanの澤山氏。内容を大きく2つのポイントにまとめると以下のようになる。

1. 一発必中の成功を目指さない。

経験と実績のあるVCの500でも、成功するスタートアップを見抜くのは難しい。1社の投資、1社との共創では、成功しない可能性のほうが高いのだ。このことを十分に理解し、投資や共創相手を探すことが重要だろう。何度か行っていくうちに、自社に合ったオープンイノベーションのエコサイクルも見えてくるはずだ

2. 大手も選ばれる側にある。

資金や顧客基盤を提供する大手は、ついつい選ぶ側になると思いがちだ。しかし、優良なスタートアップと組みたいと考える大手は少なからずあり、場合によっては、スタートアップ1社に複数の大手が提携を申し入れることもあるだろう。つまり、大手も選ばれる側だ。待っていればスタートアップが来る時代は終わった。選ばれるための工夫が求められる。

(構成:眞田幸剛、取材・文:中谷藤士、撮影:加藤武俊)