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【オープンイノベーションの立役者たち】2003年から800件以上を支援してきたナインシグマ代表・諏訪氏が語る「オープンイノベーション成功のカギ」とは?

「せっかくスタートさせたプロジェクトが頓挫してしまった。」——オープンイノベーションが盛んになっていくほど、そうした話を耳にすることが増えている。オープンイノベーションを成功に導くためには、何が必要なのだろうか。「オープンイノベーション」という言葉が日本に入ってくる前の2003年から、800件以上のプロジェクトを支援してきた経験を持つ、株式会社ナインシグマ・ジャパン 代表取締役の諏訪 暁彦氏に伺った。

▲株式会社ナインシグマ・ジャパン 代表取締役 諏訪 暁彦氏

マサチューセッツ工科大学大学院 材料工学部修了。マッキンゼー・アンド・カンパニー、日本総合研究所を経て、株式会社ナインシグマ・ジャパンを設立、代表取締役社長に就任。(米国ナインシグマ社取締役兼務)これまで200社以上の国内企業のオープンイノベーション活動を支援。


オープンイノベーション成功のカギは、優先度の高い重要なテーマで行うこと。

――オープンイノベーションに10年以上関わってこられた諏訪さんですが、当時の日本国内のオープンイノベーションはどのような状況だったのでしょうか。

ナインシグマ・ジャパンを立ち上げる前は日本総研に在籍しており、米国ナインシグマ社とのアライアンスで、企業のオープンイノベーションを支援していました。2003年頃で「オープンイノベーション」という言葉は日本に浸透していなかったものの、問題意識のある一部の国内大手企業では、他社と協業して何か新しいことを行うことの重要性を認識されていましたね。その後2006年にナインシグマ・ジャパンを設立したのですが、当時はまだ今ほどのノウハウがなく、うまくご支援できないケースもたくさんありました。

――成功に至らない原因は、どのようなところにあったのでしょうか。

企業にとって重要度の高くないテーマでスタートしたことですね。オープンイノベーションは新しい取り組みだからこそ、不安もあります。そこで「まずはあまり優先度の高くないテーマでやってみよう」というプロジェクトが多かったのです。そのためパートナーが見つかっても本腰を入れることなく、結果的にうやむやになってしまっていました。

そうした経験から思い至ったのは、「オープンイノベーション成功のカギは、重要なテーマで、優先的に行うこと」です。

――「試しにやってみよう」ではなく、重要なテーマで本腰を入れて取り組むことが成功の秘訣なのですね。

とはいえ「重要なテーマを見つけよう」となっても、なかなかうまくいかないのが現実です。なぜなら、多くの企業がこれまでずっと自前で技術や製品開発を行ってきたからです。他社と組んだ成功体験のない企業が、いきなり新しいパートナーと大きな成果が得られるようなテーマを探しても、見つからないことがほとんどです。そういった企業がオープンイノベーションで成果を上げるには、既存の枠を超えて考えていける風土を創ることが重要だということが分かってきました。


最も重要なのは、オープンイノベーションの推進者

――日本企業がオープンイノベーションで成果を出せるような風土を創るには、何が必要なのでしょうか。

重要なファクターは3つあります。「オープンイノベーション推進者」、「予算」、「テーマレビューの方法」です。これまで多くの企業を支援してきた経験から、最も重要なのは「オープンイノベーション推進者」が果たす役割ですね。優れたオープンイノベーション活動を行う国内企業8社のリーダーにヒアリングしたところ、オープンイノベーション推進者には、4つの重要な役割が求められることが見えてきました。

――4つの役割とは。

1つ目は、「全社戦略に合わせた方針の策定」です。会社の経営戦略において、オープンイノベーションはどのような目的で、どう役立てていくのか。ビジョンを策定するだけではなく、それを経営陣に魅力的に伝え、コミットメント得ることが大切です。トップが本気になれば予算も確保しやすいですね。

2つ目は、「手段・プロセスの構築」です。オープンイノベーションの手段は様々ですから、自社の戦略や方針に合わせて選択していくことが必要です。また、ほとんどの日本企業には、既存の事業をうまく回すための仕組みはありますが、オープンイノベーションなど新しい事業を生み出すようなプロセスやルールはありません。そこで「サンプルの作成費用を前払いできるよう、前払い試作費をプールしておく」といったルールを予め用意するだけでも進めやすくなります。

こうした話をすると、「そんな仕組みがなくても、うちの会社は昔からオープンイノベーションができていた」という声も聞こえてきます。しかし、それは一部の尖った人ができていただけのこと。個人ではなく、会社としてオープンイノベーションで大きな成果を創出していくためには、組織的に推進していかねばなりません。ですから推進者は、社内ルールを忠実に守る人でも実践できるプロセスを創る必要があるのです。

——なるほど。

3つ目は、「啓蒙・実践者の育成」です。せっかく方針を定めてルールを構築しても、それが知れ渡らなければうまくいきません。また、これまで自前主義だった研究者や技術者は、オープンイノベーションの経験を積極的に他に話さない傾向があります。そこで推進者は、オープンイノベーションの方針や目的などを、経営陣・ミドルマネジメント・リーダー・担当者などあらゆる層に啓蒙して回ることが必要です。さらに、啓蒙活動を行う中で、賛同して現場を引っ張っていく実践者を育成していくことも、オープンイノベーションの成功率を高める上で重要な活動です。

——最後の4つ目の役割を教えてください。

重要かつ、最も時間がかかる役割が、4つ目の「実践の支援」です。推進者は、単に進捗を管理するだけでは不十分です。なぜなら、日本の大手企業は外と協業した経験のある人は少なく、何をすべきか分からない実践者がほとんどだからです。そこで推進者は自らロールモデルとなり、背中を見せることで支援し、プロジェクトを牽引することが求められます。


魅力的なオープンイノベーションのテーマを生む風土を築くために

――オープンイノベーションで成果を出せるような企業風土を創るための3つのファクターのうち、残りの2つ「予算」「テーマレビューの方法」についてもお聞かせください。

「予算」については、「協業の予算」が特に重要ですね。予算申請をする時に、来期見つかるかどうか分からない新しいパートナーとの協業予算は取りにくいですよね。しかし、有望なパートナーを見つけた後に、「予算が下りるかどうか、半年先まで分からないので待ってください」となると、本気度が低いと思われ、協業を辞退されてしまうかもしれません。そこで有効なのは、企画部門・戦略部門が、期の途中で見つけたパートナーとの協業の予算を、予めある程度プールしておくことです。いきなり何億もするような大きな額である必要はありません。最初の協業でかかる費用は、数百万円程度。ですから新たな協業先と組むテーマの件数×数百万円で、数千万円もあれば十分です。

——なるほど。

「優先度の高い重要なテーマで実践すること」がオープンイノベーション成功のカギと、最初に申し上げましたが、テーマを精査していく上で「テーマレビューの方法」も大事な要素です。通常は、予め時間15分~30分を割り振って、テーマリーダーが順番にプレゼンテーションを行います。しかし会社として戦略的にオープンイノベーションに取り組むべき領域においては、レビューの方法を変えます。

——具体的なレビュー方法を教えてください。

テーマリーダーが3分や5分でサマリを説明した後、マネジメントがオープンイノベーションに関わる様々な質問を投げかけます。「なぜ自社で行う必要があるのか」「社外や異業種も含めた専門家と話はしたのか」「すでに課題が解決されている可能性もあるが、似たような課題に取り組んでいる可能性があるのは誰か」といった質問です。

これらの質問はオープンイノベーションの「Power Questions」と呼ばれ、2005年ごろからKraft Foodsが導入。それが非常に効果的であるということから、多くのグローバルメーカーが自社流にアレンジしてレビューに使用しています。この質問に十分な回答ができない場合、「次回までに回答できるようにしてください」と、一旦そのプロジェクトを凍結させてしまいます。これを徹底することで、テーマリーダーも目の色を変えて取り組むようになり、オープンイノベーションの可能性も検討するようになります。

――こうしてお話を伺ってみると、オープンイノベーションを成功させる「推進者」は、相当なスーパーマンである必要がありますね。

まさしく、そうですね。この数年、オープンイノベーション専門の部門や担当を置く日本の企業が増えてきています。それ自体は非常に良いことです。しかし、担当部門をつくればいいというわけではありません。日本企業がオープンイノベーションで成果をあげるために、どう上手く実践していくのか、eiiconさんとも協業して、ぜひ多くの企業を支援していきたいと考えています。


編集後記

オープンイノベーションの経験がないため、「リスクの少ないテーマから試しに始めてみたい」という気持ちが芽生えてしまうのは当然のことだろう。しかし成功のカギは、あえて「優先度の高い重要なテーマで実践すること」だという諏訪氏。そして、魅力的なオープンイノベーションのテーマを生み出すために必要な要素は、「オープンイノベーションの推進者」「予算の確保」「テーマレビューの方法」。特に、オープンイノベーションの推進者には、経営戦略に沿った方針や、新しいパートナーとの協業をサポートする仕組みを作り、浸透させ、またその実践をロールモデルとなって支援する役割が求められている。

(構成:眞田幸剛、取材・文:佐藤瑞恵、撮影:佐藤淳一)