2017年よりオープンイノベーションプログラム「POST LOGITECH INNOVATION PROGRAM」をスタートさせるなど、外部企業との連携に意欲的に取り組んできた日本郵便株式会社(以下、日本郵便)。新たな時代に対応したイノベーションの創出をねらう同社が、今回、物流のラストワンマイルにおける課題解決を図る試みを、スタートアップとの共創によりスタートさせた。

それが、CBcloud株式会社(以下、CBcloud)、株式会社オプティマインド(以下、オプティマインド)と3社で共に創り上げてきた、AIを活用した配達業務支援システムの試行導入だ。

このシステムは、ゆうパックなどの荷物に貼付されたバーコードをスマートフォンでスキャンするだけで、AIが最適な配達ルートを自動作成するというもの。配達員の手作業から自動化することで業務負荷を軽減し、再配達などによる配達ルートの変化にもリアルタイムで更新されることにより、経験の浅い配達員でも効率的な配達業務が可能になるという。

6月15日、世田谷郵便局において、3社共同によるシステムのお披露目会が開催された。現場には多くの取材陣が来場し、試行導入への期待感の高さがうかがえた。そこでeiiconではお披露目会の模様をレポートし、さらにその翌日に行った3社への独占インタビューの内容をお届けする。


【お披露目会レポート】熟練配達員のスキルをAIで再現した配達業務支援システムを公開

お披露目会は、日本郵便の三苫氏による、試行導入の背景やコンセプトについての発表からスタートした。

冒頭、三苫氏は今回の試行導入のコンセプトを「誰もが配達で活躍できる環境の実現」だと説明。CBcloud、オプティマインドがそれぞれ有する優れた技術を融合させることで、郵便・物流事業におけるラストワンマイルである配達業務を誰でも効率的に行えるようになり、持続可能な業務モデルを確立できるとした。

▲日本郵便株式会社 執行役員 郵便・物流業務統括部長 三苫倫理氏

日本郵便がそうした試みに至る背景には、物流業界全体が抱える一つの課題の存在がある。それは「人手不足」だ。現在、日本は少子高齢化の影響により、生産年齢人口が減少の一途を辿っている。しかし、その一方で、EC市場の急激な拡大により、宅配便の個数は急増しており、物流業界は構造的な人手不足に陥っている。

三苫氏は、Withコロナ/Afterコロナの時代においては、その傾向はますます顕著になるとしたうえで、「我々がこうした課題に応えなければならない。今回の試行導入は構造的な人手不足に対する”解”だと考えている」と語った。

そして、そのソリューションとなるのが、当日にお披露目された「AIによる配達ルート自動作成などを活用した配達業務支援システム」だ。

従来の日本郵便の配達業務には、いくつかの問題点があった。その一つが、業務に用いられる専用端末だ。日本郵便では荷物の管理に独自の専用端末を用いているが、操作の習得に時間がかかる、画面が小さい、文字が読みづらいなど、UI/UXの低さが業務への負担となっていた。

また、配達ルートの作成も課題だった。配達ルートは出発前に配達員自身で作成するため、効率的な配達を行うためには、一定以上の経験やスキルが求められる。さらに配達時には、紙の受領証を発行することから、保管・管理の煩雑さも問題となっていた。

今回、試行導入される配達業務支援システムでは、こうした問題点をデジタル上で一元化することに成功した。専用端末はスマートフォンで代用し、直感的に分かりやすいインターフェイス上で荷物を管理することができる。さらに、スマートフォンで荷物に貼付されたバーコードをスキャンすれば、AIが最適な配達ルートを自動作成するため、経験や土地勘がない配達員でも、安全で効率的な配達が可能になる。

▲専用端末を使用することなく、スマートフォンで荷物管理が可能。

▲荷物情報からAIが自動で配送経路を提示してくれる。

▲積載容量が大きい「GYRO CANOPY」という車両も導入。

この配達業務支援システムの技術は、CBcloudの宅配効率化システム「SmaRyu Post」と、オプティマインドのラストワンマイルのルート最適化クラウドサービス「Loogia」を連携させることで実現している。

日本郵便はCBcloudと2019年から、オプティマインドとは2018年から、別々に実証実験を行ってきたが、今回の配達業務支援システムの実現に向けて、両社のノウハウを組み合わせ、3社での共創を提案した格好だ。

CBcloudは2013年に設立された、運送業界向けITソリューションを提供する企業。代表を務める松本氏のドライバー経験を生かした現場目線の開発を強みにし、これまでSmaRyu Postのほか、配送マッチングプラットフォーム「PickGo」や、運送事業者の業務支援システム「SmaRyu Truck」をリリースしている。

今回の共創で活用されるSmaRyu Postは、スマートフォン上で荷積み・配送ルーティング/ナビゲーション・配送ステータス管理・電子サインなどを一気通貫で行うことができるシステム。操作しやすく、優れたUI/UXが特徴で、すでに大手家電量販店や大手飲料メーカーへの導入実績を有している。

2019年9月には、日本郵便の配達業務において実証実験を実施しており、配達員が配達計画を立てる時間を約60%短縮、荷物を1つ配達するのに必要な時間を約40%短縮することに成功している。

今回の共創について、代表の松本氏は「SmaRyu Postをさらに進化させるためには、日本郵便の持つ場所・モノ・ヒト、オプティマインドの持つルーティング・ナビゲーション・AIデータを掛け合わせる必要がある。試行導入を通して、SmaRyu Postの効果をさらに高めていきたい」と意気込みを話した。

▲CBcloud株式会社 代表取締役CEO 松本隆一氏

一方、2015年に設立されたオプティマインドは、「世界のラストワンマイルを最適化する」をミッションにした、名古屋大学発のスタートアップ。ルート最適化に関するアルゴリズムの研究開発を行なっており、2019年には経産省が主催するJ-Startupに選出されるなど、注目を集めている。

今回の共創で活用されるLoogiaは、ラストワンマイルに特化したルート最適化サービス。Uターン禁止などラストワンマイルならではの制約など、配達の現場ならではの事情を加味した精度の高いルーティングと、ビッグデータを解析・学習することで精度が向上していくシステムを強みにしている。

2018年に日本郵便のオープンイノベーションプログラム「POST LOGITECH INNOVATION PROGRAM」で採択されて以来、草加郵便局、名古屋北郵便局などの複数の郵便局で実証実験を実施し、ルーティングの技術に磨きをかけてきた。

今回の共創について、社長の松下氏は「最高の3社が出揃ったと自負している。ラストワンマイルに特化したルート最適化サービスのLoogiaと、電子サインや多彩な機能を有するSmaRyu Post、この二つが日本郵便の支援のもと共創に取り組むのは、次世代において非常に価値があると思う。」と胸を張った。

▲株式会社オプティマインド 代表取締役社長 松下健氏

6月から段階的に開始される試行導入は、2021年3月までに全国約200局の郵便局で実施され、従来の配達業務と比較した定量的な効果検証が行われる。

最後に、三苫氏は「今回の共創には、配達業務における生産性の向上だけでなく、これまで固定的だった弊社の業務を、変化に対応しうる柔軟な形に変化させたいという狙いがある。外部環境の変化に対応し、CXを高め続けるためにも、今後ともデジタルの力を駆使して様々な仕事を柔軟にしていくつもりだ。この試行導入を、日本郵便におけるDXの第一歩かつ起爆剤となるよう展開していきたい」と展望を語り、発表を締め括った。


【特別インタビュー】驚くべきスピード感で実現した、共創の舞台裏

お披露目会翌日の6月16日、eiiconは共創に取り組んだ3社にインタビューを実施。これまで語られることのなかった共創の舞台裏や、日本郵便がこの先に見据えるDXへの展望などについて伺った。

<取材対象者>

■日本郵便株式会社 オペレーション改革部長 五味儀裕氏

■CBcloud株式会社 執行役員 皆川拓也氏

■株式会社オプティマインド 取締役副社長 COO 斉東志一氏

――昨日のお披露目会について、すでに様々なメディアで報じられていますが、反響はいかがでしょうか。

日本郵便・五味氏 : おかげさまで非常に多くのメディアに取り上げていただき、社内外から予想以上に大きな反響をいただいています。そうした注目度や期待に応えられるよう、改めて気を引き締めて、試行導入の取り組みにのぞみたいですね。

――お披露目会時にも言及されていましたが、もともと日本郵便はCBcloudとオプティマインドとで、別々に実証実験を実施していました。それが今回、3社での共創に発展した経緯を教えてください。

日本郵便・五味氏 : 「POST LOGITECH INNOVATION PROGRAM」での採択以来、オプティマインドさんとはルーティングシステムを共に創っていました。オプティマインドさんのLoogiaは非常に優れていて、実証実験の過程におけるルーティング精度の向上にも目覚ましいものがありました。しかし、その一方で、その技術を現場の配達のオペレーションにどう実装するかという課題も存在していました。

そこでCBcloudさんのSmaRyu Postの技術が必要だと思いました。CBcloudさんのことは、日本郵政キャピタルの出資先であった関係で存じ上げていましたし、優れたUI/UXの技術には以前から注目していました。そうしたCBcloudさんの技術と、オプティマインドさんと磨き上げたルーティングシステムを融合させて、キチンと現場で活用される一つのソリューションにできないかと考えたのが、3社による共創のきっかけですね。

▲本プロジェクトを牽引している日本郵便・五味氏

――CBcloudとオプティマインドのお二人は、両社の技術を連携させることに難しさを感じることはあったのでしょうか。

CBcloud・皆川氏 : 「開発」と「連携」が同時進行だったことには多少の困難がありました。リアルタイムで開発されていくルーティングシステムに、私たちのUI/UXをシームレスにつなぎ合わせるのは苦労が伴いましたし、これから試行導入を進めるうえでも改善していく部分になると思います。

オプティマインド・斉東氏 : LoogiaとSmaRyu Postは生まれた背景や目的が異なるシステムですから、2社が考える美学も違い、その間には技術的に大きな壁もあります。その壁を今回の取り組みでは、両社が歩み寄りつつ、そして日本郵便さんに後押ししてもらいながら乗り越えたという実感があります。想像以上に複雑な配送オペレーションで、たしかに困難はありましたが、結果的には良いものができたと満足していますね。

――日本郵便はそうした共創を進めるうえで、気を付けていたことはありますか。

日本郵便・五味氏 : 我々はパートナーである2社のスピード感を阻害しないことに特に力を注いでいました。日本郵便は大きな組織ですから、スタートアップに比べると、意思決定が遅くなりがちです。今回、日本郵便のルールではなく、スタートアップのスピード・ルールに合わせようという意識合わせを全体でしっかり行い、上層部への進捗報告の頻度を意識的に増やし協力を仰ぎながら、上層部からのバックアップもあり、全国の支社や郵便局といった現場も巻き込むことができたので、実証実験においても、PDCAサイクルを速やかに回すことができました。日本郵便の組織全体としても「スタートアップのスピード感に付いていく」という貴重な経験ができたのではないかと思います。

CBcloud・皆川氏 : CBcloudは2019年2月から宅配現場の業務改善について話し始めていますが、新型コロナウイルス問題による遅延を差し引けば、約10ヶ月間で今回の発表に至っています。日本郵便さんという巨大な組織の基幹システム、なおかつ基幹事業である宅配便における業務改善の取り組みとしては、驚異的なスピードなのではないでしょうか。日本郵便さんとしても、必要な情報を必要な人にダイレクトに届けられるような連携体制を組んでくださったり、部長クラス含め意識統一されていて、意思決定の速さなど、その部分はとても大きかったと思います。

オプティマインド・斉東氏 : オプティマインドの場合、プロジェクトへの着手から発表までに2年半ほどの期間を要しているのですが、実証実験を始めるまではものすごいスピード感でしたし、それでも決して長い時間ではありませんでした。実証実験のたびに大量の課題が見つかりましたし、複雑なオペレーションに加え、熟練の配達員の方のノウハウやスキルをシステム上で表現するのは容易ではありません。開発がさらに長期に渡ることも、十分にあり得たと思います。

――皆さんの言葉から、日本郵便の今回の共創への意気込みが伝わってきます。最後に五味さんから、日本郵便におけるDXの展望をお聞かせください。

日本郵便・五味氏 : これまで日本郵便が展開してきた事業には、郵便や物流、金融窓口、近年では「みまもりサービス」など、リアルなネットワークを基盤にしたものが多数ありました。そうした事業群にデジタルの力を融合させれば、いまは想像もし得ない、新たなビジネスが生み出せるのではないかと思います。

ですから、我々としても全社一丸となって、スタートアップの技術を積極的に取り込んでいく所存ですし、また逆にスタートアップの皆さんには、我々の事業を自社の技術を試す実験場のように捉えていただきたいです。いずれにせよ、そうした取り組みの成功事例となれるよう、まずは今回の共創を大事に育てていきたいですね。


取材後記

コロナ禍において、医療従事者に並んで、その仕事の重要性が強調されたのは、各種商品を私たちの自宅に送り届けてくれる配達員だった。ECが浸透しきったいま、私たちの生活を成り立たせるラストワンマイルを担っているのは、配達員の存在に他ならない。

しかし一方で、配達の現場に課題があるのも事実だ。特に、人手不足による現場の業務負担は、報道などでしばしば目にするところだ。そうしたなか、日本郵便という業界の雄がDXへの展望を打ち出したのは、大変意義深いといえるだろう。

しかも、その第一歩として位置付けられる今回の共創が、大企業としては異例のスピード感で進められたことには特筆に値する。日本郵便におけるDXの本気度がうかがえる事例だ。私たちの自宅へのサービスが、大きく様変わりする日もそう遠くないだろう。日本郵便の「次の一手」に注目したい。

(取材・編集:眞田幸剛、文:島袋龍太、撮影:加藤武俊)