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【特集インタビュー】経済産業省が大企業とベンチャー企業の協業促進における「手引き」を公開!その理由とは?

日本の産業競争力を強化するには、事業会社とベンチャー企業の連携によるイノベーション創出が不可欠だ。日本政府でもベンチャー企業への投資促進など様々な政策を推進している。しかし異なる両者の協業には障壁も多く、難しさを感じている方も多いだろう。そこで経済産業省は大企業(以下、事業会社を大企業を中心に想定)と研究開発型ベンチャーの連携を後押しすべく、「事業会社と研究開発型ベンチャー企業の連携のための手引き」をとりまとめ、2017年5月18日に公開した。

この手引きには、大企業とベンチャー企業の具体的な提携ノウハウが凝縮されている。例えば、大企業・ベンチャー企業それぞれに向けたチェックシートが用意されており、事前準備・コンタクト・終わり方といった各フェーズでの心構えが記載されている。また、多くのアンケートに基づいた自己診断シートもあり、オープンイノベーションを推進する上で指針となる実用的な手引きだ。

そこで、手引きを作成した背景と概要、そして今後のオープンイノベーション政策の展望について、産業技術環境局 技術振興・大学連携推進課長 渡邉政嘉氏に話を伺った。

経済産業省 産業技術環境局 技術振興・大学連携推進課長 渡邉 政嘉 氏

【プロフィール】

1963(昭和38年)5月8日生、千葉県出身。東京工業大学工学部機械工学科卒、同大学院理工学研究科機械工学専攻修了、東北大学大学院工学研究科博士課程修了〈博士(工学)〉。90年4月通商産業省(現 経産省)入省、2017年4月より現職。そのほか、岩手大学客員教授(非常勤)、東京電機大学客員教授(非常勤)、日本機械学会イノベーションセンター長(非常勤)を務める。


研究開発における「自前主義」は、未だ色濃く残る

――今回、「手引き」の作成に至った背景について、日本のオープンイノベーションにおける現状と併せてお話しいただけますでしょうか。

日本企業では伝統的に、研究開発を自社内で行う「自前主義」の文化が根付いていました。しかし昨今、IoTやビッグデータ、ロボット、AI等の技術革新による「第4次産業革命」が急速に進展し、自社のリソースのみでイノベーションを起こすことはもはや不可能となっています。こうした状況においてオープンイノベーションは非常に有効な手段であり、その重要性に対する認識も高まっています。

2016年7月、オープンイノベーション・ベンチャー創造協議会(事務局:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO))とともに、日本のオープンイノベーションの取り組みの実態を定量的に分析評価したレポート「オープンイノベーション白書 初版」を取りまとめました。

その一連の調査で、日本では未だオープンイノベーションの取り組みは活発化しておらず、事業会社と研究開発型ベンチャー企業による連携においてもほとんど進んでいないという状況が明らかになりました。重要性に対する認識は高まっているものの、実際には「自前主義」が未だ色濃く残っているのです。

――どのような調査結果が出たのでしょうか。

 研究開発費上位1000社に行ったアンケートでは、研究開発の実施先は「自社単独での開発」が61.4%に対して、「ベンチャー企業との連携」はわずか1.3%という結果でした。(産業構造審議会 産業技術環境分科会 研究開発・イノベーション小委員会資料「オープンイノベーションに係る企業の意思決定プロセスと課題認識について」2016年1月18日)

そうした背景から経済産業省は、事業会社・ベンチャー連携を促進するために、双方に役立てていただける「手引き」の作成に着手したのです。


事業会社とベンチャー企業によるオープンイノベーションを促進する「手引き」

――「手引き」の作成はどのような体制で行ったのでしょうか。

作成にあたっては、事業会社と研究開発型ベンチャー企業の連携を対象とするアンケートやヒアリングを通じて実態、課題、先行事例等を調査し、事業会社の新規事業責任者、ベンチャー企業の役員、大学関係者、法務・知財の専門家、コンサルタントなど、産業界や学術界から8名の専門家の方々に委員としてご参加いただき検討を行いました。委員の皆様のご協力なくしてこの手引きは完成しませんでした。委員の皆様には、この場をお借りして深く御礼申し上げます。

――作成にあたって、特に意識したポイントについて教えてください。

 「こうすれば上手くいく」という素晴らしい正解を示すだけではなく、現実に連携を進めていく上で双方がぶつかりやすい壁や失敗事例を示し、壁を乗り越えるための具体的な取り組みや心構えを分かりやすく記載することに努めました。この手引きにより、事業会社・ベンチャー企業双方が相互理解を進め、オープンイノベーションが活性化することを期待しています。

――具体的な内容としては?

「戦略策定」「契約交渉」「契約開始」「事業シナジー発揮」といった各ステップでぶつかりやすい壁を分類し、双方がぶつかりやすい壁である“社内文化・仕事の進め方の違い”やベンチャー企業の“与信・情報不足”などにおいて、具体的な失敗事例を紹介しています。その上で、事業会社・ベンチャーそれぞれの立場で先行企業の担当者が実践している事項を「連携に当たっての心構え」としてチェックボックス型で見やすくまとめました。

また、それぞれがぶつかりやすい壁を自社の状況と照らし合わせられる自己診断シートを作成し、診断結果に基づいた先行事例を参照できるような構成にしています。


政府一体となり、イノベーションエコシステムの構築へ

――オープンイノベーションに対する経済産業省の取り組みについて、今後の展望を聞かせてください。

 2017年3月、経済産業省は日本の産業が目指す新コンセプトとして、様々な繋がりにより新たな付加価値を創出する 「Connected Industries」を発表しました。(http://www.meti.go.jp/press/2016/03/20170320001/20170320001.html

これは「モノとモノとがつながる」IoTはもちろん、「人と機械・システム」、国境を越えた「企業と企業」、「世代を超えた人と人」、そして「生産者と消費者」といった、さまざまな協働と共創を通じた課題解決により、新たな産業社会の構築を目指すというものです。こうした「Connected Industries」の実現に向け、オープンイノベーションは非常に重要な手法のひとつです。そこでさまざまな施策を推進し、イノベーション活性化のための環境を整えていくことが、経済産業省だけではなく政府全体で取り組むべきことだと考えています。

また、「オープンイノベーション白書」の改訂版についても、本年度から来年度にかけてとりまとめていく予定です。そこでいくつかの定量的なデータをモニタリングし、初版と比較してオープンイノベーションがどれだけ社会に浸透しているのかを示していきます。

――数値として掲げている目標はあるのでしょうか。

オープンイノベーションについてのデータはまだ最近のものであることから、数値的な目標を設定する段階には至っていません。まずは意識変革を進めていくことが重要だと考えています。

2016年4月、安倍内閣総理大臣は経済界と意見交換の場である「官民対話」において、産学官による世界レベルのグローバル・オープンイノベーションの推進として、2025年までに企業から大学・研究法人への投資3倍増を目標とする方針を掲げています。

http://www.kantei.go.jp/jp/97_abe/actions/201604/12kanmintaiwa.html

さらに、ベンチャーの創業・成長促進としては、安倍内閣総理大臣を本部長とする日本経済再生本部が、世界市場に挑戦できるようなベンチャー企業が生まれ続けるエコシステムの構築に向けた政策の方向性等をまとめた「ベンチャー・チャレンジ2020」を2016年4月に決定しました。

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/venture_challenge2020/index.html 未来投資に向けた官民対話)

また「ベンチャー・チャレンジ2020」では、ベンチャー企業へのVC投資額の対名目GDP比を、2022年までに倍増させる目標を設定。(「ベンチャー・チャレンジ2020の概要」3.新たな目標設定) 2012~14年の平均 約0.03%に対して、0.06%を目指しています。諸外国の数値を見ると、アメリカは2015年で約0.28%、ドイツが0.02%、フランスが0.03%、イギリスが0.04%となっています。アメリカには及ばないものの、今後2022年までにヨーロッパ諸国を超える数値を目標として、政府が一体となってベンチャー支援に取り組んでいきます。


取材後記

第4次産業革命の進展、そしてConnected Industriesの実現に向けて、よりスピーディーな研究開発活動が求められる中、大企業などの事業会社とベンチャー企業との連携は政府レベルで重要視されている。しかし、オープンイノベーションは目的ではなく、あくまでも将来に向けたビジョン実現のための手段だと語る渡邉氏。重要なのは、事業会社とベンチャー企業がビジョンを共有し、一方が不利になることのない対等な関係のもと、オープンイノベーションという手段を用いて事業を成功させることだ。連携を検討している方は、ぜひこの手引きの「診断シート」や「連携における心構え」のチェックリストを活用し、自社の理解と、連携する相手との相互理解を進めて欲しい。

(構成:眞田幸剛、取材・文:佐藤瑞恵、撮影:加藤武俊)