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【イベントレポート】スタートアップと共創するAI最前線!富士通ベンチャープログラムのミートアップが開催

7月27日(木)、富士通が開催するベンチャープログラム「MetaArc Venture Program(メタアーク・ベンチャー・プログラム)」のミートアップが開催された。

「AI」をテーマに掲げた今回は、AIの第一線でリードする注目企業・研究者を招いたトークセッションや、ベンチャープログラムの会員企業による講演などを実施。今、AIの最前線では何が起こっているのか。これから、どのような未来に向かっていくのか。刺激的なトピックが飛び交う一夜となった。

富士通 執行役員 マーケティング戦略本部長 山田厳英氏(上写真)の挨拶から幕を開けた本イベント。山田氏は「富士通のベンチャープログラムが始まって早2年。スタートアップ企業との多くの接点が生まれているプログラムの真価を、皆さんと確認していきたい」と、イベントを皮切った。


今、AIの第一人者たちが目にしている景色とは。

<トークセッション登壇者>

■株式会社アラヤ 代表取締役CEO 金井良太氏

■リープマインド株式会社 代表取締役CEO 松田総一氏

■富士通株式会社 執行役員 AIサービス事業本部担当 原裕貴氏

「意識をつくりたい」。——まるでSFのごとく壮大なビジョンに挑んでいるのが株式会社アラヤだ。アラヤは認知神経科学を専門に、脳構造画像の解析で世界をリードしているスタートアップ。将来的に彼らが実現したいのは、意識の情報基盤を解明し、人間レベルの人工知能をつくることだ。そのために、現在はAIが自発的な行動を起こせるアルゴリズムの開発に取り組んでいる。

代表取締役CEOの金井良太氏(上写真)は、本来は大学の研究者として、脳から意識が生まれるプロセスを研究している。「現在はどれだけデータを持っているかが勝負となる時代。大学よりも企業の方が、先端的な研究を行っていることも多い」と、民間でAIの研究に携わる意義を語る。また、金井氏の口からは「最終的に、脳とインターネットを直接つなぎたい」と、驚くべき野望も飛び出した。

同じくスタートアップであるリープマインド株式会社は、組み込み型ディープラーニングの技術開発を行っている。「ディープラーニングを小さくし、世の中のあらゆる場所にばらまきたい」と代表取締役CEOの松田総一氏(上写真)が語るビジョンの通り、彼らはディープラーニングの精度向上や計算量の圧縮、省電力・高効率などに取り組み、IoTならぬDoT(DeepLearning of Things)社会の実現をめざしている。

リープマインドの特徴は、エッジ(端末)側にAI機能を持たせ、インターネットにつなぐことなくディープラーニングを完結させる“エッジ・コンピューティング”のスタンスにある。GPU一辺倒の世論の中、「アンチGPU」の立ち位置として新しい市場を開拓しようという、尖ったマインドのベンチャーだ。

一方、富士通 AIサービス事業本部担当の原裕貴氏(上写真)は、1980年代からAIの研究に携わってきた。「苦節30年、AIの時代が来たのは感慨深い」と長年の苦労を明かす。

AIと富士通の歴史はきわめて長く、既に200以上ものAI関連特許を出願している。そんな富士通は現在、昨年から「Zinrai(ジンライ)」というAIのコンセプトを掲げ、人の判断・行動をスピーディにサポートするAIの実現に取り組んでいる。

AI導入に関しては、500件以上の実証実験や社内実践の例があるが、今回はその中から、製造業・建築業での作業員の熱ストレスレベルの測定や、スペインのサンカルロス医療研究所による診断の高速化、国内証券会社における異常取引の自動検知などの実績が紹介された。いずれも人間の手では不可能で、AIでしか成し得ない事例ばかりだ。


AIに挑むすべての企業は、ライバルではなく、仲間。

AIが本当に驚異の技術になるためには、何が必要なのか。アラヤの金井氏は、「自発的行動、汎化性能、説明可能性」の3点が欠かせないと語る。つまり、AI自身が自発的・柔軟に思考し、なぜその答えになったのか、自ら説明できること。認知科学の分野で研究されているテーマであり、アラヤではアルゴリズムとして実装することをめざしている。

エッジ完結のディープラーニングに取り組むリープマインドは、ネットにつなげないシーンの重要性を強調。たとえば発電所の中、海の上や山奥など、ネットにつなげない場所は今も少なくない。また、IoTが過熱する家電においては、ネットにつながることによるプライバシーの懸念も生まれている。こうした点においても、エッジ・コンピューティングの有用性は確実だ。

富士通の原氏は、スパコン「京」の技術を投入したディープラーニング処理向けプロセッサ「DLU(Deep Learning Unit)」や、フランス政府とのAI技術共同研究について紹介。今後は特に、「想定外を想定するAI」を重要視し、未知のサイバーウイルスへの対応や、新型インフルエンザへの対応、新素材の発見などにAIを生かしたいと語った。

こうした富士通の事例を受けて、「我々ベンチャーでは、富士通さんのように基礎研究から応用までカバーすることが難しい」とアラヤの金井氏が漏らす一方で、富士通の原氏は「ぜひ富士通の看板やチャネルを利用してもらいたい。富士通も、スピード感ではベンチャーから学ばせてもらうことが多い」と協業の意義を語った。

現在、AIに関しては、世のあらゆる会社が手探り状態だ。そこには、敵も味方もない。すべてのプレーヤーたちは、ライバルではなく、一緒にAIの世界をつくっていく仲間だと連帯の重要性を確認し、刺激的なトークセッションは締めくくりとなった。


プログラム会員企業から、富士通との協業の"コツ"を探る。

トークセッションの後は、「MetaArc Venture Program」の会員企業である株式会社グリッド 中曽根綾香氏(上写真)による、ベンチャープログラムと協業のレポートが行われた。第3期のプログラムに参加したグリッドは、AI分析フレームワークの分野で富士通との協業を発表し、現在は協業スキームの構築を進めているところだ。

もともと太陽光パネルのメーカーだったグリッドは、2015年からAIの事業部を立ち上げ、機械学習とAI開発に特化した事業を行っている。ディープラーニングを利用した人工知能プログラム開発に注力しており、2016年には機械学習フレームワーク「ReNom」を自社開発した。

2016年から17年にかけて60以上ものプロジェクトを手がけているグリッドだが、その一方で事業を拡大するにはリソースを持った会社との連携が必要だと感じるようになる。特にIoTやSIまで含めたエコシステムを構築するためにはパートナーの協業が不可欠と感じ、富士通のベンチャープログラムへの参加を決めたのだという。

中曽根氏が語ってくれた富士通との協業成功のコツは、「面談で話せる実績」「タイミング」「めざすべき方向性」の3つ。特に、AIを社会に広げていきたい、実社会における障壁をなくしていきたいという方向性が互いに一致したことが、協業を大きく加速させた。

また、プログラム参加前は、富士通に対して大企業ゆえのスピードの遅さの懸念もあったというが、予想を裏切り、担当部署の対応はきわめて迅速だったと話す中曽根氏。むしろスタートアップ側の方が、契約形態を確立できておらず、出遅れる可能性もあると注意を喚起。具体的な協業スキームについては、相手が大企業とはいえ、スタートアップ側から積極提案していくことも重要だと語った。


共創に"本気"の富士通、協業可能性はきわめて高い。

最後に、富士通マーケティング戦略本部 戦略企画統括部 シニアディレクター(ベンチャープログラム担当)の徳永奈緒美氏(上写真)から「MetaArc Venture Program」について説明がなされた。パブリッククラウド「K5」と無償提供などの開発支援、アクセラレータープログラムや本イベントのようなマッチング、拡販プロモーション、ベンチャーファンドなど、スタートアップにとってのメリットは多い。

富士通の幹部社員がコミットしているため展開がスピーディであり、プログラムを通じて現在までに協業検討に入ったのは40社、うち20社は契約に至っている。富士通フォーラムでも、先述のグリッドを含む6社が協業内容を出展している。協業機会の創出に向けた本気度の高さが、端々から感じられるプレゼンとなった。

イベント後半はネットワーキングの時間が設けられた。登壇者を交え、大企業やスタートアップの担当者が積極的に交流を図った。


取材後記

「AI」をテーマにした今回のミートアップ。とりわけ印象的だったのは、「AIに挑む者たちは、ライバルではなく仲間」という言葉だ。たしかに、今回のイベントに登壇したアラヤ、リープマインド、グリッドの3社とも、AIを単なる一個のビジネスドメインではなく、社会課題を解決しうるものとして位置づけている姿勢が共通していた。もちろん、富士通も例外ではない。

これから世界は、AIによって大きく変わっていく。今、私たちは劇的な変化のさなかにいる。今回紹介された各社の事例や将来像からは、そんな予兆を力強く感じられた。彼らが共創によって、どんな未来を描いていくのか、今から楽しみだ。

(構成:眞田幸剛、取材・文:玉田光史郎、撮影:加藤武俊)