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【インタビュー<前編>】「素人と玄人を往復する」——NOSIGNER太刀川英輔氏に聞く、“共創”のコツ。

【インタビュー<前編>】「素人と玄人を往復する」——NOSIGNER太刀川英輔氏に聞く、“共創”のコツ。

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社会と未来に価値ある変化をもたらしたい。そんな想いを胸に、「デザイン」という観点から多彩なオープンイノベーションを手掛けているのがNOSIGNER代表の太刀川英輔氏です。

これまでの実績には、東京都が都内各家庭に配布し、その後書籍化もされた防災ブック「東京防災」のアートディレクションなどを始めとした防災デザインや、株式会社ロッテアイスとタッグを組んだ、座るだけで自然に気分転換ができるプロダクト「爽ハッピーベンチ」のプロダクトデザインなど、多様な価値と魅力を持ったデザイン・製品がずらりと並びます。

そんな太刀川氏が考える、オープンイノベーションを成功に導くために必要なものとは? 最新の事例を交えながら語っていただきました。

NOSIGNER FOUNDERCEODESIGN STRATEGIST

慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科 特別招聘准教授

太刀川英輔氏

1981年、神奈川県出身。ソーシャルイノベーションデザイン(社会や未来に良い変化をもたらすデザイン)を理念に、グラフィック・プロダクト・空間などのデザイン領域にとらわれず、 ビジネスモデルの構築やブランディングを含めた総合的なデザインを手掛ける。Design for Asia Award大賞、PENTAWARDS PLATINUM、SDA 最優秀賞など、国内外で50以上のデザイン賞を受賞。2014年には内閣官房主催「クールジャパンムーブメント推進会議」ではコンセプトディレクターとして、クールジャパンミッション宣言「世界の課題をクリエイティブに解決する日本」の策定に貢献した。

「オープンイノベーション」と「受託」の違いは、ミッションに共感し、共有できるかどうか。

――太刀川さんはこれまでいくつものオープンイノベーションを手掛けていらっしゃいますね。

そうですね。私たちNOSIGNER自体は小さな組織ですが、タッグを組むクライアントは数兆円規模の大企業もあれば、まだ売上の立っていない誕生したばかりのスタートアップもいて、オープンイノベーションの一環としてプロジェクトをご一緒しています。

――グラフィックデザインやプロダクトデザインの制作業務や、ブランドのコンサルティングなどの場合、いわゆる受託型の案件も多いと思いますが、共創との違いは何だとお考えですか?

我々のスタンスの中では受託案件も共創だと思っています。だから正直、特別な違いはありません。責任や権限やレベニューを共有するような受託案件は、共創に他ならないと思っています。

プロジェクトには解決したい「問い」と、それに対する「答え」が必要になります。その問いが明確に設定されているものなら、答えを出せる人をアサインして受託してもらえばいい。一方で、問いそのものが見えていないケースも珍しくないので、そもそも外部に対するディレクションのポイントに迷う企業が非常に多いんですね。

――「解決すべき」という危機感は感じていても、課題の根幹や突破口が見いだせないと。

そこで、To doをこなすのではなく、To beを見出すお手伝いをして、「一緒に問いを見出していく」ことが、オープンイノベーションには重要です。たとえば大企業とベンチャー企業が共創する場合、「AさんのミッションとBさんのミッションは同じだね」という共感できるゴール設定を共有できるか、ということです。

そして、そのミッションに共に向かっていけるかどうかが、単なる受発注の関係とオープンイノベーションの一番の違いでしょうね。たとえば、株式会社文祥堂の山川知則さんと一緒にリブランディングやプロダクトデザインに取り組んだオフィス家具ブランド「KINOWA」なども、ミッションを共有して取り組んだ例のひとつです。直近では、文房具メーカーの株式会社デザインフィルとの仕事もそうですね。

――文房具メーカーと、どのようなプロジェクトを?

デザインフィルは、複数のステーショナリーブランドを展開していますが、そのひとつにシステム手帳好きには有名な「knoxbrain(ノックスブレイン)」というブランドがあります。革製のシステム手帳を手掛けていて、メイドインジャパンで非常に上質なプロダクトなのですが、システム手帳という分野全体が落ち込んでおり、どうにか起死回生を図りたいと。そこで私たちが一緒に入り、社長直下のプロジェクトとしてシステム手帳という商品を再設計し、新しいブランドを立ち上げることになったのです。

トップダウン×ボトムアップが意思決定スピードを最速にする。

――デザインフィル社との共創によって、システム手帳の新ブランドを生み出す。このプロジェクトで互いに共有したミッションとは?

新ブランドの名称は『PLOTTER(プロッター)』と言います。この9月に全国で発売を予定しています。PLOTTERは「計画する人、主催する人、構想する人」を表す言葉で、システム手帳が未来の計画者の役に立てるのか、という今回のミッションを表すキーワードでもあります。創造力で未来を切り拓く人に対して、思考する道具としてシステム手帳を再定義したい。そう考えた時に、これまでシステム手帳の主要ドメインはカレンダーだと思われていましたが、「手書きで考えたい、思考したい」というユーザーにとって何より重要なのは、リフィル=ノート部分ではないかと。

そこで、ノートとして単体で日常的に使える新しいコンセプトのリフィルを開発できれば、従来の「システム手帳に合うリフィルを買う」という流れを、「普段使っているノートに合うシステム手帳が欲しい」と逆転できるのではないかなと。「システム手帳」の市場は縮小していますが、思考の道具としての「手帳・ノート」の市場は落ちていないので、このマーケットに踏み込んでいくために、新しいユーザー像に合わせて、罫線のグリットから日付を書き込むスペース、ToDoリストの表記の仕方まで、一つひとつ徹底的に再設計・デザインしていきました。

▲『PLOTTER』のノート型リフィル。一枚一枚剥がして使え、180度開く。

――先ほど「社長直下のプロジェクト」とおっしゃっていましたが、トップダウンの弊害などはなかったのでしょうか?

いわゆるオープンイノベーションについて語られる文脈では、ボトムアップの思想が重視されますよね。ただ、抽象的な意思決定をスピーディに行えるのは、トップダウンの経営者なんです。

新ブランドのアートディレクターは私ですが、デザインフィルのknoxbrainチームにも斉藤さんというクリエイティブディレクターがいて、革についてめちゃくちゃ詳しいナイスガイなんですが(笑)。お互い毎日のようにメッセージのやり取りをして、先方が培ってきたモノづくりの精神と私たちのデザイン、双方を活かしながら新ブランドを設計していきました。

本プロジェクトでは、僕達の提案を元にして、製造のプロセスなど現場サイドからのクリエイティブディレクションを斉藤さんがボトムアップに行ない、デザインフィルの社長・会田一郎さんがトップダウンで素早い意思決定を行うという、トップダウンとボトムアップのベストなバランスで進めてきました。

イノベーションを起こすには、今の領域をちょっとジャンプしなければいけませんが、その度に毎回いくつも承認を取っていられません。新しい挑戦を止めることなく、成功させるためには、現場と上層部をつなぐ意思決定の速さが非常に大きな意味を持ちます。そのための架け橋として我々が機能しているつもりです。

――トップダウンとボトムアップのバランスによって、ボトムアップのチームを構築するわけですね。

デザインフィルさんの場合はうまく行った形ですが、世間で散見される現場に権限のないオープンイノベーション風のプロジェクトは何も生まないと思うので、意思決定できる権限のある方自身がプロジェクトチームに参加するか、現場にある程度の裁量権を持たせるか、はたまた社内ベンチャーのつもりである程度の予算を投資するか。経営陣がそうした覚悟を持たずに、「オープンイノベーションをやろう」と言ってしまうと、変な結果しか生まれないでしょうね。

その点、会田さんはプロジェクトチームに参画し、定期的にミーティングにも出席してくれました。会田さんが一緒に入ることで、現場の斉藤さんたちととともに進めている検討中の課題やアイデアに関しても是非がはっきり出ますから、意思決定のスピード感も違います。おかげで、プロジェクト立ち上げから約半年という短いスパンで、新ブランドのリリースにこぎつけることもできました。

――スタートから半年間で新ブランド立ち上げというのは、驚異的なスピードです。

『PLOTTER』は先日プレスリリースを行い、この9月に第一弾商品が発売になるので、成果が分かるのはこれからですが、すでに注文が殺到していると聞いていますし、オープンイノベーションのいい事例ができたのではないかと期待しています。


「一緒に問いを見出していく、そして共感できるゴール設定を共有できるかが、単なる受託とオープンイノベーションの一番の違い」という言葉から始まった太刀川氏のインタビュー。本日公開した<前編>では、デザインフィル社との事例から、オープンイノベーションのノウハウについて話を聞きました。明日公開するインタビュー<後編>では、デザインフィル社との事例をさらに深掘り、オープンイノベーションを成功に導くための秘訣を伺います。

(構成:眞田幸剛、取材・文:太田将吾、撮影:加藤武俊)

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