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【インタビュー<前編>】 弥生・岡本社長が語る、「壁を壊す魔法の杖を求めない考え方」と「メタな視点」とは?

企業規模、事業、文化の異なる相手と共に実現していくオープンイノベーション。成功に導くには、様々な壁が立ちはだかる。難解な壁を涼しい顔をして乗り越えていそうなあの企業やあの人も、きっとその裏には泥臭い苦労をしているのだろう。

今回取り上げるのは、会計ソフト「弥生シリーズ」でおなじみの弥生株式会社 代表取締役社長の岡本氏だ。同社は2014年12月にオリックスグループの傘下に入った。実はその際、既にオープンイノベーションを見据えていたのだという。そして2017年4月、会計ビッグデータを活用した新たな金融サービス「オンラインレンディング(※)の事業立ち上げを決定し、ALT(アルト)株式会社を設立。地銀4行とも業務提携し、これから日本にまだ根付いていないサービスを育てていこうとしている。

事業構想はいつ頃から温めていたのか、金融業界において異なる組織との提携に壁はなかったのか。――eiicon founderである中村亜由子、eiicon lab編集長である眞田幸剛が話を伺った。

(※)オンライン上で、事業者から同意を取得した上で、会計ソフトや金融機関他が有する様々な情報を収集し、短期間で審査を行い、融資を行うサービス。 


与えられた環境の中で仕事をするのではなく、自ら環境を変えていく

岡本氏(上写真)は1969年、神奈川県生まれ。東京大学工学部を卒業後、新卒で野村総合研究所(NRI)に入社した。入社後は大企業向けシステムの開発部門にエンジニアとして配属となるが、「コンサルタント」に漠然とした憧れを抱いていた岡本氏は、配属に満足していなかったという。

しかしそこで腐ることなく、岡本氏は同期何人かと自主的にプロジェクトを立ち上げた。自分たちで新たなサービスを考案し、それを自治体などのお客様に提案していったのだ。もちろん、やるべき仕事はしっかりやった上で。NRIは懐の深い組織で、岡本氏ら若手のチャレンジを止めることはなく、意欲を受け止め応援していたという。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のアンダーソンスクールに留学、MBAを取得するチャンスを手にした。

その後、経営コンサルタントの仕事に魅力を感じた岡本氏は、1998年ボストン コンサルティング グループへ転職。多様な企業のコンサルティングに携わる。そこで当時大きく伸びていたイーコマース市場についてリサーチを行っていた際、ふと疑問が沸き上がる。「経営のプロとしてコンサルティングを行っているが、自分は傍観者のままでいていいのだろうか」と。

そうして一念発起し、2000年にリアルソリューションズを起業。コンサルティング事業を展開し事業を拡大させていった。その業務の一環で弥生と出会い、経営者として自社のビジネスを育てていく“当事者”となる道を選択する。2008年、社長就任直後にリーマンショックに見舞われ決して楽ではなかったが、「今となってはいい記憶」だと笑って話す。コンサルタント時代に培ったスキルや経験を発揮し、弥生の良さをしっかりと見極め、引き出し、再成長を実現させていった。

与えられた環境の中で粛々と仕事をするのではなく、自ら環境を変えたり、選んだりしながら、道を切り開く。オープンイノベーションに必要な資質を、岡本氏はキャリアを通して示している。

2014年12月、弥生はオリックスグループの一員となる。そこには「グループ傘下に入るか、独立し上場するか」の葛藤があった。しかし岡本氏には、中小企業の事業者に貢献できるような融資ビジネスの構想があった。そこで将来的にオリックスグループと手を組み新たな事業を実現すべく、グループ傘下に入ることを決断したのだ。

2017年、その新たなビジネススタートに向け、ALT株式会社を立ち上げる。そのビジネスとは、インターネットを通じて融資を受けることができるオンラインレンディングだ。弥生が持つ会計ビッグデータ、オリックスが持つ与信ノウハウ、そして、d.a.t.のAI技術を活用した全く新しい与信モデルを開発。インターネットを通じて、スモールビジネス向けに融資を行うビジネスモデルだ。さらにALTは事業立ち上げに当たり、金融機関におけるALT与信モデルの活用も見据え、千葉銀行、福岡銀行、山口フィナンシャルグループ、横浜銀行と業務提携契約を締結した。

米国や中国など、世界で急速に市場が拡大しているオンラインレンディングを、日本国内で当たり前のものに――岡本氏の新たな挑戦が始まる。


温めていた事業構想を実現するために下した「オリックスグループ入り」という決断

eiicon・中村: オンラインレンディングの事業構想はいつ頃から描いていたのでしょうか?

岡本: 弥生の代表に就任した2008年頃には、うっすらと考えていました。もちろん「オンラインレンディング」という形ではありませんが、弥生の顧客層である中小の事業者に対して何かできないかと。会計ソフトはお客さまの事業の今を測るものですが、それだけではなく融資という形でビジネス支援ができたら、というアイデアを持っていました。オンラインという手段は、今のテクノロジーの発展があるからこそできたことですね。

eiicon・中村: だからこそ、与信ノウハウを持つオリックスグループに入ることを決断されたのですね。

岡本: この時点で、ALTの構想はかなり具体的に見えてきていましたね。Fintechは今注目を集めていますが、やはり「金融」というビジネスはハードルが高い。弥生単体で取り組むことも不可能ではないものの、ベストな方法ではありません。そこで、金融ビジネスを展開しているオリックスと手を組むことで、スピーディーに事業を実現させていけないかと考えました。単純な買収ではなく、互いのリソースを活かして新たな事業を生み出していこう、という狙いがあってのグループ入りでした。

eiicon・眞田: オンラインレンディングの事業化において、どのような困難がありましたか?

岡本: 「ファイナンスとテクノロジーの力で、新しい事業を創る」。言葉にするのは簡単ですが、やはり“ゼロイチ”というのは本当に大変だと実感しています。オンラインレンディングは、テーマとしては今のトレンドのど真ん中です。そのままやれば成功しそうなものですが、やってみると単純ではないんですね。金融業界には規制もありますし、ビジネス上のルールもあります。

また、「ビッグデータ」といっても、そのままの状態で使えるわけではありません。機械で分析を行うにはノイズを排除せねばなりませんが、それを行うのは人間です。乗り越えるべき問題は山積していますね。

eiicon・眞田: 地銀4行との提携において、苦労はあったのでしょうか。

岡本: パートナーシップを組むにあたっては、様々な金融機関と話しました。ALTのプレス発表後も多数お問合せをいただきましたが、闇雲に提携するのではなく価値観の相違がない相手かどうかを重視しました。どの金融機関も問題意識を抱えているのですが、それに対する取り組み方やスピード感は様々です。そこがずれているところと組んでも、うまく行かないと考えています。



Biz/Zineとeiiconのコラボレーション企画としてお届けする『泥臭いイノベーションの処方箋』。第二回目は、弥生株式会社・岡本社長にフォーカス。本日公開した<前編>では、オンラインレンディングという事業構想を実現するプロセスを中心にお伺いした。明日公開する<後編>では、新しい事業を生み出すための「考え方」や「視点」について話を聞いた。

(編集:栗原茂<Biz/Zine編集部>、取材:中村亜由子・眞田幸剛、文:佐藤瑞恵、撮影:加藤武俊)