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【インタビュー<後編>】 弥生・岡本社長が語る、「壁を壊す魔法の杖を求めない考え方」と「メタな視点」とは?

企業規模、事業、文化の異なる相手と共に実現していくオープンイノベーション。成功に導くには、様々な壁が立ちはだかる。難解な壁を涼しい顔をして乗り越えていそうなあの企業やあの人も、きっとその裏には泥臭い苦労をしているのだろう。

今回取り上げるのは、会計ソフト「弥生シリーズ」でおなじみの弥生株式会社 代表取締役社長の岡本氏だ。同社は2014年12月にオリックスグループの傘下に入った。実はその際、既にオープンイノベーションを見据えていたのだという。そして2017年4月、会計ビッグデータを活用した新たな金融サービス「オンラインレンディング(※)の事業立ち上げを決定し、ALT(アルト)株式会社を設立。地銀4行とも業務提携し、これから日本にまだ根付いていないサービスを育てていこうとしている。

昨日公開した岡本氏へのインタビュー<前編>では、オンラインレンディングという事業構想を実現するプロセスを中心にお伺いした。本日公開の<後編>では、新しい事業を生み出すための「考え方」や「視点」についてeiicon founderである中村亜由子、eiicon lab編集長である眞田幸剛が話を伺った。

(※)オンライン上で、事業者から同意を取得した上で、会計ソフトや金融機関他が有する様々な情報を収集し、短期間で審査を行い、融資を行うサービス。 


流行に安易に飛びつかず、その底に流れるニーズを見極める

eiicon・眞田: 常にご自身で道を切り開いてきた岡本さんはスーパーマンに見えますが、オープンイノベーションがうまくいかず苦しんでいる人に向けて、アドバイスをお願いします。

岡本: 私はスーパーマンとは程遠いですよ。自分で方向を定めてどんどん進んでいくような、カリスマ系・肉食系の経営者というよりは、草食系ですね(笑)。そんな特別ではない人間が結果を出すには、常日頃から問題意識を持って考え、行動するしかないと思います。

“壁を壊す魔法の杖”があるわけではないんですよね。ですから、「うまく行かない」という前に「十分行動できているか」を考える。私自身、与えられた環境に満足することなく、行動を積み重ねてきました。そうしていれば、チャンスはやってきます。もしそれでも、ビクとも動かない会社であれば、職場を変えることも一つの方法だと思いますよ。

eiicon・中村: 考える、とは具体的にどういうことですか?

岡本: 単に物事の表層を見るのではなく、マクロ的な視点、一段二段上のレイヤーの視点を持つことですね。新規事業を創出するにしても、「クラウド請求が最近流行っているから」と、似たようなビジネスに飛びついても、きっと成功できないでしょう。目に見えるものだけを見るのではなく、それがなぜ流行っているのか、どのようなニーズが世の中にあるのか、本質を見極めることが大切です。奥底にある課題が見いだせれば、それを解決するためのアプローチは業種がまったく異なる企業であっても生み出せますよね。

例えば日本の「人口減少」。その事象自体は直接的にはビジネスのネタにはなりにくい。しかし、その先に何が起こるのかを考えると、自分たちのビジネスで解決できることが考えられるはずです。

eiicon・中村: 考える、行動する。非常にシンプルですが説得力がありますね。

岡本: 「書く」ことも思考をクリアにする上では有効な方法ですね。私はブログや社内報、製品発表のプレゼン資料など、とにかくよく書いています。

eiicon・眞田: オンラインレンディングの今後について聞かせてください。

岡本: 2017年の秋、まずテスト的な融資を開始します。そして来年の早いタイミングで融資先をより広げていく予定です。ただ、ALTによる融資は、入り口に過ぎません。私たちのビジョンは、融資の新しいインフラとなることです。これまで紙ベースで煩雑だった融資のプロセスを、電子化してよりスピーディーに行う。そして日本全国の金融機関がALTのエンジンを用いることにより、融資先であるスモールビジネスの発展に貢献していくことを目指しています。


弥生・岡本社長から学ぶ"泥臭い"イノベーションの3つの処方箋

革新的なビジネスのアイデアは、ある日突然降って湧いてくるものではない。一見スマートな決断も、よくよく近付いてみると多くの思考と行動の積み重ねだったりする。今回のインタビューで得られた気づきは、以下の3つだ。

1:与えられた環境を“すべて”だと考えない

特に大企業という確固たる基盤のもと仕事をしていると、「環境は会社が用意してくれるもの」と思い込んでしまいがちだ。しかし、今あるものに満足してしまえば、新しいものは生み出せない。イノベーションを起こすには、今ある環境を変えたり、新しく創ることも必要なのだ。岡本氏はキャリアにおいて、与えられた環境に満足せず、変革を起こしていった。

2:「価値観の一致」を重要視する

協業相手に求める条件は、様々なものがあるだろう。その中でも、互いが手を組み、これまでにないものを生み出していくオープンイノベーションにおいては、課題感や目指す方向など、価値観の一致は最も重要だ。

3:一段、二段上のレイヤーから物事を見る。

「新しい事業の創造」を夢見て、流行り物に飛びつく。これは、最も愚かなことだ。そのビジネスがなぜ受け入れられているのか、背景にはどのようなニーズが横たわっているのか。より深く、大きく物事を捉える。そうした視点を持って考え、どれだけ行動を重ねられるか。イノベーション創出の成否は、そこにかかっている。



本連載では、決して「スーパーマン」や「スーパースターチーム」によって行われるわけではない、大企業における新規事業の取り組みを“泥臭いイノベーション”として、丁寧な取材からリアルな姿を描写し、まとめていく予定だ。多くの事業開発担当者にとって、日々の業務の参考になる内容であれば幸いである。

(編集:栗原茂<Biz/Zine編集部>、取材:中村亜由子・眞田幸剛、文:佐藤瑞恵、撮影:加藤武俊)