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【インタビュー】デジタル製造プラットフォームを提供するカブクが、M&Aという意思決定をし、次に目指すステージとは。

2017年8月、デジタル製造プラットフォームを手がける株式会社カブクは、蛍光表示管の最大手であり、金型用部品、ラジコン機器などでも大手メーカーである双葉電子工業株式会社の連結子会社となることを発表した。https://www.kabuku.co.jp/news/pressrelease.futaba.20170828

第4次産業革命が急速に進展し、世界の産業構造は大きく変わりつつある。日本の製造業においてもデジタル化が求められる中、カブクは「ものづくりの民主化」というビジョンを掲げ、ユニークなポジションを築いてきた。そんな同社がなぜ今回、M&Aという意思決定を行い、双葉電子工業グループ入りを決断したのだろうか。その理由と今後のビジョンについて、カブクの代表取締役CEO 稲田雅彦氏に話を聞いた。

▲株式会社カブク 代表取締役CEO 稲田雅彦

「モノづくりの民主化」を掲げて2013年、株式会社カブクを設立。3Dプリンティングによるデジタル製造プラットフォームを立ち上げる。トヨタ自動車、Hondaのパーソナルモビリティへのカスタマイズパーツの提供を行うほか、グローバルでのデジタル工場向け基幹業務クラウド提供など、デジタルものづくり分野でさまざまな企業と協業し、高い注目を集めている。東京大学大学院修了(コンピュータサイエンス)。大学院にて人工知能の研究に従事。新卒にて博報堂入社。入社当初から、様々な業種の新規事業開発、統合コミュニケーション戦略立案、クリエイティブ企画開発、システム開発を行う。カンヌ、アドフェスト、ロンドン広告祭、TIAAなど、受賞歴多数。大阪出身。主な著書『3Dプリンター実用ガイド』


「ものづくりの民主化」を掲げ、製造業の課題に切り込む

――カブクの創業経緯について教えてください。

大学では人工知能を専攻しており、その後、広告のデジタル化が進む真っ只中に広告業界に入り、博報堂ではデジタル広告領域でのプラットフォーム開発など新規事業立ち上げを行いました。そこではシリコンバレーでは様々なプレイヤーがオープンに切磋琢磨しながらイノベーションを起こすデジタルデモクラタイゼーション(デジタルの民主化)が進展していることを肌で感じていました。

「この民主化の流れを、ものづくりの世界でも推進できないだろうか」と考えたことが、創業のきっかけです。私の地元は小さな町工場が密集する東大阪の工業地帯ですが、かつての活気を失いつつあることを危惧していました。そこで、日本の製造業をもっと元気にしたいという想いで、「ものづくりの民主化」をビジョンとして掲げ、カブクを立ち上げました。

現在は世界各国に製造工場のネットワークを保有し、産業用3Dプリンティングから切削、板金など多様な工法に対応するオンデマンド製造サービスを展開しています。

――大手企業との提携も進めていらっしゃいますね。

TOYOTAやHondaをはじめ、大手メーカーとの協業も積極的に推進させてきました。また、当社のプラットフォームは、経済産業省の「IoT推進のためのスマート工場実証事業」にも採択され、ものづくりのデジタル化を推進するプレイヤーとしても製造業で新たなチャレンジをしています。

第4次産業革命と呼ばれる潮流の中、ドイツはインダストリー4.0、アメリカはインダストリアルインターネットといったコンセプトを具現化しています。それに対して経済産業省は2017年3月、「Connected Industries」(※)を日本の産業が目指す新コンセプトとして提唱しました。

これは「モノとモノ(IoT)」だけではなく、「人と機械・システム」、「人と技術」「国境を越えた企業と企業」、「世代を超えた人と人」、そして「生産者と消費者」といった、さまざまなつながりによって、新たな産業社会の構築を目指すというものです。当社はこの「Connected Industries」の実現を支えるベンチャー企業のひとつとしても日々業務を推進、事業開発、プラットフォーム開発をしています。

※経済産業省による「Connected Industries」説明資料 http://www.meti.go.jp/press/2017/06/20170619005/20170619005-2.pdf


双方のビジョンが一致したことが、合意の理由

――今回、M&Aという選択肢である双葉電子工業グループの一員となる決意をした背景を聞かせてください。

双葉電子工業は、現業においてもお付き合いのあった企業でした。カブクのデジタル製造プラットフォーム事業を拡大させていく上で、全世界に工場と販路、そして人員体制を擁する双葉電子工業の多くの実績、経験豊かなものづくり体制は大きな魅力です。純粋なITスタートアップであれば、それなりの投資資金とITの力で垂直立ち上げも可能ですが、製造業は工場とのリレーション構築や検査検品体制など、良いものをつくるための体制づくりは一朝一夕にはいきません。

カブクが掲げる「ものづくりの民主化」を実現し製造業全体に貢献していくためには、そうした大きな山を乗り越え、より早く次のステージに到達することが必要です。そこで、IPOとM&Aをフラットに検討した上で、双葉電子工業とより密なパートナー関係になるという意味でのM&Aを決断しました。

――ビジョンを実現するための「大きな山をより早く登る」だめの決断だったのですね。一方、双葉電子工業サイドの狙いとは?

双葉電子工業は、ものづくり業界で70年の歴史を持ち、生産機材の標準化やものづくりの合理化――今でいうモジュール生産に近い、標準化、合理化を進め製造業に貢献してきた企業です。今後、第4次産業革命が急速に進展する中でさらに業界を底上げさせていくには、AI人材やIoT人材など、ものづくりをデジタル化させる人材の力が必要です。

しかし、そうした人材を自前だけで育成することはなかなか難しい。従来の製造業とは異なるノウハウや技術が必要となるためで、双葉電子工業としてもカブクと密に組むことによって、より早く大きな山を登るための事業成長、新たな領域へのチャレンジのために必要だという認識をされたのだと思います。

――互いの持つリソースと、ビジョンがしっかりと噛み合ったのですね。

そうですね。「メーカーと組みたい」というだけであれば、他にも条件に合致する企業はあったでしょう。しかし、それだけではシナジーは生み出せません。「日本や世界のものづくり業界の活性化に貢献したい」という双方のビジョンが明確にマッチしたことが、今回の合意に至った一番大きな理由です。

第4次産業革命の大きなうねりの中、日本にはアメリカともドイツとも異なる、日本ならではの戦い方があります。日本の製造業は、職人の腕など「人」の力でカバーしている面が大きい。だからこそ、人を活かしサポートするようなテクノロジーイノベーションを創っていかねばなりません。そのために当社は、双葉電子工業と力を合わせて、「日本的なイノベーションでもある大きな山の登り方」をしていきます。ある種、今回の決断は、日本に求められているオープンイノベーションの最高の形でもあると考えています。


違いがあるのは当たり前。相手のインサイトを捉え、歩み寄る。

――歴史ある大手企業と組むにあたって、カルチャーやスピード感の違いを感じることはなかったのでしょうか?

伝統的な大企業とベンチャー企業ですから、違いがあるのは当然です。しかし私自身は大企業で働いた経験がありますし、カブクとしても多種多様な大企業と提携してきた実績があるため、大企業の事情は理解しています。

また、先方も当社のカルチャーを尊重してくださっており、オフィスも、働き方もこれまでとまったく変わっていません。要は、互いの様々なインサイトを捉え、尊重し、歩み寄ることが大切なのです。そうするために徹底的に、フラットに議論は尽くしました。

――「日本的な山の登り方」をしていくということですが、その先に見ている世界とは?

先ほども話題に出した「Connected Industries」を早く実現することですね。日本の製造業はKKD(経験・勘・度胸)を尊重する、過度に現場の人に依存する環境があります。しかし今後はIoTやAI適用などにより工場や装置をつないでデータを見える化し、AIで解釈、知能化を加えることでKKDを見える化・システム化・横展開する動きが進みます。それによって、地域を超え、国境を越え、様々なものが高速に繋がっていき、適切な切磋琢磨が起こり、多様なプレイヤーが生まれ、イノベーションがどんどんと生まれる様になります。それはまさに、カブクが掲げている「ものづくりの民主化」です。製造業を底上げし、次のソニーや松下電器が生まれるようなエコシステムを支えていきたいですね。


取材後記

「日本のものづくり業界の活性化とグローバル競争力向上」――国を挙げたこの壮大なビジョンに向けて、両者の共創はまだ始まったばかりだ。歴史も規模もカルチャーも異なる企業同士が手を取り合い、長期にわたってシナジーを生み出すは、何が必要か。互いを理解し尊重することはもちろんだが、最も重要なのはビジョンが一致する「同志」であることだろう。

(構成:眞田幸剛、取材・文:佐藤瑞恵、撮影:加藤武俊)