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【インタビュー/アスタミューゼ株式会社】「企業の人事担当者こそが、オープンイノベーションを最もよく理解している」〜独自のビッグデータを活用し、あらゆる企業がイノベーションを起こせる未来を創る〜

「知の流通」「知の活用」「知の民主化」を掲げ、世界80カ国を対象とした新技術・新事業のデータベースを活用して多くの企業の新規事業開発を支援しているアスタミューゼ株式会社。つい先日も国境を越えたオープンイノベーション支援の一環としてイスラエルの企業と業務提携するなど、その動向は業界内外から注目を集めている。

今回は膨大なデータの活用手法、日本企業が抱える新規事業やオープンイノベーション推進に関する課題、同社が見据える今後の事業展開などについて、同社事業開発部で活躍する嶋崎氏、河崎氏にお話を伺った。

▲アスタミューゼ株式会社 事業開発部 部長 嶋崎 真太郎氏

株式会社リクルートで企画営業を経験。数々の営業表彰を受賞し、全国TOP11の営業にも選ばれる。その後、Web系ベンチャー・人材系ベンチャーの役員として、事業企画、営業企画、人事・採用企画の経験を経て、2017年にアスタミューゼへ参画。「新規事業コンサルティングサービス」「専門人材採用コンサルティング」「知的財産プラットフォームサービス」の統括責任者として活躍。

▲アスタミューゼ株式会社 事業開発部 ディレクター 河崎 宏郁氏

2009年からアスタミューゼにて、新規事業開発やR&Dの戦略立案に携わり、様々な業界にてオープンイノベーションを支援。同社が有する世界最大のイノベーションデータベースを武器に大手メーカー、大手サービス業、銀行、証券会社など200社以上のクライアントに対する支援を実施している。


独自DBと分析ノウハウを駆使。意外な領域での技術活用や提携先企業の発見を支援する。

−−新規事業開発やオープンイノベーション支援において世界80カ国の様々なデータを活用されているとのことですが、具体的にはどのようにデータを使っているのでしょうか。

河崎: 企業が新規事業を考えるパターンには大きく2つあります。一つは特定のシーズを利用したい「シーズ起点」の展開であり、もう一つは参入する市場だけが決まっているケースですが、例えば後者のケースで経営者が「自動運転の新規事業を立ち上げよう」と宣言したとしても、自動運転のどの分野・領域に参入すべきかまでは明確になっていない企業がほとんどです。

——なるほど。

河崎: 当社では世界80カ国の新規事業・新技術・新製品、投資情報データを専門アナリストが分析し、「未来を創る2025年の成長領域」として独自に定義しています。自動運転を含むモビリティ分野はもちろん、エネルギーや医療・健康、情報通信、航空宇宙など様々な成長領域があり、領域ごとに用途・目的、要素技術を分類して紹介しているのです。例えば自動運転だけでも200近い項目があります。

「自動運転といっても具体的に何から手をつければ良いか分からない」というお客様であっても、こうしたデータに基づく資料を見ていただくことで「この要素技術からスタートしよう」というイメージがつきます。シーズ起点の展開であっても自分たちの視野だけでは発見できない意外な領域での技術活用、提携先企業を発見することができますし、私たちもそれらに基づいた新規事業のアイデアを提供するなどしてお客様企業のイノベーション推進、意思決定を支援しています。

−−これらの膨大なデータはどのように収集されているのでしょうか。

河崎: 一口にデータといっても様々な種類があります。例えば特許情報などの購入可能なデータはお金をかけて買います。また、インターネット上にロボットを走らせ、いわゆるクロールという形で集めているデータがあります。これは新しいベンチャー企業などが設立された場合、その情報をホームページやプレスリリースから入手してデータを自動生成するという感じですね。

そしてもう一つ、当社は世界中にいる約500人のアナリストのネットワークを有しており、アナリストたちが提供する情報もデータに組み込んでいます。購入するデータ、インターネットからのデータ、世界中のアナリストからもたらされるデータ、この3種類の情報を組み込んでデータベースを作っているのです。

−−それだけ膨大なデータがあると、扱い方も難しいのではないでしょうか?

嶋崎: 当社には河崎のようにフロントでお客様と相対するディレクターのほかに、データの分析や分析結果のアウトプットを専門に行うテクノロジーインテリジェンス部というチームがあります。東大で教鞭をとっていた者や、金融工学や知財の専門家などデータや数値を扱うプロフェッショナルで構成されており、日々増え続ける膨大なデータの整理はもちろん、案件ごとにオーダーメードでデータを抽出する仕事も行っているのです。プロデューサーやディレクターは、そうして出てきたデータを使ってお客様にご提案し、意思決定をサポートしています。


顧客の新規事業開発を推進するため、様々な企業と提携して最適解を探し続ける

——多くの企業を支援するなかで、新規事業開発やオープンイノベーション推進に関して感じられている課題などはありますか?

河崎: やはり日本企業特有の人事的な問題に悩まされることは多いですね。担当者の方と「この新規事業は必ず取り組むべきだ、進めよう」という話になっても、その担当者の方が異動してしまうことで計画が頓挫したということもありました。

また、メイン事業が強すぎる場合も難しいと感じます。例えばメインの事業で5000億の売上があった場合、新規事業で5年、10年後に10億作りますと言っても社内では通りにくい。長期的視点で考えれば会社にとって必要な事業であると理屈では分かっていても難しいのでしょう。やはり新規事業を推進するためには、社内においてトップのコミットが行き届いていることが何よりも重要です。

——このような課題に対して、御社はどのように向き合っているのでしょうか?

河崎: お客様の新規事業開発においてオープンイノベーションを推奨することが多いのですが、私たち自身もお客様の課題を解決するために様々な企業と提携しています。例えば先ほどのような人事面の問題であれば、組織人事改革などに強いパートナーと組んで解決策を模索しますし、製品開発関連の案件でプロトタイプが必要である場合は開発機材・施設を持った企業と提携するなど、お客様の課題を解決するためならあらゆる企業と組みますし、様々なソリューションを用意することができます。

絶対的な解があるわけではないのでプロジェクトごとの経験を集めて最適解を探し続けています。


新規事業担当者は難しく考えすぎている。まずは自社の強み・弱みの把握や現状整理からスタートするべき。

——企業の新規事業開発において、立ち上げ時に重視すべきポイントなどはありますでしょうか?

嶋崎: イノベーションを起こしたい、新規事業を立ち上げたいという企業は増えていますが、企業の新規事業担当者の方々は難しく考え過ぎているのではないかと思っています。確かに新規事業のアイデアを生み出すこと自体は難しいとはいえ、スタートは必ず自社の強みと弱みをしっかり整理することから始まるはずです。

強みは自社の技術やノウハウ、顧客のデータなどであることが多いでしょうし、弱みや足りないものはオープンイノベーション・M&Aで補うということになるでしょう。強みと弱みさえ分かれば後は手段によって進め方を変えて行くだけであり、非常にシンプルです。新規事業の立ち上げを担当される方の多くが、このファーストステップを忘れがちであり、最初から提携先を探そう、買収しようというところに着手してしまい、上手くいかないことが多いんです。その点、企業の人事担当者はオープンイノベーションを良く理解しているはずです。

——人事担当者がオープンイノベーションを理解しているというのは、どういうことでしょうか?

嶋崎: 自社で足りていないスキルを持っている人材、自社が成長するために必要な人材を「採用」という形で自社に取り込もうとする行為は、オープンイノベーションそのものだと考えています。人事担当者は各事業の責任者や担当者に、事業の現状や将来像に関するヒアリングを行ったうえで必要な人材、補完すべき人材を集めるための採用活動を行いますが、新規事業やオープンイノベーションにおいても人材採用と同じようにスタートするべきです。

自社の強み・弱みを把握して現状を整理することで、解決しなければならない自社の課題が浮かび上がり、さらには社会課題などと結びついていきます。そうすることによって、課題を解決する手段はオープンイノベーションなのか、クローズドで行う自社技術の活用なのかといったところも見えてくるはずです。


大企業だけではなく多くの企業が新規事業やオープンイノベーションに着手できるようなインフラを提供したい。

——今後御社はどのような新規事業開発・オープンイノベーション支援を展開されていくのでしょうか。

嶋崎: 海外でオープンイノベーションが活発なのは、自社の強み・弱みを把握するための調査費にしっかりお金をかけているから。日本企業は調査費にお金をかけない傾向があり、海外企業との大きな差が生まれる要因となっています。そうは言っても、コンサル会社などに調査を依頼すると莫大な費用がかかってしまい、ネクストアクションに発展していかないという現実もあります。

そうした現状を踏まえ、当社としては多くの日本企業に対して、できるだけ利用してもらいやすい形で「自社の現状整理、強み・弱みの分析ができるような仕組み」を構築・提供していきたいと考えており、現在も日本の特許を自由に検索できるシステムを提供しています。これを使えば日本企業の保有知財の強み・弱みが簡単に分かるようになり、大企業だけではなく多くの企業が新規事業開発やオープンイノベーションに着手できるようになるでしょう。将来的にはこのようなタイプのシステムをインフラとして普及させることによって、日本企業全体の成長に貢献していきたいと考えています。


編集後記

取材中、嶋崎氏は「当社はオープンイノベーションの支援というよりも、企業のイノベーション推進に特化したサービスを提供しています。オープンイノベーションは、イノベーションのための手段のひとつです。」と語っていた。確かに日本では、担当者がオープンイノベーションそのものを目的化してしまっていることにより、新規事業を上手くドライブさせられていないケースも見受けられる。大事なことは提携先や買収先を探すアクションを起こす前に、まずは自社の強み・弱みをしっかりと分析することであろう。そうした現状整理を行ったうえで同社が提供するようなサービスを有効活用することが、新規事業開発を成功に導く近道と言えるのかもしれない。

(構成:眞田幸剛、取材・文:佐藤直己、撮影:加藤武俊)