革新的な技術というものは、どのようにして生まれるのだろうか。我々が立てたひとつの仮説は、「異なる専門性を持つ人材たちが集い、同じビジョンに向けてチームとなること」ではないかというものだ。これから、その仮説に対する検証が始まろうとしている。テーマは“海底地形図の作成”だ。

海底探査技術開発プロジェクト(DeSET project)は、2030年までに全海洋に渡る海底地形図の高精細化を達成すべく、革新的な技術の開発を進めようとしている。立ち上がったばかりの本プロジェクトにおいて、第一陣となる3つの“超異分野”チームが形成された。ここから、プロジェクトの歩みと今後、そして各々のチームについて、紹介しよう。

※DeSET projectは日本財団と株式会社リバネスの共同事業です

詳細はこちら https://deset.lne.st/


海底探査の飛躍的効率化を目指すDeSET project

DeSET projectは、海底地形図作成の飛躍的効率化を実現しうる技術の開発チームに対して、5000万円の研究開発助成を行うプロジェクトだ。日本財団とリバネスの共同事業として2017年度に立ち上がり、いよいよ技術開発を担う3チームが決定した。


なぜ海底探査なのか?

世界の海洋底のうち、高精細な地形図が作られている領域は15%未満とされ、残り85%は分解能900mか、それより粗いメッシュでしか地図が作られていない。この85%の地図を2030年までに高精細化するのが目標だ。遠く宇宙を見通せる電波やレーザーも、厚さ数千mの海水に阻まれて底までは届かない。また水の重さと粘性故にロボットが自由に動き回ることも難しく、海底近くまで潜ってからの探査のハードルも高い。だが、これらの困難を乗り越える革新的な技術を開発し、海底地形図を作る意義はある。

近年、人口増加に伴う漁獲量の増大が海洋生態系の維持力を上回るようになり、漁業資源の保全が声高に叫ばれている。海の底には多量の鉱物や、エネルギー資源が眠っていることがわかっているが、どこにどれだけの量があるか、全てが明らかになっているわけではない。海流や潮流は気象に大きな影響を与えるが、特に海底を流れる水がどう動くのか正確な知見を得ることは難しく、シミュレーション精度はまだ向上の余地がある。

高精細な海底地形図データを得られれば、海洋生物の行動予測や資源分布の推定、気象シミュレーションの高度化に資することができるだろう。海をよりよく活用するためには、地図が必要なのだ。


超異分野チームを形成する仕掛け

政府機関が公募するものから公益財団法人、民間企業が募集するものまで、競争的研究開発資金は数多くある。それらは通常、公的研究機関の研究員個人やベンチャー企業等が単独で申請者となるものか、事業化を目指すものであれば研究機関と企業のセット、あるいは複数の申請者がコンソーシアムを組んで応募するものになる。

一方、DeSET projectは、このプロセスを変えた。第一段階の公募は、公的研究機関、ベンチャー企業、中小企業、大企業、一般財団法人など幅広く構えた所属を持つ個人から、要素技術の提案を受け付けた。そして、申請者が一堂に会する場を作り、チームを形成するための2泊3日の合宿を行った。今年度の公募では、要素技術提案に14件の申請が寄せられ、申請者の同僚や共同研究者を含めて23人が合宿に参加。参加者の年齢は20代後半から60代後半まで多岐に渡り、所属も専門性もバラバラの人材が集まった。彼らが議論を繰り返し、形成されたチームとして改めて計画を練り、再度の申請を行う。その中から審査を行い、採択チームを決定した。

このような形式にした理由は、“飛躍的技術の開発”という目的にある。海底地形図の高精細化には、現存する技術では膨大な年月と数千億円のコストがかかるとされており、既存とは全く異なる考え方の技術や圧倒的な高性能化、低コスト化が必要なことは明らかだ。そのために、もともと異なる技術や考えを持つ申請者を集め、コミュニケーターの媒介のもとで出会わせる仕掛けを行ったのだ。


いよいよ開発が始まる

 今回採択された3チームは、それぞれが全く異なる技術で海底地形図の高精細化を実現するための技術を開発する。彼らの狙いや開発の進捗は、可能な範囲で公開していく予定なので、ご注目いただきたい。また、本プロジェクトでは、開発に向けた活動を、採択時点でのチーム内に留めるつもりはない。自らの技術や専門性が、彼らの開発をより加速することに活きるのではないかと思った際には、ぜひ連絡してほしい。


【DeSET project 採択テーマ.1】 海洋調査の完全な洋上無人化を実現する調査ソリューションの開発

■開発チーム

【代表】

伊藤 昌平:株式会社空間知能化研究所

【構成員】

巻 俊宏:東京大学 生産技術研究所

金澤 康樹:株式会社Naturanix

倉本 篤:株式会社アウトスタンディングテクノロジー

比江島 慎二:株式会社ハイドロヴィーナス

高満 洋徳:成光精密株式会社


■開発テーマ概要

現在実施されている海洋調査は、事前に入念な計画を立て、大型の調査船に多数の専門家が搭乗して実施されるのが通例である。この方法のみに頼る場合、調査範囲が計画した海域に限定されること、悪天候等の影響で中断されうること、また燃料費や人件費等に大きなコストがかかること等により、調査の時間効率が低くなる。結果、特定海域について豊富な情報を得られる反面、広範囲の海底地形図作成は進んでいなかった。

本チームが目指すのは、長期持続型完全洋上無人海洋調査ソリューションの開発だ。必要な電力を全て洋上発電(太陽光、海流、潮力発電)で担う、洋上自律探査機(Autonomous Surface Vehicle; ASV)と自律型無人潜水機(Autonomous Underwater Vehicle; AUV)、海中ステーション等で構成されたシステムの構想である。これらを小型、低コストで実現することで、従来型の“入念な準備を行い、調査する時だけ海に出る”方式ではなく、“常に無人での海洋探査が行われている”状態を作ることを目指す。この壮大なビジョンの実現には相応の期間と海洋工学関連技術者の増加が必須であるため、まずは海中での自律運用、給電が可能な低コストAUVプラットフォームを開発するのが目標となる。


【DeSET project 採択テーマ.2】 音・光・生物を利用したリモートセンシングによる海底探査の実現

■開発チーム

【代表】

笹倉 豊喜:株式会社アクアサウンド

【構成員】

濱野 明:国立研究開発法人水産研究・ 教育機構水産大学校

佐川 龍之:一般財団法人リモート・センシング技術センター

田中 陽:国立研究開発法人理化学研究所

田中 信行:国立研究開発法人理化学研究所


■開発テーマ概要

本チームがコアとするのは、超高速送信周期の超音波探査(ソナー)技術と、衛星画像から深度を推定する画像解析技術、そして海中生物を活用したバイオテレメトリー技術だ。新開発のソナー技術は、従来は音波が海底に反射して戻ってくるまで次の信号を発振できなかったのに対して、戻るのを待たずに秒間数百回の発信が可能となる。

これにより、中深層から超深海層を対象として、単位時間あたりのデータ収集量を飛躍的に増大することができる。音響解析が苦手とする浅海域に対しては、衛星画像を活用する。同一海域を写した複数の衛星画像を用いて色情報の分析を通じて深度推定を行うことで、船舶等を用いた探査をせずにマッピングを行うのだ。

さらに、小型のピンガー、ロガーやMEMS技術を用いて海中生物の行動パターンや生態、環境情報を取得する。初期の開発では、発電器官を持つ底生生物であるシビレエイを用い、無電源の生物エージェントとしての活用を検討する。これらにより、地形データに別レイヤーとして生態情報をマッピングすることを狙っていく。今回のプロジェクト期間ではこれらの技術的実証やプロトタイピングを進め、将来的には漁船や商船が通常運行の中で精細な地形探査や周辺の生物情報の収集を行えるようにすることを目指している。


【DeSET project 採択テーマ.3】 機械学習による超解像技術を用いた海底地形データ詳細化および深海測深支援システムの開発

■開発チーム

【代表】

伊藤 喜代志:株式会社環境シミュレーション研究所

【構成員】

飯山 将晃:京都大学

庄内 道博:エコモット株式会社

小澤 守:株式会社アーク・ジオ・サポート

松原 修:株式会社キュー・アイ

遠山 茂樹:東京農工大学


■開発テーマ概要

広大な海洋全体に渡って地形情報を取得するのに、そもそもすべてを探査する必要はなくなるかもしれない。本チームは、粗いモザイク画像から精細な画像を推定する“超解像技術”を活用して、測深精度の粗い海底地形データを画像と見なし、詳細化するシステムの開発を目指す。高精細な地形図が既にある海域を教師データとして、粗いマップから精細なマップを推定するアルゴリズムを開発する。これにより、地形特徴の似通った海底地形を自動的に高精度で推定することが可能となる。また推定精度が低い海域を判別するアルゴリズムも作ることで、AUV等による測深を重点的に行うべき海域を予測することができるはずだ。

本プロジェクトでは、これらのシステムを開発し、また実際に測深を行うことで超解像化の精度を評価する。推定精度が低くなったポイントについてAUVによる測深を行い、得られた高解像度の海底地形画像を新たな教師データとしてフィードバックしていく。さらに将来的な測深の低コスト化や無人化を睨み、超音波球面モーター技術による球体ドローンの技術開発を進める。球体であることから耐圧性を高くできると期待され、深海域に対応可能な海中ドローンの新たなカテゴリの形成までも狙えるだろう。これらにより、海底油田や鉱物資源開発の効率化およびコストダウンに貢献することを目指していく。



以上 株式会社リバネス発刊 雑誌『研究応援』より転載

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