IoTによってメーカーの生産構造が変わり、FinTechによって金融業界のあり方が変化する。さらにAI導入によって人々の働き方が変わっていく。大きな変化のうねりが企業を飲み込み、既存事業を駆逐。新しい事業を生み出すことが「待ったなし」の状況を迎えるケースも少なくありません。

こうした局面を迎え、社内でビジネスコンテストを開催したり、アクセラレータープログラムを開催したりと新規事業に挑戦する企業が増加してきました。しかし、既存事業のビジネスが強固であればあるほど、新規事業に取り組むノウハウがないというジレンマに陥っています。そんな企業を支援するサービスも増えてきており、私たちeiiconもオープンイノベーションという手法を用いた企業支援サービスを提供しています。

2016年から準備を進め、2017年2月にサービスをローンチしたeiiconは、2期目に突入。登録社数も600からスタートし、現時点で3000社目前までに拡大。eiiconのプラットフォームを介した企業同士のコンタクト数も右肩上がりに増加しています。

eiicon自体、従業員数3万名を超えるパーソルホールディングスが自グループ内で毎年開催している新規事業コンテストから誕生したサービス。eiiconのメンバーたちは、大企業で新規事業を立ち上げるという「生みの苦しみ」を知っているからこそ、実体験に基づいたコンサルティングが可能なのです。

2018年度を迎え、2期目を迎えたeiiconの創業メンバーである中村亜由子・田中みどり・富田直の3名が会し、改めてサービススタートを振り返りながら、これからの決意を語ります。本日掲載の<前編>では、まずeiiconのサービススタート時のエピソードにフォーカス。中村がまさに「ゼロイチ」の大変さを実感し、仲間集めに奔走した話からスタートします。

【写真左】eiicon founder 中村亜由子

2008年新卒でインテリジェンス(現・パーソルキャリア)入社。求人サイトDODAにて編集を経験後、新規開拓営業、正社員の転職支援領域における法人営業に従事。最速で営業マネージャーに昇進、約1000名の転職をサポート、MVP他社内表彰受賞歴多数。 2015年育休中にeiiconを単独起案&唯一通過。2016年4月に育休から復職後、地の利に関係なく地方含めた日本企業のオープンイノベーション実践をアシストするオープンイノベーションのための企業検索プラットフォームeiiconを担う。

【写真中】eiicon co-founder 田中みどり

2012年新卒でインテリジェンス(現・パーソルキャリア)入社。正社員の転職支援領域における法人営業部門にて、IT・インターネット業界の採用支援に従事。 全社一位の売上実績、顧客評価NPS全社トップ、最年少でマネジメントに昇進などの実績を残した後、 eiiconの立ち上げに参画。アライアンス・セールス・プロモーションなどビジネスサイドを担う

【写真右】eiicon co-founder 富田直

大手不動産会社にて社内SEとしてスマホサイトの構築〜タブレットアプリの開発に従事。また、業界初無人店舗端末の構築・運営まで幅広く経験。2014年にインテリジェンス(現・パーソルキャリア)入社後、アルバイト求人サイト anのリニューアルプロジェクトを担当。リニューアルによる月次応募の底上げに成功。社内表彰歴多数。その後、eiicon立ち上げ時から参画。Webサイト開発・デザインのプロジェクトマネジメント~ディレクション、サービス全体のマーケティングからコンテンツの編集など、幅広く、モノづくり全般を担う。


予算会議を甘く見ていた

――eiiconはもともと、中村さんが起案された事業で、パーソルグループ内で開催されている新規事業コンテスト「0to1」で採択された事業でした。しかし、採択されたのが、中村さんが育休中のタイミング。そして、育休から復帰しても、最初は一人からのスタート。そんな状況の中、大企業内でまさに新規事業を立ち上げていく経験を積んだわけですが、最初に直面した壁はなんだったのでしょう?

中村 :2015年にeiiconを起案し、採択されたのは育休中のことでした。2015年末の12月に採択されその翌年2月に通例通り予算会議が行われたのですが、私は育休中のため、予算会議の出席が難しいと会社から申し渡されました。その時の私は「起案は仕事ではないからOK」と言われていた経緯もあり「会議は仕事だから育休中の予算会議出席不可」という会社の言葉をそのまま受け止め、予算会議を欠席。今思えばその感覚は非常に甘かったと考えています。

――予算会議に欠席したことで、新規事業予算を確保できなかったということですか?

中村 :その通り、eiiconは実際の会社の事業予算からは漏れたのです。育休中にも、社外の新規事業担当者やベンチャー経営者などにアドバイスをもらいながら事業構想を練っていましたが、事業の土台となる「お金」の出方や事業会社のお金の回り方に関しての意識が猛烈に薄かったと考えています。

予算がないということは、人を雇用もできず、サービスのための開発費用もないということ。2016年4月に育休から復帰した際に自身の非常に宙ぶらりんな状態に気づきゾッとしました。事業化の許可は出ている、ただそのための予算はない。この状態の何をどうすればいいのか分からずに、困惑しました。

「ホーム」だと思って育休から復帰したのに、環境は完全に「アウェイ」でしたね(笑)。

――そこから、どのように予算取りしていったのでしょう?

中村 :臨時で予算を取りに行きたい、という話をまず直属の役員にしました。

そこで、予算を取りに行くにはどうやら、新規事業コンテストの主体であるホールディングス自体に掛け合う必要があり、さらにホールディングスのボードメンバーであるパーソルグループの役員約30名に集まってもらい、再度決議を取ってもらう必要があるということを知りました…。

まずは、その会議設定の依頼からスタートしたんですが、メールや電話をしても取り合ってもらえず(笑)。

役員のみなさんも忙しく、イレギュラーな期中の予算会議は通常では起こりえない話。「新規事業を応援したい」という気持ちがある人たちであることには救われましたが…、イレギュラーな会議設定は非常に困難で、とても調整が難航しました。

それでも関係各部署を探し当て、何度も掛け合った結果、育休復帰してから2か月後の2016年6月に、eiiconのための臨時予算決議を経営会議の議題にねじ込んでもらうことができました。

――会議の結果はどうだったのですか?

中村 :予算会議の時間は、役員陣の決議を含めてわずか10分。ですので、プレゼン時間は5分程度。まるでエレベーターピッチのような状態でした。新規事業コンテストの経緯を知らない役員もいる中、プレゼンを実施しました。しかし、その臨時会議での結論はまさかのNG。

そもそも採択された当時、論点には上がらなかった「プラットフォームモデル」に対する初期の投資額の大きさが要因でした。

改めて通常の予算会議への出席が必要だったと痛感した会議でしたね。もうすでに背水の陣だということは理解していましたので、この場を逃してはならないとその場で次のチャンスがほしいと提案。

事業計画のブラッシュアップをすることを条件に再度臨時予算決議の時間がほしいと申し出、その場で約束を取り付けたことが功を奏して2週間後に改めてプレゼンを行うことができました。

――そこで役員陣を納得させることができたのでしょうか?

中村 :前回のフィードバックを受けて、事業計画をブラッシュアップし、それをプレゼンしました。あとはもうひたすら熱意です(笑)。予算が出なかったら、辞める覚悟で臨みました。

▲役員陣のフィードバックにより、ブラッシュアップされていった中村の新規事業プレゼン資料。

――なるほど。その熱意で、なんとか役員陣から予算の拠出を承諾してもらったわけですね。

中村 :そうです、最後は熱意でしたね(笑)。


仲間集めに奔走する

――事業を創るために必要な「カネ」は得たものの、「ヒト」に関してはまだ中村さん一人しかいない状態だったと思います。仲間集めはどのように進めていったのでしょう?

中村 :2016年6月に予算がおりて、7月からリクルーティングを始めました。実は、育休から復帰した4月のタイミングで、田中を口説いていたんです。田中はパーソルキャリアの人材紹介の法人営業チームで一緒に働いていたメンバーでした。彼女は全社一位の売上実績を出したり、NPSという評価軸で驚異的な高い数値を残すなど、数々の実績を残している人物。

実は構想段階から彼女と一緒にやるイメージしかなくて。彼女と一緒に、eiiconという新規事業をスタートさせたいと思っていました。でも、田中はなかなか首を縦に振ってくれなくて(笑)。

田中 : 中村さんは入社したときの教育担当でした。育休中よりeiiconの構想は聞いていて、よく話をしていました。しかし、当時はマネジメントとして戦略策定や組織運営にも着手していたこともあり、「今は抜けられません」と断っていました。

一方、私のチームが担当するIT・Web領域のお客様はベンチャー企業も多く、人材採用だけでなく事業そのものへの支援のニーズも肌で感じ取っていました。人材紹介というサービスで支援できるのは、人や組織に限定されてしまいます。もっと広く、事業を支援できないか。――そんな思いが募っていたこともあり、最終的に中村さんと一緒に事業支援ができるサービスを立ち上げようと決意しました。

中村 :田中のジョインが決まって、営業体制が固まりました。並行して予算どり後に奔走していたのはサービスの開発です。

最初は私が書籍を読みながら、なんとか外部の協力会社をディレクションしプロジェクトマネジメントしていましたが、それでは一向に開発が前進しません。そんなとき、リクルーティングする中で目をつけたのが富田でした。

彼は、パーソルキャリアが展開しているアルバイト求人サイト「an」のリニューアルプロジェクトを担当して月次応募の底上げに成功するなど、社内表彰歴も多数ある人物。Webサービスのエンジニアやディレクションも持ち合わせている彼こそが適任だと思い、アプローチしました。ジョインすることが決定し、現在はサービス開発からマーケティングまでを幅広く担当しています。

富田 : 私はSEからキャリアをスタートさせて、2014年にインテリジェンス(現・パーソルキャリア)に転職。アルバイト求人サイトのanリニューアルなどを手がけ、Webマーケティングなどを学びました。Webという枠組みだけではなく、根本からビジネスを考えたい。つまり、事業を創るような「0→1」を経験したい。そんな思いが募る中で、社内で中村さんと出会いました。まさに、自分がやりたい仕事が目の前にあり、ここで力を発揮したい。――そんな思いで、社内転職し、2016年10月にeiiconのメンバーになりました。


今回の記事<前編>では、eiiconの立ち上げ期を振り返りながら、大企業の中でいかに新しい事業創造を進めていったのかを聞きました。明日公開する<後編>ではeiiconのメンバーが集まり、オープンイノベーションという手法を用いて、いかにして企業を支援しているのか、そして2期目を迎えての決意を聞いていきます。

(構成・取材・文/眞田幸剛、撮影/保美和子)