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【イベントレポート/YOKOGUSHI VOL.1】 <東京メトロ×JR東日本×京急×東急>交通インフラ各社が仕掛けるオープンイノベーションを徹底討論!

オープンイノベーションプラットフォーム・eiiconは、「YOKOGUSHI VOL.1~交通インフラ各社が仕掛けるオープンイノベーションを徹底討論!~」と題したイベントを6月21日に開催した。「YOKOGUSHI」(ヨコグシ)は、オープンイノベーションを取り入れた同業界で活躍するイノベーターたちに着目。各社の仕掛けや狙いがディスカッション形式で紹介されるイベントとなっている。

第一回目となる今回のテーマは「交通インフラ」。垣根を越え、東京地下鉄株式会社(東京メトロ)、JR 東日本スタートアップ株式会社、京浜急行電鉄株式会社、東京急行電鉄株式会社の新規事業の担当者が集結するという、大変貴重な場となった。

冒頭、eiiconのco-founder田中みどりが挨拶。本イベントの趣旨について、「ノウハウを学ぶことにとどまらず、業界全体のイノベーション創造につなげる場にしたい」と語った。続いて、パネルディスカッションが行われ、東京急行電鉄の加藤氏がモデレーターを務めた。登壇者詳細やディスカッション内容は以下の通りだ。


【登壇者紹介】

▲東京地下鉄株式会社 経営企画本部 企業価値創造部 課長補佐 中村友香氏

2009年に東京地下鉄に入社。財務部にて資金調達や企業年金運用などの業務に約7年間携わる。経営管理部に異動ののち、2016年に産休・育休を取得。2017年に復職後、現在の部署でアクセラレータープログラム事務局を担当。

▲JR 東日本スタートアップ株式会社 営業推進部 マネージャー 阿久津智紀氏

2017年からJR東日本グループのアクセラレーションプログラム「JR東日本スタートアッププログラム」を立ち上げ。 2018年2月にJR東日本100%出資のコーポレートベンチャーキャピタル「JR東日本スタートアップ株式会社」の設立を担当。現在、出資業務とプログラムの運営を行っている。

▲京浜急行電鉄株式会社 新規事業企画室 主査 橋本雄太氏

大学卒業後、大手新聞社、外資系コンサルティングファームを経て、2017年4月より現職。 オープンイノベーションによる新規事業創出を目標に、「KEIKYUアクセラレーター」プログラムを立ち上げ、運営している。


【モデレーター】

▲東京急行電鉄株式会社 事業開発室 プロジェクト推進部 課長補佐 加藤 由将氏

2004年入社。経理業務に携わった後、社内新規事業の立ち上げの際にチームにアサインされ、コンセプト作りから実施・運営まで一貫して携わり、イントレプレナーとしてスタートを切る。この間、MBAでイントレプレナーについて学び、理解を深めていく。2015年に「東急アクセラレートプログラム」を始動させ、現在に至る。


鉄道会社にオープンイノベーションは必須。

まずは、モデレーターである東急・加藤氏から、前置きとして業界全体の現状を説明。そこから、「鉄道各社はオープンイノベーションをどう見ているか」というテーマに踏み込み、ディスカッションがスタートした。


東急・加藤氏 : まず鉄道業界の現状について簡単に説明しますと、消費人口減の影響で収益が下がるという状況に直面しています。装置産業の特性上、一度損益分岐点を割ると回復するのが難しい点が特徴です。合わせて、労働人口の減少はコストアップにもつながり、IoTやAIなどを用いて、例えば今まで5人でやっていた作業を1人でもやれるようにすることが課題と考えられます。

また、一口に鉄道会社といっても、主要な収益が鉄道部門というところもあれば、当社のように鉄道部門の収益は2割程度で、大部分は鉄道以外の領域で幅広く事業を展開しているところもあります。では、こうした実情を踏まえ、鉄道会社はオープンイノベーションをどう見ているか、ということを最初のテーマにしたいと思います。

京急・橋本氏 : オープンイノベーションは「やらざるを得ない」と考えています。人口減や労働力不足はローカルビジネスを展開する鉄道会社という業態にとって大きな脅威です。自らイノベーションを起こし、持続可能な社会を築かなければ、近い将来、鉄道をはじめ、沿線を中心に展開するマンション、オフィス、ホテル、スーパーマーケットなどの各事業が緩やかに衰退するという事態を招くことになるでしょう。自社のリソースを開放することでイノベーションの種を集め、外部のリソースと掛け合わせることで、新しい価値を作っていかなければならないと思っています。

JR東日本・阿久津氏 : JR東日本グループの収入の約3割は鉄道以外のサービス事業から得ているのですが、現場では労働力不足の影響が既に出ています。労働の効率化が求められ、オープンイノベーションは必須だととらえています。合わせて、地方は鉄道存続が危機となっています。従来の鉄道事業という枠組みにとらわれることなく、幅広い取り組みが欠かせません。

東急・加藤氏 : 東京メトロさんは現状、高収益を記録していますよね。オープンイノベーションについてはどのような見解を持っているでしょう。

東京メトロ・中村氏 : 東京メトロの収益は約9割が鉄道事業によるもので、多様な事業を展開している他の鉄道会社さんとは大きく異なります。そのため、鉄道運行に注力すべきという意見も社内には確かにあります。しかし、現在はよくてもいずれ状況は変わると考えられますので、収益に余裕のある今のうちに取り組むべきだと考えています。地下鉄運行のノウハウには誇りを持っていますが、今までと同じやり方では現代では取り残されてしまいます。外部の力をぜひお借りしたいですね。


多様な領域・分野でイノベーションを目指す。

東急・加藤氏 : オープンイノベーションに向いている事業と向いていない事業があると思いますが、このあたりについてはいかがでしょうか。

京急・橋本氏 : 京急は、鉄道部門が最も大きな収益をあげていますが、不動産など鉄道以外の分野からの収益も多くなっています。どちらかと言えば、まずは鉄道そのものよりも、その周辺にある領域、まちづくりという視点でのイノベーションが必要だと考えています。

東京メトロ・中村氏 : 鉄道分野では、例えば、改札をなくし顔認証で料金を精算するなどのアイデアも想定されると思います。ただし、鉄道運行の安全・安心は絶対に守らなくてはいけないので、鉄道領域でオープンイノベーションをしようとすると、時間がかかる傾向にあると思います。非鉄道事業で新たなことを始め、「それって、メトロがやっていたんだ」と言われるようなサービスを世に送り出していきたいですね。

東急・加藤氏 : JR東日本さんは、本体でアクセラレータープログラムやインキュベーションを行いながら、CVCも展開していますね。活動はリンクしているでしょうか。

JR東日本・阿久津氏 : そうですね。当社がハブになって、外部との橋渡しを行っています。各部の課題をヒアリングして、解決できそうな企業や技術、サービスを見つけます。鉄道会社全体に言えることだと思いますが、情報を外に出し外部のリソースを取り入れることを嫌がります。そうした状況をアクセラレーターや投資で打破しているところです。現在、テーマとして一つ掲げているのが「脱自前主義」です。自社ですべてやろうとすると、サービスの質に限界が生じます。

東急・加藤氏 : 色々課題もあると思いますが、どこか力を入れたい分野はありますか。

JR東日本・阿久津氏 : インバウンドに力を入れたいと考えていますが、海外から訪れる人たちの動きをとらえきれていないところがあります。十分なデータを取得して、分析する必要があると思っています。

東急・加藤氏 : データを活用して、AIと結びつける動きは活発になっています。少々具体的な話になりますが、AIについてはどのようにとらえているでしょうか。

京急・橋本氏 : AIを何に活用するかが重要です。まだ、当社の中でAIをどのソリューションに使っていくかの議論が十分ではなく、現状では具体的な取り組みはありません。しかし、大きなトレンドの中で欠かせないテーマであり、例えば、駅や小売店の来場動向をAIで解析するなどに取り組みたいですね。

東京メトロ・中村氏 : アクセラレータープログラムの中で、AIのスタートアップの応募もありました。しかしながら、当社もデータの利活用の部分で課題があり採択を見送ったというのが実情です。

東急・加藤氏 : AIを活用して混雑の緩和を減らすなどはできると思っています。データも各社でオープンになっている部分も多いですが、まだ十分とは言えない段階ですね。


「よこぐし」も、外部との連携も、より活発に。

京急・橋本氏 : 鉄道会社はデータやリソースの宝庫と言えます。それだけに、大きな可能性を秘めているはずです。外部との連携をもっと盛んにしていきたいのですが、日々のオペレーションに追われ、新しいことに挑戦することが難しいという現状もあります。アクセラレータープログラムには、外部との連携を促進し、鉄道会社で働く人の意識を変えていくという効果もあると思います。

東急・加藤氏 : 鉄道会社毎に事業ポートフォリオの違いはあるものの、基本的なビジネスモデルは似ていますし、事業エリアが食い合わないので、会社を超えた情報共有などは活発です。

東京メトロ・中村氏 : 鉄道会社のオープンイノベーションの成果は「よこぐし」されやすいですよね。上手くいった例を教えてほしいと言えば、教えてくれることがほとんどです。当社がアクセラレータープログラムを始める時も、東急さんにヒアリングさせていただきました。

JR東日本・阿久津氏 : 抱えている課題は各社似通っていますから、一社で上手くいけばスケールします。その意味で、オープンイノベーションもしがいがあるのではないでしょうか。

京急・橋本氏 : 今後も積極的に連携していきたいですね。

東急・加藤氏 : さまざまな分野の方たちと協業し、一つの会社で生まれたイノベーションを他の鉄道会社と連携して水平展開することで、鉄道イノベーションに限らず、生活インフラとしてインパクトを出していければと思っています。


取材後記

鉄道と言えば、おそらく、もっとも「堅い」事業を展開する分野の一つだろう。国の規制は強くあり、安心と安全は絶対に脅かしてはならない。それはある意味で、事業の安定にもつながってくるのだが、将来の人口減とそれに伴う収益減を見据え、オープンイノベーションを活発に行おうとしている。

また、鉄道会社は鉄道事業だけを行っているのではなく、実にさまざまな領域に進出している。加えて、横のつながりも強く、一社で行ったことは順次、横展開されていくという。世の中に大きなインパクトを与えるチャンスが広がっている。ディスカッションの中では、インバウンド、AI、データ、顔認証など、キーワードがいつくも出てきた。鉄道各社と積極的に協業を試みてはいかがだろうか。

(構成:眞田幸剛、取材・文:中谷藤士、撮影:古林洋平)