先日、eiicon labでは「【eiicon独自調査!】 国内CVCカオスマップ(2018年版)」といった記事を公開したように、大企業において「コーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)」を設立し、オープンイノベーションを推進しようという動きが活発となっている。

そうしたなか、7/5にニッセイ基礎研究所から「大企業のコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)~大企業によるオープンイノベーション~」というレポートが発表された。


国内CVCの多様性・厚みが増してきている

本レポートでは、「世界的にCVCの投資が増加傾向にある」と指摘(下図参照)。グーグル、インテル、セールスフォース・ドットコムといった米国勢だけではなく、サムスンやレノボといったアジア勢のCVCも積極的に投資活動に取り組んでおり、2017年の投資金額は、米国が約2兆円、中国が6,600億円(※1ドル=110円で計算)となっている。

※「大企業のコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)~大企業によるオープンイノベーション~」(ニッセイ基礎研究所)より抜粋

一方で、CVCも含めた日本のVC全体の国内投資額は2,000億円にも満たない。米国や中国に大きく差をつけられてはいるものの、2012年、2013年頃から多くの国内大手企業がCVCを設立。一昔前のVC業界は、独立系・金融系の大手VCが中心だったものの、放送、メーカー、不動産、鉄道など幅広い業種にその動きは広がり、多様性と厚みが増してきている。

※「大企業のコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)~大企業によるオープンイノベーション~」(ニッセイ基礎研究所)より抜粋


国内CVC事例

本レポートでは、国内CVC事例として、「KDDI Open Innovation Fund」「アシックス・ベンチャーズ」「JR西日本イノベーションズ」を取り上げている。

「KDDI Open Innovation Fund」は、VCのグローバル・ブレイン(東京都)と組んで、2012年以降、合計3本、総額300億円のファンドを運用。2018年4月に立ち上げた最新ファンドでは、AI、IoT、ビッグデータ、ヘルスケア、ロボティクス等、5Gの時代を見据えた分野・領域を主な投資対象としている。これまでの投資先には、レアジョブ(オンライン英会話)、アイリッジ(O2O2ソリューション)のようにIPOした企業や、Origami(スマホ決済)のように経済産業省のベンチャー支援プログラム「J-Startup」の「特待生」企業として選定された企業もある。さらに、nanapi(生活情報サイト)のように、KDDIが買収して傘下に置く先も出ている。また、KDDIはCVC以外にも、2011年からKDDI∞Labo(ムゲンラボ)4という起業・ベンチャー支援プログラムにも取組んでおり、様々なラインアップでベンチャー企業へのアクセスを展開している。

また、「アシックス・ベンチャーズ」は、東北大発ベンチャーで「導電性繊維」の開発を手掛けるエーアイシルクに投資。「JR西日本イノベーションズ」は、手荷物預かりシェアリングサービスを行うecboに投資している。西日本旅客鉄道は同社と業務提携し、手荷物預かり所やコインロッカーの不足緩和等に繋げることを目指しているという。


CVCに求められる4つの要素

本レポートでは、CVCに求められるものとして、4つの要素を紹介している。それが、「1、目利き力・経営支援力」、「2、社内・外ネットワーク」、「3、目的と目指す成果の明確化と、その共有化」、「4、継続性」だ。各要素について具体的にどのように紹介されているのか見ていきたい。


1、目利き力、経営支援力

CVCは、ストラテジック・リターン(経営上のシナジー効果)と、ファイナンシャル・リターン(IPOやM&A等を通じた投資収益)の両方を視野に入れなければならない。

どちらのリターンを求めるにしろ、経営者、経営チームを目利きする力も重要となる。実績あるベンチャーキャピタリストは、シード・アーリーステージになればなるほど、経営者、経営チームの評価を重視する。どんなに良い技術やアイデアを持っていても、ベンチャーは事業を進める中で多くの困難にぶつかる。その困難を乗り越えるには、経営者、経営チームの力によるところも大きい。

そして、ベンチャー投資は「投資して終わり」ではなく、その後の経営支援が成長を左右する。経営上のシナジーを得るには、ベンチャーが一定成長することが必要であり、粘り強く支援をしていく必要がある。もし、資金面だけでなく、経営上のアドバイスや営業支援、研究・開発設備やオフィススペースの提供等、大企業のリソースを活用出来るのであれば、ヒト・モノ・カネが足りないベンチャーにとっては魅力的だ。ベンチャー投資に注目が集まり、有望な投資先の獲得競争が激しくなる中、他の投資家と差別化された経営支援力は有力投資先の発掘・獲得にも大きく貢献するだろう。


2、社内・外のネットワーク

優れた投資家、優れた経営者の周りには、良い情報、優れた人が集まる。ベンチャーとの連携や投資を考える上で、いかに良い情報の集まるコミュニティとネットワークを築けるかが重要だ。投資候補先のベンチャー企業ばかりを探すのではなく、VCやエンジェル投資家、有望な経営者、事業会社の新規事業開発担当者、大学の産学連携担当者等とのネットワーク構築にも注力する必要がある。投資候補先の発掘、営業支援、ビジネスマッチング、資金調達先探し、EXITに向けた売却先探しと、あらゆる面でネットワークが役に立つ。

とは言え、そうした社外ネットワークがすぐに構築できるわけではなく、地道な取組みが必要だ。他のVCとの共同投資等、様々な”Give and Take”を繰り返す中で、人脈と信用が作られていく。注目のベンチャーのファイナンスに絡めば、業界内のプレゼンスも向上する。他のプレイヤーから「大手事業会社ならではの知見・リソースが、一緒に組む上で役に立つ」、「ベンチャーのことをよく理解していて、支援に熱心だ。」といった認知を獲て、Win-Winの関係を築けるようになることが重要だ。そうすれば、良い情報、良い案件が集まるようになってくる。大企業の名を振りかざしても、全くなびかない起業家や関係者も多いことには留意したい。

社内のネットワーク作りも重要だ。CVCでアンテナを張って良いシーズを見つけても、大企業の中でそれをうまくキャッチする人がいなければ花開かない。ベンチャー企業とその支援をするVCが、売り込みのために大企業に接触するも、「ライトパーソン」に辿り着けずに苦労することも多い。同じようなことが自社内、グループ内でも十分に起こりえる。大企業になればなるほど、事業領域も幅広く組織も大きくなる。見つけたシーズや情報をどこに繋げば良いのか、新事業に繋げていくには誰を巻き込めば良いのか、社内にどんなニーズがあるのか等をCVCが常に把握し、ライトパーソンとのネットワークを構築する必要がある。


3、目的と目指す成果の明確化と、その共有化

オープンイノベーション白書では、日本のオープンイノベーションの課題として、目的や目指す成果があいまいであることを指摘している。CVCも、あくまでオープンイノベーションの1つの手段に過ぎない。どのような目的、成果を達成するのかをしっかりと見定める必要がある。

目的、目指す成果によって、「どの分野・領域を投資対象とするのか」、「リスクをとって起業間もないステージも対象とするのか」といった投資方針・戦略も変わってくる。目的や目指す成果があいまいなまま投資を進め、大企業の真のニーズや重要な課題解決に繋がらないシーズばかり探索しても、経営上のシナジー効果は獲得出来ない。

上場株式と異なり、未上場のベンチャー企業の株式はすぐに売却出来ないし、売却しても投資元本が回収出来ないケースも多く、「後戻り」が難しい点には留意が必要だ。経営トップの中に、明確な目的や目指すべき成果のイメージがあったとしても、そのイメージが共有化出来ていなければ、投資担当者が方向性に合わないシーズばかり探索してしまう可能性もある。投資担当者、投資の意思決定者、新規事業開発の担当者といった関係者全てに、大きな方針を共有化し、浸透させておくことが必要だ。


4、継続性

目利き力・経営支援力を持った人材・組織を育成・採用し、有力なネットワークを構築し、そして業界内のプレゼンスを向上させていくには、それなりの時間が必要だ。ベンチャーキャピタリストの育成には、シーズの発掘、条件交渉、投資実行、投資後の支援とモニタリング、投資資金回収までの、通常は数年かかるサイクルを一通り経験させることが重要だ。CVCの担当者を短期間の異動でローテーションさせてしまうと、ノウハウやネットワークが定着しない。短期間で成果が出ないことも多く、腰を据えた取組みが求められる。


中長期視点で投資を継続させる

最後に本レポートでは、「ベンチャーの収益はJカーブ曲線の形状をとることが多く、CVCが投資したベンチャーの多くは、しばらく赤字が続く」(下図参照)と指摘。

設立間もないCVCも、まさにこれから、投資先の成否・優劣が少しずつ見え始めるタイミングを迎えるため、失敗に直面した際にそこで足を止めてしまうのではなく、次に繋げて継続していけるのかが重要だと言及している。また、「長く続けた者がその果実を得るのがベンチャー投資の世界だからこそ、多くのCVCが中長期的な視点で投資を継続して、ベンチャー創出・育成の一翼を担う大きな存在となることを期待したい」と結んでいる。

※「大企業のコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)~大企業によるオープンイノベーション~」(ニッセイ基礎研究所)より抜粋