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【特集インタビュー】サービス公開から1年未満で5億円の追加資金調達を実現。『SmartHR』を開発するKUFU代表・宮田氏がとった「ビジネスを芽吹かせ、伸ばす手法」とは。<後編>

社会保険や雇用保険の加入手続きなどの煩雑な労務管理から経営者や人事労務担当者を解放することで、働くすべての人が安心して働けるよりよい環境を。株式会社KUFU(クフ)がそんな願いを込め提供するクラウド労務ソフト『SmartHR』(スマートエイチアール)は、2015年11月の提供開始以来、瞬く間にユーザー数を増やし、注目を集め続けている。今年8月、KUFUは『SmartHR』開始から1年を待たずして、総額5億円の追加資金調達を実施してみせた。この急成長を実現した代表の宮田昇始氏に、前編に引き続いて、スタートアップをスケールさせる独自のノウハウとVCやファンドとのリレーションの構築方法、さらに「イノベーションの起こし方」を尋ねてみた。

株式会社KUFU 
代表取締役・CEO 
宮田昇始 Shoji Miyata
1984年熊本県生まれ。大学卒業後、ウェブディレクターとして歩み始めたが、難病に倒れ、疾病手当金を受給しながら闘病。社会保険の重要性を身をもって感じる。2013年にKUFUを創業。軌道に乗らず、自己資本と受託開発で凌ぐ中、産休手続書類に苦労する妻の姿を目にし、社会保険・雇用保険の手続き自動化を発案する。2015年にクラウド労務ソフト『SmartHR』の提供を開始すると、瞬く間に契約者数を伸ばし、事業規模を拡大している。  

■投資家だけでなく、同業他社との関係づくりが重要

-この8月に総額5億円にも上る資金調達をされましたが、出資者とはどのように出会って、どのように関係を構築していくのですか。 

宮田:資金調達はトータルで3回しましたが、過去2回は、Open  Network Lab のDemo DayやTechCrunch Tokyo 2015で出会ったVCさんからお申し出いただいたものでしたので、やはりコンテストやイベントに参加すると一気に複数のVCさんたちからお声がかかるというのは大きなポイントですね。直近のラウンドの場合は、お世話になっている企業さまの紹介などで担当の方と出会い、何度かお話しながら決めました。いろいろな判断基準があるなかで、実際に出資を受けていた他社さんからの評判がとても良かったことが最後の決め手になりました。 

-スタートアップ間でファンドについて情報交換されるんですね。出資者とタッグを組むポイントというのは、どういうところになるのですか。 

宮田:まずは金額等の条件が合うことが大前提ですよね。加えて、例えば、ドメスティックに事業展開したいのか、海外展開を目指したいのか、SMBを狙うのかエンタープライズを狙うのか、といった方向性が合うかどうかもポイントになります。私たちの場合は、社会保険や雇用保険を扱うサービスということで、行政との連携のしやすさも重視しました。 アドバイスとしては、出資者とはできる限り早めに会うこと、話す機会を何度か設けておくこと、そして、実際に投資を受けている企業からのヒアリングをたくさん行うことです。そのためにも、スタートアップやベンチャー同士、横のつながりを持っておくことはとても大切だと思います。  


■イノベーションの種はどこにでもある。

-2016年10月時点で『SmartHR』の導入企業数は2,000社。リリースからわずか11カ月で急激に数を伸ばしましたね。

宮田:先日、従業員5名以下の小規模企業を対象に、無料で利用できる「¥0プラン」の提供を開始(9月12日リリース)したことで、さらに導入企業数の伸びが加速しています。今、ユーザーの多くは、IT系の企業です。いかにIT業界の外に広げていくかというのが今後の課題で、そのためにはWebだけでない、リアルなマーケティング展開が必要だと考えています。

-この度の「2016年  グッドデザイン賞」受賞が促進剤になりそうですね。まさに『SmartHR』のサービス自体が一つのイノベーションと言えますが、イノベーションに「起こし方」ってあるのでしょうか。

宮田:イノベーションと言うと全く新しい何かを生み出すというイメージがあるかもしれませんが、ある意味では当たり前のことをやっているだけなんです。『SmartHR』が扱う社会保険や雇用保険の手続きというのは、日本の高度経済成長期にできた仕組みや書類をそのまま残している点が多くて、私たちはそれを現在のテクノロジーであたりまえに使える仕組みに置き換えただけですが、それだけですごく価値を感じてもらっている。

日々の仕事や生活でちょっと常識を疑ってみるというか、「なんでこの作業って紙でやっているんだろう」「なんでこんな面倒なことをやっているんだろう」という風に、当たり前にやっている煩雑さを意識することで、イノベーションの種が見つかるかな、と。

―最後に、イノベーションの種を芽吹かせ、ビジネスをスケールさせることを目指している方々へメッセージをお願いします。

宮田:「小さく始めること」だと思います。大規模にしてしまうほど失敗が後になる。半年、1年かけて作り込み、出来たものが世の中のニーズとかけ離れていることに気が付いても、もう手遅れです。最初は、週末プロジェクトとして友人のエンジニアと始めてみるとか、その程度でいいので、動くプロトタイプを作って、それを使ってくれた人にヒアリングをかけて、なるべく早くフィードバックをもらうことが大切だと思います。

そして、諦めないこと。Yコンビネーターの創業者、ポール・グレアムが「死なないために」というエッセイの中で、「スタートアップがキーを打っている最中に死ぬことはめったにないのだ。だからキーを打ち続けよう!」と書いているのですがこの言葉に何度も勇気づけられました。心が折れそうな瞬間は多数訪れますが、乗り越えたら必ずうまくいくと信じて、頑張りましょう。  


  前編、後編にわたるインタビューを通して、ビジネスをスケールさせるための具体的なノウハウをついて伺うことができた。まとめると、以下のようになる。

■(toB向けサービスの場合は)各種コンテスト・ピッチなどに積極的に参加。優勝・入賞することでサービスの大きな認知を目指す。

■プレゼンでは、サービス・プロダクトの説明よりも「課題」にフォーカスし、時間を割く。それにより、社会的なニーズを浮き彫りにさせる。

■出資者とはできる限り早く会い、横の連携も駆使して情報収集をしておく。

■イノベーションを起こすためには、身近な「当たり前」「常識」を疑ってみることが重要。

■まずは小さく始めて、フィードバックを多くもらう。そして、集中して、芽が出るまで諦めない。 

新規事業立ち上げのメンバーや、スタートアップ企業の経営陣には、大きな刺激となり、参考となるノウハウになったのではないだろうか。さらに『SmartHR』を進化させ、より便利な社会づくりを目指すKUFUに今後も注目していきたい。 

<構成:眞田幸剛、取材・文:古賀亜未子(エスクリプト)、撮影:佐藤淳一>