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KDDI | データドリブン時代の事業開発で「最も大切な要素」とは?

目まぐるしく変化を続ける世の中、多くの企業が次世代を見据えた変革に取り組んでいる。長年通信事業で成長を続けてきたKDDIも、「通信とライフデザインの融合」を掲げ、通信を中核にしたコマース、金融、教育、エネルギーといった新規事業を展開している。今、KDDIではイノベーション人財の活躍フィールドが確実に広がっているのだ。

そんなKDDIが、様々なテーマでイノベーションを共に考えるイベント、“KDDI Innovation Makers”を全4回にわたり開催している。

9月26日に開催された第1回目のテーマは、「データドリブン時代において求められる事業開発とは?」。イベントは2部構成で、まずは「データ利活用から読み解く、KDDIの新規事業戦略  –KDDIアセットを活用した事業開発とは– 」と銘打ち、セッションが行われた。後半は、パネルディスカッションを実施。「KDDIアセットを活用した事業開発の裏側と、今後のデータビジネスをキーパーソンが徹底討論!」と題し、KDDIグループでデータビジネスを手掛ける3者が登壇した。

会場は、KDDIが9月5日に新たなビジネス開発拠点として、虎ノ門に開設したばかりの「KDDI DIGITAL GATE」。未来を感じさせる空間に、エンジニアやデータサイエンティスト、新規事業開発担当者など、多様な人材が集った。


<セッション>「データ利活用から読み解く、KDDIの新規事業戦略  –KDDIアセットを活用した事業開発とは– 」

まず登壇したのは、KDDI株式会社 理事 ライフデザイン事業企画本部長 新居眞吾氏。KDDIにおけるデータ利活用と新規事業戦略についてのセッションを行った。

これまで、データを活用したビジネスを前面に出してこなかったKDDIだが、実際のところ、15年以上前からデータ利活用に取り組んでいるという。特に今年の4月に髙橋誠氏が代表取締役社長に就任してからは、データドリブンを経営の中核に据えている。

▲KDDI株式会社 理事 ライフデザイン事業企画本部長 新居 眞吾 氏

1985年、国際電信電話株式会社(当時)入社。2000年より、3社合併により現在のKDDIにて勤務。2005年に、電通とのJVである株式会社ユビキタス・コアに代表取締役社長として出向。2008年にKDDIに帰任し、アライアンスビジネス推進部長に着任。その後、新規事業開発、事業戦略立案等に携わり、2018年4月より現職。


■KDDIにとってのデータ利活用とは

「データ利活用は、KDDIグループにとって最重要の経営課題のひとつ」と強調する新居氏は、その方向性として「個人のお客さまの理解とサービス品質向上」と、「法人のお客さまの事業課題の解決と社会貢献」の2つを挙げた。「個人」に対しては、満足度向上や解約率低減、趣味・嗜好に合ったサービスのレコメンド、位置情報を活用した基地局や店舗の最適配置を実施。「法人」に対しては、データ分析を通じた顧客の本業貢献へのソリューション提供、位置情報活用した観光動態や商圏分析調査、そしてiメディアを活用したデジタルマーケティングの効率化提案などを行う。


■データ活用に当たっての基本スタンス

もちろん、データの活用にあたり、コンプライアンスやセキュリティは大前提だ。個人情報保護法や通信の秘密、今年5月にスタートしたEU一般データ保護規則(GDPR)など各種法令順守、そして情報セキュリティ基準の制定や専門部署による管理、子会社への監査も含めたセキュリティ確保にも徹底的に取り組んでいる。

 

■子会社関連会社と連携した推進体制

また、KDDI本体のみならず、グループ各社の強みを活かした推進体制も特筆すべきものがある。この後登壇するARISE analyticsは高度分析や分析ソリューションに、Supershipはデジタルマーケティングに強みを持つ子会社だ。関連会社であるデータフォーシーズは分析業務や環境構築を得意とする。そして出資先としてカカクコムとはデータ連携を、データセクションとは機械学習・AI技術を活用した法人向けソリューション提供を目指す。


■KDDIのデータ利活用における強み

冒頭で新居氏が述べたように、15年以上にわたりデータ利活用に取り組んできたKDDI。まず「保有するデータの強み」としては、通信キャリアならではの多様な正解データや位置情報が挙げられる。そして、KDDIとして多様なサービスを提供しているからこその、ユーザー嗜好データも強みだ。さらに新居氏は、「分析環境の強み」についても触れた。DMPのはしりである「THOMAS」、そして各種分析ツールの整備や分析専用セキュリティエリアの設置など、いち早く取り組んでいる。


■KDDIのデータ利活用戦略

次に新居氏から語られたのは、今後の戦略だ。「今後のキーワードは、IoT、AI、5G。新たな技術革新に向けた挑戦も推進中」という。具体的には、顧客属性やサービス利用情報、料金支払履歴といった多様なデータを、AIにより分析・スコアリング。それを解約予兆スコアや、サービス加入予測に活用していく。IoT領域においては、ソラコムへの出資も話題となった。さらに、低遅延・大容量である5Gのネットワークを通じて収集した画像データをAIで解析し、分析結果やソリューションを提供するなど、データを活用した新たな事業に積極的に取り組んでいく。

 

最後に新居氏は、多様な人財がデータ利活用領域で活躍するKDDIグループについて語った。課題整理や解決を推進する「ビジネス力」、情報処理・統計を行う「データサイエンス力」、そして実装・運用を実施する「データエンジニアリング力」、この3領域を強化していくという。

「KDDIグループとして、新たな分野で自分の能力を発揮したい方にもそのフィールドを提供していきたい。様々な人財と交わりながらデータドリブンの新時代を創っていきたいと考えています」と、新居氏は締めくくった。



<パネルディスカッション>「KDDIアセットを活用した事業開発の裏側と、今後のデータビジネスをキーパーソンが徹底討論!」

次に行われたのは、パネルディスカッション。KDDIにて新規事業推進を担う宮本美佐氏、Supership株式会社の野本遼平氏、そしてモデレーターとしてARISE analytics株式会社の長谷川匠氏が登壇し、各々の事業や事業開発の裏側について語った。

冒頭、参加者に「新規事業開発で失敗したことがある方はいらっしゃいますか?」と問いかけた長谷川氏。多くの手が挙がる会場に対して「当然、いますよね(笑)。僕らもたくさん失敗をしてきています。新規事業開発は、失敗こそが学び。そんな話を含めて、今日は裏側を見せていけたらと思っています」と、会場の空気を和らげた。

パネルディスカッションは大きく3つのパートに分かれて進行された。まず3社が事業の紹介を行う「事業紹介」、そしてARISE analyticsの事例を題材にしながら語る「事業開発の裏側」、そして最後に「事業開発の要諦」だ。


▲ARISE analytics株式会社 ビジネスディベロップメントディビジョン ディビジョンリード 兼

アクセンチュア株式会社 通信ハイテクメディア事業本部 マネージング・ディレクター 長谷川匠氏

2004年アクセンチュア入社後、通信・メディア・エンタメ業界を中心に、 デジタルを活用したマーケティング戦略や新規事業開発支援プロジェクトに従事。 2017年にKDDIとの合弁会社であるARISE analyticsを立ち上げ、 現在Business Development Divisionのリードとして同社に出向中。

▲Supershipホールディングス株式会社 経営戦略本部 経営戦略室長

弁護士 野本遼平氏

前職では弁護士として、契約審査、契約交渉、スタートアップ企業の新規ビジネスのスキーム審査や策定、事業提携支援、資金調達等の支援に携わる。2015年にSyn.ホールディングス(現Supershipホールディングス)へ入社し、戦略的アライアンス・資本業務提携やM&A・投資・グループ再編・PMIの戦略立案から実行などを担当。

▲KDDI株式会社 ライフデザイン事業企画本部 新規事業推進部長  宮本美佐氏

1990年、旧国際電信電話株式会社に入社。2011年10月から2013年4月まで、髙橋社長(当時専務)の役員補佐を務めた後、子会社と共にauのオウンドメディアUI改善、同メディア上での広告事業の策定に携わる。2016年、新規事業として、スポーツメディアの立ち上げを行う。2018年4月より現職。主に自治体向けの位置情報を活用したサービスの開発の他、地方活性化支援事業を担当。


1、事業紹介

■KDDI株式会社 ライフデザイン事業企画本部 新規事業推進部

事業紹介のトップを切ったのは宮本氏。新規事業推進部で取り組む「地域活性化支援」「ヘルスケア事業」「データ活用事業」のうち、今回は特にデータ活用事業について語った。事例として紹介したのは、コロプラと協業した「ロケーショントレンズ」という観光動態分析サービス。また、トヨタ、JapanTaxi、アクセンチュアとの共創により実施している、AIを活用したタクシー需要配信サービスの実証実験など、新たな取り組みにも積極的だ。「今後も新たな領域を開発していきたい。そのために、専門領域を超え、創造的な事業を構想し、多くの人と共有できる人財と共に働きたい」と語った。


■Supership株式会社

次に、野本氏が登壇。デジタルマーケティング領域に強みを持つ企業として、右肩上がりの成長を続けるSupership。特に10月11日にに正式リリースした新たなDMP「Fortuna」の開発について重点的に語った。このプロダクトにより、多様なデータの利用・連携、統合的な分析、そして一気通貫の施策実施が叶うという。今後も開発を続け、さらに進化したプラットフォームに育てていきたいと、野本氏は意気込みを語った。


ARISE analytics株式会社

次に、長谷川氏にバトンタッチ。KDDIとアクセンチュアの合弁会社で高度分析・分析ソリューションに強みを持つARISE analyticsの従業員は191人。サイエンティストの数は日本最大級だという。KDDIグループではあるが、設立当初からKDDIに依存せず独立して新規事業開発に取り組んでいる。「次に、私たちが開発した事業を事例に取って、新規事業をどのように開発したいのか、その話をしたい」と、長谷川氏はつなげた。


2、事業開発の裏側

長谷川氏が事例として紹介したのは、「工場向け故障予兆検知ソリューション(ARISE Predictive Maintenance)」。こうした故障予知サービスは他社も提供しているが、同ソリューションの特徴は、大きく3つ。

(1)センサー設置からネットワーク、分析まで一気通貫でできること。

(2)故障データのサンプル無しで予測モデルを構築できること。

(3)機械学習で予測モデルの検知精度を継続的に向上していること。

今年8月にリリースしたばかりだが、かなりの引き合いがあるという。同ソリューションを、どのような戦略・プロセス・人財で開発してきたのか――長谷川氏は続けた。


<事業開発の裏側:ストラテジー>

戦略立案においてポイントとなるのは、

【1】どの市場で戦うか(Where to Play)

【2】その市場でどうやってイノベーションを起こすか(How to Innovate)

【3】誰がターゲットなのか(Who to Target)

の3点だという長谷川氏。


【1】については、「AI,Data/analyticsで変革が起こる業界」を特定していったという。IoTの技術革新により、工場のデータが蓄積してきている。そこで、そのデータを分析したいというニーズが高まっていることに着眼した。

長谷川氏が特に重要だと強調するのが【2】だ。「技術進化のスピードをしっかり見極め、実運用に耐えられるレベルでソリューションを開発できるか。これは大きなポイントとなります。『こんな技術で、こんなことやりたい』という技術ドリブンで走ってしまうと、たいてい失敗します。私たちも以前、AIで感情分析ができる、人間と同じような会話ができるチャットサービスができるのでは、と走り始めましたが、うまく行きませんでした」と長谷川氏は語った。

最後、【3】においては、大企業ではなく日本全国の中小企業が抱える工場をターゲットに据えたという。匠の技術を持つが、継承者不足という深刻な課題にフォーカスした形だ。


<事業開発の裏側:新規事業開発で意識したプロセス>

ARISE analyticsは、データやAIを活用した新規事業開発も大きなミッションの1つである。そのためスピードは当然求められる。しかし、実際に開発したものを販売するのはKDDI。品質の担保や販売体制の構築はしっかりと行う必要がある。同社では、このバランスをどう取っているのだろうか?

事業開発のプロセスにはDiscover(ヒアリング・ブレスト)⇒Define(コンセプト設計)⇒Develop(サービス設計)⇒Deliver(販売体制整備)の4段階がある。ARISE analyticsでは、プロセスの前半に「たくさん失敗する“Fail First”プロセス」を構築。データアセスメント、PoCレビュー、ビジネスプロセスレビューなどレビューのポイントを多数つくり、たくさん失敗する中でスピードと品質を高めていくプロセスを作っていったという。

 後半で意識したのは、「拡販力を最大化する“パートナー・スキーム”」。つまり、販売を担うKDDIとの対等な関係づくりだ。「ベンチャーが大企業に商品を売ってもらう時、ベンダー扱いされませんか?私たちもそうでした(笑)」と、長谷川氏は苦労話を交えながら、数字にコミットしてもらうために同社の社長が自らKDDIの事業部長に直談判して対等なスキームを構築したことなど、事業をスケールさせるために大企業をうまくパートナーとして巻き込むことの重要性を語った。


<事業開発の裏側:ピープル(組織・体制)>

新規事業を開発するための組織体制として、同社はプロデューサーが中心となり、エンジニア、サイエンティスト、セールスなどを束ねていく役割を担う。データドリブン時代でスポットが当たるのは、サイエンティストやエンジニアといったスーパープロフェッショナルたち。彼らのアイデアを引き出す際に重要なのが、“ハブ”となりスーパープロフェッショナルを繋ぐプロデューサーの存在なのだ。プロデューサーは事業責任の主体者であり、AIやクラウドなど技術的な領域についての知見もある程度持ち合わせていることが必要となる。

ここで長谷川氏は、宮本氏、野本氏の両者に新規事業開発推進における組織体制について尋ねた。

宮本氏は「綺麗に分担できているわけではありませんが、役割分担はしています。プロデューサーのような事業責任者もいます。しかし最終的には部長である私が責任を全うしたいという想いを持っています」と回答した。

野本氏は「プロジェクトにもよりますが「有志が集まる」状態からスタートするため最初の時点では明確にプロデューサーを決め切れていないケースや、責任者が他の大きい事業責任者を兼務していて、専任のプロデューサーを設置できないケースがあります。長谷川さんのお話を聞いて、改めて専任のプロデューサーが重要だなと思いました」と語った。


<事業開発の裏側:組織の実例>

次に長谷川氏は、ARISE analyticsの組織体制の変革について話した。変更前の組織では、5つのディビジョンで「事業」と「機能」が入り乱れており、モノを作る側が事業に踏み込まない、事業側も知らない領域に入ると責任が持てなくなる、という弊害が発生していた。

そこで組織を組みなおし、機能を担うファンクションセクターと、事業を担うビジネスセクターとで、それぞれの役割と責任を明確化。また、高度なスキルを持つ人財を集中させた部門も創設し、研究にも集中できるような体制を整備したという。


3、事業開発の要諦

ストラテジー、プロセス、ピープルの3領域で事業開発の裏側を紹介してきた長谷川氏。最後に事業開発の要諦として、「ストラテジー、プロセス、ピープル。データドリブン時代の新規事業開発において、もっとも重要な要素は何だと思いますか?」と、宮本氏と野本氏に投げかけた。

宮本氏の答えは、「ピープル」。「KDDIは様々なアセットを持っていますが、持っていないものもあります。そして世の中には、KDDIが持っていない技術やアセットを持っている会社があります。そこを広く見渡して技術の目利きをしたり、また社内・グループ内も見渡しながら様々な領域をグッと掴んで連携できる人財と一緒に働いていきたいです」と、強調した。

野本氏は、「プロセスのところで、パートナー・スキームは大事。外部の力を使ってレバレッジを効かせていくことは、新規事業で核となるところです」と話しつつも、「最も大事なのは、ピープルですね」と結論付けた。「結局、ストラテジーを作るのも、プロセスを進めるのも、人。新規事業では、そこで推進し続けられる人が必要。そして欲を言えば、多様な観点・データ・技術、そしてレピュテーションやプライバシーにまで気配りできる人が理想ですね」と語った。

最後に長谷川氏。「私はアクセンチュアで15年戦略コンサルに携わって、ストラテジーこそ最も大事だと思っていました。しかしARISE analyticsを1年半やってみて感じるのは、ピープルこそが大事だということ」――3者とも、ピープルという結論に至った。「データドリブン時代において、天才をいかにマネジメントするか。これが大きな課題です。集めることもそうだし、気持ちよく仕事をしてもらい、アイデアを引き出す。これができる人財の力が求められています」と、結んだ。

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パネルディスカッション終了後は、登壇者も交えた懇親会を開催。オープンなスペースの中で、新規事業開発に対する議論があちらこちらで繰り広げられた。



取材後記

新規事業の創出には、ストラテジー、プロセス、ピープルの3つの重大要素がある。どんな戦略を描き、どのように進め、いかに優秀な人材を集めるか。いずれも欠かせない要素だ。しかし今回のパネルディスカッションを聞き、優秀な人材が存分に力を発揮し、戦略を描き、力強く実行する。特にデータドリブン時代においては、組織体制こそが要となるのではないかと感じた。

“KDDI Innovation Makers”は、今後も毎月テーマを変えて開催される。次回は10/24(水)より『KDDIが仕掛ける5Gのミライ~5G、ドローン、xRの取り組み事例~』のテーマで開催予定だ。(https://techplay.jp/event/696257

KDDIが取り組むイノベーションの裏側に興味がある方は、ぜひ参加をお勧めしたい。

(構成:眞田幸剛、取材・文:佐藤瑞恵、撮影:加藤武俊)