イノベーション創出活動「Yume Pro」(ユメプロ)を推進している沖電気工業株式会社(OKI)。2018年5月にはIoTとブロックチェーン技術を組み合わせたインセンティブ・ポイント「Yume Coin」をリリースし、展開を進めている。そのOKIが10月2日、フィットネス製品「Fitbit」が主催するイベントに登壇。「睡眠×Yume Coin」というテーマで、新たなコラボレーションについてプレゼンテーションを行った。

Fitbitは、毎日のアクティビティ、エクササイズ、睡眠などの記録を通して健康をサポートするウェアラブル活動量計だ。日々の健康状態を記録するにとどまらず、“Behavior Change”(行動変容)を促すデバイスとして世界中でヒットしている。個人の利用はもちろん、「健康経営」への関心が高まる中で従業員の健康促進や、収集したデータの分析など、法人向けサービスが好調だ。

今回のイベントが開催されたのは、「THE CLASSICA 表参道」。“Behavior Change”をテーマに、Fitbit社やFitbitとコラボレーションを行う企業が登壇。リサーチ結果やFitbitを活用したサービス事例について発表した。

OKIからは、経営基盤本部 イノベーション推進部長 大武元康氏が登壇。「単に眠るだけの睡眠ではなく、私たちはFitbitとのコラボレーションによりモチベーションを持たせてポジティブな睡眠にしていこうとしています」と、プレゼンテーションをスタートさせた。

▲「睡眠×Yume Coin」をテーマにしたプレゼンを行う沖電気工業株式会社 経営基盤本部 イノベーション推進部長 大武元康氏。多くの注目を集め、会場は満席に。


OKIのイノベーション創出活動「Yume Pro」と、「Yume Coin」

4月よりオープンイノベーションを積極化しているOKI。活動の総称を「Yume Pro」と名付け、国連が定めたSDGs(持続可能な開発目標)の社会課題解決を標榜している。その中でも特に注力しているのが「医療・介護」、「物流」、「生活・住宅」の3テーマだ。大武氏は、プレゼンの冒頭でインドやイスラエルといったグローバルでのリバースイノベーションや、イノベーション創出の場「Yume ST」の開設などについても紹介を行った。

今回、Fitbitとコラボレーションを行ったのは、OKIがオープンイノベーションにより開発した「Yume Coin」だ。健康づくりは大事だという認識はあるが、なかなか行動に移せない人も多い。そこで、サービス利用者へインセンティブを付与することによって行動変容をもたらす仕組みとして、スタートアップのZEROBILLBANKと連携し「Yume Coin」は開発された。ブロックチェーン上で構築されており、利用者が健康促進・改善に向けた行動をとった際に、行動の対価として自動的にインセンティブ・ポイントが貯まっていく。貯めたポイントは、2万点を超える様々な商品・サービスと交換できる。


健康のカギを握る「睡眠」

OKIが今回の取り組みでアプローチしていくのは、先に挙げた3テーマのうち「医療・介護」の領域だ。中でも、SDGs Target 3.4「2030年までに、非感染症疾患による早期死亡を、予防や治療を通じて3分の1減少させ、精神保健および福祉を促進する」の達成にフォーカス。非感染症疾患、つまり生活習慣病や認知症の早期発見や予防にコミットしていくという。

少子高齢化と認知症患者増加による労働力と医療費の不足は、日本が抱える大きな課題だ。その中で、人々の健康的な生活のために何ができるのか。OKIは、様々な共創パートナーと連携し、非感染症の「早期発見」、「行動促進」による予防、「家族・地域を繋ぐ」ことに取り組んでいる。

健康のための5つの要素は、「睡眠」「運動」「食事」「メンタル」「エイジング」である。各要素は互いに影響し合っているが、OKIがまず取り掛かるのは「睡眠」だ。ここで、大武氏は世界の平均睡眠時間を提示。日本人は先進国の中でも、とりわけ睡眠時間が短いことを強調した。

次に大武氏は、良い睡眠が健康の基盤となることに対する根拠を示した。睡眠は、人間のすべての力の源。集中力、コミュニケーション力、判断力、注意力、クリエイティブ力に関係する。そして認知障害の前兆として、まず睡眠障害が出現するというデータを紹介した。


Fitbit × Yume Coinで、睡眠の質を向上

「『睡眠負債』という言葉をよく聞きます。これを、『睡眠資産』に転じていきたい」と語る大武氏。FitbitとYume Coinによるコラボレーションについて具体的な内容を展開した。

Fitbitでは睡眠のバランス、リズム、効率を測定できる。睡眠効率は、実際に睡眠している時間/ベッドにいる時間の割合で算出される。眠りが浅かったり目覚めが悪い場合、睡眠効率も悪いということだ。

では、こうしてFitbitで計測した睡眠データと、Yume Coinを掛け合わせてどのようなことができるのか。大武氏は実際にYume Coinのスマホアプリの画面でデモンストレーションを行った。例えば、ある日の睡眠効率(実際の睡眠時間/ベッドにいる時間)がFitbitにより87%と算出されたとする。Fitbitと連動したYume Coinアプリにそのデータを飛ばすことで、87コインが貯まる。つまり、睡眠効率が良ければより多くのコインを得ることができる。睡眠のバランスやリズムについても同様だ。さらには、目覚めた時のすっきり感の自己評価に応じても、コインが貯まる。

睡眠のバランス、リズム、効率、そして目覚めた時の気分。この4つの要素を掛け合わせて、睡眠をスコアリングする。それに基づきコインを付与することで、良い睡眠を取ることに対するモチベーションを高める。「Fitbit×Yume Coinにより、“ご褒美つきの睡眠”という世にも珍しい睡眠が生まれます」と、大武氏は強調した。

 ここで1つ生まれるのが、「良い睡眠なんて、取ろうと思って取れるものではないのでは?」という疑問。大武氏は、「諸説あるが、良い睡眠を取るためにできる準備があります」という。例えば、食事は寝る3~4時間前までに取る、運動は4~5時間前までにしておく、そして入浴など寝る前に体を温める、といった行動だ。いわば「眠活」とも言えるこの行動により、目覚めの良いポジティブな睡眠が取れるようになる。良い睡眠を取ることで、Yume Coinがどんどん貯まっていく。すると良い睡眠を継続して取ろうというモチベーションが向上する。良い睡眠を取る習慣ができれば、認知症の予防につながっていく。


岩見沢市と連携し、実証実験を実施

大武氏は、OKIにできることとして「仮説」「場」「ソリューション」の3点を紹介した。まず「仮説」としては、今回のFitbit×Yume Coinのように認知症の予防・未病につながる可能性のある仮説を立案する。「睡眠」「運動」「食事」といった健康に深く関わる要素の行動変容をもたらす。そして仮説を検証する「場」として、北海道岩見沢市と連携し歩行・食事・睡眠を掛け合わせた実験を実施するという。さらに、「ソリューション」としては、睡眠などの迅速なデータ収集、そのデータを安全にやり取りする仕組み、そしてデータを高速で分析・解析するノウハウや技術を提供していくという。


取材後記

「睡眠負債」という恐ろしい言葉が少し前に話題になった。健康と睡眠が強く結びついていることは、誰もが実感しているはずだ。慢性的な睡眠不足や偏った睡眠習慣は、じわじわと健康を蝕み、健康で幸福な生活の基盤を揺るがしてしまう。しかし、どうすれば良い睡眠を取れるのか、日常的に考え行動することは難しい。その課題に切り込むのが、今回発表された「Fitbit×Yume Coin」のソリューションだ。なんとなく取っていた睡眠の質を「Fitbit」で計測したデータにより意識する。そして「Yume Coin」のインセンティブ・ポイントが動機となり、睡眠の質を向上させる行動をするようになる。眠ることで健康も、インセンティブも手にできる、そんな夢みたいな話が「Yume Coin」で実現するのだ。

今回の事例は「Yume Coin」コラボレーションの一例にすぎない。SDGsで掲げられる課題解決に向けて、様々な行動変容が必要となるだろう。行動変容の動機づけをする「Yume Coin」という仕組みは、他にも多様な領域で活用できる。今後の飛躍が楽しみだ。

(構成:眞田幸剛、取材・文:佐藤瑞恵、撮影:加藤武俊)