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年間20件以上の共創を推進する、JR東日本スタートアップの覚悟に迫る

年間20件以上の共創を推進する、JR東日本スタートアップの覚悟に迫る

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2018年4月から募集を開始したベンチャー企業と協業し、新たなビジネス・サービスを実現する「JR東日本スタートアッププログラム2018」。11月6日にその選考結果が発表され、合計23件もの提案を採択したと発表した。――このプログラムの企画・運営を手がけ、JR東日本とベンチャー企業の橋渡し役となっているのが、2018年2月に設立されたJR東日本スタートアップだ。

昨年開催された「JR東日本スタートアッププログラム2017」においても20件の提案を採択、11件の実証実験を推進。10月に赤羽駅ホームにオープンしたAIを活用した無人決済店舗については多くのメディアで取り上げられたことも記憶に新しい。さらに、設立から半年ほどの間に、駐車場シェアで有名な「akippa」、医療×テクノロジー事業を手がける「BackTech」、AIを活用した客室単価設定ツールを提供する「メトロエンジン」、モバイルオーダーの「Showcase Gig」といった4社に出資を行っている。

”鉄道”という、一見するとオープンイノベーションから遠い会社を母体に持ちながら、これほど柔軟に事業共創に挑めているのはなぜか?――JR東日本スタートアップの立ち上げの経緯から、今年も開催された「JR東日本スタートアッププログラム」について、さらに同社が関わるオープンイノベーションについて、代表である柴田氏からお話を伺った。

※JR東日本スタートアップのイノベーション活動についての詳細は、【特設ページ】をご覧ください。

▲JR東日本スタートアップ株式会社 代表取締役社長 柴田裕氏

1991年、東日本旅客鉄道株式会社入社。駅での勤務から財務や経営企画、小売業などに従事。2018年2月、JR東日本スタートアップ株式会社代表取締役社長に就任。「JR東日本スタートアッププログラム」の開催などを通じ、スタートアップ企業×JR東日本による、オープンイノベーションに尽力している。また、柴田氏はブログ「鉄道員(ぽっぽや)社長の冒険」を通じて積極的な情報発信も行っている。 

JR東日本の覚悟のあらわれとなる取り組みが、JR東日本スタートアップ

――まず初めに、JR東日本がオープンイノベーションに取り組むきっかけをお聞かせください。

柴田氏 : 一言で表現すると、「“脱”自前主義」です。外部と連携して新しいサービスや事業を立ち上げ、今までのJR東日本になかったスピード感で行動を起こす必要性があったからです。JR東日本は旧国鉄時代からの流れ、”官”としての文化があり、ともすれば保守的になりがちで、いろんな課題を自前で解決しようとする傾向があります。しかし、お客様の嗜好も世の中のシステムも目まぐるしく変化する中で、「変わらないこと自体がリスク、……自前主義は限界に来ているのではないか?」という危機感を持つようになりました。そこで、自前主義を脱して、オープンイノベーションによって変革していくことに舵を切ったのです。

――JR東日本グループがオープンイノベーションによって、ユーザーや社会に対し、どんな世界観を提供できると考えていましたか?

柴田氏 : JR東日本が手がける事業は「究極のBtoC」ではないかと、私は考えています。鉄道事業はもちろん、駅ナカ事業やSuicaなど、全てのサービスがお客様の生活に密着している。だからこそ、目指す世界観は、お客様一人ひとりの日常を変えること、「次の当たり前」をつくることです。より快適に、便利に、スマートに。豊かな暮らしや新しい働き方を提供していきたいと考えています。

オープンイノベーションをきっかけに、私たちが持つリアルなインフラのポテンシャルをもっともっと引き出したい。特に、これまで縁のなかったベンチャー企業と連携することで、今までにない「化学反応」のようなものを生み出したい。そんな思いも、JR東日本スタートアップの設立に込められていました。

――JR東日本の社内に「オープンイノベーション推進室」のような一部署として立ち上げるのではなく、いきなり「JR東日本スタートアップ」という別会社として設立された背景をお聞かせください。

柴田氏 : 2018年の2月にJR東日本スタートアップは設立されましたが、これはトップマネジメントの覚悟のあらわれです。私はいつも、「早くやれ、そんなんじゃだめだ、思い切って変えろ」とトップから叱咤されているのですが、それはトップが国鉄時代に経営破綻を経験しているからではないかと感じています。大企業で破綻を経験した人は少ないと思いますが、うちのトップは経験しています。だから、「環境変化に立ち向かわなければいけない」という、変革に対する本気度が半端ありません。その本気が、JR東日本スタートアップという会社を生み出しました。

正直、JR東日本社内でやっていたら時間がかかりますし、変革が難しい部分もあった。大きな組織の中で、旧来のルールや考え方に従って少しずつ変えるのではなく、新会社という”出島”をつくり、裁量を与え、ベンチャー企業という”異国”と貿易した方が、ドラスティックに変えていくことができます。そして、”出島”で得たアイデアやチャレンジングな文化を、JR東日本へ還元していくことで、JR変革のスピードアップに貢献していきたいと思っています。

泥臭く事業共創にこだわり、必ず実証実験をするまでプランを練り上げる

――オープンイノベーションを具体的に推進するために、JR東日本スタートアップでは、「スタートアッププログラム」と「CVC」という2つの機能を有していますね。

柴田氏 : ベンチャー企業が持つ事業と資本の両面を後押しすることが、CVCの目的です。ただ、当社の場合は、圧倒的に事業面の連携を重視しています。出資が目的でもないしゴールでもない。泥臭く事業共創にこだわっていく。その典型とも言えるのが、「JR東日本スタートアッププログラム」です。

このプログラムでは、ベンチャー企業とJR東日本スタートアップ、そしてJR東日本の事業部門が三位一体となって、膝詰めで新しい事業の創造に取り組んでいます。ベンチャー企業にはアイデアや技術がある、私たちにはインフラと課題がある。それをほぼ週に1回のペースで議論を戦わせて、現場に足を運んで実態を見る。そしてプランを練り直す。そんな事業共創のサイクルを、ベンチャーの数だけチームをつくって、何度もまわしています。必ずJR東日本のインフラで実証実験をするまで、プランを練り上げるのが特徴です。

――JR東日本のメンバーの詳細など、もう少しお聞かせください。

柴田氏 : ベンチャー企業との共創を推進するために、「スタートアップ横断プロジェクト」という、クロスファンクショナルチームをつくりました。メンバーは、鉄道事業本部や事業創造本部、IT・Suica 事業本部などの若手が中心です。専任ではないので、時間のやり繰りも大変ですが、それでも前向きに取り組んでいるのは、ベンチャー企業との事業共創という全く新しいチャレンジの面白さがあると思います。しかも、ベンチャー各社の熱量の高さは、大企業に入って忘れていたものを思い出させてくれます。私自身も彼らとやり取りするうちに、入社当時に持っていた熱い思いや夢を思い起こしました。ベンチャーが持つ熱意の塊は、JR東日本を少しずつ動かし始めているように思います。

鉄道だけではない、幅広い領域で共創を加速させる

――「JR東日本スタートアッププログラム2018」はどのような特徴がありましたか。

柴田氏 : 今年は全体で182件の応募があり、その内23社を採択しました。去年は20社の採択だったので、数も増えて、事業の幅も広くなりましたね。今年は、「地域」と「海外」を新たにテーマに加えました。「地域」部門では、青森県や市、商工会議所などと連携して、青森駅前をキャッシュレスの街にする実証実験を行います。こうした地域活性化につながる事業共創は、私たちJR東日本グループの特徴ですし、今後も注力していきたいポイントです。さらに「海外」ベンチャーと連携して挑戦するのは、AIを活用した、駅のデジタルサイネージです。お客様の流動や性別をAIが判別し、ロケーションやターゲットに合わせた情報を配信することで広告価値の最大化をめざします。駅や車両など、JR東日本のポテンシャルを引き出す事業共創になると思います。

――その他にも注目すべきプロジェクトがあればお聞かせください。

柴田氏 : すべて注目していただきたいです(笑)。12月3日から9日まで、大宮駅でデモ展示「STARTUP_STATION」を展開しますので、ぜひ足を運んでください。実際に、今回ベンチャー企業と練り上げた新しいサービスも体感していただく予定です。

例えば、無人オーダーカフェは、スマホでオーダーと決済が完了できるサービスです。このサービスを利用すれば、お客さまは事前にスマホアプリで注文しておけば、会計レジ列に並ばずにコーヒーをピックアップできます。クイック&キャッシュレスは駅ナカと相性がいい。Suicaとの連携も含め、簡易的な決済端末も検討しており、スマートな飲食スタイルを確立していきたいと思っています。

さらに、AIを活用した新幹線の混雑予想を掲出します。これは、ホテルのダイナミックプライシングで活用されているAIによる需要予測を鉄道に応用するものです。ちょうど展示の時期が12月ということで、年末年始の新幹線混雑予想をAIが行う予定です。

SDGsも大きなテーマです。今回の採択ベンチャーのなかには、再生可能素材のLIMEX(ライメックス)を開発・製造している企業がいます。同社との共創では、LIMEXを使用した傘を開発することとしました。現在、大量のビニール傘が消費され多くが投棄され、大きな環境問題になっています。この問題の解決にベンチャーと一緒に取組み、傘のシェアリングサービスができないかと考えています。大宮駅「STARTUP_STATION」では、LIMEXを使用した新しい傘を展示する予定です。

――他社のアクセラレータプログラムは平均的には5社程度の採択だと思いますが、JR東日本スタートアッププログラムは20社以上と、スケールが違います。なぜ、ここまで多く採択できるのでしょうか?

柴田氏 : 単純に知らなかったからです。私たちは最終選考まで残ったものは全て実証実験をするものだと思っていました。しかも、どの提案もポテンシャルがあり、JR東日本としてチャレンジしたい内容だったから、正直容量オーバーと思いながらも全部採択した。その結果が20件となったということです。今回2回目となるプログラムですが、やっぱり面白い提案がたくさんありました。同じく容量オーバー気味ではありますが、どれもこれもチャレンジしがいのある事業ばかり、23件のラインナップとなりました。数も内容もスケールアップできていると感じます。

スタートアップと共に、社内変革しているJR東日本

――これだけさまざまな取り組みを進めていくとメディアにも大きく取り上げられ、JR東日本の見方も変わってきたのではないですか?

柴田氏 : まだまだ道半ばです。私たちの目指すところは、イノベーションがJR東日本の至るところで沸き立つような姿ですが、今はようやく“出島”で商いが始まった段階です。先は遠いと感じています。

ただ、メディアからの問い合わせも多くありますし、赤羽駅の無人AIレジ店舗など、我々の活動が現実としてカタチになるにつれ、“出島”に興味を持ってくれるところが増えてきました。特に、現場の若手社員から話しを聞きたいという声が多くなってきたことは嬉しい。私たちが解決したいのは現場の課題ですし、JR東日本を変えるのは若手社員一人ひとりのチャレンジングな気持ちだから。

だからこそ、こうしたスタートアップの取組みを一時のブームで終わらせてはいけない。そのためにも、「変わった」と皆が実感できるような事業共創を、もっと生み出していかなければいけないと思っています。

――地道な意識改革こそ、JR東日本にとって必要なことだったのですね。

柴田氏 : そうなんです。今では「スタートアップニュース」という広報誌も独自に出していて、活動をどんどん発信しています。グループ会社に協業の相談に行ったり、支社や現場向けに講演をしたり、社内のオープンイノベーションを積極的に推進しています。大きな変革までの道のりは長いかもしれませんが、一緒に頑張っているメンバーには、情熱やチャレンジングな文化が浸透してきています。これが、JRにまで伝播し、一気に変わっていくと信じて、これからもオープンイノベーションに注力していきたいですね。

駅と鉄道を日本最大のインキュベート拠点に

――最後にスタートアップ企業へのメッセージを。

柴田氏 : 実は、私にはベンチャーと同じようにチャレンジングな夢があります。JR東日本スタートアップは「『明日』創造ステーション」というビジョンを掲げていますが、それは私たちがプラットフォームになって、スタートアップをその先の未来へ送り届けたいという思いを込めたものです。私はこれを、JR東日本全体に広げたいと思っています。JR東日本グループが「『明日』創造ステーション」になる。駅と鉄道から、日本を元気にする事業が次々に生まれ、世界をあっと驚かせる技術やサービスが誕生する。JR東日本が「日本最大のインキュベーター」になるポテンシャルはあると思いますし、その覚悟もあります。

そんな私たちと一緒に、豊かな暮らし、新しい働き方の創造にチャレンジする仲間を募集しています。パブリックな志を持った起業家の皆さんとは、特に思いを共有できると思います。「次の当たり前」を一緒に創りましょう!

編集後記

安心・安全を守り抜く鉄道において、変革は時として重荷になるのかもしれない。しかし、人口減少といった、世の中の変化によってJR東日本が少しずつ、そして確かに変わり始めている。その旗振り役が、JR東日本スタートアップだ。「究極のBtoC」である鉄道事業が変われば、私たちの暮らしも大きく変革するはずだ。

取材の最後に「JR東日本自体が、未来を創造するインキュベーターとなるポテンシャルがあると思っています。次の当たり前や豊かな働き方、暮らしをつくりたいスタートアップ企業は熱烈募集中です!」と話した柴田氏の挑戦はこれからも続いていく。

※JR東日本スタートアップのイノベーション活動についての詳細は、【特設ページ】をご覧ください。

(構成・取材・文:眞田幸剛、撮影:古林洋平)

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  • 田上 知美

    田上 知美

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