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内閣府・石井芳明氏が語る『日本オープンイノベーション大賞』への想い

現在活性化を見せている日本のオープンイノベーション。国内の大手企業によるアクセラレータープログラムの実施やCVCの設立、スタートアップの革新的な技術やアイデアによって、オープンイノベーションの潮流は加速している。こうした動きを「官」の立場から長く支え続けているのが、石井芳明氏だ。経済産業省の新規事業調整官として多くのオープンイノベーション関連のイベントやシンポジウム等にも出席し、その必要性を説いてきた。そして、2018年からは内閣府のイノベーション創出環境担当 企画官として、オープンイノベーション支援に従事している。

この10月には国内のオープンイノベーションをさらに伝播していくために、「日本オープンイノベーション大賞」<Japan Open Innovation Prize(JOIP)>が新たに創設され、現在その募集がスタートしている(※)。各省の担当分野ごとの大臣表彰、経済団体や学術団体の会長賞の表彰、そして各賞の中で最も優れたものには内閣総理大臣賞が与えられるという、インパクトのある取り組みだ。

――国を挙げて行われる日本オープンイノベーション大賞の詳細ついて、さらにオープンイノベーションにかける想いについて、石井氏にお話を伺った。

※日本オープンイノベーション大賞への応募について…http://www8.cao.go.jp/cstp/openinnovation/prize/index.html

(応募締め切りは、11月26日(月)18時)


▲内閣府 政策統括官(科学技術・イノベーション担当)付 イノベーション創出環境担当 企画官 石井芳明氏

1987年、通商産業省(現・経済産業省)入省。中小企業・ベンチャー企業政策、産業技術政策、地域振興政策等に従事。新規事業調整官として、日本企業のイノベーション支援に貢献。2018年より現職。


省庁の垣根を越えて開催される、日本オープンイノベーション大賞。

――まず、日本オープンイノベーション大賞を創設した背景についてお聞かせください。

石井氏 : 近年、オープンイノベーションという言葉が日本にも広がってきました。一時期の流行としてオープンイノベーションを捉えるのではなく、「真のオープンイノベーションは何か?」を考えるタイミングにさしかかっていると思っています。オープンイノベーションという手法を使い、成果を上げている事例を日本全体で共有し、真のオープンイノベーションが広まるきっかけ、国として応援する仕組みをつくり上げるため、この大賞が創設されています。

――なるほど。

石井氏 : 最近では、周りが取り組んでいるから、経営陣に言われたからといった外的な理由での”形だけのオープンイノベーション”も出てきているように思います。だからこそ、会社の規模に関わらずお互いが対等に連携し、補完し合った事例をこの大賞で取り上げていきます。各省庁の枠を越えて、「オープンイノベーションとはこういう考え方で進めるもの」という共通認識を持ち、内閣総理大臣賞をはじめ各大臣賞を設けることで、さまざまな分野のオープンイノベーションにスポットライトを当てていきます。

――日本オープンイノベーション大賞応募するにあたり、必要事項などのご説明をお願いします。

石井氏 : 募集の際に留意したのは、応募用紙をなるべく簡単にすることでした。オープンイノベーションによる連携の「目的」・「内容」・「効果」をシンプルに記載できるように。そこにサマリーを添付いただくイメージですね。記載するにあたり、目に見える効果として、プロジェクトへの参加者数、事業の規模、売上、効率が何%アップしたなど具体的な数字があれば歓迎です。ただし、それがなくとも、どんな企業や団体が参加し、どんなキープレーヤーを巻き込んだか、連携によってこんな新しいモノができた、と定性的なストーリーを語っていただいても結構です。特別な準備は必要なく、普段の活動をPRしていただく形で、ぜひ気軽に応募してください。

――石井さんご自身の個人的な意見でも構いません。「こんな領域のオープンイノベーション事例が集まると嬉しい」といったものはありますか?

石井氏 : やはり、テクノロジーのエッジの効いたオープンイノベーション事例は見てみたいですね。今後の日本の国際競争力を考えると、先進的な技術をいかに社会実装していくかがカギだと考えています。その中で、必須の手法が、オープンイノベーション。だからこそ、大企業とハイテクスタートアップが機動的にオープンイノベーションを実現した、大学や研究機関と企業とが対等に連携できたといった事例はどんどん出てきてほしいです。企業だけでなく、自治体が新技術を使いうまく地域を巻き込んだ取り組みの事例にも期待をしています。

――今回第1回目となる日本オープンイノベーション大賞ですが、2回目以降の運営など将来的なビジョン・方向性についてお聞かせください。

石井氏 : まず何より続けていくことが大切なので、ぜひ2回目、3回目も拡大を目指したいです。また、オープンイノベーションがより加速するような、政策的な支援も検討しています。オープンイノベーションによる新しい挑戦だからこそ、国の規制や信用問題で停滞してしまわないように、解決の手助けを政府としても進めていきたいと思います。

――選考基準に関して、「ここは重視している」という要素があればお聞かせください。

石井氏 : 審査は、外部審査委員の先生方が当たられるのですが、選考基準の検討の中で重視されたのは社会へのインパクトです。オープンイノベーションによって、どんな効果が生まれたのか。インパクトがある事例が、大賞を通してさらに広がっていってほしいという考え方によるものです。

私はベンチャー政策にずっと従事していたのですが、2000年代初めのベンチャーブームの頃に強かったお金儲けや競争に勝つことを優先する考え方が、最近では大きく変わり、社会を変えたい、世の中の課題を解決したいという想いのベンチャーや起業家が増えたように思います。そんな方々がキープレーヤーとなることで社会インパクトのある事業を起こしてほしい。また、ベンチャーだけでなく、大企業や大学・研究機関の中の起業家精神を持った方々の志がある取り組み期待しています。そんなプロジェクトを、応援していきたいです。

――最近の起業家やベンチャーの考え方が変わってきたわけですね。そのきっかけみたいなものはあったのですか。

石井氏 : 二つあると思います。まず一つ目は2008年の「リーマンショック」です。金銭的な価値が一瞬にして下がり、そうした価値観を追っていた人々がどうなったかを若手起業家が目の当たりにしていました。もう一つは、2011年の「東日本大震災」。あの出来事を境に、”自分の生きる価値は何だ?”と考える人が増えたように思います。それから、会社の枠の中で流れに身を任せるのではなく、「自分で何かを変えよう」という動きが活発になりました。実際、震災時に津波にのまれそうになった起業家を私は知っています。そういった経験から人々の心持ちが変わると、企業や社会もまた変わっていくのだと思います。


オープンイノベーションの過去と未来。

――ここからは、石井さんのオープンイノベーションにかける想いなど、少しパーソナルな部分に話題を移したいと思います。石井さんがオープンイノベーションに興味、感心を抱かれるようになったのはいつからですか。

石井氏 : 1996年にカリフォルニア大学バークレー校に留学していたのですが、その頃がちょうど、インターネットの黎明期。アマゾンなどが出始めた頃で、インターネット×ビジネスを考えていた人が大学やビジネススクールに多くいました。その状況を目の当たりにしたときに、「どんどん新しいことに挑戦していく人がこれからのプラットフォームを創造していく」と実感したのです。

また、仕事に戻った後も米国でイノベーションをテーマにディスカッションをする機会があり、その時に、クレイトン・クリステンセン教授やヘンリー・チェスブロウ教授もいらしていたのです。そこで、”イノベーションのジレンマ”を解決するためには、企業の自前主義でなく、外部パートナーと連携するオープンイノベーションが大事だという話をされていました。その後の著書に書かれていたことを実際に聞くことができて、それが非常に印象的でしたね。

――では、石井さんご自身が90年代にオープンイノベーションと出会い、現在でもその活性化のために尽力している理由はどこにあるのでしょうか。

石井氏 : 私の実家は小売業を営む中小企業なんです。店舗のあった商店街は、私が小さい頃はとても繁盛していました。しかし、中学生になる頃には、周辺にあった工場が海外移転してそこで働いていた人が商店街へ来なくなってしまった。さらに、高校生になると郊外に大型店舗ができて、商店街では太刀打ちできず、さらに人の足が遠のいてしまった。日本の構造変化を身近な生活の中で経験しました。そこで、中小企業を国の立場から支援するため、中小企業政策に関わることができる経済産業省に入省しました。その後、ベンチャーの重要性にも気づき、中小企業・ベンチャー企業政策の道を歩むことになったのです。

大企業からすると、中小企業やスタートアップは下請けだったり、単なる外注先としか考えてない場合もあります。しかし、彼らの持つ機動力があれば、大企業も新しいことが始められると私は考えています。オープンイノベーションという手法が広まって、大企業と中小企業・スタートアップが組むことで、それぞれが活性化していくこを願っています。

――そういった中で、今回実施する日本オープンイノベーション大賞の役割は大きいですね。

石井氏 : そうですね。大企業と中小企業・スタートアップの両方を見ていると、カルチャーや行動様式を含め、お互いのことが理解できずに連携が困難になっているケースも少なくないという印象を受けます。オープンイノベーションの成功例を広めていけば、そこから学ぶことが多くあるはずです。それをきっかけにして、効果的な新しい取り組みがより加速していければいいと考えています。

――改めて、石井さんのオープンイノベーションにかける想いをお聞かせてください。

石井氏 : 「組織の中でプランを上げていくと、どんどん角が取れて面白くないものが出来上がってしまう」、「本業を良くしていくことにはお金も人も割けるのに、新しいことには割くことができない」――日本にはこのような大企業ならではの”イノベーションのジレンマ”があるように感じます。そうした大企業が持つ問題点を解決するために、機動力のある中小企業・スタートアップや技術シーズのある大学・研究機関と組んで、オープンイノベーションにチャレンジすることには、大きな意味があるのではないでしょうか。これからは、夢のあるオープンイノベーションが出てくればいいなと期待しています。ストーリーがあって、それが人々の心に伝わり、「うちも本気でオープンイノベーションに挑戦してみよう!」という動きが、もっと出てきてほしいと考えていますね。

――それでは最後に、日本オープンイノベーション大賞にエントリーしようと考えている企業へメッセージをお願いします。

石井氏 : ぜひとも、会社や組織の壁を越えてチャレンジしている人に幅広く応募してほしいですね。もし、表彰されなくても、応募プロジェクトはすべて私たちが目を通します。「こんなオープンイノベーションもあるのか」と分かれば、日本のオープンイノベーション支援の礎となる、重要な参考事例になっていきます。みなさまからの、積極的なご応募をお待ちしています。


取材後記

日本の国際競争力強化の起爆剤として、オープンイノベーションへの期待は大きい。そのあらわれが、今回開催される「日本オープンイノベーション大賞」と言えるだろう。記念すべき第一回に、どんな事例が発表されるのか非常に興味深い。応募の締め切りは、11月26日(月)18時。 受賞者の発表は平成31年2月頃、表彰式は平成31年3月に予定されている。

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「日本オープンイノベーション大賞」についての詳細は、下記URLをご確認ください。

http://www8.cao.go.jp/cstp/openinnovation/prize/index.html

(構成・取材・文:眞田幸剛、撮影:加藤武俊)