2015年から東急電鉄が実施している事業共創プログラム「東急アクセラレートプログラム(TAP)」。2018年5月から第4期がスタートしており、対象企業をスタートアップから上場企業にまで広げ、通年応募制とした。さらに、応募領域も第3期の10領域から16領域へと拡大している。

幅広い16の領域で求められている技術・アイデアはどのようなものか?そしてオープンイノベーションを通してそれぞれの領域では何を実現したいのか?――それらを可視化するため、eiiconではTAPに参加する東急グループ各社にインタビューするシリーズ企画『TAP Key Person's Interviews』を始動させた。その第一弾として登場するのは、TAPの【スマートホーム・スマートライフ】領域を担う、コネクティッド・デザイン株式会社だ。

同社は、東急グループでケーブルテレビ事業を始め、電子錠やIPカメラ、家電コントローラーなどを取り扱い、暮らしのIoTサービス「インテリジェントホーム」を提供するイッツ・コミュニケーションズ株式会社と、インターネットサービスを提供してきたニフティ株式会社(現・富士通クラウドテクノロジーズ株式会社)、そして東京急行電鉄株式会社のジョイントベンチャーとして誕生したバックボーンをもつ。コネクティッド・デザイン株式会社は、TAPを通じてどのような世界観を実現したいのか?――代表取締役社長・武田浩治氏に詳しく話を伺った。


▲コネクティッド・デザイン株式会社 代表取締役社長 武田浩治氏

 (イッツ・コミュニケーションズ株式会社 執行役員 IoT推進担当役員 )

1991年に東京急行電鉄株式会社に入社。その後、代官山にてライヴハウスを経営、ベンチャー企業設立等を経て、2008年にイッツ・コミュニケーションズ株式会社に入社。2017年6月、コネクティッド・デザイン株式会社 代表取締役社長に就任。東急グループにおけるIoT事業の責任者を兼務し、ライフスタイル・イノベーションの提案を軸としたスマートハウス事業の拡大に取り組んでいる。


「ライフスタイル・イノベーション」を目指す。

――まずは始めに、コネクティッド・デザインという会社が設立された背景をお聞かせください。

武田氏 : 東急グループでは鉄道事業をメインに、不動産事業、交通事業、その他に生活サービス事業があります。生活サービス事業では、東急線沿線にお住まいの方々に“生活の潤い”を感じていただくことが大きな目標です。これまでは、百貨店やショッピングセンター、スーパー、スポーツクラブといった、家の外側にあるサービスを充実させてきました。そして次のフェーズとして、家の中における電気やガス、インターネットといった各種インフラを有機的に結びつけて「ライフスタイル・イノベーション」を起こすことを目指しています。その実現に向けて、設立されたのが、コネクティッド・デザインです。

――なるほど。

武田氏 : 今あるアセットや既存のモノだけでなく、それらを組み合わせ、つなぎ合わせながら新しいサービスを生み出したり、都市や生活をデザインしていきたい。まさに社名のように、connected+designを実現させていきたいと考えています。

――コネクティッド・デザインさんは、IoTサービスに関する企画・開発が主な事業ドメインですよね? 

武田氏 : はい。先ほどお話しした「ライフスタイル・イノベーション」を実現するために必要なのが、IoTの技術です。コネクティッド・デザインは、IoTを活用したサービスの企画開発に強みを持っています。その強みが、「インテリジェントホーム」という暮らしのIoT化を叶える、スマートホームサービスの企画・開発に活かされています。

――「インテリジェントホーム」について、詳しくお聞かせください。

武田氏 : 「インテリジェントホーム」で取り扱っているデバイスには、電子錠やIPカメラ、センサー、家電コントローラー、スマートライトなどがあります。それらをAIスピーカーやスマートフォンなどと連携させ、外出先から遠隔で家の中をコントロールすることが可能です。このサービスでは、家電やデバイスを組み合わせるだけではなく、お客さまにいかに価値を感じてもらえるかを重要視しています。なぜ、遠隔のドアロックが便利なのか、そういったことを突き詰めて考えていく必要があります。

お客さまがどんなスマートホームを求めているかは、まだまだ未知数な部分が多いと言えます。そこで、コネクティッド・デザインの親会社であるイッツ・コミュニケーションズ(以下、イッツコム)のスタッフたちが、ケーブルテレビの営業を通じてお客さまと対面しながら生の声を収集し、それをサービスの企画開発に役立てています。


現在、ヘルスケア領域での共創が進行中。

――スマートホームを通じて、どのような世界観を描いていきたいとお考えですか。

武田氏 : ケーブルテレビ事業と同様、スマートホームサービスのターゲットは、ファミリー層がメインになりうると考えています。スマートホームサービスを通じて、ファミリー層を中心に東急線沿線に長く住んでいただけるような仕組みを描いていきたいですね。

その過程で、自社プラットフォームにこだわり過ぎるのはよくないと思っています。Amazonのネット通販がこれだけ普及した背景には、特定のプラットフォームやデバイスにとらわれずにそのサービスを享受できる自由さがあったからです。一昔前の日本のビジネスモデルはその逆をいってしまって、音楽配信/デバイスなどはユーザーの囲い込みを狙いました。しかし、その狙いはiTunes/iPodなどの出現により、もろくも崩れ去りました。だからこそ、我々のスマートホームサービスはオープンに、お客さまが利用したいサービス・デバイスを自由に選べる形を目指していこうと思っています。

――「インテリジェントホーム」は主にBtoC向けのサービスだと思いますが、その他、BtoB向けのサービスも提供されていくのでしょうか?

武田氏 : すでに民泊・簡易宿泊施設事業者様向けに提供している、スマートロック(電子錠)・IPカメラ管理システム「Connected Portal」があります。民泊事業者ではゲストの宿泊期間のみ有効な時限キーを個別発行できるため、カギの受け渡しの時間を節約することが可能です。ゲストは暗証番号またはブラウザ上に実装された解錠ボタンで部屋に入れるため、カギを持ち歩く必要はなく、専用アプリのダウンロードも不要です。事業者もゲストも柔軟に民泊と関われるようになります。

――現在、共創パートナーと組んでサービスを検討しているものはありますか?

武田氏 : 最近では、ヘルスケアデバイスと「インテリジェントホーム」のプラットフォームを連携させて、睡眠状況の確認やデータを元にしたアドバイスを行うサービスの開発を検討しています。そのプロジェクトでは睡眠を含めたヘルスケア領域にスポットライトを当てましたが、その他の領域で特化したスタートアップとも積極的に組んでいきたいと考えています。我々が提供できるデータを含め、どの視点でデータを切り取るのか、どのように組み合わせてサービスに落とし込むのか。そうした能力や知見に長けた企業を求めています。

――現在はヘルスケア領域での共創が進んでいるとのことですが、今後注力していきたいとお考えの領域はありますか?

武田氏 : スマートホームを利用するハードルを下げる領域の一つとして、エンターテイメントには大きな魅力を感じています。どんなに財布の紐が固くても、好きなことや趣味にはお金を費やす人が多くいます。スマートホーム×エンターテイメントは、一つの起爆剤になるのではないでしょうか。

――自分が価値を感じるものに消費するというトレンドは、今の時代、より鮮明になっていきますね。

武田氏 : 実は、私はブルースに特化したライヴハウスを経営するくらいのブラックミュージックファンなんです(笑)。当時は、「ブラックミュージックしか認めない!」という常連の音楽ファンたちとマニアックな会話を毎晩楽しんでいました。そこでしかできなかった会話は、今ではテクノロジーがしてくれるようになりました。例えばGoogleは、検索履歴からお勧めのニュースをレコメンドしてくれます。「あっ!こんなコアな音楽記事も紹介するんだ!」と驚かされることもしばしば。テクノロジーによって、アナログな感動が生まれるのです。疲れて帰宅した際のAIスピーカーの「おかえりなさい」に、ちょっと心が和む。そんな感覚と似ているでしょう。このようにテクノロジーを介して人の心に寄り添うことが、スマートホームの普及にも大切なんだと感じています。


東急グループの強みを活かした、データを提供できる。

――次に提供できるアセットやリソースについてお聞かせください。外部のパートナー企業と共創する中で、コネクティッド・デザインさんや親会社であるイッツ・コミュニケーションズさんが保有するデータなどを活用することも可能ですか?

武田氏 : はい、可能です。特に、イッツコムのスタッフたちがお客さまと対面することで蓄積してきたデータは他社では得られない貴重なデータになると思います。例えば、センサーとカメラを使って、不在時のペットを見守るお客さまがいるとします。他社だとデータはここまでです。しかし、我々の場合はお客さまのお宅に直接伺いますので、ペットがイヌかネコか、大型か小型か、飼い主はファッションが好きでいつもペットとオシャレをしながら散歩を楽しんでいるといった、パーソナルな情報まで加えることができます。このデータを元にすれば、より精度の高いレコメンドを配信することだって可能になります。

――お客さまと対面することで、サービスに活きるデータを蓄積してきたということですね。

武田氏 : その通りです。そういえば先日、大手EC企業の役員と「ECを本当に利用してほしい人って、買い物難民や足腰が弱くなった高齢者だよね」という話をしたんです。しかしながら現実世界では、そうした方々はスマホなどのデバイスを持っていないことも多く、クレジットカードの普及率だって高くはありません。つまり、ECサイト本来の目的とターゲットが合致していない。――しかし、イッツコムなら対面でお客さまに「ECサイトは安心して使えますよ」と、言うことだってできます。それが、東急グループの価値にまでつながっていくと信じています。

――データの蓄積に加え、サービスの普及活動にまで手を伸ばすことができると。

武田氏 : そうですね。お客さまが抱えているありとあらゆるお困りごとに対して、サポートを行なっていくことができます。重たい水をわざわざお店にまで買いに行っていた高齢者が、宅配サービスを利用することでその労力から解放される喜びは、時間を創出する喜びにまでつながっていきます。今まで買い物に費やしていた時間で、趣味の絵画を楽しんだり、お孫さんに電話してみたり。そんな小さな生活の変化を、まずは東急線沿線から作り出していきたいと考えています。

ファミリー層だって、子ども連れの買い物は大変です。せっかくの休日に、日用品の買い出しで時間を取られたらもったいない。「早くネットスーパーに切り替えましょう」と、アドバイスするべきなんです。ただし、きちんと説明しなければ、その価値は伝わりません。「あなたの生活をよりよくするのがIoTです」と伝えていくんです。対面サービスだけでは限界がありますし、IoT だけでは普及に時間がかかる。この両方を組み合わせることで、お客さまに受け入れられる新しい価値が生まれていくはずです。


スマートホームを普及させ、便利で快適な生活を提供する。

――今後、スマートホームの普及に向けて、どのような取り組みをしていこうとお考えですか。

武田氏 : 何より、使ってもらう環境をこちら側が提供することが重要です。スマートホームの便利さって、実はなかなか気が付かないんです。自分でスイッチを押して電気をつける人は、それが不便だとは感じてない。しかし、自動で電気がつく家に住むようになれば、「あれ、自分で電気をつけるのって面倒だな」と初めて思うんです。

車のキーと同じで、今ではカギ穴に差し込んで車を発進させたり、ドアを手で開けるのではなく、ボタン式だったり、ハンズフリーだったりするのが当たり前ですよね。あのシステムを、車のオプションにして数十万円で提供していたら、ここまでボタン式やハンズフリーが便利だと人々が気付くことはなかったはずです。私たちが目指していることも車のキーと一緒で、「留守宅の電気がつけっぱなしだったり、ご年配の方が暮らす部屋の室温が高いまま放置されているのはありえないよね」としていきたい。それが東急グループの目指すサステナブルの街づくりにも繋がるのです。そのために、ハウスメーカーや不動産会社はもちろん、家電メーカーとも議論を重ねながら、スマートホームの普及に取り組んでいます。

――スマートホームにおける家電メーカーの役割は、かなり大きいものになりそうですね。

武田氏 : IoT化の流れがどこから加速するかといえば、やはり家電業界の影響は大きいでしょう。ただし、家電のライフサイクルは長くなってきているので、まだまだユーザーの意識はIoT家電に向いていないと思います。しかし、ひとたびIoT家電を買ってみると、その便利さに気付きます。そして、その便利さを我々が共創パートナーと共に「ライフスタイル・イノベーション」にまで高めていきたいですね。

――それでは最後に、東急アクセレートプログラムにおいて、どういったマインドを持つ企業と共創したいとお考えですか。

武田氏 : 中長期的な視点で街の価値を高めていこうと考えていらっしゃる企業とは、ぜひお話ししてみたいですね。売り上げや実績ももちろん大切ですが、何よりお客さまの生活に寄り添えるマインドが大切だと考えています。そうした想いがあれば、いいサービスが生まれてくるはずです。


取材後記

スマートホームなどIoT化による暮らしのイノベーションは、まだ始まったばかり。その中で、企業側は「何を求められているか」、ユーザー側は「何が欲しいのか」が明確ではなく、お互いが手探り状態にある。現在は不動産会社や家電メーカーの、それぞれが考えるスマートホームが乱立している。その中で、いち早くユーザーのニーズを拾い上げることができれば、スマートホーム事業のトップランナーへと躍り出るチャンスが生まれるはずだ。コネクティッド・デザインや東急グループが持つデータなどのアセット、そして暮らしをIoT化する「インテリジェントホーム」などの特徴的なサービスを活かした共創によって、スマートホームの未来をどのように切り開くのか。注目していきたい。

(構成・取材・文:眞田幸剛、撮影:加藤武俊)