2015年に国連で採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」。2030年の達成に向け、国や自治体、そして企業が取り組んでいる。このSDGs達成をビジョンに掲げ、イノベーション創出活動「Yume Pro(ユメプロ)」を推進するのが、沖電気工業株式会社(OKI)だ。――同社は11月14日、三菱総合研究所が主催する「プラチナ社会研究会 2018年度第2回総会・セミナー」に登壇した。

サステナブルで希望ある未来社会を築くため、生活や社会の質を高める「プラチナ構想」。「プラチナ社会研究会」は、プラチナ構想の実現に向けた活動を行う産官学の組織だ。今回の総会・セミナーは、「日本におけるSDGsの可能性―地域・企業から考える」をテーマに据えて開催。産学官の様々な立場から、SDGsの最前線についての講演が行われた。OKIは、民間企業におけるSDGsの取り組みについて具体事例を交えて紹介した。

まずは、基調講演を含め、様々な立場からのSDGsに関わる各講演をそれぞれコンパクトに紹介していきたい。


日本は、社会課題の先進国。

基調講演では、慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科教授の蟹江氏より、SDGsの目的や特徴、そしてSDGsをいかにビジネスやイノベーションにつなげていくかを話した。蟹江氏が本講演の柱として掲げたテーマは2つ。「①SDGsはビジネスのチャンスである。したがって、CSRではなく、本業で扱う課題である」「②SDGsは今までと異なる発想を必要とする。カギとなるのは、未来から考えること、総合的に考えること、そして多様な発想力を活かすこと」

そして、改めてSDGsの成り立ちや、「経済」「環境」「社会」の3要素が絡み合って持続的な成長が実現できること、SDGsはルールではなく到達目標地点であることを説いた。また、日本政府や企業のSDGsに対する取り組みについても触れ、企業がSDGsをビジョンや経営戦略に盛り込み、サステナブルな経営をする重要性を語った。

▲慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科教授 蟹江憲史氏

続いて、三菱総合研究所 オープンイノベーションセンター長の小野氏が登壇し、未来共創イノベーションネットワーク(INCF)について紹介した。小野氏は、「日本は課題解決先進国。ルールメイクは弱いが、課題解決には大きな強みがある。しかし、複雑な社会課題解決には、オープンイノベーションが不可欠」とし、産学官市民の連携によるイノベーションプラットフォームINCFの活動内容や、社会課題リスト、スタートアップによるSDGsの取り組み事例について説明を行った。

セミナーの後半では、地方自治体と民間企業によるSDGs対応の具体事例にフォーカスしていく。登壇したのは、横浜市温暖化対策統括本部 環境未来都市推進課長 高橋氏だ。横浜市は2011年に環境未来都市に選定され、様々な取り組みを行ってきた。そして2018年、SDGs達成に向けた優れた取り組みを提案する都市として「SDGs未来都市」として選定。環境未来都市として続けてきた取り組みをさらに進化させようとしている。

高橋氏は、横浜が抱える課題とポテンシャルに触れながら、「環境」「経済」「社会」3側面を併せ持ったSDGs達成への取り組みについて語った。さらに、「SDGsデザインセンター(仮称)」を立ち上げ、公民連携によるSDGs達成に向けた事業創出ビジョンを紹介。「実証実験に留まらず、しっかりとビジネス化につなげ、SDGs達成や企業のビジネスチャンス創出に寄与したい」と締めくくった。


OKIによる、”イノベーション創発”に向けたSDGsの取組みとは?

最後に登壇したのは、OKI経営基盤本部 イノベーション推進部長 大武元康氏だ。OKIは、イノベーション創出のために組織変革や教育プログラムの実施などを行い、また2017年のアイデアソン開催を皮切りに様々な外部イベントの主催・登壇をしている。大武氏は、そんなOKIのイノベーション活動の背景、SDGsに対する取り組みについて具体事例を交えながら話した。

▲沖電気工業株式会社 経営基盤本部 イノベーション推進部長 大武元康氏


◆OKIがSDGsにフォーカスする理由

OKIがSDGsにフォーカスした理由としては、「変革のスピードが加速している現代において、2030年の達成に向けた課題が明示されているSDGsを掲げることで、一歩先のところにリーチできるのではないかと考えた」からだと大武氏は語る。

実際に、トップが自らSDGsを経営に取り入れることを対外的に宣言したり、経営層を集めたワークショップを実施したりと、強烈なトップコミットメントのもとスタートした。大武氏は、イノベーション・マネジメント改革の期間について、「だいたい5年かけて、イノベーション活動が日常的に行われる企業にリニューアルしていきたい」と語った。

続いて大武氏は、OKIが2018年より始めたイノベーション活動「Yume Pro」や、本社にオープンしたイノベーションルーム「Yume ST」を紹介。さらに、インセンティブポイント「Yume Coin」のデモンストレーションも行った。Yume Coinの大きな特徴は、ブロックチェーン上で動いていること。将来的にはオープンAPIでの提供を目指しているという。


◆医療・介護領域における具体的な共創事例の紹介

OKIがSDGsの中でも特に注力していくテーマは、「医療・介護」、「物流」、「住宅・生活」の3領域だ。今回、大武氏は「医療・介護」領域の具体的な取り組みを紹介した。着目しているのは、SDGs Target 3.4「2030年までに、非感染症疾患による早期死亡を、予防や治療を通じて3分の1減少させ、精神保健および福祉を促進する」だ。ヘルステック×IoTで、生活習慣病や認知症といった、非感染症疾患による志望者を減らすための未病・予防に注力していくという。

OKIは、大学・研究機関、薬剤メーカー、運動・睡眠・食に関わるプレーヤーなど、様々な共創パートナーとの連携を進めている。さらに、データの取得・検証を行う場として、北海道岩見沢市と提携しているという。「今後は、イスラエルでの検証も予定している」と大武氏は語った。

健康のための5つの要素は、「睡眠」「運動」「食事」「メンタル」「エイジング」。OKIがまず取り掛かるのは「運動」と「睡眠」だ。その具体例として大武氏は、2つの共創事例を紹介した。「運動」の事例は、歩行データを活用した認知症の早期発見や予防の取り組みだ。これは、スタートアップのZEROBILLBANK、no new folkとの連携により実現。センサーを組み込んだ靴を活用して、歩行時の足の運び方を分析、行動変容につなげる仕組みだという。

「睡眠」の事例は、ウェアブルデバイスFitbitと「Yume Coin」との掛け合わせにより、睡眠を改善していく取り組みだ。Fitbitで記録した睡眠データの結果と目覚めの爽快感により、良い睡眠が取れるとYume Coinが貯まる。そうすることで、睡眠「負債」を睡眠「資産」にしていくという。


◆ヘルスケア×金融 ~ジェロントロジーの未来~

OKIは今後、ヘルスケアと金融を掛け合わせていくことで超高齢化社会の課題に挑戦していくという。大武氏は、「近年、ジェロントロジー(老年学)が話題になっています。超高齢化社会に突入した日本が抱える課題は、健康寿命を延ばすことだけではありません。人生100年を生きるだけの資産が必要となります。私たちは、その両方を考えていきたいと思っています」と語った。

ヘルスケアとしては、先に紹介した歩行や睡眠、そして今後取り組む食事の分野で様々なパートナーと共創し、個別にチューニングされた健康スコアを作っていくという。そのコアとなるのが、Yume Coinにも使われているブロックチェーン技術だ。「このブロックチェーン技術を活用して、将来的には様々な金融資産の管理につなげていきたい。社会課題に合わせて、様々なチャレンジを続けていく」と大武氏は強調した。そして、「我々の取り組みに興味を持っていただけたら、ぜひ声を掛けて欲しい」と、プレゼンテーションを締めくくった。


取材後記

ハイペースでイベント登壇を続けるOKIだが、聞くたびに新たな取り組みの紹介があることに驚く。今回新たなキーワードとして挙げられたのはジェロントロジーだ。長寿を全うするには、肉体的に健康であることはもちろん、生きるために必要となる資産形成、高齢化に対応した社会システムの構築など、様々な側面で課題がある。世界一の高齢社会である日本の企業がこの領域に率先して取り組むことは、持続可能な世界を実現するために大変意義のあることだと言える。OKIのSDGs達成に向けた取り組みを、今後も追っていきたい。

(構成:眞田幸剛、取材・文:佐藤瑞恵、撮影:加藤武俊)