1898年に創業し、今年120周年を迎える京浜急行電鉄株式会社(以下、京急)。東京の玄関口である品川や羽田空港から神奈川県の三浦半島を結ぶ鉄道事業を軸に、不動産、レジャー・サービス、流通といった生活サービス事業も展開している点が特徴だ。

そんな同社は「KEIKYU ACCELERATOR PROGRAM」を始動させ、2018年11月、第2期の実施が告知された。――eiiconでは、プログラムを推進する新規事業企画室・橋本氏とイノベーションパートナーであるサムライインキュベート・成瀬氏にインタビューを実施。

前編では、京急電鉄のオープンイノベーションの世界観やビジョン、第2期プログラムの重点テーマを伺った。今回掲載するインタビュー後編では、第2期プログラムの詳細について、第1期の振り返りも交えて、お話を伺った。

▲京浜急行電鉄株式会社 新規事業企画室 主査 橋本雄太氏

大手新聞社、外資系コンサルティングファームを経て、2017年4月より現職。新規事業企画担当として、 オープンイノベーションプログラムである「KEIKYU ACCELERATOR PROGRAM」を立ち上げ、運営するなど、特にスタートアップ企業との事業共創を推進している。神奈川県スタートアッププログラム、オープンイノベーション施設「SENQ」メンター。

▲株式会社サムライインキュベート 執行役員 Enterprise Group 成瀬功一氏

大手企業での新規メディア立ち上げ、外資系コンサルティング会社で大手企業に対する戦略策定、新規事業開発、クロスボーダーでのスタートアップ協業など、イノベーション関連プロジェクトを多数経験。また、国内スタートアップへのインキュベーションも6年の経験を持つ。サムライインキュベートでは大手企業とスタートアップによるオープンイノベーション事業の責任者を務める。


経営陣のコミットによる迅速な意思決定

――第1期プログラムを一通り回してみて、感触・手応えはいかがでしょうか?

京急・橋本氏 : まず、昨年からプログラムをスタートさせた背景は、社内の人間を巻き込みながら、スタートアップとの接点を増やし、意思決定を迅速化する仕組みを生み出したかったためです。そのためには、アクセラレータープログラムという形が最適だと考え、スタートさせたのが2017年10月です。8か月間かけて成果発表会(DemoDay)まで一通りプログラムを回すことができたのは大きな経験値になりました。

プログラムを通じて、社内にオープンイノベーションという概念を知ってもらったことは大きな効果だったと思います。また、各事業部門やグループ会社の協力を得て、実証実験をスピーディーに進められた点も良かったですね。

ある事業部で過去に検討しても実行しきれなかったことが、今回のアクセラレーターを通して、たった4ヶ月でサービス実装できたという事例も出てきています。

――4ヶ月というのは、とても早いスピード感ですね。

京急・橋本氏 : これまでの当社では感じることのできなかった意思決定のスピードだと思います。なぜこうした迅速な意思決定ができたのかというと、経営陣がプログラムにコミットしてくれたことが一番の要因といえるでしょう。

――大企業の中で、経営陣を巻き込むのはなかなか難しいことだと思います。京急さんの場合は、どのように経営陣を巻き込み、プログラムにコミットしてもらったのでしょうか?

京急・橋本氏 : 経営陣にプログラムの説明会や選考に入ってもらったことが大きいと思います。スタートアップの熱意やビジネスのスピード感、アイデアのユニークさなどを肌で感じてもらうことで、経営陣が強い興味を示してくれて、それがプログラムへのコミットにつながりました。第1期の成果発表会(DemoDay)で社長にスピーチしてもらったのですが、私たちが用意していた原稿は一切読まずに、自らの熱意ある言葉で語ってくれたのです。これは、嬉しかったですね。


第2期アクセラレータープログラムは「投資・事業共創」を大幅に強化

――第2期プログラム詳細についてお聞きしたいと思います。第1期との具体的な変更点などはありますでしょうか?

京急・橋本氏 : 第1期をやってみた課題として、スタートアップとの接点やプログラム後の事業共創にはさらなる工夫が必要だと感じていました。そこで今回は、老舗のインキュベーター兼ベンチャーキャピタルとしてスタートアップへの投資・育成の豊富な経験値を有するサムライインキュベートさんと本気の事業創造を目指すべく連携を図っています。

特徴的なのは、サムライインキュベートさんのVCファンド「Samurai Incubate Fund6号」に数億円の出資をさせていただき、中長期的な目線でのパートナーシップを組んでいる点です。それぞれの取り組みの特徴を相互に補完しながら、オープンイノベーションを進めます。

サムライ・成瀬氏 : 「アクセラレータープログラム」と「ファンド出資」の連携は、日本でこれまでになかった新たな取り組みだと思います。この連携により、創業期のスタートアップはサムライファンドを通じて支援し、成長段階にあるスタートアップはアクセラレータープログラムの枠組みを利用して事業を加速させていくという、中長期的な目線で多様な事業創造が実施可能です。採択企業へのファンドからの出資も検討します。

京急・橋本氏 : 選考プロセスも変更します。第1期では、事務局が選考したのですが、第2期では選考段階から各事業部のメンバーが入ります。

――採択される前段階から、事業部側と直接コミュニケーションできると共創スピードも加速していきそうですね。


京急の全社横断で新たなライフスタイルを創出することが経営課題

――前編で話題に挙がった各事業部とのヒアリングでは、どの様な話があったのでしょうか?

サムライ・成瀬氏 : 一番印象に残っているのは、側から見ている以上に、全ての事業の課題が密接に繋がっているということです。

例えば、三浦半島の観光やレジャーが魅力(体験)を増せば増すほど、鉄道やバス・タクシーの利用量やエリアの不動産価値の向上に繋がります。沿線の住宅地が暮らしやすくなる(体験)ほど、出勤者の増加や買い物利用者が増加して行きます。

一見当たり前ですが、今回どのテーマを考える上でも、京急さんと協業する上では、この観点を欠かしてはいけないと感じました。

京急・橋本氏 : そして、それら全ての軸になっているのはモビリティ(鉄道)だということも改めて整理をしました。弊社の有する小売店や百貨店、またマンションやオフィスビルも価値の源泉は駅チカ・駅ナカという立地性にあります。

そして、当社は、高齢化や人口減少、インバウンド対応など多様な社会課題への対応にを特に迫られている鉄道会社です。我々の事業課題解決が、日本全体の課題解決に繋がっていくと考えています。

そう言った事業構造と課題の整理を通じて、「”モビリティを軸とした豊かなライフスタイルの創出” 〜テクノロジーとリアルの融合による地域連携型MaaSの実現〜」というビジョンと、5つのテーマが生まれました。

サムライ・成瀬氏 : 実際に、第1期プログラムで採択されたアウトドアアプリを展開するヤマップさんとの「MIURA ALPS PROJECT」は、京急さんならではの自然豊かなアセットを使った共創事例だと思います。


京急ならではの体験として、既に4件の事業連携が進行中

――ヤマップさんとのプロジェクトはどのような内容なのでしょうか?

京急・橋本氏 : ヤマップさんと着手している「MIURA ALPS PROJECT」は、三浦半島の新たな観光資源の掘り起こしを目的としたプロジェクトで、アウトドアアプリ「YAMAP」上で三浦半島の登山マップを整備し、継続的な取り組みを行っていきます。11月には葉山マリーナや観音崎京急ホテルを起点としたトレッキングイベントを開催し、30代女性を中心に多くの方にご参加いただきました。

――その他にも、第1期プログラムでは複数の実証実験・事業連携を実施されていますね。他の事例も教えていただけますでしょうか?

京急・橋本氏 : はい。エンジョイワークスさんと取り組んだ「クラウドファウンディングを活用した空き家再生」です。葉山の空き蔵を宿泊施設にリノベーションするプロジェクトと、当社の企画乗車券である「葉山女子旅きっぷ」をタイアップし、たった1日で目標金額を達成しました。既に宿泊施設として生まれ変わり、沿線の活性化に繋がっています。

また、日本美食さんと取り組んでいる「QRコード決済の導入と外国人の回遊性向上」というプロジェクトです。アリペイなど15種類のQR決済に対応した「日本美食Wallet」を羽田空港の観光案内所や当社施設の飲食店に試験導入しています。企画乗車券の購入者には「日本美食アプリ」上で電子クーポンを配信し、沿線地域での回遊性の向上につなげています。

サムライ・成瀬氏 : こう言った京急電鉄ならではの事業創造を加速するために、今回のプログラムでは、地域・沿線上にある自治体の支援を受けられる点も大きな特徴になりますね。横浜市、横須賀市、三浦市が公式にサポーターとしてプログラムに協力しています。こうした自治体との繋がりは、鉄道会社ならではの強みです。スタートアップにとって「最高のテストマーケティングエリア」として、面白い地域づくりにも寄与していきたいと考えています。

――エリアといえば、再開発が進む品川や、京急さんが来年本社を移転する横浜も注目されています。

京急・橋本氏 : 品川は大規模な再開発が進んでおり、当社として最も重視しているエリアになります。また、沿線のちょうど真ん中に位置する横浜には本社移転が決まっています。個人的には当社が横浜エリアでのイノベーションのハブとなっていきたいと考えており、こうした多彩なエリアの特色を生かした仕掛けを展開したいですね。

――それでは最後に、改めて第2期プログラムに掛ける想いについてお聞かせください。

京急・橋本氏 : 京急沿線はもちろん日本全体のライフスタイルを変革していくために、同じように高い志を持ったスタートアップの方々にご応募いただければ嬉しいです。第2期プログラムを始動させるにあたって、新たにロゴマークを作成しました(以下画像)。このロゴのモチーフになっているのですが、私は「志」がとても大事だと思っています。120年の歴史を歩んできた当社の新しい世界観である『KEIKYU3.0』を実現するために、お互いにビジョンを共有しながら前進していきたいですね。


取材後記

京急社内でゼロからアクセラレータープログラムを立ち上げ、経営陣を巻き込み、そして4件の実証実験・事業連携を実現している橋本氏がオープンイノベーションにかける想いは、非常に強いものがある。――高い志を持ち、京急と共に新しい未来を切り開いてみたいと感じたスタートアップは、ぜひ第2期プログラムにエントリーいただきたい。エントリーの締め切りは、2019年1月18日までだ。

※プログラム詳細はこちらをご覧ください → http://openinnovation.keikyu.co.jp/