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早大・入山章栄准教授 | オープンイノベーターにおくる「多動のススメ」<前編>

早大・入山章栄准教授 | オープンイノベーターにおくる「多動のススメ」<前編>

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ここ数年の間で「オープンイノベーション」の概念が急速に広まった日本では、多くの大手企業がスタートアップと組んでイノベーションを起こすための取り組みを進めている。しかし、欧米や中国の企業と比べ、日本企業の成功事例はまだまだ少ないと言われている。今回は早稲田大学ビジネススクール准教授であり、日本や世界のオープンイノベーション事情に詳しい経営学博士でもある入山章栄氏の研究室へお伺いし、諸外国と比べた際の日本におけるオープンイノベーションの現状、オープンイノベーションを成功に導ける人材の共通点などについて詳しくお聞きした。

▲早稲田大学ビジネススクール 准教授 経営学博士 入山章栄氏

慶應義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所で自動車メーカーや国内外政府機関への調査・コンサルティング業務に従事した後、米ピッツバーグ大学経営大学院博士課程に進学。2008年に同大学院より博士号(Ph.D.)を取得。米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授を経て2013年より現職。専門は経営戦略論、国際経営論。『世界の経営学者はいま何を考えているのか』(英治出版)、『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』(日経BP社)といった著書がベストセラーとなっているほか、国際的な主要経営学術誌に多くの論文を発表。近年は各種メディアでの活動も増えている。

オープンイノベーションにとって重要なのは人が組織を超えて動くこと

−−日本では「オープンイノベーション」という言葉がバズワードとして先行している印象もありますが、日本におけるオープンイノベーションの現状を諸外国と比較してどのように感じられていますか?

入山氏 : 現状、日本におけるオープンイノベーションはまだまだ足りないと思っています。海外では「オープンイノベーション」という言葉すら使われないほど、企業同士が日常的にコラボレーションしています。米国はもちろん、中国も同様です。

昨年、HUAWEIの経営幹部と話をする機会があったのですが、彼らの志向はオープンイノベーションの塊であり、自前主義的な発想はまったくありませんでした。HUAWEIは世界百数十カ国に進出し、他国のさまざまな企業とコラボすることで新たな知見を得ています。

−−なるほど。

入山氏 : また、HUAWEIではシェアという文化を大切にしており、そのようなコラボを通じて得た知見を社内にシェアする形で成長しています。最近では日本企業でも次々に新しい動きが起こっており、素晴らしいことではあるのですが、オープンイノベーションが一過性のブームとして捉えられている時点で、まだまだ諸外国には追いつけていないと感じています。

−−約10年前、入山先生は米国に滞在されていましたが、米国の企業ではその当時からオープンイノベーションが定着していたのでしょうか?

入山氏 : 米国にいたときは研究者だったので大量の研究論文を読んでいましたが、それらの論文の中には企業の事業提携やCVCに関する事例が山のようにありました。より良い連携・提携パターンを探る数多くの研究に加え、それらを統計解析する取り組みも進んでいたので、企業間のコラボ、つまりはオープンイノベーションがごくごく普通に存在しているという環境でした。日本では未だに「提携だけでも腰が重い」という企業も多いので、そこには大きな差があると感じています。

−−日本にオープンイノベーションを根付かせるためには何が足りないのでしょうか?

入山氏 : 日本に決定的に足りないのは人の動きです。私はオープンイノベーションにとって何よりも重要な要素は人であると考えています。そもそもオープンイノベーションとは「外部のナレッジ得る」もしくは「自社のナレッジを提供する」といった形で企業同士がコラボレーションをすることですが、ナレッジや知というものは結局のところ人が持っています。だからこそ、オープンイノベーションにとって最も重要なのは人が組織を超えて動くことなのですが、人が組織を超えて動ける仕組や環境が整っている日本企業はほとんどありません。

−−日本人は所属する会社・組織の中だけで仕事をするという意識が強いですよね。

入山氏 : 日本企業は長らく終身雇用を前提とした新卒一括採用、メンバーシップ型雇用を続けてきました。同じような個性を持った人を集め、何十年も同じ会社で働かせるという仕組で成り立ってきたのです。少なくとも90年代前半まではその仕組で会社が上手く回っていたのですが、現代のようなイノベーションが求められる時代では通用しなくなりました。イノベーションの源泉は、新しい知と知の組み合わせですが、何十年も同じ業界・会社に人が留まり続けていると新しい知の組み合わせが生まれなくなります。オープンイノベーション以前に、日本の国や企業が、人が動ける仕組になっていないことが課題ですね。

イノベーティブな人は好奇心を原動力にして常に動き回っている

−−大企業・スタートアップを問わず、オープンイノベーションを実践できる人材に共通点などはあるのでしょうか?

入山氏 : 単純に言うと、動きにくい日本の環境の中にあっても動ける人です。昨年、私のビジネススクールの授業で講演いただいたゴーゴーカレーの宮森社長は注目すべきイノベーターの一人ですが、「発想は移動距離に比例する」と仰っていました。名言だと思いますし、私もまったくその通りだと考えています。知と知の新しい組み合わせのためには、近くではなく遠くを見る必要があります。実際に宮森社長はもの凄い距離を移動しながら世界中で仕事をしています。その移動距離に比例して新たな視点やアイデアが生まれるのでしょう。先日もゴーゴーカレーはビズリーチとコラボして事業承継の公募サービスをスタートさせています。ゴーゴーカレーとビズリーチですよ? 普通は考えられませんよね(笑)。素晴らしいイノベーションの事例だと思います。

−−宮森さんの他にも注目されているイノベーターはいますか?

入山氏 : 最近注目しているのは日比谷尚武さんです。現在はフリーランス的な立ち位置でSansanのサポートもしていますが、基本的にはずっと人と人をつなぐことを仕事にしている人です。ただ、日比谷さんの仕事って職業としての名前がないんですよ。人と人をつなぐだけなので。そこで最近では自ら「コネクタ」と名乗って活動しているようです。世間的にはまだまだ理解されていませんが、彼の取り組みこそがオープンイノベーションに必要なものであると考えています。人と人をつないでイノベーティブなことをしているし、経営学的に見ても非常に面白い存在です。

−−あるイベントで日比谷さんとお会いしたことがあります。ロックバーを経営するなど、本当に「あれもこれも」という感じで、さまざまなことを手がけられているようですね。

入山氏 : これからは日比谷さんのように、既存の肩書きでは捉えられないようなスタイルで仕事をする人が増えるだろうと考えています。堀江貴文さんの『多動力』ではありませんが、実は成功者には「この人の本業なんだっけ?」というタイプの人が少なくありません。私はアメリカにいたころ、よくマドンナの例を挙げて説明していました。マドンナは歌手ですが、マドンナより歌が上手い人はたくさんいます。ダンサーでもありますが、ジャネット・ジャクソンほどは踊れません。女優でもありますが、お世辞にも名優とは言えないですよね。そんなマドンナですがショービズの世界で何十年もトップに君臨し続けました。マドンナについて一言で説明するには「スーパースターだ」としか言いようがないんですよ(笑)。

−−さまざまな顔を持っていて、本業が何かと聞かれると答えづらい方っていますよね。

入山氏 : 日本ではビートたけしさんがこれに近いですよね。これからは日比谷さんのように一人の人間が多様な仕事にチャレンジできる時代になりそうですし、そんな生き方が普通になっていくと思います。

−−そうした「多動」に活躍できる方の原動力はどこから生まれているのでしょうか?

入山氏 : 彼らを突き動かしているのは好奇心だと思います。私がリスペクトしているゴーゴーカレーの宮森社長やロート製薬の山田邦雄会長など、イノベーティブな方のほとんどは好奇心が非常に強く、自分から動きまくっているんですよ。面白ことをしている方って自分の興味で勝手に動いている人ばかりのような気もしますよね(笑)。

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インタビューの<前編>では、欧米や中国企業との比較から見えてくる日本のオープンイノベーションの現状や、オープンイノベーションを成功に導ける人材について、具体例や体験談を交えながら語っていただいた。明日掲載する<後編>では、オープンイノベーターに必要な要素などについて、さらに深く話を聞いた。

(構成:眞田幸剛、取材・文:佐藤直己、撮影:古林洋平)

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