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オープンイノベーターズバトン VOL.2 | サムライインキュベート 長野英章

オープンイノベーション界隈に身を置き、数多の事例を見てきている業界人たちの知恵をオープンにしてしまおうという企画「オープンイノベーターズバトン」。初回に登場したeiicon・中村亜由子からバトンを繋いだのは、長野英章氏です。

長野氏はさまざまな企業で新規事業立ち上げなどを経験。2017年に、起業家支援・VCとして確固たるポジションを築くサムライインキュベートにジョインし、共同経営パートナー Chief Strategy Officerとして同社を牽引しています。――第2回目となる「オープンイノベーターズバトン」では、長野氏がこれまでに得てきたオープンイノベーションを成功に導く知見・ノウハウを紐解きます。


■株式会社サムライインキュベート 共同経営パートナー Chief Strategy Officer 長野英章氏

2010年グルーポン・ジャパンへ入社。ナショナルクライアントチームの立ち上げを行う。2011年Rocket Internetの旅行系C2C事業Wimduの日本創業チームの立ち上げマネージャーとして、事業開発からPRまでを実施。同年、ダイマーズラボ株式会社を創業。複数サービスを立ち上げ、VCや上場企業の創業者等から資金調達を実施。2015年、オプトホールディングとダイマーズラボ株式会社の共同で、新規事業の量産に特化した新会社「オプトインキュベート」を設立し、代表取締役COO就任。2017年、株式会社サムライインキュベートに共同経営パートナー Chief Strategy Officerとして参画。スタートアップを支援するInvestment Groupを率いるだけでなく、自身の経験から事業創造フレームワークを開発し、大企業のオープンイノベーション支援、新規事業の立ち上げ伴走支援等に従事している。


オープンイノベーションとの出会い、そして、感じた可能性。

実は、オープンイノベーションに本格的に取り組み始めたのはサムライインキュベートにジョイン(2017年)してからのことです。日本郵便さんとの共創プログラム(POST LOGITECH INNOVATION PROGRAM)や、中京テレビさんとの共創プログラム(CHUKYO-TV INNOVATION PROGRAM)に携わり、オープンイノベーションに関する知見を深めていくようになりました。それ以前は、ハッカソンやアクセラレーションという言葉を少し聞いた程度で、企業同士が協業することくらいに思っていたんですよね(笑)。

自らオープンイノベーションを推進していて感じたのは、大きな可能性です。可能性しかないと言っても過言ではないでしょうね。大企業とスタートアップのオープンイノベーションで考えた場合、大企業側は各事業部のエース級の方が携わることがほとんどです。トップがコミットし、エースが動くーーそうなると会社がものすごいスピードで動き出すんです。一本筋が通ったというか、やると決めた時の大企業のスピード感には、間近で見ていて圧倒される思いでした。

▲2017年にスタートした「POST LOGITECH INNOVATION PROGRAM」。第1期の成功を受け、現在は第2期プログラムが進められている。 http://event.samurai-incubate.asia/jp-logitech/


主語は誰なのか?

オープンイノベーションは単なる事業立ち上げでも、協業でもないと思います。さまざまなケースを見たり、実際に手がけたりする中で、感じているのが「主語は誰か」ということです。多くの場合、この点を非常にあいまいにしています。いわゆるVCが運営するアクセラレーションプログラムは、スタートアップのためのものと言えます。スタートアップの成長や主なプログラムの主眼だからです。

一方、大企業が推進するオープンイノベーションは、コーポレートアクセラレーションという位置づけで、主語は大企業になります。つまり、大企業を主体に考えなければなりません。これはスタートアップを軽視するということではなく、誰が何のためにやるのかはっきりさせる、という意味です。協業というとフワッとしてしまいますので、この点を明確にすることがとても大事です。

 

テーマ設定の重要性。

私が携わった日本郵便さんと中京テレビさんの事例は、自分で言うのははばかれるところもあるのですが、うまく事が進んだという実感があります。単なるイベントでは終わらず、今は事業として動き出しています。振り返ってみて、成功のポイントとして挙げられるのが「テーマ設定」です。主語は誰で何のためにオープンイノベーションを行うのか。ミッシングピースはどこにあり、どんな力を求めているのか。この点を繰り返し議論し、テーマを設定しました。

ミッシングピースが明らかになり、テーマが設定できると、事業部が巻き込めるようになります。スタートアップにもコミットしてもらいやすくなります。逆に失敗する例を見ていると、テーマ設定があいまいで、ミッシングピースもわからないままという場合が多いですね。オープンイノベーションを目的にして、とにかくやろうで始めると、うまくいくことはまずないでしょう。


ミッシングピースを見つけるために。

ミッシングピースを見つけるためには、3つのことが必要だと思っています。

一つは、事業を俯瞰すること。バリューチェーン、製品の機能的価値を網羅的に見て既存事業のミッシングピースを見つけます。例えば、日本郵便さんですと、配送事業を行っておりバリューチェーンを俯瞰して見ると多くの人手が欠かせないビジネスモデルです。一方で、人口減少が進んでいますので、現状のままですといずれ事業が成り立たなくなります。そこで、配送の効率化、最適化が大きな課題となることがわかります。

二つ目は前提を疑うことです。同じく日本郵便さんの例では、配送を人が行っていますが、ドローンでもできるのではないか、と考えます。新しいテクノロジーを活用しながら顧客価値を創造することを目指します。

三つ目は、自分たちの強みを見つけること。アセットの棚卸しをし、スタートアップや外部からアクセシブル化して、コラボレーションをする事でどんな新しい市場にどういった競争優位性を持って事業を展開できるかを整理します。


スタートアップは大企業に飲まれないことが大事。

一方で、主語は大企業であっても、オープンイノベーションは受発注関係では行えません。ですが、いつの間にか、なんとなく大企業の言う通りになっているということは、往々にして起こり得ます。大企業が言ったから、とすべてを安易に受け入れることなく、自分たちが提供できるものについて意志を貫き通すことが求められます。そうすることで、動き出すこともあるんです。

大企業側も、必ずしも、こうでなければいけないと言っているわけではありません。数ある結論のうちの一つかもしれないのです。スタートアップは自分たちのビジョンを明示し、win-winモデルでやっていきたい、と意志を見せることがとても大事です。


今後のCVCの動きに注目。

これからはオープンイノベーションについて、CVCがいかに機能するかという点に注目しています。現状、アクセラレ―タープログラムやハッカソンなどを年に数回、イベント的に行っていることがほとんどです。でも、1年に1回では再現性の高い仕組みの構築ができません。

理想としては、CVCが常に稼働し続け、オープンイノベーションを生み出す生産装置のような役割を果たすことでしょう。特に資金以外の面でCVCがオープンイノベーションに関わることが重要だと思っています。また、CVCは外部人材の活用を行ってほしいですね。外の血を入れることで、自分たちのあり方を改めて見直すきっかけになればと思います。

最後になりますが、オープンイノベーションについて悩んでいることがあれば、気軽にご相談ください。相談し議論するだけでも、クリアになることは多々あります。また、私たちもそれだけのことをできるという自負はあります。国内のオープンイノベーションを活発化させることは、私たちのミッションの一つでもありますので、ご支援できれば幸いです。

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第三回は、以前サムライインキュベートに在籍しており、現在は世界最大級のアクセラレーター/VCであるPlug and Play Japanで手腕を振るう、オープンイノベーター・矢澤麻里子さんにバトンを繋ぎます。

(構成:眞田幸剛、取材・文:中谷藤士、撮影:古林洋平)