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【特集インタビュー】カメラはオープン化の時代へ。デベロッパーやユーザーが参加する「OLYMPUS AIR A01」に見る、オープンイノベーションのプロセス。<前編>

世に広がるオープン化の波に伴い、カメラの概念が変わり始めている。そのインパクトは、もしかするとフィルムからデジタルへの移行よりも大きなものかもしれない。「カメラのオープン化」と言っても、すぐに理解できない人も多いのではないだろうか。オリンパスが2015年に発売したオープンプラットフォームカメラ「OLYMPUS AIR A01」は、撮影モジュール以外のすべてのパーツを外部デベロッパーに対して開放することで、カメラとユーザーの新しい関係性を生み出そうとしている。 

レンズ、アクセサリ、表示・撮影モジュール、アプリなど、デベロッパーやユーザーが自由にサードパーティのパーツを作り、それぞれのスタイルで写真を楽しんでいく。開かれたプラットフォーム上で生まれた「OLYMPUS AIR A01」の存在は、まさにオープンイノベーションの好事例と呼ぶに相応しい。そこで今回は、本プロジェクトを立ち上げ、今もリードし続けているオリンパス技術開発部門の石井謙介氏に話を聞いた。 

オリンパス株式会社 
技術開発部門 モバイルシステム開発本部 課長 
石井謙介Kensuke Ishii 
1994年、オリンパス入社。画像処理アルゴリズムの研究開発に従事後、2010年にスタンフォード大学客員研究員となり、産学連携プロジェクト推進を担当。米国駐在中にMITメディアラボへのメンバー加入を提案し、加入後はリエゾンとして活動し、「OLYMPUS AIR A01」開発に携わる。  


 

■多様化の時代において、一社にできることには限界がある

▲OLYMPUS AIRはスマートフォンのインテリジェンスとデジタル一眼のインテリジェンスが融合した新コンセプトのカメラ

ーーオープンプラットフォームカメラ開発の背景を教えていただけますか。 

グローバル化が進んでモノが溢れる時代において、今やひとつの会社にできることには限界がある、という考えがプロジェクトの背景にあります。研究開発から技術開発、製品化までのすべてを一社だけで行っていては、本当に新しい製品を生み出すことは難しい時代です。つまり、新しいR&Dの形が求められているわけです。 

ーーオープンプラットフォームカメラという概念は、もともと存在していたのでしょうか。 

はい、オープンプラットフォームカメラの理念自体は、当時スタンフォード大学の教授だったマーク・レボイという人物が提唱したものです。私は2005年から7年間、アメリカに駐在していたのですが、その間に様々な業界でオープン化の波は高まっていきました。メーカームーブメントにおける3Dプリンタの普及も大きな後押しとなったと考えています。

ーどのようなプロセスを経て「OLYMPUS AIR A01」開発のプロジェクトが発足したのですか。 

実際にプロジェクトとして動き始めるまでには、長い道のりがあります。順を追ってお話しすると、まず2011年にオリンパスはアメリカのMITメディアラボに加入しました。MITメディアラボは、技術者だけでなく、音楽家やアーティストなど様々な人々が参加している研究所です。そこで2012年に「未来のカメラ」について考えるワークショップを開催し、約40人の学生や研究者たちと一緒に議論を行ったことが、「OLYMPUS AIR A01」開発のきっかけになりました。 

ーーどのようなコミュニケーションからアイディアが生まれたのですか。 

軽い雑談のような会話の中で、MITの学生から「カメラのOSをAndroidにして欲しい」と言われたんです。「そうすれば、自分たちがいろいろなアプリを作れる」と。しかし、それは製品発売後のユーザーサポートのことも考えると実現が難しい。そこで、外部デベロッパーに開かれたプラットフォームを持つカメラを作ればいいと、考えました。  

■地道な説得を続け、徐々に賛同者を増やしていった

ーーどのようなシステムを構想していたのですか。 

オリンパス社員以外の人々も自由にモジュールを作れるカメラにしようと考えていました。オリンパスが開発した撮影モジュールをプラットフォームの中心として、その他のアプリ、アクセサリなどのパーツはすべて外部に開放します。デベロッパーやユーザーが自由にサードパーティのアプリやアクセサリを自由に作り、こちらからも継続的に情報発信を行い、相互のシナジーでコミュニティが活性化していくという一種のエコシステムです。重要なのは、オープン化して外部の力を借りること。例えばiPhoneがこれだけ普及したのは、デベロッパーが魅力的なアプリを沢山作ったからです。その他にも、ハッカーたちを訴えるどころか盛り上げることで成功したレゴ社のマインドストームも参考にした事例のひとつです。 

ーーそれから、本格的な開発が始まったのでしょうか。 

いえ、そうは言ってもまだオリンパス社内では「なぜ、カメラをオープン化する必要があるのか」という声が大半でした。私は日本に帰国した2012年に最初の提案を行っているのですが、すぐには理解されませんでした。 

ーーそこから周囲の意識はどうやって変わっていったのですか。 

もう本当に、地道な説得の繰り返しで。社内有志でアプリのコンテストを開催したり、クローズドなアイデアソン、ハッカソンなどを積極的に開催して、徐々に理解者を増やしていきました。また、社内有志というのも労務上の問題があるか不安だったので、あらかじめ弁護士に相談し、人事、総務、知財部門、事業部など関係部署に掛け合うこともしました。 

ーーまさに草の根の活動ですね。 

そうした社内の協力を得て、2013年にはカメラのプロトタイプを作り、MITメディアラボで発表しました。その時にMITの学生によって、オープンプラットフォームカメラの社外アプリ第一号も生まれています。カメラをオープン化するということは、社外のデベロッパーがどれだけ関わってくれるかということも重要ですから、様々なデベロッパーにも私から直接声をかけ、ハッカソンやアイディアソンを積極的に行いました。 

ーー社外メンバーが関わり始め、いよいよ本格的にオープンイノベーションのフェーズに入ってきたように感じます。社外の人々と関わることで気づきはありましたか。 

様々な人たちと話をしていると、オープンプラットフォームカメラに関わるアイディア自体は、似ているものも沢山出てくるんです。ですが、まったく同じアイディアは出てこない。つまり、ユーザーが欲しいものは実に多様である、ということに気づけました。やはり、すべてのユーザーのニーズを満たすカメラを一社で作ることは不可能だということです。カメラのオープン化は戦略的にも有効であると確信しました。  


  石井氏インタビューの前編は、「OLYMPUS AIR A01」の誕生の背景とプロジェクト発足、そして開発を進める段階での秘話を伺った。なかなか社内での理解を得られにくいオープンイノベーションだが、石井氏が実践したように【社内の有志を集めてアプリのコンテストやハッカソンなどを積極的に開催し、味方(理解者)を増やすこと】で対応したという具体的ノウハウを知ることができた。 

そして、次回の後編では、オープンイノベーションを駆使して、どのようにプロダクトを育み、世の中に認知されるよう尽力していったのか。石井氏がインタビューを通して明かしてくれた。(※後編は、明日、10月19日掲載予定です)

 (構成:眞田幸剛、取材・文:玉田光史郎、撮影:佐藤淳一)