日本郵便がサムライインキュベートと共催する「POST LOGITECH INNOVATION PROGRAM」は、郵便・物流イノベーションを巻き起こす、共創による新規事業等創出プログラムだ。

二期目となる今回は、郵便・物流のバリューチェーン全体を検討して変革することが主なテーマ。2018年7月の応募開始からスタートアップ約70社の応募があり、書類選考と二度の面談を経て、同年10月に発表された採択企業は「Rapyuta Robotics株式会社」「株式会社エー・スター・クォンタム」の2社となった。

採択された2社は、日本郵便の役員陣や担当社員、サムライインキュベート、外部メンターらの協力のもと、2018年10月から3か月間で共創アイデアをブラッシュアップ。2019年2月5日、東京・丸の内のJPタワー ホール&カンファレンスにてDemo Dayを開催し、採択企業各社と日本郵便の共創アイデアをプレゼンテーションした。

当日は、すでに共創を進めているスタートアップ各社のプレゼンテーションのほか、株式会社サムライインキュベート・成瀬氏をファシリテーターに迎え、採択企業と日本郵便担当者によるクロストークなど多彩なプログラムで会場は熱気に包まれた。プレゼンテーションをふまえ、一体どのスタートアップが最優秀賞に輝いたのか?――その模様をレポートする。


社会の繁栄につながるオープンプラットフォームへ

まずは、日本郵便株式会社 代表取締役社長兼執行役員社長 横山氏の挨拶からスタートした。「現在Eコマースの拡大による物流量の急増、慢性的な人材不足など物流業界は激変している。この取り組みを通じて我々のバリューチェーンの価値を向上させ、社会のさらなる繁栄につなげていきたい」と、本プログラムに対する期待の大きさをうかがわせた。

▲日本郵便株式会社 代表取締役社長兼執行役員社長 横山邦男氏

次に、Demo Dayゲストでもある内閣府 科学技術・イノベーション担当 石井氏が登壇。政府は成長戦略にオープンイノベーションを取り入れ、諸外国との競争に打ち勝っていく方針であることを語った。

▲内閣府 科学技術・イノベーション担当 企画官 石井芳明氏

採択されたスタートアップ2社のプレゼンに先立ち、本プログラム説明を日本郵便 事業開発推進室担当部長 地引氏が行った。郵便・物流分野に特化した形でオープンイノベーションプログラムを開催する流れは昨年と同様ながらも、昨年度は郵便・物流のラストワンマイルが対象だったのに対し、今年度は「郵便・物流のバリューチェーン全体をテクノロジーで変革する」ことをテーマに掲げ、より広範囲の変革を目指した思いを語った。

また、日本郵便がすでに共創を進めているスタートアップ各社のプレゼンテーションから一般来場者が選ぶ観客賞を、審査員による評価により採択企業2社から優秀賞を選ぶことが伝えられた。

▲日本郵便株式会社 事業開発推進室 担当部長 地引功氏


共創企業によるプレゼンテーション

昨年のオープンイノベーションプログラムにより採択された企業など、日本郵便がすでに共創を進めている4社が、これまでの取り組みや成果についてプレゼンテーションを行った。以下に各社代表者が登壇した模様をレポートしていく。


●株式会社オプティマインド

プレゼンテーションは、株式会社オプティマインドからスタートした。取り組んだ課題は、クラウドサービス 「Loogia(ルージア)」を通じた人の手によるルート作成やベテラン配送スタッフのノウハウへの依存から脱却した配送業務の効率化だ。

Loogiaは配送先リストを入力するとAIが計算して最適なルートを提供してくれる。リアルタイムの情報を発信しているので、マネージャーがドライバーの状況を逐一把握でき、実際の配送がどのように行われたのか、停車位置や停車時間、走行速度、走行経路までデータ分析を行うことができる。また、それらデータを業種の枠を超えた共創ネットワークとして構築していく構想もある。2018年4月~9月までヒアリングと試行を名古屋で行った。現在6局に追加導入しており、2019年4月から順次全国への展開を検討している。「出発前の作業と配送中で、それぞれ時間にして30分の削減。また、1便での配達数を10個増やすことができた」との嬉しい声も寄せられているそうだ。

昨年のDemo Dayの時と比べると、社員数が4名から13名に増え会社としても成長しており「これからも定期的に使っていただけるように改良し、日本のみならず世界のラストワンマイルを最適化していきたい」と代表・松下氏は今後の抱負を語った。

▲株式会社オプティマインド 代表取締役社長 松下健氏


●Aquifi,Inc.

続いては、Aquifi,Inc. Business Development Director Bin氏と、日本郵便 郵便・物流事業企画部 野邊氏が登壇した。

▲Aquifi,Inc. Business Development Director Bin An氏

▲日本郵便株式会社 郵便・物流事業企画部 主任 野邊 卓也氏

Aquifi,Inc.は、3Dセンサー事業で成長を遂げたシリコンバレーのスタートアップ企業。ロジスティックや製造業におけるボトルネックの解消、3Dセンサーに代表されるAIソフトウェア開発に携わっている。今回のプログラムで用いられた同社の製品は携帯型の3Dスキャナーで、どんな形状の立体でも瞬時に寸法測定できる「ディスカバリー」だ。

「市販されている中で唯一のデバイス」と自信を持ってプレゼンテーションするBin氏を補足するように、野邊氏から「これまで郵便局員が引受時の計測に30秒かかるところ、かざすだけで一瞬に測定できるようになる。全国2万4000の郵便局はもちろん、携帯型なのでイベント会場のゆうパック取扱所でも使用可能。大小を問わずどんな形の荷物も測れるようになる」と語った。

現在、不定形のゆうパックは1日約40万個。将来的には、このディスカバリーによる簡易な荷物引受と、OCRによる住所読取技術を組み合わせることができれば、たった1秒で荷物の引き受けが完了する未来についても示唆した。


●株式会社自律制御システム研究所

3社目は、商業用ドローンの製造販売及び自律制御技術を用いた無人化・IoT化に係るソリューションサービスの提供を行う株式会社自律制御システム研究所。20年以上に亘り研究してきたドローンの制御技術を駆使して、ドローンを使った新たな空の物流網の構築を目指している。

▲株式会社自律制御システム研究所 取締役最高執行責任者COO 鷲谷 聡之氏

昨年、福島県内の郵便局間をドローンで輸送した初の事例として、離陸から着陸、荷物の切り離しまで全自動で成功させた。トラックで25分かかるところ、15分で輸送できる。着陸は、画像処理でマーカーを認識しGPSによる誤差を補助することで、ドローンがマーカーの中央に着陸することを可能にした。

「労働人口減少に伴う自動的なロボティクスや省人化技術を通じて、個別の住宅への対応や、複数のドローンが飛んでも安全な環境整備、採算性を出せるといったドローン前提の時代に対する空の産業革命に向けた準備を進めて行きたい」とドローンが日常となる世界を同社はすでに見据えている。


●Yper株式会社

最後となる4社目は、置き配バッグとスマートフォンアプリを使った物流システムの構築を目指すYper株式会社。取り組んだ課題は、現状では一般に20%程度と言われる不在再配達率の削減だ。

▲Yper株式会社 代表取締役 内山 智晴氏

現在、再配達を多く発生させているのが、週1回以上通販サイトを利用するヘビーユーザー。不在時に荷物を受け取りたいが、玄関前に宅配ボックスを置くスペースがない、共用部にモノが置けないなどの事情を解決できるのが、固定設置不要のバッグ式の宅配ボックス「OKIPPA」だ。手のひらサイズのバッグを玄関先につるすだけで重い荷物も玄関前で受け取ることができる。また、アプリとバッグの連動によって、荷物の配送通知を受け取ることもできる。

東京都杉並区の1,000世帯に1ヵ月間利用してもらった実証実験では、約6,000個の荷物配送において、不在であった約3,000個の荷物のうち、61%の再配達削減に成功。OKIPPAの満足度調査では過半数から80点以上の高評価を得た。バッグの中身が見えないことから盗難も発生しなかった。

「通販ヘビーユーザーは年間11.5時間の再配達時間を発生させている。これをOKIPPAバッグ1つで61%削減できると1世帯当たり年間7時間の再配達時間を削減でき、時給換算しても相当な費用対効果が期待できる」と語る内山氏。EC市場の拡大に伴い、将来的には100万個以上の普及も可能とのことだ。


採択された2社によるプレゼンテーション

続いて、今年度に採択された2社によるプレゼンテーションの模様を見ていきたい。


●Rapyuta Robotics株式会社

「ロボットを便利で身近に」をビジョンとして掲げる同社。日本をはじめさまざまな国が労働人口の減少に苦しんでいる中、そうした労働人口問題を解決するソリューションとして、ロボティクスの活用に取り組んでいる。今回のプログラムで取り組んだ課題は、カゴ車の搬送や荷物の取り卸しが手動で行われている大規模の郵便局のオペレーション自動化だ。

▲会場ではデモが行われた。

2018年10月のキックオフで「12月の実証実験に間に合わせたい」との日本郵便からの要望に応えるため、最短6カ月かかる作業を、わずか45日間で実現。その秘密は、ハードウェアだけでなく画像認識などのソフトウェア技術もパートナーシップを組んだこと。それによって開発が加速され、新しい機能の追加が可能となった。また、「グローバルなパートナーシップを築くことにもつながった」(Gajan氏)とのこと。

担当した日本郵便 郵便・物流事業企画部の水上氏は、「わずか45日で問題を解決した。さらに本日のDemo Dayに際して、AGVとロボットの連携を実現した」と賛辞を惜しまない。Gajan氏は最後に「プラットフォームと日本郵便をつないで物流業界とのソリューションを加速させたい」と想いを語った。

▲【写真左】Rapyuta Robotics株式会社 代表取締役CEO Gajan Mohanarajah氏/【写真右】日本郵便株式会社 郵便・物流事業企画部 係長 水上 義宣氏


●株式会社エー・スター・クォンタム

2018年7月に創業し、量子コンピューティング技術で最適解ソリューションを提供する同社。量子コンピュータは、デジタルに計算処理を行う汎用コンピュータと違い、0と1が両方存在している状態で演算を行うのが特徴。なかには、通常8億年かかる計算が1秒で終わる分野も存在する。この量子コンピューティング技術で日本郵便の輸送を効率化させることが同社の目的だ。

量子コンピュータが最も得意とする組み合わせの最適化で、輸送ダイヤの最適化や輸送ルートや積載荷量などの組み合わせを検証していった。実証実験の結果では、埼玉県の一部地域において、現状一日52便の運送便を48便へと8%削減することに成功。輸送コストは7%減となり年間2000万円ほどの削減、トラックの積載率も12%向上し95%の積載率が実現可能となった。エー・スター・クォンタムは、ルート最適化を全国展開することにより、コスト削減効果を年間100億円程度と見込む。また、配送ルートについてもこれまでとは、人間のノウハウに頼らないルートが発見された。担当者の日本郵便・輸送部長の仲谷氏は、「今回のプログラムを通じて、量子コンピュータの商業利用に先陣を切れたことは両者において有意義だった」と感想を述べた。

▲【写真左】株式会社エー・スター・クォンタム 取締役兼CMO 大浦清氏/【写真右】日本郵便株式会社 輸送部長 仲谷重則氏


採択企業によるトークセッション

サムライインキュベート・成瀬氏をファシリテーターに、スタートアップ2社(Rapyuta Robotics/エー・スター・クォンタム)の代表者と、日本郵便の郵便・物流業務統括部長・三苫氏によるトークセッションのテーマは“日本郵便の現場におけるオープンイノベーションの「リアル」”についてだ。

▲【写真左→右】株式会社サムライインキュベート 執行役員 成瀬功一氏/Rapyuta Robotics株式会社 代表取締役CEO Gajan Mohanarajah氏/株式会社エー・スター・クォンタム 取締役兼CMO 大浦清氏/日本郵便株式会社 郵便・物流業務統括部長 三苫倫理氏


まずは「進める上で課題だったこと、乗り超えたこと」の質問に対し、Gajan氏は、「課題は時間との勝負。会社としてロボットアームのソリューションを提供することは初めてだったので、プロセスなどについて毎週ミーティングを行い、日本郵便の担当者の方からいろいろ教えてもらった」と語った。大浦氏は、「現場のチームは進捗を実感していたが、輸送部の方は、進捗についてヤキモキされている期間があったと思う」と、進捗に対する認識の違いに不安があったと語った。三苫氏は、「スピード感を課題に挙げながらも、日本郵便全体としては昨年度の成功から、より前向きになっている」と日本郵便全体の温度感を話した。

続いての質問「日本郵便とオープンイノベーションに取り組んだ手応え 未来における可能性」について、Gajan氏は、「今回のプログラムは、我々のプラットフォームのいい事例になる。多様な分野でロボティクスにおけるソリューションを加速させていきたい」と手応えを実感。大浦氏は、「プログラムの3カ月で郵便事業は人の想いを乗せて届ける仕事だと輸送部の方から言われた。一人で住まわれているおばあちゃんに郵便局員が声をかけるなど、生活に密着した素晴らしい事業だと感じた」とこのプログラムに参加する社会的な意義について語った。三苫氏は、「日本郵便という組織がイノベーティブな構想の企業になれるキッカケをもらえた」と、このオープンイノベーションプログラムの感想を述べた。


観客賞は「オプティマインド」、最優秀賞は「Rapyuta Robotics」に

結果発表はまず、観客賞から行われた。同賞に輝いたのは、「オプティマインド」。プレゼンターとして登壇したサムライインキュベート 代表取締役・榊原氏は、「出会った当時、合同会社だったのが株式会社になり、社員数も増え、メディアにも取り上げられるといった、オープンイノベーションを通じて豊かな繁栄が成されていると、一般来場者から認められたのだと思う」と感想を語った。

続いて、日本郵便 代表取締役社長 横山氏から最優秀賞が発表された。最優秀賞に輝いたのは、「Rapyuta Robotics」。横山氏は、「経営の最優先課題である郵便・物流事業のオペレーション改革に取り組んだこと。また、物流拠点との協調性や親和性が十分に図られていた。これからもたくさん実験して欲しいし期待している」と高く評価した。

総評として、サムライインキュベート 代表取締役・榊原氏は、「どちらか選ばなきゃいけなかった。本当に激論だった」と審査状況の難しさについて述べた後、「日本の大企業はスピードが遅いというイメージを日本郵便が払しょくしてくれて、信じられないくらい早くプロジェクトを実現できた。大企業もスタートアップも分け隔てなく、こうした取り組みができればと思う」とこのプログラムの意義について語った。

▲株式会社サムライインキュベート 創業者 代表取締役 共同経営パートナー 榊原健太郎氏


最後に、日本郵便株式会社 執行役員副社長 諌山氏が登壇。閉会の挨拶として、「昨年共創した企業を含め、物流のバリューネットワーク全体をテクノロジーで変革しようと、我々日本郵便が本気で取り組んでいる一端をお見せすることができたと思う。プレゼンテーションした企業をはじめ、スタートアップの方々のチカラを借りながら、時代の変化に対応した新しい価値を提供できれば」と話し、二期目となるオープンイノベーションプログラムのDemoDayを締めくくった。

▲日本郵便株式会社 執行役員副社長 諌山親氏


取材後記

昨年に引き続き開催された今回の「POST LOGITECH INNOVATION PROGRAM」Demo Day。――日本郵便 代表取締役社長 横山氏が「オープンイノベーションプログラムを通じて、スタートアップ企業の持つ技術とパッション、これらをマネージする私たちのパワーをもって化学反応を起こし、新たな価値共創ができることを期待しています」と語る通り、昨年の第一期よりも多くの熱量を、スタートアップや日本郵便だけでなく、取材に訪れた各メディアからも感じることができた。

また、日本屈指の大手老舗企業である日本郵便から、今後の日本そして世界の物流業界にイノベーションを起こす最新の事例が生み出されていることを実感できる貴重な場になった。今後、この共創プロジェクトがどのように実用化されていくのか。引き続き、注目していきたい。

(構成:眞田幸剛、取材・文:平田一記、撮影:加藤武俊)