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【特集インタビュー】「オープン」であることで枝葉が広がる。企業が100年生き残る知恵としてのオープンイノベーション(後編)

1912年創業のオフィス関連総合商社、株式会社文祥堂。銀座の一等地に自社ビルを構える老舗企業だ。そんな文祥堂が「CSR事業新規事業」の位置づけで取り組んでいるのが「KINOWA」。 国産木材の間伐材を使ったオフィス家具の制作、販売に加えて、なんと図面をオープンソース化することで、国産木材の利用拡大を進めている。インタビュー前編に引き続き、この事業を手掛ける山川知則氏にお話を伺う。老舗の看板とオープンイノベーション……一見相反する概念に思える両者だが、背景には100年企業ゆえの、長く生き抜くための知恵が潜んでいた。

 

株式会社文祥堂 CSR事業室 室長代理 
山川知則 Tomonori Yamakawa 
大学卒業後、オフィスデザイン、文具事務用品、OA機器、システム開発などを手掛けるオフィス関連総合商社、文祥堂に入社。オフィス家具、文具事務用品、システムなど幅広いジャンルの営業、経営企画室勤務を経て現職。2012年、文祥堂の創立100周年を機に国産木材を活用したオフィス家具ブランドKINOWAを立ち上げる。オフィス空間の設計・施工を手掛けるオフィスのプロの視点から、事業として国産木材の活用に取り組むことで、都市からの森づくりに継続的に取り組むことを目指している。

■挑戦し続ける——長く生き残るためにオープンであるべし

▲渋谷MODIの店舗什器に採用されている「KINOWA」のシェルフ

--KINOWAの事業開始から、第一、第二ステージと順にお話しを伺いましたが、オープンイノベーションの難しさを感じられた部分も大きかったことと思います。それでも事業を続けていく、活力の源泉というのはどこにあるのでしょうか? 

山川:事業開始から4年、正直、当初の計画通りに進んでいるわけではありません。それでも信じて自由に動かせてもらえていることに対してきちんと恩返ししたいという気持ちが源泉のひとつです。デザインも、製作工場の選定も、価格も全て任せてもらっています。KINOWAの図面をオープンソースにすることも、業界的には異例の取組ですが、特に反対されることもなかったです。 

--創業から100年を超える老舗とあって、看板を守る保守的な風土があるのではないかというイメージでしたが…… 

山川:いえ、むしろ老舗だからこそ革新的であろうとしています。弊社の沿革をたどると、印刷に始まり、文具・事務用品、オフィス家具、システム開発と、さまざまに主力の業態を変えながら生き残ってきました。新しいものに取り組まないと、100年続かないというのがその歴史から分かっているんじゃないかなと。だから自分もイレギュラーな事が起こるように自由にさせてもらえているんじゃないかと勝手に解釈しています(笑)。 

--生き残るために挑戦を続け、コアを変えていく……。100年企業の知恵であり、教訓なのですね。 

山川:はい、社長はいつも「チャレンジすることが大切だ。」と言ってますし。  

■出会いを重視する——違いを求めるためにオープンであるべし

 

山川:それと、持論なのですが、「より大きな共同体の声にしたがって動けば、その下位組織は何とかなる」と思っています。 

会社で求められるものに応えるよりも、この業界で求められていること、さらに社会全体の中で求められていることに応えた方が、結果的に社内でも動きやすいという実感があります。なぜなら社外も含めた沢山の応援を得られるから。自分に自信が無いので、より大きな共同体、自社の歴史と未来を踏まえた長い時系列で考えると堂々としていられるんです(笑)。

--最初に間伐材を使った事業を着想された時も、iPadを持って手当たり次第面白そうな人に意見を聞いたと話されていましたが、常日頃から人と会うことを重視されているのですね。 

山川:それも自分一人だとうまくいく気がしないのでそうしています(笑)。僕は、仕事をする上で「予想外が起きるようにする」ことは大切だと思っていて、できるだけ社外の人と組むようにしているんです。中でもより「変わった人」「自分と違う人」を求めるようにしています。 

KINOWAのデザインをお願いしているNOSIGNERの太刀川さんはそんな人の代表で、最初会ったとき、すごいな!と思ったのですが、何がすごいのかは理解できなかったんです。だからこそお願いしたいなと(笑)。一緒に仕事をしていく中で、少しずつ彼がやっていることがわかってきて、彼は問いを拡大してくれるんです。 

見た目のデザインの相談に行ったのに、その製品の存在意義を問われたり、そもそも国産木材が使われていない本当の理由を問われたり。彼が出す色々な問いに答えていくと、自分の思考も自然と広がる。自問自答では今回のKINOWAのコンセプトはできなかったと思います。

■事例を探し続ける——成功のためにオープンであるべし

--KINOWAが目指す森を生かす取り組みは、まさに社外との協働により枝葉を広げていったわけですが、その種を見つけたときには、「これはうまくいくな」と感じていましたか? 

山川:あとあと反省することになるんですが、正直、うまくいくと思ってました。間伐材は、使えば使うほど山の整備に繋がる、他にはないエコロジーな資源だったので、それが差別化に繋がると勘違いしてたんです。さらに、社会的な価値を目指すと色々な人が「いいね!」と言ってくれるので、それでうっかり満足してしまいそうになる。 

余談ですが、社会的に「いいね!」って言ってもらうと、お金をもらったときと同じ脳の線条体を刺激するそうです。これを社会的報酬のワナと呼んでいます(笑)。 

このプロジェクトは、きちんとビジネスとして成立させないと、社会的なインパクトも小さいままなので、今回のリニューアルでは製品の価値をしっかりと見つめ直しています。おかげさまで今回のリニューアルで引き合いが増えてきています。 

--次のビジョンも見えつつありますか? 

山川:いえ、どうなるかわからないことだけわかっています(笑)。多分、予定通り波乱万丈です。  


【取材後記】

山川氏のインタビューを通して得られた、オープンイノベーションのノウハウは以下の2点。文祥堂という老舗企業が持つ独特の文化と、山川氏自身のパーソナリティが掛け合わさり、その摩擦熱がオープン イノベーションにつながっていると感じられた。 

①「老舗だからこそ、革新的」 

文祥堂は、印刷に始まり、文具・事務用品、オフィス家具、システム開発と主力の業態を変えながら100年以上続いてきた。そこにあるのは「新しいものに取り組まないと生き残れない」という危機感だ。この危機感が、革新性に昇華されている。また、企業トップ自身がチャレンジを厭わないことも重要だ。 

②「予想外なことを起こすため、社外の人と連携する」 

山川氏は「自分一人だとアイディアに限りがある」ということ前提に、「予想外が起きるようにすることは大切」と語っており、そのために社外の人との交流の場を数多く持っている。それが、意外な発想や共創を生み出しているのだ。 

<構成:眞田幸剛、取材・文:古賀亜未子(エスクリプト)、撮影:加藤武俊>