オープンイノベーション界隈に身を置き、数多の事例を見てきている業界人たちの知恵をオープンにしてしまおうという企画「オープンイノベーターズバトン」。サムライインキュベート・長野英章氏からバトンを繋いだのは、Plug and Play Japan 矢澤麻里子氏です。

矢澤氏はアメリカ・シリコンバレーのVCで、デューデリジェンスやファンドレイズを経験。日本に帰国後は、創業・シード期に特化した出資・インキュベーションを手がけるサムライインキュベートにジョイン。日本IBMのアクセラレータープログラム、「IBM BlueHub」の立ち上げなどに携わってきました。

現在は、世界最大のアクセラレーター/VCであるPlug and Playの日本支社、Plug and Play JapanのCOOとして同社を牽引。3月6日〜7日にはプログラム「Batch 2」の Demo Dayを開催し、国内外53社のBatch 2採択スタートアップがピッチを繰り広げ、1,500名以上を集客したことも注目を集めました。

――第3回目となる「オープンイノベーターズバトン」では、矢澤氏がこれまでに得てきた知見や経験から、オープンイノベーションを成功に導く秘訣や日本企業の”これから”を紐解きます。

▲Plug and Play Japan株式会社 Chief Operating Officer 矢澤麻里子

BI・ERPソフトウェアのベンダにてコンサルタント及びエンジニアとして従事。日本国内外企業の信用調査・リスクマネジメント・与信管理モデルの構築などに携わった後、日米のベンチャーキャピタルにて投資先の発掘・選定、メンタリング・支援先バリューアップ・イグジットを経験。2017年9月からPlug and Play JapanにCOOとして参画。


IBMとのプログラム立ち上げで、オープンイノベーションと出会う。

サムライインキュベートに参画していた2014年に、IBMさんと共同で「IBM BlueHub」というアクセラレータープログラムを立ち上げました。その時に初めて、オープンイノベーションに関わりました。すでにアメリカではそのようなプログラムがあることは知っていましたが、当時、日本ではほとんどありませんでしたね。プログラムを立ち上げる中で、IBMさんだけでなく他の大企業も危機感を感じながら、「自前主義からの脱却」に向けてスタートアップ手を組んでいく。――こうした姿を目の当たりにしました。


成功のカギは、新規事業担当者が握っている。

オープンイノベーションと一言で言っても、やり方はさまざま。しかし、成功のカギを握っているのは、どんな時でも“人”です。オープンイノベーションの優先度を自社のどの位置に置くか、そして誰がやるかによって成功の確度が変わります。特に担当者が、“自社の課題を理解しているか”、“パートナー企業と連携していくための情熱があるか”はとても重要です。さらに、自社内の意思決定者とコミュニケーションが取れ、周囲を巻き込んでいく力があると、プロジェクトが早く進んでいきます。

一方で、オープンイノベーションは、パートナー企業と共に自社の知見がない部分に挑戦していくことになります。そのため、既存事業で使われているKPIを指標にすると、新規事業が伸びていきません。――しっかりと仮説を立て、たとえ既存のKPIでは伸びていなくとも、進めていく覚悟が必要なのです。


東急不動産×GINKANの成功は、お互いの協力があったから。

Plug and Play Japanが運営するアクセラレーションプログラム「Batch1」の中で、東急不動産とスタートアップ・GINKANと連携し、「東急プラザ銀座」での実証実験が進んだという事例が生まれました。これは、GINKANが運営するグルメSNS「SynchroLife(シンクロライフ)」を活用し、東急プラザ銀座内にある飲食店へ来店し食事代金を支払うと、食事代金の一部が仮想通貨で還元され、貯めることができるサービスです。東急不動産が飲食店に対して、SynchroLife導入の声かけを行い、多くのお店に導入していただきました。

プロジェクト成功のきっかけは、東急不動産の新規事業担当者の情熱にありました。スタートアップのGINKANと責任をもって会話し、東急プラザの飲食店にサービスを提案。その中で、GINKANも各飲食店に合わせて提案書をカスタマイズし、理解を得ていきました。大企業とスタートアップが、両輪となってプロジェクトを推進した好事例と言えます。


日本もアメリカの考え方に、一歩ずつ近づいている。

日本の大企業や中堅企業もしっかりと課題を認識しながら、オープンイノベーションに取り組む姿が目立ちはじめています。オープンイノベーションはアメリカではすでに当たり前ですが、日本も一歩ずつその状態へと近付きつつあると言えるでしょう。もちろん、さらなる改善は必要です。特に、意思決定者のオープンイノベーションに対する理解をさらに深めていけば、浸透するスピードも増していくはずです。

そのためには意思決定者を外に連れ出し、スタートアップのピッチなど“現場を見せること”が大事です。現場をみて新たな刺激を感じることで、意思決定者は自社の課題の再認識したり、他社とのパートナーシップの優先順位をあげるなど、オープンイノベーションへの興味関心や理解が深まるでしょう。そうすれば、社内調整や稟議もスムーズに進んでいくはずです。そして何より、スタートアップの情熱に直接触れることで、オープンイノベーションに対する捉え方がポジティブに変わってくると思います。


日本式のコミュニケーションから、脱却するべき。

アメリカのコミュニケーションは、なるべく時間のロスをしないことを前提としています。そのため、事前の話し合いが積極的に行われ、ミーティングはほぼ「GO」を出すためだけに開かれます。日本の場合は、「とりあえず会ってみよう」、「とりあえず資料を作成しよう」と依頼はするものの、海外のスタートアップはせっかく資料を作りこんでも、担当者の変更や意思決定者の不在で協業が頓挫してしまうことがよくあるようで、正直海外のスタートアップで、日本の大企業を苦手とするところは多くあるはずです。

オープンイノベーション/新規事業担当者が「面白い!」と発言し、予算がつきそうになったとしても、時間が経つと結局ダメになってしまう。そして、時間をかけたはずなのに、担当者が異動することで、関係性がまたゼロになってしまう。そういった時間の使い方に、どうしても海外のスタートアップは馴染めないのです。


明確にNO!と伝えることも大切。

日本人の特性として、「NO」とはっきり言わないというものがあります。それも海外のスタートアップからすると、首を傾げてしまう原因の一つです。日本企業の担当者が、海外のスタートアップに対して、ダメだった理由を明確に伝えずプロジェクトを打ち切ってしまう。それでは、スタートアップ側はなぜダメがったのか理由がわからず、失敗から学ぶこともできない。すべてをアメリカ式にする必要はありませんが、日本の美徳とされている部分が、オープンイノベーションの弊害になっていることも事実なのです。


日本という国を、もっともっと元気にしていきたい。

少し前に話題になりましたが、世界の時価総額ランキングを現在と20年前とで比べると、数多くの日本企業の名前が消えています。その文脈で、日本の大企業の凋落ぶりを挙げる方もいますが、私は全部ダメになってしまったとは思っていません。オープンイノベーションに積極的に関わる動きもありますし、日本の大企業でしか実現できないことが多く残っていると思っています。

私自身、オープンイノベーションを通して、日本企業の世界進出やマーケット拡大といったお手伝いをもっとしていきたい。大企業に元気がないと、日本の経済力や国力が落ちてしまう。スタートアップとの共創を加速させて、新しい事業を生み出していきたい。そのお手伝いに、これからも力を注いでいきます。


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矢澤さんのお話の中から、オープンイノベーションの成功のエッセンスとして導き出されるのは主に以下の2点です。

●「人」……オープンイノベーションは“誰がやるか”によって成功の確度が変わる。特に、企業の担当者が“自社の課題を理解しているか”、“パートナー企業と連携していくための情熱があるか”はとても重要。それに加えて、自社内の意思決定者とコミュニケーションが取れ、周囲を巻き込んでいく力があると、プロジェクトが早く進んでいく。その実例として、東急不動産とスタートアップ・GINKANと連携した「東急プラザ銀座」での実証実験が挙げられた。

●「KPI」……オープンイノベーションは、パートナー企業と共に自社の知見がない部分に挑戦していくことになる。そのため、既存事業で使われているKPIを指標にすると、新規事業が伸びていかない。しっかりと仮説を立て、たとえ既存のKPIでは伸びていなくとも、進めていく覚悟が必要。


また一方で、日本企業によく見られる「無駄に時間をかけてしまう」、「はっきりNOと伝えない」という文化もオープンイノベーションにはそぐわない。スピーディーな意思決定ができる人材をアサインすることや、そうした組織を作ることがオープンイノベーション成功の第一歩となるでしょう。

次回は、Plug and Play Japanのパートナーである株式会社アサツー ディ・ケイ(ADK)にて、新規事業開発支援プロジェクト「SCHEMA」を牽引する寺西藍子さんが登場!矢澤さんからの「オープンイノベーターズバトン」を繋ぎます。 

(構成・取材・文:眞田幸剛、撮影:古林洋平)