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ベンチャー企業×中小企業によるオープンイノベーションに迫る

ベンチャー企業×中小企業によるオープンイノベーションに迫る

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経済産業省関東経済産業局は、シード、アーリー期のベンチャー企業と中堅・中小企業のマッチングを行い、オープンイノベーションを通じた、新規事業の創出や生産性の向上を支援している。

3月6日、東京都渋谷区の東京中小企業投資育成株式会社内でデモデイが行われ、マッチングが成立した2チームが成果を発表すると共に、オープンイノベーションに知見や経験のあるベンチャー企業と中堅・中小企業によるパネルディスカッションも実施された。会場には大勢の新規事業担当者たちが訪れ、熱心に耳を傾けた。

AI、IoT、ロボティクスなどをテーマに連携プロジェクトを推進

関東経済産業局では今年度、ベンチャー約10社、中小企業約20社でAI、IoT、ロボティクスなどをテーマに連携プロジェクトを進めている。冒頭、経済産業省 関東経済産業局 地域経済部 部長の北廣雅之が挨拶。「現在、オープンイノベーションへの関心が高まっている。当局も多様な連携のあり方を積極的に支援し、イノベーションの創出を図りたい」と述べ、会場にも積極的な協力、参加、支援を呼び掛けた。

成果発表1:テーマAI 『AIを用いた外観検査自動化技術検証』

株式会社ロビット×興研株式会社

●防塵マスクのフィルターの外観自動検査を試案

まず興研株式会社の堀口氏が発表を行った。同社はクリーン、ヘルス、セーフティの三事業を展開している中堅・中小企業である。このうち、もっとも大きいのはセーフティ分野で、防塵マスクなどを製造している。「他社に追随しない、徹底研究」を信条としており、オンリーワン、ナンバーワンを目指すのが、同社のスタイルだ。また、第6回ものづくり日本大賞では内閣総理大臣賞を受賞した。

同社では今回、AIと画像処理技術で防塵マスクのフィルターの外観自動検査をできないかと考え、経済産業省に打診したところ、ロビットを紹介された。フィルターの検査はこれまで、熟練スタッフが一つ一つ目視で確かめていた。そのため、業務に慣れるまでに一定の期間が必要であり、作業者によって基準が違うなどの問題があった。また、人が行える量には限界があり、急な増産に対応できないのも課題だったため、自動化を試みたのだった。

●人間の持つ「異常の程度のあいまい性」も機械が学習

続いて、ロビットの新井氏が発表した。同社は「ハードウェア、ソフトウェア、AIを組み合わせて、世の中の不便や困難を解決する」ことを理念にしているベンチャー企業。同社ではAIを活用した自動外観検査装置「TESRAY(テスレイ)」を開発している。テスレイでは、通常は人の目で行う自動車部品や食品の検査の自動化を実現。この技術を防塵マスクのフィルター検査に応用した。

興研とロビットは、顔合わせからわずか45日で協業プロジェクトをスタートさせた。プロジェクトスタート後は、ロビットは興研の製造現場に足を運ぶなどしながら、インライン装置の制約やスタッフのオペレーションに理解を深めた。この結果、わずか3カ月という短期間で、AIの学習と評価、インライン装置の設計を完成させたという。

新井氏は異常検査のポイントの一つとして、人間の持つ「異常の程度のあいまい性」を指摘した。人間は少しでも異常があればすべて不良にするというゼロイチの判断はせずに、「このくらいならOKまたはNG」という柔軟な判断をする。ロビットでは「異常の程度」の学習を試み、OKとNGがあいまいなものであるという判別を精度98.6%で実現した。これを受け新井氏は「異常の程度という抽象的な概念を理解したいのではないか」と述べた。プロジェクトは今後、製造ライン上で外観検査の自動化を目指す。

●ユニークな製品を持つ中堅企業はベンチャー企業の技術を活かす機会になる。

振り返りとして、新井氏は「今回のマッチングはベンチャー企業にとっても非常に有意義。ユニークな製品を持つ中堅企業はベンチャー企業の技術を活かす機会になる」と伝えた。また、「プロジェクトのスムーズな進行は堀口氏の高いコミットメントがあったからこそ」と強調した。一方、堀口氏は「先進技術に触れることができたのは大きな経験で、ベンチャー企業のスピード感も知ることができた。ベンチャー企業では製造現場への理解がないとも考えていたが、ロビットは機械設計や加工ができ、自社で設備も持っていた。このプロジェクトは上手くいくと直感できた」と感想を述べた。

成果発表2:テーマIoT 『「ゆるやかな連携」による製品開発の取り組み(プレス機械の予防保全)』

フリックケア株式会社×しのはらプレスサービス株式会社

●検査システムのIoT化の推進を試みる。

まず、しのはらプレスサービスの篠原氏が成果を発表した。同社はプレス機械のメンテナンスを手がけている中小・中堅企業。点検の分野では業界トップクラスの実績を持つ。同社では、故障が出る前にその予兆を知らせる装置を開発。機械にセンサーを取り付けてデータを収集し、機械が異常を自己判断できるようにした。一方で、発展途上のところがあり、進化させていく必要がある。

続いて、同社の宮島氏が突発的な停止・故障を未然に防ぐプリベンティブメンテナス(PM)システムをについて解説した。年に1回の法令点検では、故障を防ぐには不十分。PMシステムは常時、機械を監視する。一つの工場には複数のメーカーの機械が導入されているが、同社ではすべてのメーカーの製品を新旧に関わらず一元管理できる。同社は機械のことを熟知しており、どこにセンサーを取り付ければ必要なデータが取得できるかわかる。しかし、IoT化には十分な知見がない。そこで、マッチングプロジェクトに参加し、フリックケアとの出会いが実現した。

●データをクラウドでどのように扱うかがポイント。

続いて、フリックケアの工藤氏が発表した。同社は設立4年になるベンチャー企業。機械運用やラインスタッフの省力化などを中心に製造現場のIoT化などを手がけている。今回のプロジェクトでは、PMシステムのデータについて、クラウド上でどのように扱うかを思案している。現在はデータの上げ方について最適な方法を模索しているが、それができれば、データをどのように人間に説明するか、あるいは別のシステムにつなぐのか、ということについては実績があり、十分に対応できるという。今後の展望については、宮島氏によれば、PMシステムのさらなる発展を目指しているという。現状、紙に記入されている検査結果をデジタル化してデータを蓄積し、PMシステムへの活用も図りたいとのことだ。

●上下関係のない、有意義な連携が実現できた。

振り返りとして、しのはらプレスサービス・篠原氏は「IoTという当社にとって未知の分野について、フリックケアから大きな助力を得た。異なる価値観と考え方を持ったベンチャー企業と共同で仕事を進めることで、多くの気づきもあった」と述べた。その上で、「上下関係のない『ゆるやかな連携』ができたことが大きかった」と強調した。フリックケア・工藤氏は「しのはらプレスサービスとは、元請・下請けという関係ではなく、同じ目線で仕事ができた。今回のマッチングを契機に組織体制もより向上させ、共に高見を目指したい」と締めくくった。

オープンイノベーションに積極的なベンチャー企業と中小企業が意見交換。

2つプロジェクトの発表の後は、スタートアップと中堅・中小企業6社によるパネルディスカッションが行われた。登壇者と主なディスカッションの模様を以下に紹介していく。なお、本ディスカッションは、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの副主任研究員・北氏がモデレーターを務めた。

<登壇者と企業概要>

■中堅・中小企業

・株式会社菊池製作所 取締役 乙川直隆氏

同社は1970年に設立。「一括一貫体制」でものづくりを行っている。約20年前からは、自社製品の開発を目指し産学連携に取り組み、大学発のベンチャー約10社に投資もしている。スタートアップの経営に知見があり、蓄積されたノウハウを活かし総合的な支援、連携を目指す。

・株式会社協豊製作所 技術開発部 設備G 滝正臣氏

同社の設立は1949年。自動車用プレスやEV関連の精密プレス部品の製造などを手がけている。オープンイノベーションの取り組みとして、豊田市のマッチング事業などに参加し、成果を挙げている。今後はベンチャー企業をはじめ、大学や研究機関との積極的な連携を目指す。トヨタ自動車株式会社100%出資。

・トヨタケ工業株式会社 代表取締役社長 横田幸史朗氏

同社は1964年に設立。自動車の内装用シートカバーの縫製を手がけている。従業員の7割が女性という特徴を持つ。オープンイノベーションの取り組みとして、豊田市、ロビットと連携し、「ミシンのIoT化」を試みている。自動車Tier1メーカーへの展開も視野に入れ、現在はさらなる発展を目指している。

■スタートアップ

・株式会社キスモ 取締役 鈴木雄也氏

同社は名古屋大学公認のAIベンチャー企業。一件一件の予測に対し根拠を明示するなど「説明可能なAI技術」を強みにしている。2017年の創業以来、15社以上の導入実績を持つと共に、世界的なコンペで受賞経験を持つ。

・Mira Robotics株式会社 代表取締役CEO 松井健氏

同社はロボと人による家事支援サービスを手がけている。現在は遠隔操作でロボットを動かしている。今後はファンクションの自動化やプロセスの自動化を行い、より進化させていく方針だ。同社のロボットは多数のメディアで紹介されている。

・ものレボ株式会社 代表取締役 細井雄太氏

同社は生産技術とITを組み合わせ、「日本発のものづくり改革」を目指している。小規模工場のものと情報の流れのデータ化し、工程管理、在庫管理、調達を一つのプラットフォーム化。小ロットのジャストインタイム方式の実現を図っている。

●スタートアップと中堅・中小企業はスピード感と価値観が合致する。

――スタートアップの皆さんにお聞きします。中小企業との連携では、大手との場合と違いはあるでしょうか。

ものレボ・細井氏 : やはりスピード感が違います。その場で意思決定することも多いです。

Mira Robotics・松井氏 : 大手だと部署が縦割りということも多く、部署間の紹介だけで数週間が過ぎることもあります。そうしたことは、中小だと少ないですね。

キスモ・鈴木氏 : 意思決定者が打ち合わせに参加する場合も多いので、スピード感が出るのだと思います。

――中小企業のほうがリスクを取りやすいなどあるでしょうか。

ものレボ・細井氏 : リスクがどうというより、中小とスタートアップはマーケットの規模感が近いので、チャレンジしやすいと感じています。

キスモ・鈴木氏 : 「まずやってみよう」という会社は多いと感じています。その分、こちらからも積極的な提案ができます。

――中小企業側から見て、スタートアップのスピード感はいかがでしょうか。

協豊製作所・滝氏 : スタートアップのスピード感やモチベーションは私たちにとっても大きな衝撃でした。自社では出せないスピードだと思います。

トヨタケ工業・横田氏 : スピード感と共に「とにかく挑戦してみよう」という柔軟性があると感じました。今あるもので試しにやってみようという動きが素早かったと思います。

菊池製作所・乙川氏 : スタートアップにスピード感があるのは、目的がはっきりしているからです。これをいつまでにやりたい、という思いが明確です。一方の中小企業もスピードを求められますので、その意味で、合うところがあるのではないでしょうか。

――菊池製作所さんでは、産学連携でロボット事業を展開するなどしています。そのモチベーションの源泉はどこから来ているのでしょうか。

 菊池製作所・乙川氏 : サービス系のロボットはまだ十分なビジネスになっていません。そのため、中小企業やスタートアップが中心となり市場を牽引していけると考えました。また、新しいことを始めると、社員が楽しんでくれます。スキルアップやモチベーションアップ、リクルーティングにもつながると考えています。

国、自治体の施策を紹介

最後に国や自治体による各種施策の紹介があった。最初に説明されたのは「研究開発税」について。同税は、企業が研究開発を行っている場合、法人税額(国税)から、試験研究費の額に税額控除割合(6~14%)を乗じた金額を控除できる制度。このほか、スタートアップの量産に向けた設計・試作の支援拠点事業「スタートアップファクトリー」、川崎市のハードテック領域のスタートアップ支援「新川崎・創造のもり」など、国や自治体による活発なスタートアップ・オープンイノベーション支援が紹介された。経済産業省では、来年度以降もマッチングの場の創出などを行っていく方針だ。

取材後記

オープンイノベーションは今や国の重要施策の一つと言える。これには、国力の向上をイノベーションに委ねているということがあるだろう。もはや企業が生き残れるか、というだけの話にはとどまらない。日本が現状のプレゼンスを維持できるかが、イノベーションにかかっている。国や自治体はいよいよ本格的に支援に乗り出してきた。「関東経済産業局 オープンイノベーション」などをキーワードに検索すれば、取り組みや支援策を詳しく知ることもできる。少しでも興味を持ったのなら、問い合わせてみてはどうか。

(構成:眞田 幸剛、取材・文:中谷藤士、撮影:加藤武俊)

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