イノベーションの創出を巡る国際的な競争が激化する中で、研究開発等の成果を迅速に社会実装し、社会的ニーズの解決や新たな価値の創造につなげるには、組織の壁を越えて知識や技術、経営資源を組み合わせ新しい取組を推進するオープンイノベーションがますます重要になる。

こうした状況を踏まえ、今後のロールモデルとして期待される先導性や独創性の高い取り組みを称えるために、内閣府が主導し、創設された「日本オープンイノベーション大賞」。――このほど、内閣総理大臣賞をはじめとした12の賞が決定。以下のように14の取組・プロジェクトに授与された。

(※eiicon参考記事:「第1回 日本オープンイノベーション大賞」の受賞者が決定!選ばれた14の取組・プロジェクトとは?


そして、3月5日(火)に虎ノ門ヒルズにて各賞の受賞式が開催された。開会の挨拶では、内閣府イノベーション担当企画官・石井氏が本大賞をスタートさせた背景やオープンイノベーションにおける、今後の国の方向性を紹介。さらに、各賞を受賞した方々がパネラーとして登壇。大学側、企業側のそれぞれの視点から、オープンイノベーションを成功に導く秘訣を語った。――その授賞式の模様を紹介する。


オープンイノベーションのロールモデルとなる14の取組・プロジェクト

授賞式のはじめに、内閣府イノベーション担当企画官・石井氏より挨拶とあわせて、「日本オープンイノベーション大賞」をスタートさせた背景について説明があった。本大賞をスタートさせた一番の目的は「日本を世界で最もイノベーティブな国にするため、イノベーションが生まれる国にするため」と話す石井氏。現在、国の成長戦略としてオープンイノベーションに関わる様々な取り組みが実施されている。しかし、実現は道半ばである。

そういった現状の中であっても、困難を乗り越え、オープンイノベーションを見事に実現させた方々を賞賛するため、本大賞を立ち上げたと石井氏は述べる。内閣総理大臣賞をはじめとした12の賞が、14の取組・プロジェクトに与えられた。「どれもオープンイノベーションのロールモデルとなる、インパクトがあるものばかりである」と賞賛の声を惜しまなかった。

国としては、ガイドラインを本年度末に策定し、オープンイノベーションをさらに加速させていくこともあわせて紹介。「国の縦割りをなくし、若手のキーパーソンと組織を繋げるための取り組みをこれからも進めていきたい」という言葉で、石井氏は挨拶を終えた。


大学から見たオープンイノベーションとは?

次に、各賞を受賞した大学の方々がパネラーとなり、大学側から考えるオープンイノベーションを成功に導くための秘訣を語った。その時に話されていた内容をご紹介していく。

<登壇者>

●弘前大学 特任教授 中路重之氏

●東北大学 教授 越村俊一氏

●大阪大学 理事・副学長 八木康史氏

●宮崎大学 理事・副学長 水光正仁氏

●モデレーター/東京大学 教授 各務茂夫氏


■プロジェクトを成功に導く肝とは?

「受賞されたどのプロジェクトも社会的なインパクトがあり、素晴らしい先進性があった」と話すモデレーターの東京大学 教授 各務茂夫氏。その中で、プロジェクトが成功したきっかけ、峠を越えることができた肝の部分はどこにあったのか。登壇者それぞれに話を聞いた。

その理由は「ビッグデータをある程度オープンにできたこと」と語るのは、弘前大学 特任教授 中路氏。大学側が蓄積してきたデータを、外部に出すのはレアなケース。しかし、今回はゲノムデータや腸内細菌データ、口内細菌といったデータを使用できたことが、“超多項目健康ビッグデータで「寿命革命」を実現する健康未来イノベーションプロジェクト”の成功のポイントとなったと振り返った。

一方、東北大学 教授 越村氏は“リアルタイム津波浸水被害予測システムの開発と運用”における最大の技術的チャレンジは、「津波の予測技術は世界で研究される中で、それをリアルタイムで実現させたこと」と話す。それを実現できた最大の理由は、「産学連携で、最終系の出口をしっかりイメージしてプロジェクトを進められたからだ」と越村氏は語った。

“基礎研究段階からの産学共創 ~組織対組織の連携~”においては「仕組みづくり」の構築が、最も重要だったと大阪大学 理事・副学長 八木氏は述べる。創薬分野における大塚製薬との共同契約研究では、明確なゴールに対して区切りごとに結果を出す必要があった。その部分の仕組みを知財契約まで落とし込めたのが、成功につながったという。そして、ダイキン工業との情報分野での取り組みでは、大学との連携方法を議論。AIを含めた新しい世界感を共に考え、新しい受託事業システムまで構築することができた。

「縦割りの行政に横串を刺せたこと」と、成功の秘訣を語った宮崎大学 理事・副学長 水光氏。異分野融合を大切にしてきた宮崎大学だからこそ、県市町村にまで横串を入れ、民間との連携を図ることができた。その結果、 “宮崎県における産学官連携による公設試験場発ベンチャー企業「一般社 団法人食の安全分析センター」の設立と残留農薬分析技術の社会実装”では、島津製作所との共同研究を見事に実現した。


■今後、オープンイノベーションをさらに推進・発展させるためには?

次に「オープンノのベーションをさらに発展させるための課題はどこか。そして、どう改善していくべきか」という質問が、各務氏から寄せられた。

「これは難しいですね」と笑顔で応じる弘前大学・中路氏。やはり、大学がいかに変わるかが重要だと考えを述べた。大学の研究者が研究データをオープンにすることをためらわず、どこまで開示できるか。そして、研究や論文だけでなく、社会貢献を直接できる人材を大学が置けるのか。さらに、国がいかに支援するか。そこまでしなければ人は育たない。だからこそ、大学が積極的に変わっていくべきだという必要性を説いた。

大学で研究をしながら大学発ベンチャーを立ち上げるなど、活動の場が多岐にわたる東北大学・越村氏。そのため「いかに効率化させながら、大学教員の責務とイノベーション創出を両立させるかが大切」と話す。さらに、事業側が研究のサポート体制を理解していくことで、さらにイノベーションが進んでいくと結んだ。

越村氏の話を受け「研究者が一番欲しいのは研究時間だ」と話す大阪大学・八木氏。物事をゆっくり考えて、知恵を出す。それこそがイノベーションに繋がっていく。現在は大学内部でさえ、もの凄く慌ただしいとのこと。研究者が時間をかけて考えられる仕組みを、大学と国が構築していかなければならないと語った。

大学の研究者や教授は、それぞれの研究テーマを持っている。しかしそれだけでなく、みんなで「異文化融合まで考えていくこと」でオープンイノベーションが進むと宮崎大学・水光氏。さらに、大学教授が地域に出て、様々な課題を聞き、解決を手伝っていく。それが、さらなるオープンイノベーションに繋がると述べた。


企業から見たオープンイノベーションとは?

次に各賞を受賞した企業側の方々がパネラーとして登壇。その内容を紹介していく。

<登壇者>

●花王株式会社 エグゼクティブフェロー 安川拓次氏

●ミツバチプロダクツ株式会社 代表取締役社長 浦はつみ氏

●株式会社デンソー 社会ソリューション事業推進部 メディカル事業室室長 奥田英樹氏

●ONE JAPAN 共同代表 濱松誠氏

●モデレーター/Forbes JAPAN 副編集長 谷本有香氏


■オープンイノベーションの秘訣、得られた果実とは

「オープンイノベーションがバズワードとなって久しいが、成功した企業は少ない」と語るモデレーターのForbes JAPAN 副編集長 谷本氏。その中において、オープンイノベーションを成功させた要因や、成功させたことで得られた果実について、パネラーに質問をぶつけた。

まず、ミツバチプロダクツ・浦氏は、「様々な人との繋がりが生まれ、知恵が集まり、新しい価値が生み出されたこと」だと語った。また、「健康という市場では、平均的なデータをもとに従来型の商品を開発しても本当の市場づくりができない」と話すのは、花王・安川氏。そこで、消費者の意識を変えるにはどうするか。それは社内だけでなく社外の人々と考えて、より良いものを作っていかなければ、新しい市場は作れない。オープンイノベーションの成功は、そのきっかけになると考えを述べた。

自動車業界にもMaaSという波がきている中で「戦う相手は競合他社ではなく、グーグルなど他の領域になってきた」と現状を説明するデンソー・奥田氏。今回のプロジェクトを通して、その流れは医療機器の中でも起こり得ると、関係者と危機意識を共有できたことが何より大きかったと振り返る。

以前はパナソニックに在籍し、同社の業績不振を経験したONE JAPAN・濱松氏。そこで、「自前主義の限界を29歳で体験した」という。オープンイノベーションに関わるコミュニティを形成すれば、危機意識の醸成とマインドセットを行えると話す。さらに、成功だけでなく失敗も共有し、「チャレンジして失敗しても大丈夫だ」という環境づくりもできると話す。


■オープンイノベーションを実現させるための、社内の巻き込み方とは

「大企業における決定の先延ばしといったスピード感の欠如は、オープンイノベーションの課題」と提言するForbes JAPAN谷本氏。意思決定をスムーズにするために、どのように社内を巻き込んでいくかについても触れた。

それに対して、「シンプルだが、他人の意見を聞くこが大切」とミツバチプロダクツ・浦氏は応じる。大企業において、社内の理解を得るためには、価値観の共有が重要。そこで、自分だけの価値観だけでは主観になってしまうため、他人の意見を添えることを提案した。

また、ONE JAPAN・濱松氏は「まずは、自分がしっかりと頑張っているという既成事実を作るべき」と答えた。そして、上長とコミュニケーションを取りながら口説き、役員を巻き込んでいくのが理想だと話す。

売上や利益を上げなければならい企業という組織を相手に、「いまだに上手くいってない部分はある」と花王・安川氏は素直に語る。利益が最重要でも、目線を変えて10年先を考えるといった、ネタを探していくことは無駄にならないと話す。特に、今回の受賞などは良いきっかけになると期待を述べた。

5年前に今回のプロジェクトを立ち上げたデンソー・奥田氏。その頃はIoTという言葉が出てきたばかりで、考えも何も浸透しておらず、社内の理解も進んでいかなかったと振り返る。だからこそ、焦らず、着実に進んでいくことが、何よりも大切だと説いた。


内閣総理大臣賞に選ばれた、“超多項目健康ビッグデータで「寿命革命」を実現する健康未来イノベーションプロジェクト”

内閣総理大臣賞受賞を受賞した“超多項目健康ビッグデータで「寿命革命」を実現する健康未来イノベーションプロジェクト”を代表し、弘前大学の中路氏がスピーチを行った。

「寿命や健康は、教育、文化、気候、経済すべてが関連性を持っている。したがって、非常に難しい領域。産官学民が連携し、オープンイノベーションを実現できたからこそ、ここまで辿り着いた」と中路氏は感想を述べた。そして、最後に「今回受賞した方々と、横の連携を大切にして共に頑張っていきたい」という言葉でスピーチを終えた。

授賞式の最後に、東京大学の各務氏が審査の講評を行った。「今回の審査は、200以上の応募から選ばれ、大激戦。難しい選考だった」と感想を述べた。そして、その中から選ばれた14の取組・プロジェクトは、どれも社会的インパクトがあるものだと話す。

内閣総理大臣賞受賞を受賞した“超多項目健康ビッグデータで「寿命革命」を実現する健康未来イノベーションプロジェクト”においては、プロジェクト名の通り、日本に寿命革命を起こす可能性があると期待を込めた。そして最後に、「取組・プロジェクトを支えてきた、全ての人に賛辞を贈りたい」という言葉で式を締めくくった。

▲池井戸潤氏(作家)、入山章栄氏(早稲田大学大学院 経営管理研究科、早稲田大学ビジネススクール 准教授)、各務茂夫氏(東京大学 教授 産学協創推進本部 イノベーション推進部長)、谷本有香 氏(Forbes JAPAN 副編集長)、Tom Kelley氏(IDEO 共同経営者)、向井千秋氏(東京理科大学 特任副学長)といった外部有識者で構成された日本オープンイノベーション大賞選考委員会


取材後記

「今回受賞した各取組・プロジェクトは、今後のオープンイノベーションのロールモデルとなる、大変貴重なものである」と語られたように、第1回となる「日本オープンイノベーション大賞」は大盛況のもとに幕を閉じた。第2回へと続く本大賞において、革新的な取り組みが続々と発表されることを期待する。そして、今回受賞に輝いた取組・プロジェクトが、これからどのように実用化されていくのかも引き続き注目していきたい。